第3章 原子炉
§2 研究用原子炉

2−1 日本原子力研究所

 (1) JRR-1
 36年度の運転実績は,総運転時間886時間39分,総熱出力量1,896kW時であり,32年8月臨界以降の累計運転時間は,3,825時間43分,累計熱出力量は,8万6,478kW時である。

 JRR-1は,36年度も照射実験等の共同利用および訓練のために順調に運転された。これらに役立たせるために,NO.2実験孔に気送管が新設され,また,γ線照射装置の利用化もはかれた。
 36年度中の照射実験等の共同利用件数は,所内1,373件,所外557件で,所外557件のうち550件は照射に関する共同利用である。この中には,新潟港港湾建設のためのスカンジウム・ガラス砂,茨城県那珂港港湾調査用のコバルト・ガラス砂,北海道かんがい用水調査用コバルトの照射が含まれている。
 36年度中を通して行なわれた研究には,JRR-1の特性解析があり,反応度の長期変化の解析,炉出力変動の解析,臨界遮蔽の解析が行なわれた。特に臨界遮蔽の解析については,実験孔を使用してコンクリート遮蔽体内の中性子束の減衰状態の測定がなされ,簡単な計算による値と実測値との比較がなされた。これらについては,37年2月の原子力総合発表会で「JRR-1遮蔽コンクリート内の中性子束について」と題して報告が行なわれた。なお,熱中性子柱を利用して,高速中性子炉ブランケット指数実験装置の実験も行なわれた。
 JRR-1の保守に関しては,臨界以来満4年目を迎えた36年の8月に,とくに老朽化を予想される個所について重点的な検査が行なわれた。すなわち,冷却系統については,2次冷却貯水槽および冷却管の鉄サビ腐食等による沈殿物のため流量低下をきたしていたので,貯水槽および冷却管の洗滌が行なわれた。制御系統については,36年4月の自動緊急停止回路の重点検査にひきつづき,制御系各機器および測定器の放射線による特性変化,指示値の精度等の正確な測定がなされた。以上の検査完了後の試運転では,なんら異常が認められず,以後順調に運転がつづけられ,38年3月には,40kW28時間連続運転等がなされた。

 (2) JRR-2
 36年度の運転実績は,総運転時間1,043時間09分,総熱出力量127万5,946kW時であり35年10月臨界以降の累計運転時間は,1,322時間06分,累計熱出力量は128万9,269kW時である。36年度の特記すべき事柄は,11月上旬から12月中旬にかけて行なわれた3,000kW出力上昇試験である。
 JRR-2は,20%濃縮ウラン燃料体を用いて35年10月臨界に到達して以来36年2月までにほぼ低出力運転の特性測定が完了し, 3月に1,000kW24時間連続運転の性能検査に合格していた。同年10月,第1次燃料の残り3本が米国から到着したので,手持ちの燃料3本と合わせて燃料6本を交換し,11月中旬から1カ月にわたる出力上昇試験を行ない,12月26日に性能検査を受け,出力3,000kWについて検査に合格した。
 しかしながら,出力をさらにあげて使用するためには,今までの20%濃縮ウラン燃料の代りに,燃料加工の際に介在物を発生する可能性の少ないという点から90%濃縮ウラン燃料を使用する方が得策であるため,第2次装荷燃料を採用することが決定され,37年1月に米国B&W社と原子力研究所との間に,ETR型燃料要素30本の加工契約が成立した。原子力研究所では,この燃料交換に備えて,2月に準備検討を行なっていたが,3月に同燃料要素30本が到着したので,同月末施設検査を受け,ひきつづき燃料交換,特性試験にはいった。37年5月現在,この90%濃縮燃料によりほぼ零出力運転を行なっており,8月頃には,7,000kWの出力上昇試験を行なうこととなっている。
 JRR-2の共同利用については,37年1月中旬から3月中旬にわたって試験的共同利用が実施され,2,000kWの出力で所外を含め135件の照射試験が行なわれた。

