第10章 放射線の利用
§3 放射線化学

3−3 研究開発

 放射線化学の研究開発の現状は,全般的にみて基礎的段階にある.しかし,放射線の照射利用が将来,繊維,ゴム,合成樹脂などの化学工業の分野で非常に大きな利益をもたらすことは確かであろうと考えられるので,この開発を効果的に行なうための計画は,重大な意味をもつものである。
 したがって,わが国における放射線化学開発計画の決定には,政府,民間とも一体となって調査検討を行なってきた.35年6月米国に派遣された調査団の調査報告,また,原子力産業会議の放射線化学部会の検討はこの計画の設定に大いに役立った。

(1) 放射線化学専門部会の活動
 これよりさき,原子力委員会は,わが国の放射線化学の開発を効果的に推進するため,34年9月,大学,研究機関,民間企業および官庁関係の放射線化学の専門家20名からなる放射線化学懇談会を設け,主に放射線利用の最も有効な化学反応の研究および放射線化学用線源の開発について調査を行なった.この調査の結果は,35年5月の第5回懇談会で研究方針打合せ中間報告および線源打合せ中間報告として提出された。
 さらに,35年5月,原子力委員会は,放射線化学懇談会を放射線化学専門部会とし,放射線化学に関する研究開発上の問題点の調査に関する諮問を行なった.放射線化学専門部会は,6回にわたって審議を行ない,36年2月,放射線化学の状況,開発計画およびその促進対策を答申した.答申内容は,原子力委員会で検討され,今後の放射線化学の開発の方針として原子力開発利用長期計画に全面的にとりいれられた。
 36年4月,放射線化学専門部会は解散されたが,今後の放射線化学の研究開発に関する基本方針および放射線化学の中央機構の整備に関する審議会を行なうため,あらためて専門委員の人選を行ない,新らしい放射線化学専門部会を発足させることになった。

(2) 開発方針
 わが国における放射線化学開発の方針は,放射線化学専門部会の答申にもとづいて,原子力開発利用長期計画で次のように決定された。
 わが国の放射線化学の研究開発の状況は,基礎研究,反応プロセスの研究,放射線工学の研究および放射線源の開発においては,欧米にくらべて相当に遅れているので,これらの研究開発の促進をはかる必要が強調されている.さらに,将来の工業化のための中間規模における試験研究をすすめるため,原子力研究所に放射線化学中央研究機構として,経済的見地から民間においては,設置することの困難な大施設を設け,有望と考えられる放射線化学に関する中間規模試験,照射原価の低廉な線源の研究,大施設の使用を必要とする基礎研究を行なうことになった。
 この開発計画にしたがって,新たに中間規模の研究開発を行なうため,36年度から原子力研究所に放射線化学中央研究機構のための準備室が設けられることになった。


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