第4章 アイソトープ
§3使用状況

1.アイソトープの使用の概況

33年度のアイソトープ使用件数は4,454件で,32年度に比較し約5%の増加となっている。使用件数を専門分野別の百分率でみると,医学関係の62.2%を最高とし,工学関係が11.5%,農学関係の7.5%,化学関係の6.2%,生物学関係の4.9%,その他となっている。しかしながら工学関係では最近特にガンマグラフィー,高分子への放射線利用などの大線源の利用が多くなってきたため,アイソトープのキュリー数でいけば,その大半を占めているものと思われる。今後もますます,この方面での利用増大の傾向が予想されている。
 アイソトープ利用の増加は,先にも述べてあるが,アイソトープの利用が,当初基礎的研究を主としていたのに反し,近時それらの研究成果が,実用方面に急速に進展してきたものであって,たとえば医学では診断,治療などの面へ,理工学では金属の非破壊検査,計測器類などによる制御ならびに広義の品質管理などへの面での応用の結果にほかならない。33年12月末におけるアイソトープを使用する施設の数は,788ヵ所の多きに達している。
 特に33年度は,放射線障害防止法が4月1日から施行され,わが国アイソトープ利用機関事業数の正確な把握もでき,また放射線による障害の防止も一段と厳守されることとなった。

2.アイソトープの使用機関

 アイソトープを使用する機関は第4-5表および第4-2図に示すとおり,毎年増加の傾向にあるが,最近は特に実用面を担当する工場,病院の数が著しく増加しつつあった。

 また30年度以降のそれらアイソトープ利用の事業所数(大学では各学部ごと,付属研究所ごと,付属病院ごと,会社では工場ごとなど)の推移をみると(第4-6表)のとおりで,33年度末にはすでにアイソトープの使用事業所数が400ヵ所以上にも達している。なお,この数字が32年度と比較して減少しているのは,防止法の施行に伴う一時的なもので,その後順調に増加している。なお,次に33年度におけるアイソトープ利用の部門別事業所数を掲げると(第4-7表)のとおりである。

3.アイソトープ使用の専門分野

 アイソトープの専門別の使用状況の推移を使用件数および使用量でみると第4-8表および第4-9表のとおりであり,各専門別とも増加の傾向にある。このうち医学部門の使用件数が,やはり最も多いが,内容的に観察すれば工業部門が量的に比較的大キュリーの60Coを使用しているため,使用量において工業部門の比重が特に大きくなっている。60Coについては工学部門と医学部門とが,その量をわかちあっている。

4.アイソトープ利用施設の現状

32年度以前におけるアイソトープ利用施設は,東京大学,京都大学,九州大学,北海道大学,科学研究所,国立東京第二病院,農林省蚕糸試験場,農業技術研究所,工業技術院名古屋工業技術試験所,日本電信電話公社,電気通信研究所,日本原子力研究所東海研究所,アイソトープ研修所などがおもなものであった。しかるに33年4月1日,放射線障害防止法の施行をみるに及び,前記施設の一部についても,障害防止,汚染除去,廃棄物処理など施設面での改善が共通の問題として考慮されねばならなくなってきた。またこの法律の施行を期にして大学,研究機関ならびに会社事業所に

 おけるアイソトープ実験室,放射線照射室,その他発生装置を含めて,研究者の障害防止上の施設に関する認識が一段と新らたになり,33年度においては,これらの整備ならびに新造築が,きわだって目だつようになった。
 次に放射性同位元素等の使用許可申請からみた利用施設数を第4-10表にあげる。

 これら施設のうち障害防止の面で施設の一部に不備なものもみうけられたが,最近の建築材料および建築設備の研究の進歩,特にアイソトープ汚染除去に便利な内装材料および塗料,遮蔽用コンクリート,鉛ガラスその他の遮蔽材,汚染,空気除去のためのフィルターあるいはグロブボックスなどの備品などの国産化に伴い法律的にも満足できるものとなることが確信されているし,また一方事業所自体も防止法にのっとるべく努力をした結果,34年9月末には,全般的に完備されたものと思われる。
 またこの間建設省建築研究所においても現行の「原子力利用施設設計基準」の改正をはかり,34年5月「原子力利用施設設計基準(1958年版)」が発表され,アイソトープ利用施設の施工上指導的な役割をはたすことが期待されている。
 アイソトープ利用施設には,トレーサー実験室と照射室の二つに大別されるがトレーサー実験室のうち,現在その代表的なものとしては日本原子力研究所化学実験棟およびアイソトープ研修所などがあげられるが,これと同時にJRR-1に付属するホットラボも近く完成される予定である。また規模は原子力研究所のそれにははるかに及ばないが神奈川県工業試験所および東京都アイソトープ総合実験所などをあげることもできよう。またさらに各大学,研究所,会社などにおいても多数のものが完成または建設中であるが,その多くは放射能レベルが中,低位のものであろう。
 ここで,一つ問題として取り上げなければならないことは,これらアイソトープ実験室から出る放射性廃棄物の処理であるが,これについては,つとに日本学術会議,日本原子力産業会議などから強い要望もあり,原子力局としては,全国的な規模での処理機関の設立を考慮中であったが,34年度において,日本放射性同位元素協会に補助金を支出し,その業務を委託した。同協会においては,初年度,関東,関西両地区を中心とする放射性廃棄物貯蔵所を建設し,両地区における放射性廃棄物の収集を行なうことになり,34年10月事業開始に至った。
 この事業の開始により,今後のアイソトープ利用の増加に対し,放射性廃棄物の処理面については万全な措置が取りうることと思う。
 次に照射施設関係であるが,これはさらにアイソトープの大量線源によるものと,粒子加速装置によるものとに区分できる。前者においてはほとんどが60Coによるもので工業用医療用などに区分される。また後者としてはヴァン・ド・グラーフ,サイクロトロン,エレクトロンアクセレレーターなどであるが,これらも工業用として用いられている。ここに60Co照射施設のうち工業用のものの一覧表を第4-11表として掲げる。
 また医療用の代表的なものとして,ガン研究会の1,000Cの治療装置を含めて100C〜1,000Cまでのものが約110施設以上にのぼる数のものが利用されており,今後この方面における60COおよび187CSの治療装置の増大が予想される。

 次いで工業的な利用の60CO照射施設の代表的なものとして,日本原子力研究所東海研究所の10,000Cおよび500C程度のもの,また名古屋工業技術試研所の3,000C,神奈川県工業試験所の1,500C,日本放射線高分子研究協会の1,200C,その他遺伝学研究所,東京水産大学,東京大学,その他会社の諸施設がある。
 なお日本原子力研究所東海研究所(10,000C),神奈川県工業試験所,日本放射線高分子研究協会東京研究所,名古屋工業技術試験所,日本放射線高分子協会大阪研究所のそれぞれの60Co照射施設は,一般に開放されている。その利用状況をみると,33年度においてその稼働期間が短かかったにもかかわらず合計約1,500件の試料を外部から引き受けて照射実験を行なっている。


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