 (3) JRR-3
 国産一号炉として,34年1月から建設がはじめられたJRR-3は,2年を経た36年1月末に,炉本体関係,実験設備関係,中性子計測関係,アイソトープ製造設備関係,燃料設備関係,電源設備・モニター関係の据付工事が完了し,契約会社から原子力研究所への所有権の移管が行なわれた。水・ガス系機器については,作動テストの関連で同時移管はされず,ヘリウムおよび重水の全系統のヘリウム・リーク試験が行なわれ,ひきつづき,原子力研究所の手によって,実地作動試験が進められた。各系統の機能試験は,4月下旬まで逐次進められ,最後の総合試験として,模擬臨界実験が5月の下旬に行なわれた。この結果,国産一号炉JRR-3は,37年7月には臨界に到達する見込みである。

 (4) JRR-4
 原子力委員会は,遮蔽研究用原子炉JRR-4を原子力研究所に設置することを35年度に決定した。その結果,原子力研究所の36年度予算に,JRR-4建設費として現金分9,090万円,債務負担額5億9,8000万円が計上され,建設は36年度から開始された。
 36年5月,原子力研究所にJRR-4の建設室が発足し,直ちに原子炉および建屋に関する基礎設計と調査がはじめられた。まず原子炉の基礎設計に関しては,6月までに基本的概念が確定され,民間企業各社に仕様書が提出された。これに基づき,8月末に見積参加グループ(日立,三菱,日本原子力事業,住友,第一)から見積仕様書が提出され,11月に入札が行なわれた。入札の結果,日立製作所が落札した。以後,原子力研究所は,同社と設計打合せを行ない,37年1月末に契約行為を完了し,現在同社との詳細設計打合せが進行中である。建屋関係については,37年2月中旬までに見積仕様設計が完了し,3月に入札が行なわれた結果,大成建設株式会社が落札した。電気設備,空気調整設備,給排水設備冷却塔等の付属設備については,3月末入札が行なわれ,それぞれ沖電気工事株式会社,東洋キヤリア株式会社,暁建設株式会社,高砂熱学株式会社が落札した。
 一方,原子炉設置申請の手続については,36年10月に,原子力委員会に申請書が提出され,11月に原子炉安全専門審査会の第1回現地視察が行なわれた。審査会は3月末に審査を終了し,JRR-4の設置の安全性は,十分確保しうるものと認める旨の報告を行なった。その結果,37年4月7日JRR-4の設置は内閣総理大臣から許可された。
 この原子炉は,いわゆる水泳プール型原子炉であって,多くの実績をもつ他の同種の炉と同程度の負の温度係数および負のボイド系数を有するものと期待されている。この炉の熱出力は,連続最大1,000kW,短時間最大3,000kW(ただし,二次冷却水温度20°C以下)で,遮蔽計算に用いる諸定数を実験的に求めること,理論的計算を実証すること,計算では算定しにくい遮蔽効果を実験的に求めること等に使用される。なおこの炉の完成予定は,39年6月となっている。

 (5) 材料試験炉
 材料試験炉の設置の重要性にかんがみ,原子力委員会は,35年8月に材料試験炉専門部会を設置したが,同専門部会は,同年10月以降,材料試験炉に関し,先進諸国の開発状況と動向について調査を進めるとともに,日本生産本部から派遣された材料試験炉視察団の報告等を参考にしつつ,材料試験炉をわが国に設置するうえに必要な基本的事項について検討を行ない,36年10月中間報告を行なった。その後,同部会はさらに調査検討を加えていったが,一応の結論を得たので,37年4月報告書を提出した。
 同報告書は,原子炉用材料,燃料の照射試験を外国に依頼することの欠点や不便を述べた後,原子炉用材料,燃料の基礎的性質の試験,国産化技術確立のための工学的試験,新しい原子炉型開発のための試験等を促進するためには,高い中性子束のもとで有効に照射試験を行ないうる専用の材料試験炉を設置することが,ぜひとも必要であるといっている。また,材料試験炉の規模については,熱出力はほぼ5万kW,建設費は合計50〜60億円となるものと評価しており,材料試験炉は,昭和40〜41年に運転を開始する目標のもとにできるだけすみやかに諸般の準備を進めることが望ましく,国の資金をもって原子力研究所に建設し,これを効果的に運営すべきであるとしている。
 一方,原子力研究所でも,前年度にひきつづき,将来同所に設置されるべき材料試験炉およびその関連施設について,調査研究および設計上の問題点の検討が行なわれた。また,海外における材料試験炉の調査も行なわれ資料として発表された。


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