第1章 開発態勢の整備
§3 予算

3−1 32年度予算の特徴

 29年度に,わが国にはじめて原子力予算が計上されてから33年度までの予算の推移は(第1-1表)のとおりである。32年度の原子力関係予算は,年度中に支出可能な現金額60億円とこれに債務負担行為額30億円をくわえて総額90億円で,これを31年度にくらべると,現金において約40億円,債務負担行為額において約14億円の増となる。前年度に比して約54億円の増加であり,約2.5倍となつた。
 32年度は,原子力の研究,開発が,JRR-1の運転開始,おなじく,JRR-2の据付,国産原子炉築造の具体化,動力炉建設への準備研究等基礎的研究の段階より本格的開発段階に移行する年であることよりみれば,必要最少限の額であつたということができよう。

 32年度の事項別予算の内訳は(第1-2表)にしめすとおりであり,これによつて,次のような事業が実施されることになつた。予算の内容のおもなるものについてのべると次のとおりである。

I 日本原子力研究所
 日本原子力研究所は,32年度中に茨城県東海村の研究所も整備がすすみ,研究者も大部分を東海村にうつし,本格的な研究を開始する。31年度より建設に着手した2基の研究用原子炉のうち,JRR-1は4月に据付けを完了し,6月末から本運転にはいり,これによる実験および訓練を開始する。JRR-2は年度初めから建屋の建設をはじめ,年度内に据付けを完了する。さらに34年度を完了目標とする国産1号炉建設の準備をおこない,その完成に必要な,物理,化学,冶金等の基礎研究を推進するとともに,指数実験,制御系試験等にもとづく設計をすすめ,32年度内に本体の一部と制御系の発注をおこなう。
 また,燃料再処理,燃料加工,廃棄物処理等の研究をすすめ,放射線利用研究施設の整備をはかる。これら研究活動の開発にともない,廃棄物の処理および放射線防護に必要な諸施設を完備し,その管理に万全を期する。

II 原子燃料公社
 原子燃料公社は,32年度に鳥取県および岡山県下の小鴨地区,人形峠,倉敷地区において,ボーリング,トレンチ等による探鉱をおこない,とくに人形峠地区に重点をおいて実施し,その他の有望鉱床地区について鉱床精査を主とする探拡を実施する。

III 国立試験研究機関
 各省庁所属の国立試験研究機関においては,従来からの試験研究をひきつづきおこなうと同時に,あらたに,原子炉の制御系および熱伝達,放射線遮蔽材料,廃棄物処理,溶融塩電解法によるベリリウム等希有金属の製造,原子炉用不銹鋼等について研究を実施した。
 32年度にあたらしく設立された放射線医学総合研究所は,これまで国立公衆衛生院,国立予防衛生研究所,国立衛生試験所,国立東京第一病院,国立東京第二病院等でおこなつていた放射線障害防止に関する医学的研究を中心として,これに,化学的物理的などの総合的な研究を実施する。

IV 助成費
 国産炉建設のための民間企業技術育成を目的として,29年度よりはじめられたもので,研究範囲も順次拡大され,成果もあがりつつあるが,32年度も,前年度にひきつづき,燃料,炉材,附属機器等の研究をおこなうこととし,補助金3億5,740万円(内債務負担額1億2,180万円),委託金2億8,100万円(内債務負担額2億円),これに探鉄奨励金として3,000万円を計上した。

V 放射能調査費
 核爆発実験等により,今後放射線検出量の増加が予想されるため,この影響のすくない現在の状況を調査し,ひきつづき将来の放射線増加量を記録しようとするもので,農業技術研究所,農業試験場,水産研究所,気象庁等でおこなうほか,公立衛生研究所その他に委託する。


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