第7章 原子力関連機器

§1 概 況

 わが国における原子力平和利用分野の急速な進展と相まって原子力関連機器はその相当部分が研究の段階より生産の過程に移行してきている。しかしながら原子力関連機器はその種類内容とも極めて広汎多岐にわたっている。例えば直接原子エネルギーを発生利用する機器である加速機器についても,長時間運転に対する信頼性の向上,大電流高出力方式の開発,照射費低減のため稼動率の向上,利用面の開発等の問題点があって,これらを中心に引き続き研究開発がすすめられている状況である。
 したがってここでは原子エネルギーを制御,保守,利用するための機器,すなわち原子炉用ポンプ,原子炉用炉心容器,原子炉用熱交換器,原子炉用弁,制御棒駆動装置,制御用機器,モニター,サーベメーター,廃棄物処理装置等の諸設備を原子炉関連機器,放射線測定機器,化学処理関連機器,工業用計測器の4つに分けて述べることにする。このような機器は電磁ポンプ等の一部の例外を除けば,火力発電,造船,機械,化学工業等の原子力工業以外の分野にも多くの実績と広い市場を持っているので,各種機器の生産設備,生産方式等に関し著しい変更を加えることなく原子力分野の需要を充足することができるものである。
 しかしながらここで問題になるのは,原子力関連機器は従来の各種機器に比較して腐蝕,漏洩,圧力,温度,耐久性等について非常に厳しい条件を要求されるからこれらの要求を満たすための研究開発が必要なことである。そのうち耐蝕性の研究,放射線損傷の研究等のごとく各種機器に共通した問題は主として金属材料技術研究所,日本原子力研究所をはじめ,大学その他国立試験研究機関等で研究開発が行なわれ,各種機器に固有の問題点は民間各メーカーで研究開発がすすめられている。
 政府はこれら民間企業の研究開発を積極的に推進させるため,昭和29年度から34年度までの6年間に研究補助金ならびに研究委託費として約3億1,000万円を支出し,原子力関連機器に対する研究開発を助成している。
 このうち,原子炉関連機器に約49.5%の1億5,000万円((第7-1表参照)),放射線測定機器に約49.5%の1億5,000万円((第7-2表参照)),化学処理関連機器に約1%の1,000万円((第7-3表参照))をそれぞれ支出した。このような研究開発と放射線利用の増大,さらにJRR-3の建設が進捗した結果,わが国の原子力関連機器の相当部分は,すでに試作研究の段階から実用規模の生産段階に移行しつつあるといえるわけである。
 わが国の原子力関連機器の特色としては,まず放射線測定機器の研究開発に重点が置かれ,わが国で放射線の利用が開始されるにともない,積極的に試作研究がすすめられたことであり,このことはその後さらに電子工業の目覚しい発展が行なわれたことと相俟って,列国にさきがけ測定機器のトランジスター化,ユニット化がすすめられ,現在では所要機器の相当部分が国産化されるとともに,一部製品の試作輸出も考えられている。すなわち国産放射線測定機器の生産高は,昭和29年度約1億円,30年度1.2億円,31年度2.8億円,32年度6.3億円,33年度約7億円,と毎年確実に増加している。しかしながら需要の少ない種類の機器や高度の性能を要求されるものは,いまなお海外からの輸入に仰いでおりその額は33年度で約3億円に達してしるが,これら輸入機器も国産化の進展にともない次第に減少しつつある。
 ここで33年度における米国の生産額をみると約151億円にのぼり,わが国の生産額7億円に比較すれば約21倍になり,生産規模においてなお相当の差異があることがわかる。
 次に原子炉関連機器については,JRR-3の建設着手に伴ない従来の研究開発を基盤にして研究炉用機器の国産化に入り,さらにその後動力炉用機器を目標にして研究開発がすすめられている。
 また,化学処理関連機器については,炉の運転実績の少ないわが国の現状では当然のことながらその研究開発が遅れているが,廃棄物の処理装置等の特殊なものについてはすでにある程度の研究開発が行なわれている。


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