第1章 開発態勢の整備
§2 関係法令の整備

2−2 放射線障害防止法とその施行の準備

 放射性同位元素が戦後はじめてわが国に輸入されたのは,昭和25年である。輸入された当初は,その研究,利用も,理学,工学,医学等の学問研究の分野にかぎられていたが,漸次ひろく産業一般に使用されるようになつた。これにつれて,その輸入量も逐年増大の一途をたどつている。ところが,放射性同位元素の利用は,反面放射線障害発生の危険をともなうので,放射性同位元素の研究,利用を促進するにはこれによる放射線障害の防止がはかられなければならず,米,英,加等の世界の主要国においても関係法令を制定,整備する等厳重な放射線管理をおこなつている。
 以上の要請から第26通常国会で成立したのが「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」である。本法は,放射性同位元素の使用,販売その他の取扱ならびに放射性同位元素装備機器または放射線発生装置の使用を規制することにより,これらによる放射線障害を防止し,公共の安全を確保することを目的とするもので,(1)放射性同位元素等の使用等について許可制の採用,(2)放射性同位元素等の取扱施設および使用,詰替,保管等の取扱方法の一定の基準適合義務,(3)取扱施設等についての放射線量の測定,(4)放射線障害予防規定の作成,(5)放射線障害をうけた者またはこれをうけたおそれのある従業者等に対する配置転換等の保健上必要な措,置,(6)放射性同位元素の流通面の制限,(7)放射線取扱主任者の選任義務,(8)科学技術庁長官の諮問機関としての放射線審議会の設置等がそのおもな規制内容である。
 本法は,32年6月に公布されたが,公布と同時に施行されたのは放射線取扱主任者および放射線審議会に関する規定のみで,本法にもとづく政令,府令等の準備等の理由から全面的に施行されるのは33年4月1日とされた。
 放射線審議会は,科学技術庁長官の諮問に応じて放射線障害の防止に関する重要事項を審議するもので,学識経験者および関係行政機関の職員のうちから任命される委員30人と専門委員若干名で構成されることになつており,同審議会に対し,科学技術庁長官から次の項目について諮問がおこなわれた。
(1)この法律の規制対象とすべき放射性同位元素,放射性同位元素装備機器および放射線発生装置(以下「放射性同位元素等」という。)の範囲
(2)放射性同位元素の販売の業の許可の基準
(3)放射性同位元素等の使用ならびに放射性同位元素の詰替,保管および廃棄の基準
(4)放射線の測定に関する基準
(5)放射線障害をうけた者の発見に関する基準
(6)放射線障害をうけた者等に対する措置内容
(7)危険時における措置内容
(8)放射線取扱主任者の試験の内容および資格認定の基準
 同審議会は,32年9月,第1回総会をひらき,総括,施設,技術および保健の4部会を設置して,諮問事項を審議し,32年12月,33年3月の2回にわたつて諮問に対する答申がなされた。
 科学技術庁は,その答申にもとづき,政令,総理府令等の準備をすすめ,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令,放射線取扱主任者試験の実施細目及び放射線取扱主任者免状の交付等に関する規則,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則,および放射線を放出する同位元素の数量等を定める件が相ついで公布された。また本法において放射性同位元素を鉄道,軌道,索道,無軌条電車,自動車および軽車両により運搬する場合の基準は運輸省令で公布された。
 このように,本法の全面施行を前に関係政令,総理府令などは,一応その整備をみるにいたつた。
 一方,放射性同位元素の使用者等が放射線障害の防止について監督させるため選任しはなければならない放射線取扱主任者は,本法により国家試験に合格した者または科学技術庁長官がこれと同等以上の知識および経験を有すると認めた者でなければならないものとされているが,その第1回の放射線取扱主任者試験が33年3月に実施された。応募者総数は468名で,合格者数は145名であつた。また資格認定についても相当数の申請があり,一定の基準にもとづいての審査がおこなわれている。


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