第5章 原子力船
§1原子力船開発の状況

33年9月ジュネーブで開かれた第2回原子力平和利用国際会議において米,英,仏,ソ連および日本の5ヵ国から原子力船に関する論文が10数編提出された。米国からはサバンナ号の設計上の問題点を中心として特にその安全性に関して発表された。わが国からは原子力移民船および潜水油槽船に関する2編が提出され注目を受けた。この論文によれば,原子力移民船は日本から西航して途中寄港することなく南米東岸に達し,帰路北米に寄港するもので,その高速力を有することと,運航距離の短縮化とにより,年に2.2航海を増加することができ,かつ経済的にも十分採算に乗りうる見通しがあるという結論に達している。一方国内においては,海運界,造船界の原子力船に対する関心が大いに高まり,33年10月には社団法人日本原子力船研究協会が設立され,原子力船開発のための研究推進を図る中心機関として活躍を始めた。同協会は33年12月初め政府に対し,原子力船開発方針の明示,その開発研究に対する助成策の確立,原子力実験船の構組の確立,原子炉関係技術の早期導入等について要望を行なった。
 さらに34年2月にはサバンナ号受入れに関連して原子力船の就航に関する各種問題,すなわち原子力船の就航に伴う港湾および付帯施設ならびに原子力船出入港時の放射線安全管理,海上における航行の安全等に関する各種国際条約ならびに関連法規の早急整備,災害補償等についての対策の促進方について政府に要望した。
 かくのごとく原子力船開発についての気運はますます高まり,政府は32年度から原子力予算によって運輸技術研究所において基礎的研究に着手するとともに研究費補助金および委託研究費を民間に交付して研究の促進を図っている。


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