第4章 核燃料
§2 わが国の開発状況

2−6 ウラン濃縮および再処理

 核燃料経済を考慮する場合,核燃料の製錬,加工以外に重要なものとして,ウラン濃縮および使用済燃料の再処理の問題がある。
 わが国におけるウラン濃縮および再処理の現状は,まだ基礎的な調査研究の段階であるが,原子力委員会は,その重要性にかんがみ,ウラン濃縮に関しては,核燃料経済専門部会において,また,再処理に関しては,再処理専門部会において,世界の研究開発状況ならびにわが国でこれらを工業的に行なうことにした場合の経済的,技術的問題点の検討を行なった。

(1) ウラン濃縮
 核燃料経済専門部会は,35年4月に第2次中間報告書(ウラン濃縮に関する報告)を,36年5月に第3次中間報告書(再処理経済に関する報告)を,さらに37年3月に答申書を原子力委員会に提出した。
 これ等の報告書によれば「実用性あるウラン濃縮方法としてガス拡散法,遠心分離法およびノズル分離法の3つの方法をあげ,わが国でこれらの濃縮法による濃縮プラントを建設する場合を想定して,さらに詳細な技術的検討を行なった。その検討では,何れの方法でわが国が行なったとしても,米国におけるよりも,約2倍近い生産費がかかる」と述べている。しかし,報告書は,また「わが国でウラン濃縮を実施すべきか否かの問題は,単に,国際価格との高低の比較のみから論ぜられるべきでなく,エネルギーバランス,外貨節約,さらに海外の政治,経済的な問題をも考慮して決定されるべきである」としている。すなわち「将来,わが国にウラン濃縮施設を建設することの可否,および可とすればその時期等を予測することは困難であるが,濃縮施設を将来必要とする可能性が考えられるので,今日においては,各種濃縮法の経済性を検討し,濃縮プラントを含んだリサイクル系の採用の適否を探求することが必要である」と述べている。わが国におけるウラン濃縮に関する基礎研究は,33年以来主として理化学研究所で,理論的に濃縮のためのエネルギー使用が最小と思われる遠心分離法を中心に進めており,既に試作した濃縮用遠心分離機を一部改造し,種々の同位体の分離を行ない,理論値と比較検討している。
 なお,本研究は,36年2月決定した長期計画の線にそって,37年度から燃料公社に引きつがれることになった。また原子力研究所では,この他興味ある方法として,イオン交換法による濃縮の研究が行なわれている。

(2) 再処理
 燃料サイクルの経済性を検討するに当り,再処理が重要な位置を占めるので,核燃料経済専門部会はウラン濃縮に引き続き再処理をその経済面から検討する必要があると考え,再処理経済小委員会を同部会の下に設置して審議を行なった。そして,その第3次報告書に「将来わが国に再処理場工が必要となる時期との関連において最も経済的な再処理法が採用されると思われるので,今日では,各方法の技術的問題の解決および特色の比較検討を行なって,将来に備えるべきである」とし,経済的規模と称せられる使用済燃料処理能力1トン/日の仮想工場の設計ならびに経済計算を行なった。これによれば,1トン/日の再処理工場の建設所要資金は,70〜80億円,また,再処理費は1トンあたり580〜870万円となり,米国政府の設定した1トン/日の再処理の1日の使用料610万円(1960年)とくらべて,若干高い程度で大差のないことがわかった。
 さらに,再処理専門部会は,上記核燃料経済専門部会と密接な連絡をとり,再処理全般についての検討を行ない,また,海外における核燃料再処理事情を調査するため,36年4月から,約2ケ月間,欧米諸国に再処理調査団を派遣した。これ等をもとに再処理専門部会は,37年4月原子力委員会にこれまでの審議についての報告書を提出した。原子力委員会は,この報告書を検討中であるが,この報告書によると,規模については,0.7ないし1トン日が妥当であり,その実施時期としては,使用済燃料が発生する時期,すなわち,昭和43年以降が望ましいものとしている。工場の建設には,敷地選定その他の準催期間と,数年の工事期間を必要とすること,始動に十分の期間をかけるべきであること,さらに,操業開始後も当分の間はフル運転を控えることが望ましいことなどの理由から,37年度には予備設計に着手することが適当であるとしている。
 一方,再処理事業を行なうわが国唯一の実施機関である燃料公社は,再処理研究施設用地と目される地域の地下調査に着手し,また,同地域の気象ならびに海洋関係調査を原子力研究所に委託して行なっている。また,東海製錬所原子燃料試験所においては,前年度に引き続き燃料再処理関係管理分析法,その他の研究を行なう外,さらに原子力研究所のパルスコラム方式の施設利用による燃料再処理の工学的研究を効率的に行なうため,両者間に共同会議組織を設け,研究を進めている。


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