第2章 国際協力
§1 一般協定の交渉

1−3 協定の内容

 日米協定は前文,本文12力条,交換公文,覚書からなり,日英協定は本文11カ条からなつており,その有効期間はいずれも10年である。両協定の内容は実質的には大きな差異はなく,おもな点をあげれば次のとおりである。
 まず,両国政府は原子力の平和的利用を促進するために種々の方法で協力することが規定されている。たとえば日米協定では,研究用,試験動力用,実験動力用および動力用の原子炉の開発,利用,その保健上および安全上の問題や,各分野におけるアイソトープの利用などに関する情報の交換をおこなうこと,研究用として必要な, U235,プルトニウム,天然ウラン,重水等の重要資材のほか,研究用以上に多量の天然ウラン,重水等についてもそれが商業的に入手できないときは政府間で提供されづることなどが規定されている。また日英協定でも,情報の交換をおこなうほか,英国原子力公社が日本側の原子炉の入手や,その運転のための燃料の入手,使用済燃料の再処理および日本における再処理施設の建設等について援助する旨が規定されている。また学生や技術者の訓練のため施設の利用も,できることとなつている。ただし,いずれの協定においても秘密資料の交換や,それをともなう資材等の提供はおこなわれないこととなつている。これはこの協定がその標題のとおり両国の軍事目的とはまつたく無関係であるからである。
 次に米国原子力委員会または英国原子力公社が日本に建設される原子炉の運転のために必要な燃料を供給することとその供給の条件がさだめられている。この点に関して両協定がことなるのは,日英協定では協定にしたがつて日本が英国から入手した原子炉の運転に必要な燃料(実際には主として天然ウラン)の供給を保証するほか,他の原子炉(たとえば国産炉)用の燃料も個々に合意される限度で供給されるとのみ規定されているのに対して,日米協定では,協定の有効期間中に日本に燃料として提供される濃縮ウランの限度量が明記されている。この濃縮ウランの量は,含有されるU235で計算し2,700kgであるが,使用後米国政府に返還されたり,米国政府の承認を得て第三国または国際機関に移転された濃縮ウラン中の量はこの枠からはずされる。この2,700kgは,米国がすでに各国と締結した原子力一般協定においてさだめられた数量とのバランス等を勘案してさだめられたもので,研究用および実験動力用に必要なものとして800kgのほかに,動力用1基分として1,900kgがみこまれている。なお,この2,700kgは一応の枠であつて,わが国は10年間にかならずこれだけの量の濃縮ウランを購入または賃借しなければならないという義務をおうのではなく,また逆にわが国の原子力開発が現在の予想以上に進展した場合には増量することももちろん可能である。また提供される濃縮ウランは普通20%までの濃縮ウランであるが,一部は材料試験用原子炉用として90%までの高濃縮として提供をうけることがでる。
 これらの燃料供給の条件としては,使用済燃料の再処理は米国原子力委員会や英国原子力公社が承認する施設でおこなわれねばならないこと,その施設にひきわたすまでは,特別の場合をのぞき,使用済燃料の形状および内容を変更してはならないことなどが両協定ともさだめられている。なお日米協定では米国から購入した濃縮ウランは,米国での民間所有がみとめられる時までは,日本政府がその所有権を保持すべきことが要求されるが,日英協定にはこのような規定はない。またさきにのべた免責条項もだいたい燃料供給に関する条件の一つとかんがえることができよう。
 次に,協定にしたがつて提供された燃料その他の物質や設備の使用から生ずるプルトニウムその他の副産物の処分に関する規定がある。これらの副産物はまずわが国における平和的目的に使用することができる。そしてもし日本の利用計画による需要をこえる余剰分が生じた場合には,日英協定によればまず英国原子力公社が指定する貯蔵所に寄託し,日本側がその処分を希望するときは公社にその購入優先権がみとめられ,日米協定によれば米国から提供された物質を燃料とする原子炉で生産されたものについて米国政府の購入優先権がみとめられる。このようにして買いもどされた副産物は英国や米国においても平和的目的にのみ使用されることがあきらかにされている。
 保障措置の規定については,協定交渉前の検討および交渉の経緯に関連して前述したが,その実質的内容については両協定ともまつたく同一である。ただ適用される物質について日米協定では日英協定のように国際原子力機関憲章第12条と同一の字句は規定上使用されていないが,これは米国の一般協定のパタンにしたがつたもので実体はおなじである。この保障措置は,平和利用の確保をはかるためにのみおこなわれるもので,査察によつてしりえた産業上の情報等をみだりに漏えいしてはならないことが本文または交換公文で明示されている。またこの保障措置を将来国際原子力機関の実施にうつすため,両国政府が協議をおこなう旨が規定されている。これはわが国にとつてきわめて重要な規定である。国際原子力機関による保障措置ならば特定国からの制約という印象もなくわが国としてこのましいことはいうまでもない。国際原子力機関は発足後日もあさく,いまのところ保障措置を実施できる体制が整備されていないが,わが国において発電用原子炉が運転を開始する数年後には機関の準備もすすんでいるであろうから,協定による保障措置が実際にはほとんど機関によつて実施されることとなる公算が大きい。
 その他協定中には,協定により提供された物質等をみだりに国外に移転しないことに対する日本政府の約束や協定中に使用される字句の定義や,協定の廃棄に関する事項が規定されている。また協定の適用に関する問題について両国政府は随時協議をおこなうこととなつている。


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