第3章 アイソトープ
§4 利用の促進

 アイソトープの利用を促進させるには,まずアイソトープの利用研究に必要な研究施設を整備し,次に研究を効率的に推進し,研究の完了したものについては,研究成果を積極的に交流普及する必要がある。

4−1 研究施設の整備

I アイソトープ実験室
 戦後アイソトープの輸入がはじまつて,当初は主として,生物学,医学,農学方面の研究にアイソトープが利用されたので,アイソトープの取扱いに便利な実験室が,東京大学,京都大学,九州大学,北海道大学,科学研究所,国立東京第二病院,農林省蚕糸試験場,農林省農業技術研究所などで,25〜28年にかけて完成した。工業利用を主目的とするアイソトープ実験室は,28年完成した工業技術院名古屋工業技術試験所や日本電信電話公社電気通信研究所のアイソトープ実験室が最初であろう。これらはいずれも,以前にたてられた国内のアイソトープ実験室に関する実験や,文献を参考にして建設されたものであるが,建設材料の不備,経験の不足などを克服して,低レべル程度の実験室として現在活躍している。その後,ストリツパブルペイントをはじめとし,ポリエチレンライニング,ビニール塗料類,ステンレス工作などに高度の進歩をみるとともに,グローブボツクスをはじめ各種の部品類の改良により現在ではほぼ満足すべきアイソトープ実験室をつくりうる状態にいたつた。現在代表的なアイソトープ実験室は,日本原子力研究所東海研究所にある化学研究室であつて,31年8月着工,32年8月竣工した。延坪40,700ft2,地下室付3階建のうち,3階がアイソトープをとりあつかう実験室となつている。実験室は高さ9.9ft,面積22.6X11.9ft2が単位となり,間仕切は移動可能,内部仕上げは,床はアスフアルト防水プラスチックタイル張り,壁は塩化ビニールペンキ塗になつている。空気調整は空気11,OOOcfmを各研究室をおくり,排気はフード,ドラフト,またはそのバイパスの先端から煙突シこながす。排気系統は2系統にわかれ,汚染空気の排気は,フイルターをとおし,1,000cfmを処理する。排水は一般排水系統と汚染水排水系統にわかれ,汚染水は地下2階の廃液貯溜槽に導入される。汚染排水用配管材料はポリエチレン管,廃液貯溜槽は鋼板製,内部はポリエチレンライニングになつている。
 東海研究所とほぼ同時に完成したアイソトープ実験室または取扱室としては,日本原子力研究所付属ラジオアイソトープ研修所,科学研究所アイソトープ取扱実験室などがあるが,さらに各大学,研究所,試験所,会社などにおいても,続々と建設されつつある。これらの多くは,中レベルまたは低レベルのアイソトープ実験室であるが,共通した問題として,障害防止,汚染除去,廃棄物処理などがあり,これらを討議してアイソトープ実験室の設備の改善に反映させる努力がはらわれている。

II 放射線照射室
 これは,物質の変性,反応の促進,殺菌殺虫に使用される工業用と,治療方面に使用される医療用とになる。現在日本に輸入されているCo60の大部分は,照射用として使用されていて,両者とも,きわめて活発な開発がおこなわれており,とりあつかうキユリー数においても,また施設数においても,年々いちじるしい増加をしめしている。現在放射線照射室は,医療用として約110カ所,工業用として約40カ所におよんでいる。これらの照射装置は,すべて国産品である。これらの施設は,医療用としては,すべて実用的に使用されているが,工業方面では,いずれも基礎応用研究用として使用されていて,まだ工業化にまでいたつていない。
 大量線源で,最新式の代表は33年8月竣工した日本原子力研究所東海研究所の10,000キユリーCo60照射室である。これは原子炉用の非金属材料の試験,放射線化学の基礎研究用に建設されたもので,照射実験は,完全に遠隔操作できるケーブマおこなう。ケーブはセルが3箇直列にならんでおり,中央のセルは線源貯蔵用で,左右のセルは照射実験用である。このための連続照射実験ができ,線源の利用率はたかい。

III 粒子加速器
 国産の粒子加速器の現況は大約次のとおりである。
 強収斂シンクロトロン(200MeV)が東京大学理学部に,シンクロサイクロトロンが東京大学原子核研究所に,ベータトロン(30MeV)が東京教育大学に,それぞれ設置されている。
 フアンデグラフ装置は,実用装置として,1MeVのものがすでに完成され,各種の照射実験に使用され,また九州大学には6MeVのものが運転されている。
 線型加速器は6MeVを目標に試作がすすめられ,現在製品化されつつある。
 その他,京都大学,東北大学,大阪大学などにも,研究用として,粒子加速器が設置されている。
 なお,32年度において,国立試験研究機関のアイソトープ研究設備は,(第3-12表)のように新設または拡張して整備された。

4−2 研究成果の交流と普及

 日本においては,原子力平和利用の成果はこれを公開し,すすんで国際協力に資することを基本方針としている。この線にそつて原子力平和利用に関する技術情報の交換が積極的におこなわれてきた。
 とくに日本におけるアイソトープの利用研究は,はやくから理学,工業,農業,医学などの各分野でひろくおこなわれ,アイソトープ応用技術に関する会議が盛大にもよおされるばかりでなく,国際会議にも参加している。これらの会議について,アイソトープ利用の面から概観してみよう。
 31年8月開催された第1回日本アイソトープ会議にひきつづき,32年度には,33年2月東京で,第2回日本アイソトープ会議が,日本原子力産業会議と日本放射性同位元素協会の主催,原子力委員会ほか5省,日本学術会議,日本原子力研究所,原子燃料公社の後援で開催された。この会議には,123編の論文(工学22,放射線化学6,理学10,医学39,生物学9,農学20,安全防護17)が提出され,数百人の熱心な参加者の前に発表され討論された。第2回日本アイソトープ会議は,第1回と同一の趣旨と目的(理工農医など各学界相互だけでなく,学界と産業界とをよく連絡し,たがいに成果を発表討論し,よく交流するため日本におけるアイソトープ関係の総合発表会をひらく)で開かれたが,日本学術会議が,30余の各種学会と共催した第2回原子力シンポジウムと,関連開催されることになつたので,アイソトープの応用領域に属するものは,アイソトープ会議で発表し,学術的あるいはアイソトープ以外の原子力領域と共通的立場にあるものは,第2回原子力シンポジウムにおいて発表された。
 第2回日本アイソトープ会議が終了した翌日から第2回原子力シンポジウムが,日本学術会議,日本原子力研究所,原子燃料公社,ほか35学会協会の共催で開催された。
 第1回は講演題目169件であつたが,第2回は,一般研究発表265件におよび,放射線化学,放射化学,汚染除去,廃棄物処理,生物,医学,遺伝等の部門でアイソトープおよび放射線に関する研究が93編発表された。
 量においても,質においても,第2回シンポジウムは第1回にくらべて格段の進歩をしめし,日本の原子力研究の順調な進展をあらわしたものといえよう。


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