第5章 アイソトープの利用
§3 アイソトープ利用の促進

 アイソトープ利用の促進に関しては,31年度基本計画にその方針が示されているが,その基調をなすものは,(1)アイソトープの供給の円滑化,,(2)研究者卦よび技術者の養成訓練,(3)研究施設の整備拡充,(4)研究成果の交流および普及などであり,これらが総合的かつ計画的に推進されることが必要である。

3−1 アイソトープ供給の円滑化

 アイソトープの供給の円滑化を図ることは,利用促進上重要なことであが,Na24.K42などの国内産のものを除きその大部分の供給を海外に仰いでいる現在,使用者の希望に応じ,適宜かつ適確に入手出来るよう措置を講することは重要な問題でおる。このため,科学技術庁原子力局はアイソトープの使用確認に関する事務を科学技術行政協議会より引継いで以来,さらにアイソトープの輸入の促進,輸送の迅速化などを図るため大蔵省,通産省,国有鉄道などと協議し外貨資金割当の促進,通関事務の迅速化,輸送規格の確立などの措置を講じた。
 アイソトープの利用は当初は各部門の基礎的研究にその主体が置かれていたが漸次応用部門の利用も増加し,とくに工業部門の利用が近時とみに著しくなつてきている。これら急速な伸びを示している需要に対し,いかに対処してゆくかということは,アイソトープの利用促進を図る上に重要な課題であつて,Co60についてはせ界的に需要増大の傾向が認められたので国内需要を満すために主要生産国たる米国から所要量の確保につとめた。なおアイソトープの31年度における輸入額は約9,200万円となり,どれは前年度に比べて3.3倍の増加であり,その種類も155種におよんでいる。一方国内産については前述の如くその生産量および種類も微々たるものであり,とくに半減期の短いアイソトープの国内生産が強く要望されている。

3−2 利用施設の整備

 アイソトープは25年以来全国467個所におよぶ大学および研究機関,病院,工場などにおいて利用されている。31年度における利用状況を部門別にみると,医学関係62.6%,農学生物関係14.5%,工学関係12.8%,理化学関係9.4%となつている。
 かくの如き各分野の利用の激増に対処してこれらの基礎ともなるべき研究を計画的にかつ効率的に実施する必要があり,政府はこのため各分野における相互の調整をはかることにつとめ,重点的かつ計画的にその研究を推進した。
 31年度においては各国立研究機関の研究体制確立の第一段階として,農林省関係に5,600万円,通産省関係2,000万円,また建設省関係に1,550万円とそれぞれ研究費ならびに施設費を計上したがその主なる施設の内容は(第5-6表)の通りである。
 このように政府は8カ所の研究機関の施設の拡充整備を行つたが,各分野の研究あるいは応用面におけるアイソトープの必要性は今後もますます増大し,研究の日常手段として活用されるべき性質のものであると考えられる。したがつてアイソトープ利用の研究設股を可及的すみやかに各研究機関に設置せしめ,研究推進上遺憾なからしめるため32年度においてはさらに問題の重要性に応じ,施設を増設し,研究の推進を図ることとした。

 一方民間においては,おのおの独自の研究を推進するための施設の整備をはかるとともに,実用の具としての厚み計,液面計などアイソトープ装備機器を設置し,品質の管理,工程のオートメーション化を図る工場も急激に多くなり,利用の実績を着々と挙げている。

3−3 日本原子力研究所におけるアイソトープ部門

 アイソトープの利用の進展につれてこれらの利用の基礎ともなるべきアイソトープの性質,放射性物質の分析,放射能の測定など高エネルギー放射線による物質変性等の基礎的または共通的な研究を行うとともに,さらにアイソトープの生産,技術者の養成訓練などを併せ行うアイソトープセンターの設立に関する要望が関係者の間に高まつた。これらの情勢を考慮し,原子力委員会のアイソトープ利用専門委員会においてアイソトープに関する研究業務の範囲,規模,年次計画などにつき検討を重ね計画を立案し,建設資金17億円,人員360名におよぶアイソトープセンターの構想を決めた。
 なおそのアイソトープセンターの目的は放射線特に高エネルギー放射線の利用に関する研究および放射性同位元素の生産,輸入,はん布などの事業を行い,わが国における放射線の利用のすみやかな普及と促進を図ることである。その所属に関しては種々意見があつたが結局日本原子力研究所内のアイソトープ部門として設置することになり,31年8月には原子力研究所に放射線利用準備室が設置され,32年業務開始を目途としてアイソトープ利用に関する諸般の準備が進められた。
 この部門に対し31年度分債務負担行為額として1億1,100万円が認められ,放射線照射施設の設計建設開始,Co6010kcの発注,直線型粒子加速装置の発注準備などを行なつた。32年度においては放射線照射施設の整備と,アイソトープ研修所の設置が行なわれ,アイソトープ利用に関する研究ならびに技術者の養成訓練が開始されることになつている。

3−4 研究成果の交流および普及

(1)第一回日本アイソトープ会議の開催
 25年米国からのアイソトープの輸入が開始されて以来5年余の間に関係者の緊密なる連絡とたゆまざる努力とにより,その有用性に対する認識は次第に高まり,その利用成果は着々と挙り,産業の振興と国民生活の改善に寄与しつつおるが,この現状を一般に認識させると共にその利用と研究を一層普及促進せしめるため,アイソトープ会議の開催が提唱された。その後,その具体的計画に関し検討の結果,日本原子力産業会議,日本放射性同位元素協会,および毎日新聞社が主催し,原子力委員会,科学技術庁,日本学術会議その他が後援となり研究発表会と展覧会とからなる第1回日本アイソトープ会議が31年8月15日から26日迄東京で開催され,引続き名古屋において展覧会が開催された。
 研究会においては公募論文160編のうち55の口頭発表を2日間にわたり行つた。その内容は工業関係16,放射線化学関係3,理学関係4,医学関係20,生物学関係5,農学関係7で,現在までの研究成果が一般に公開された。
 一方展覧会においてはアイソトープ利用とその安全管理に必要な機器類をはじめ関係資料の展示を行い,アイソトープの日常生活への寄与について平易に解説し,その知識の普及を図つたが,一般の関心をあつめ東京会場において開期中40万人以上の入場者があつたといわれている。

(2)第一回原子力シンポジウムの開催
 原子力に関連する科学技術の各分野の研究者が広く知識と研究結果を交換しかつその問題について討議し合う機会をもつため,日本学術会議主催のもとに32年1月13日から15日まで第一回原子力シンポジウムが東京において開催され数多くの貴重なアイソトープ応用に関する研究報告がなされた。


目次へ          第6章 第1節へ