第14章 規制と放射線防護

§3 専門部会等の活動

 規制に関係する専門部会としては,現在原子炉安全基準専門部会があり,原則的な安全基準を作成することを目的としている。また約3ヵ年にわたり活動してきた原子炉安全審査専門部会は,近々廃止される予定であり,それにかわる原子炉安全専門審査会が36年4月設置された。
 同専門部会は,原子炉の安全性を審査する機関として原子力委員会設置法の施行令に基づく専門部会の1として35年5月に設置されたものであったが,原子炉の安全確保は重要な問題であり,また35年5月,原子力委員,会設置法の一部を改正するに当って,国会の附帯決議とて原子炉の安全審査につき,一層公正を確保するため責任ある審査機関を法制化することが要望されたので,従来の安全審査専門部会を廃するとともに,原子力委員会設置法の一部を改正して原子炉安全専門審査会を設置することになったものである。
 一方,放射線防護については内閣総理大臣の諮問機関として前記放射線審議会があり,わが国の放射線障害防止の技術的基準に関して審議することを目的としている。

(1) 原子炉安全基準専門部会
 原子炉安全基準専門部会は,さらに内部に6の小委員会を組織して,おのおの異なった問題を並列的に審議中または審議完了している。
 前記のICRPの新勧告については,放射線審議会が検討し,2回にわたり答申を行なったが,本部会においても原子炉関係従事者の安全という立場から新勧告の内容を審議し,結論としては放射線審議会の答申内容に同意することを確認した。
 国際原子力機関は,35年2月および7月ウィーンにおいて「臨界実験装置および研究炉の安全運転」に関する国際パネル会議を開催し,そこで採択された案文についての意見を各国に求めてきた,わが国ではその検討を本部会が実施した結果大要については異議はなかったが,一部についての意見をまとめた。
 原子炉を運転実験するにあたってはそのスクラム系のうち解除されるものがあるが,この解除の場合に必要な条件,解除の限度およびその際に必要な事業所内の手続き(これは事業所の保安規定に成文化される)につき,36年2月から検討を開始し,一応の結論に達した。
 原子炉設置許可申請書はすでに10通あまり原子力局において受理しているが,その記載内容はおのおの申請者により精粗の差があり,審査の際の内容把握が一様に行かないうちみがあった。本部会ではこの記載項目につき内容把握の統一を目的として検討を36年2月より開始し,現在継続中である。
 原子炉の立地条件およびその他の原子炉の安全基準について,国外の動向に注目しつつ資料の収集を図っており近々その整理,検討を開始する予定である。
 気体状放射性物質の種々の天候状態下における拡散状況を推算するための方式は国際的に数種あるが,現段階においては英国気象局方式を採用することとし,その実験式,図表を用いるにあたっての定数の定め方,限界値の決定につき,一応の内定をみた。

(2) 原子炉安全審査専門部会
 原子炉の安全審査は,平常時はもちろん,最悪状態の事故が起った場合においても,一般人および従業員に対して障害を与えない計画であるか否かを検討することである。
 動力試験炉の安全審査に当っては,最悪事故として原子炉底部の冷却水入口管が瞬時に破損して,揮発性核分裂生成物の5%を含む高温高圧蒸気がコンテナー内に充満し,最高3.7気圧下におけるコンテナー漏洩率が1日当り,0.5%という場合が想定された。その結果,周辺への影響の最も大きい(3)Iの放出量は,事故後1週間の間に7キユリーと推定された。これは東海発電所の場合の11キユリーよりも少ないが,コンテナーからの漏洩は,事故直後が最大であるため周辺にたいする短時間的影響は動力試験炉の方がやや大きくなっている。よう素の大気中拡散の推定は,極めて厳しい条件で計算した場合約14ヘクタールの農地が,食物制限範囲となるが,人の居住は許されるので,安全上支障なしとの結論を得た。
 (株)日立製作所および東京芝浦電気(株)の研究炉については,米国の暴走実験などから推定して,周辺に影響を与えるような暴走は起りえないことが確認された。
 ただし,東京芝浦電気(株)の原子炉は,東京国際空港の対岸に位置し,石油タンクに囲まれるという立地条件であるため,航空機の墜落や石油タンク炎上の際にも安全なように,緊急注水管を設けることになっている。
 近畿大学の原子炉は,既に34年春の東京国際見本市において,その安全性が確認されており,予定敷地の立地条件も,この程度の出力の原子炉に対しては十分と考えられるので,安全上支障なしとの結論を得た。
 なお,現在は(株)日立製作所および原子力研究所の軽水型臨界実験装置について,注水事故の上限がどの程度となるかという点等を検討中である。

(3) 緊急時被曝
 ICRPは33年の勧告に含まれなかった事項について出した34年の声明の1項目として原子炉等の放射線施設に発生した緊急事態における放射線施設周辺の一般人の被曝についての見解を明らかにした。しかし,これはICRP独自のものではなく,32年11月に発生した英国ウインドスケール1号炉の事故後,英国原子力公社がMRC(Medical Research Council,医学研究審議会)にたいして行なった「原子炉事故のために汚染された区域に居住する一般人は,131I,89Sr,90Srおよび137CSの4核種につきどの程度まで汚染している飲食物を摂取してよいか」との諮問にたいし,MRCに所属する電離放射線防護委員会がMRCを経由して,公社に提出した答申の考え方に賛意を表するという程度の予備的なものである。わが国においてもかかる緊急時における一般人の被曝についての措置は重要な問題であり,したがって政府は本件を放射線審議会に諮問することとし,35年2月,第6回放射線審議会総会席上で「一般人の緊急時被曝に関し,1959年11月6日付ICRPステートメントが発表されているが,この問題は原子炉の設置許可に関する審議上重要な関連を有するので,この観点から伺ステートメントに関する貴審議会の意見を求める。」と諮問を行ない,同審議会は,緊急被曝特別部会を設置して,この問題を審議しており,36年夏頃に答申が行われる予定である。

(4) 被曝線量に関する予備調査
 34年8月に開催された第5回放射線審議会において,同会長から政府あてに提出された意見書には「職業的被曝線量と施設周辺人群の被曝線量との関係が明確でないので,この現状を調査する必要がある。という要望があった。
 これにもとづき原子力局は35年度予算に67万5,000円を調査費として計上し,35年8月,日本放射性同位元素協会に調査を委託,同協会は全国のアイソトープ等を使用している事業所を対象として職業人について最近の3カ月間の被曝状況をアンケートによって調査し,その約80%が回収されている。また東京都内の5事業所を選定し,その施設およびその周辺の放射線量率を実測した。これらの調査結果については,現在集計を完了し,近くその報告書が作成される予定である。

(5) 原子炉の事故時対策
 原子炉の設置および運転にあたっては,原子炉等規制法に基づき,各種の審査段階において安全性に関する検討が加えられるので,周辺に影響を及ぼすような事故が発生することはあり得ない。しかし,原子炉,特に高出力原子炉の潜在的危険性が大きいことも無視できない事実なので,万一の事態に備え,緊急時の措置を平素から準備しておくことは,新技術を開発する場合には必要であり,緊急時の措置についてまず原子力局内で検討を進めている。一方,現地としては,関係行政機関,事業者等からなる東海村放射線連絡会を設け,放射線の平常時測定網の整備等同村周辺の問題について検討を行なっている。
 平常時測定網について,35年中には,空気,水,農水畜産物等の試料の種類,採取場所,採取時期,測定分担等を決定し,測定をはじめた。


目次へ          第14章 第4節へ