第1章 原子力基本法の制定まで
§3 国際協力への動き

わが国の原子力平和利用において,国際協力の第一は日米原子力研究協定の締結であり,第二は原子力平和利用国際会議への参加であつた。
 29年の国連総会で,米国は友好国に対して濃縮ウランを提供する意志のあることを表明し,わが国に対してその概要書が送付された。この米国の申入れは外務省を中心として関係各省で検討されるとともに原子力利用準備調査会に諮問された。
 この日米原子力研究協定の問題については,いろいろ論議が重ねられ,原子力開発のため研究協定を結ぶべしとする積極派と,これと反対の立場をとる慎重派とに分れた。しかし前に述べたように原子力利用海外調査団は,日米原子力研究協定の締結を勧告しており,原子力利用準備調査会は,30年5月19日第3回の会議で次の方針のもとにすみやかに米国政府と交渉を開始することを妥当と考えるとの結論に達した。
 この決議は5月20日閣議において了解され,政府は米国と研究協定締結のための交渉を開始した。この協定は30年11月14日ワシントンで調印され,同年末の国会でその批准がえられ,12月28日に発効した。
 30年8月ジュネーブで開催された原子力平和利用国際会議には5名の代表その他合計21名が出席した。わが国としては原子力の研究を始めてから日が浅く提出すべき論文は少かつたが,資源についての論文,アイソトープ利用についての論文,放射線の影響についての論文等が提出された。この国際会議においては世界各国の学者が一堂に会し,これまで機密の分野に属していた多くの原子力技術が発表され討議されたことは,原子力平和利用を推進する上に画期的な意義を持つものであつた。なお,このジュネーブ国際会議の直前7月1日から5日まで,ソ連アカデミーはモスクワでソ連の原子力会議を開き,ソ連の5,000kW原子力発電所および600MeVのプロトン・シンクロサイクロトロンを公開した。この会議にはわが国から日本学術会議の代表者が出席した。


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