第9章 核燃料
§2 わが国の開発状況

2−2 採掘および粗製錬試験

 燃料公社による探鉱の結果,人形峠鉱山および東郷鉱山については,鉱床の形態規模,品位等も順次解明され,開発の対象として考慮することができるようになった.しかし,鉱床は軟弱岩層中の礫層という悪条件のものなので,採掘についていろいろ技術上の問題があることがわかった。
 これらの悪条件を克服して,経済的に採掘するために,採掘技術上の問題を解決するよう,燃料公社では人形峠鉱山で,34年度から採掘試験に着手した.またこれよりさき33年度末から東海村で粗製錬試験を行なっている。
 採鉱試験は石炭鉱山で一般的に実施され成果をあげている残柱式採掘法および鉄柱カッペを使用する長壁式採掘法の応用を行ない比較的廉価に採鉱を行ないうるとの結論をえたが,更に今後は厚層の採鉱法および採鉱費の飛躍的節減を期して,水力採鉱法の開発も36年度から行なう計画である。
 一方,粗製錬試験では,34年はじめ,鉱石(3トン/日)連続処理の試験を行なう一連の諸設備の製作据付工事が完了し,試運転を行なった。
 35年度における粗製錬関係試験研究の主要題目は
(1) 溶媒抽出法とイオン交換法の比較検討
(2) 一貫製錬法に関する研究
で,(1)に関しては35年6月以降応用試験室で中規模試験を行なってきたが,溶媒抽出法の検討をまず完了,その後ヒギンス式イオン交換塔に関する試験を継続し,36年度中には結論がでるものと思はれる.(2)の一貫製錬法とは,鉱石の浸出液中に含有されている硫酸ウラニルを,粗製錬精製工程で塩化物に変換するという着想を加味することにより,現在のエクサー法の途中工程である還元沈澱工程までを簡略化し,粗製錬と精製錬を一本化する方法であり,その実施方法にも2.3の分岐が考えられ基礎試験室で検討されたが,Amex変換法が最適であるとの結論をえた.そこで,36年にはAmex変換法に関する中規模試験に発展させる計画である。
 34年度に人形峠鉱石からウラン精鉱をキログラムオーダで生産し,ひきつづき,金属ウランを生産する研究を行ない,36年4月国産ウラン鉱石から純国産金属ウランの精製に成功し,一貫した精製体制が確立された。
 なお,人形峠鉱山の鉱石は,外国鉱石の主要鉱石が酸化物であることと異なり,燐酸塩鉱物で酸に対して易溶性であり,常温で短時間に溶けることが特長である。
 また,工業技術院東京工業技術試験所では32年以来,低品位ウラン鉱の塩素処理の研究を行なっている.この方法は,人形峠鉱が,ウランを燐酸塩として含有しているので,これを加熱して,塩素と一酸化炭素で処理し,ウランを鉱石から塩化物として揮発採取するものである.この時,鉱石中のウラン以外の成分であるアルミニウム,鉄,アルカリも同時に揮発してくるので,揮発物中のウラン濃度は低い.この揮発塩化物を650°C以上の温度に適当時間,保てば,含有するウランの殆んど全部がこの温度範囲で凝縮し,他方,鉄,アルミニウム等の大部分は凝縮しないので,ウラン分の濃縮を行なうことができる.35年度では,鉱石の連続式塩素処理炉に,ウラン分濃縮装置を連結した中間試験装置を設置し,一段処理で濃厚なウラン塩化物を得る方法について,工業化に必要な基礎データ,装置特性を求める研究を行ない,ほぼ所期の結果を得るに至った.36年度には,これまでの塩素化の技術を基礎として,4弗化ウランの還元廃滓中に残留するウランを,塩素化法により揮発回収する研究を行なっている。


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