第6章 放射線の利用
§3 放射線化学

3−4 研究開発の現状

 わが国においては,放射線化学の分野で実用化に達したものはまだないが,その研究は非常に活発で,世界的にも注目すべき成果が多数発表されている。特に高分子関係の研究は高く評価されている。
 34年度に,主要な研究機関で行なわれた研究をみると,やはり高分子関係が圧倒的に多く,高分子物質に対する放射線照射の影響がいかなるものかを確める実験,放射線による高分子の共重合,グラフト重合,架橋反応による新しい合成樹脂,合成繊維の製造に関する研究,またそれら各反応の際に生ずる中間体の性質を確認するための研究等がある。
 例えばナイロン,またはセルローズ系繊維の表面や内部層に,アクリルアミド,スチレン,アクリロニトリル等のモノマーをr線によりグラフト重合させる研究で,その研究結果によるとナイロンの染色性の改善が3×107repの真空照射により可能であることがわかった。また,ヴイスコース,綿糸,麻等についてはその内部層でのグラフト重合の生成しやすい種々の条件が決定され,新しい繊維の出現も期待されている。
 ポリ塩化ビニール,ポリビニルアルコール,ポリエチレン等の高分子に対する放射線照射(中性子線,γ線,電子線)による性質の変化についての研究も多く,誘電率の増加,温度とか酸素とかの外囲条件の影響等2,3の事実が明らかとなっている。エチレン,アクリロニトリル等の共重合によるポリマーの合成,あるいはポリマーへの塩素等のハロゲン元素の附加反応等についての最適照射条件の決定等も行なわれた。
 最近の研究によると,-80°Cという低温でフオルマリンをr線で照射し,重合体が合成された。フオルマリンは普通の化学的方法で重合され高分子量のポリオキシメチレン(デルリン)が得られるが,この研究ではごく低温での反応が可能であるため,非常に規則正しい構造をもち,機械的性質のすぐれた高分子物質が合成された。

 中間体の性質,行動の追跡は非常に重要な研究であるが,これも電子スピン共鳴装置を使って15種類にのぼる高分子についてその同定が行なわれ,生成するラジカルの型,生成分解速度,外囲条件等の決定が行なわれた。
 放射線化学の研究を行なっている主要な研究機関ならびにその照射施設の一覧表は(第6-11表)のとおりである。
 なお,照射用の大量線源,加速器は34年末現在,(第6-12表)に示されるように合計84台,うち60Co,137Cs等のアイソトープ照射機器が27台ともつとも多く次いでフアンデグラフ,リニアアクセレレーター等の利用も盛んである。


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