第4章 アイソトープ
§1 概説

25年,戦後初めて人工アイソトープが輸入され,アイソトープを利用した研究が開発されるに従って,その需要量の増加は急速に拡大していった。
 すなわち33年度末におけるアイソトープの使用機関数は308機関となり,その使用件数も8,519件にのぼった。32年度との比較において,前者はほぼ前年なみであるが後者で13.7%の大幅な増加となった。これに伴いアイソトープの輸入金額も,前年度に比較して1.5倍の1億7,576万円に達するまでに至った,このような利用の増大は,アイソトープの利用による理学,工学,農学および医学の各分野にわたるすばらしい効果が収められつつあることを示すものであるが,特に33年度以降の傾向としては,基礎的な研究規模の段階から実用的な応用分野への拡大の方向に向っている。この事実は,従来のように大学や研究機関で行なわれていた研究が実を結び工場や病院などの実用面に応用される傾向が顕著になってきたことを示している。
 わが国のアイソトープ利用は,,32年度に引き続き,医学関係が最も多くその利用件数も全体の70%をこえており,次いで工学,農学,生物学,理学となっている。これらの利用分野は,今後の研究の開発によってなおいっそうの伸びが期待されるので,特にその利用促進のため33年度は全国国立研究機関の施設の整備と研究の推進のため,約6億7,000万円の支出が行なわれた。
 アイソトープの利用が広がるにつれて,その基礎となる共通の研究,技術者の養成なども着々とその成果を収め,33年度においては約200名のアイソトープ技術者の養成がなされ,この間ユネスコの援助およびコロンボ計画による海外技術者(東南アジア)の養成も行なわれた。
 また,一方国内でも再建されたサイクロトロンによる半減期の短いアイソトープの生産も少量ではあるが行なわれており,なお32年度に引き続き,アイソトープの生産のための準備が日本原子力研究所において試験生産の段階において行なわれており,近い将来には国内のアイソトープの需要の一部を満たすようになることが期待されている。
 上述のように,アイソトープの利用の拡大に伴い,その障害面の防止のための「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(以下放射線障害防止法という。)が33年4月1日に施行され,使用許可申請および販売許可申請に関する事務が始まり,放射線取扱主任者試験もすでに4回実施された。放射線障害防止の技術的基準の斉一を図るため,放射線審議会が33年6月に発足し,各省関係法令について審議された。


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