第2章 国際協力
§1 一般協定の交渉

1−2 交渉の経緯

 以上のように協定に対する日本側の態度を検討した後,政府は32年9月下旬米英両国に対して交渉開始の申しいれをおこなつた。しかし,米国ではすでに英国,カナダ,フランス,西独,イタリア等十数カ国との間に一般協定を締結しており,協定の標準型があるので折衝によりこれを変更する余地も少ないとみられるのに対し,英国ではいまだこの種の一般協定を締結した前例はなく,したがつて協定案修正の余地も比較的あるとかんがえられることなどの点から,まず英国との,間に協定案の本格的審議を開始することとなり,米国との間にはそれと並行して協定案中の疑問点の照会等の予備的な交渉がすすめられた。英国との交渉でもつとも問題となつたのは,やはり前にのべた「保障措置条項」に関してである。わが国はその適用される資材等の範囲をできるだけせまくすることを主張したが,英国側は国際原子力機関憲章第12条の解釈でも数代の副産物に至るまで保障措置が適用されることとなつていると主張した。そこで日本側としてもそのような解釈が現在の国際通念であるならばやむをえないとしてこれをみとめたが,協定本文中には機関憲章と同一の字句をもちい,上記の解釈を定義として挿入し,機関におけるその解釈が変更された場合などには両国で協議できることとして,ようやく妥結の段階にいたつた。しかるに12月下旬にいたつて,英国側は当初の英国側原案にはなかつた「免責条項」をあらたに挿入したいと申しいれてきた。「免責条項」とは協定により提供された燃料の生産,加工を原因として生ずる損害に対する責任,とくに第三者の損害に対する責任について,その燃料の引渡後は日本政府が英国政府または英国公社に対しその責任をまぬがれさせ,かつ損害をあたえないようにするという規定である。日米協定案中にも,濃縮ウラン等の賃貸の場合に同様趣旨の規定がもうけられており,この日米協定案中の免責条項と同文の免責条項は,従来の日米原子力研究協定にもとづく二つの細目取極にも規定されわが国の国会の承認をもうけているが,しかし日英協定の場合はこれとやや事情をことにするので,この規定の挿入をめぐつて日英両国の間にいろいろの話合いがおこなわれたが,結論に達しないまま,交渉はしばらくの間進展をみなかつた。
 一方米国との交渉も33年1月下旬よりいよいよ本格的な審議にはいつた。この方は前述のとおり一定の標準型があるので,わが国だけが他の各国よりもとくに有利な協定をむすぶというわけにもいかず,また保障措置条項の問題は英国との交渉において議論しつくされていたこと,免責条項については前述のようにさきの日米原子力研究協定にもとづく2回の細目取極において同文の条項を日本側で受諾し,国会の承認もえていることなどの理由で,交渉は比較的順調に進展し,4月28日には仮調印をすませた。
 日英協定の懸案となつていた免責条項については,日本原子力発電会社が33年1月に英国へ派遣した調査団による炉の安全性などに関する報告などを参考にしつつ検討をくわえた結果,英国政府または公社は供給する燃料等の適合性完全性について最善の努力をはらい,燃料の引渡前に日本側で検収をおこなうのであるから免責条項を受諾してもさしつかえがないと・いう結論に達し,これで日英協定中の懸案もすべて片づいた。かくして6月16日ワシントンおよびロンドンにおいて,日米原子力一般協定(正式には「原子力の非軍事的利用に関する協力のための日本政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」)および日英原子力一般協定(正式には「原子力の平和的利用における協力のための日本国政府とグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府との間の協定」)が正式に調印されるに至つたのである。両協定は,国会の承認をえた後,(日英協定については日本側のみ)これを相手国に通告することによつて発効することとなつている。
 なお,従来の日米原子力研究協定は,日米原子力一般協定の発効と同時に廃止されて,後者にかえられることとなる。


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