第12章 災害補償

§3 関連制度の整備

 原子力損害の賠償に関する法律案は,35年5月27日国会に提出されて後,3日間にわたり衆議院科学技術振興対策特別委員会において審議されたが成立に至らず,第34回国会閉会に当り継続審査が決議されたにとどまった。つづいて第35国会においても,特別の短期国会であったため,審議は行なわれず,ひきつづき,継続審査が決議されて現在に至っている。
 なお,この法案は損害賠償措置の一つの方法として民営の原子力責任保険制度の確立を前提としているが,わが国の保険業界においても損保20社が共同して,この新しい保険を引受け,原子力開発に協力することとなりかねてから約款等について検討を行なってきたが,35年2月29日付で原子力損害賠償責任保険の営業が認可され,3月3日,日本原子力保険プールが正式に発足した。その他,原子力損害の賠償問題に関しては,国家補償契約,原子力事業の従業員の災害補償問題,国際条約との関連等の諸問題が残されており,これらは早急に解決されねばならない。
 前述のように損害賠償措置の最も典型的なものどしての原子力損害賠償責任保険には,地震による損害など,てん補しない損害をいくつか挙げている。それでは損害賠償措置として完全なものとはいえないので,そうした部分については,国が原子力事業者と補償契約を締結するのであるが,それについては賠償法と別個の法律で規定することとしているので,いわば,「原子力損害賠償補償契約に関する法律」ともいうべきものを,賠償法の施行までに,制定する必要がある。この法案については,補償契約のてん補範囲,補償料等の点が問題となるものと思われる。
 また賠償法案では,損害賠償の責に任ずべき原子力事業の従業員の受ける損害は原子力損害から除外しているが,これは現行の労災補償制度に委ねる趣旨であり,海外諸国の立法例もこの方式を採るところが多い。従業員を対象に含めるときはそれだけ第三者補償の面が薄れることは確かであるが,一方災害を受ける可能性の最も多い従業員の補償を既存の法体系のみに委ねることで問題が完全に解決されるものとは考えられない,将来この問題については,専門部会を設置する等により,十分に検討すべき要請が残されている。
 次に国際条約に関しては,国際原子力機関において陸上原子力施設に関する災害補償について現在までに3回にわたり専門家会議が開催されたが,原子力船に関する災害補償問題についても,35年3月および8月の2回専門家会議が開かれ,わが国からも専門家が出席した。そして陸上および海上の双方につき,36年の初め頃までに政府間会議が開催される予定であり,わが国としても,賠償法案を主体としてわが国の見解を固めるべく,専門家会議の考え方を検討している.


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