第1章 開発態勢の整備
§2 関係法令の整備

2−3 放射線障害防止の技術的基準に関する法律の制定

 放射線には,従来から医療面で大いに利用されてきたエツクス線のほかに,最近急激に利用がおこなわれるようになつた放射性同位元素および放射線発生装置等によるものがある。
 またこれらとは別に外国における核爆発にともなう放射性生成物,いわゆるフオールアウトからの放射線についても国民は深い関心をはらつている。さらに今後は原子炉等の開発利用にともないこれから発生する放射線も増加してこれら放射線による障害防止の重要性は日増しにたかまつてきているものとかんがえられる。
 次にこれらの放射線障害の防止に関する規制をおこなつている法律のほうをみると,たとえば放射性同位元素,放射性同位元素装備機器および放射線発生装置の利用については,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」で,核原料物質,核燃料物質および原子炉の利用については,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」で,医療用エツクス線発生装置の利用については,「医療法」でというように多くの法律で放射線障害の防止をはかつている。
 他方放射線をうける国民の立場からいうと,おのおのの法律でことなつた技術的準基により障害防止の規制をうけることはこのましくないのであつて,政府としては,これらの基準をすみやかに斉一にすることの必要性をみとめ,全放射線を対象として放射線障害防止の基準法的性格の法律案をさる第28通常国会に提出,33年4月に成立し,5月放射線審議会令とともに公布施行をみるにいたつた。
 上述の趣旨によつて,この法律はすべての放射線による障害防止の技術的基準策定上の基本方針を明確にするとともに,総理府に放射線審議会を設置することによつて放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一をはかるため,必要な事がらを規定したのである。以下本法律の概要につき若干説明することとしたい。
 この法律においては,放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一をはかるために,まず第一に,基本方針として,技術的基準を策定するにあたつては,放射線を発生する物をとりあつかう従業者および一般国民のうける放射線の線量を,これらの者に障害をおよぼすおそれのない線量以下とすることとしなければならないと規定している。これは放射線障害の防止に関する法令等の技術的基準のみならず,民間における放射線障害の防止に関する作業規定等の技術的基準にも適用される。
 ここで放射線障害の防止に関する技術的基準とは,具体的には,人体に障害をおよぼすおそれがないとかんがえられる許容放射線量の設定および一般国民のうける放射線量をこの線量以下とするための諸方策,すなわち,放射線の測定,放射線を発生する物の取扱い方法,放射性物質の廃棄等に関する技術的基準,放射線取扱施設の技術的基準および放射線障害の発生を防止するための放射線取扱者の保健等に関する技術的基準をさしている。
 第二に,総理府の附属機関として放射線審議会をあらたに設置し,関係行政機関の長は,放射線障害の防止に関する技術的基準をさだめようとする時は,この審議会に諮問しなければならないこととし,具体的に基準の斉一化の確保をはかろうとしている。
 なお,放射線審議会は,放射線障害の防止に関する技術的基準のみならず,核爆発にともなう放射性生成物等の測定方法についても調査審議することとし,国民的世論にこたえようとするものである。放射線審議会は,関係行政機関の職員および放射線障害の防止に関する学識経験のある者30人以内の委員で組織することとなつている。なわこの放射線審議会の新設にともなつて,従来放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する重要事項を審議するため,科学技術庁の附属機関として設置していた放射線審議会は,発展的に解消することとした。すなわち従来の放射線審議会は,放射性同位元素等による放射線の障害防止に関する重要事項の審議を任務とし,また審議の中心は,技術的基準となつているのを,あらたに総理府に放射線審議会が設置されるようになつた後は,この従来の審議会を廃止し,二重の行政機構をさけることとしたのである。


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