原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「令和3年度版 原子力白書」HTML版 > 8-3 基盤的施設・設備の強化

別ウインドウで開きます PDF版ページはこちら(1.67MB)

8-3 基盤的施設・設備の強化

 研究開発や技術開発、人材育成を進める上で、研究開発機関や大学等が保有する基盤的施設・設備は不可欠です。しかし、多くの施設・設備は高経年化が進んでいることに加え、東電福島第一原発事故以降は、新規制基準への対応のために一旦全ての研究炉の運転が停止しました。関係機関では、運転再開に向けた取組や、求められる機能を踏まえた選択と集中を進めています。


(1)基盤的施設・設備の現状及び課題

 研究炉や放射性物質を取り扱う研究施設等の基盤的施設・設備は、研究開発や人材育成の基盤となる不可欠なものです。しかし、新規制基準への対応や高経年化により、研究開発機関、大学等における利用可能な基盤的施設・設備等は減少しており、その強化・充実が喫緊の課題となっています。そのため、国、原子力機構及び大学は、長期的な見通しの下に求められる機能を踏まえて選択と集中を進め、国として保持すべき研究機能を踏まえてニーズに対応した基盤的施設・設備の構築・運営を図っていく必要があります。
 また、研究開発機関及び大学等が保有する基盤的施設・設備は、産学官の幅広い供用の促進や、そのための利用サービス体制の構築、共同研究等の充実により、効果的かつ効率的な成果の創出に貢献することが期待されます。


(2)研究炉等の運転再開に向けた新規制基準対応状況

 原子力機構、大学等の研究炉や臨界実験装置は、最も多い時期には20基程度運転していましたが、2022年3月末時点では停止中のものを含めても8基にまで減少しています(図8-9)。その多くが建設から40年以上経過するなど高経年化が進んでいることに加え、東電福島第一原発事故以降は全ての研究炉が一旦運転を停止し、新規制基準への対応を行っています。原子力機構の研究炉のうち、原子炉安全性研究炉(NSRR)、JRR-3、高温工学試験研究炉(HTTR)、定常臨界実験装置(STACY26)は新規制基準への適合に係る設置変更が許可されました。NSRRは2018年6月、JRR-3は2021年2月、HTTRは2021年7月に運転が再開されており、STACYは2023年1月頃の運転再開が計画されています。「常陽」については、新規制基準への適合性確認に係る審査対応を進めています。また、京都大学臨界集合体実験装置(KUCA27)、京都大学研究用原子炉(KUR)、近畿大学原子炉(UTR-KINKI)は、新規制基準への適合に係る設置変更が原子力規制委員会により許可(承認)され、運転を再開しています28


我が国の研究炉・臨界実験装置の状況

図8-9 我が国の研究炉・臨界実験装置の状況

(出典)文部科学省提供資料を一部改変


(3)原子力機構の研究開発施設の集約化・重点化

 文部科学省の原子力科学技術委員会の下に設置された原子力研究開発基盤作業部会29が2018年4月に取りまとめた「中間まとめ」では、国として持つべき原子力の研究開発機能を大きく7つに整理しています(表8-2)。


表8-2 国として持つべき原子力の研究開発機能
研究開発機能
1. 東電福島第一原発事故の対処に係る、廃炉等の研究開発
2. 原子力の安全性向上に向けた研究
3. 原子力の基礎基盤研究
4. 高速炉の研究開発
5. 放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発等
6. 核不拡散・核セキュリティに資する技術開発等
7. 人材育成

(出典)科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会原子力研究開発基盤作業部会「原子力科学技術委員会 原子力研究開発基盤作業部会 中間まとめ」(2018年)に基づき作成


 原子力機構が管理・運用している原子力施設は、研究開発のインフラとして欠かせないものです。2022年3月末時点で、加速器施設等も含めて11施設・設備が供用施設として大学、研究機関、民間企業等に属する外部研究者に提供されています。また、東電福島第一原発事故以前は、現在量研に移管されたイオン照射研究施設(TIARA30)等も含め、年間1,000件程度の利用実績がありました。しかし、施設の多くは高経年化への対応が課題となっていることに加え、継続利用する施設の新規制基準への対応にも、閉鎖する施設の廃止措置及びバックエンド対策31にも多額の費用が発生することが見込まれます。このような状況を踏まえ、原子力機構は、施設の集約化・重点化、施設の安全確保、バックエンド対策を三位一体で進める総合的な計画として「施設中長期計画」を2017年4月に策定し、以降は進捗状況等を踏まえて毎年度改定しています(図8-10)。


原子力機構「施設中長期計画」の概要

図8-10 原子力機構「施設中長期計画」の概要

(出典)原子力機構「施設中長期計画(令和3年4月1日)」(2021年)


 施設の集約化・重点化に当たっては、最重要分野とされる「安全研究」及び「原子力基礎基盤研究・人材育成」に必要不可欠な施設や、東電福島第一原発事故への対処、高速炉研究開発、核燃料サイクルに係る再処理、燃料製造及び廃棄物の処理処分研究開発等の原子力機構の使命達成に必要不可欠な施設については継続利用とする方針の下で、検討が進められました。2021年4月に改定された計画では、全89施設32のうち、46施設が継続利用施設、廃止措置中のものを含めて44施設が廃止施設とされています(図8-11)。
 廃止施設の中には、各種照射実験、中性子ビーム実験、放射性同位体(RI)製造や医療照射等に利用された研究炉であるJRR-233、放射化分析、半導体用シリコンの照射、原子力技術者の養成等に利用されたJRR-434、放射性物質の放出挙動を究明するための過渡臨界実験装置TRACY35、重水臨界実験装置DCA36、我が国で唯一の材料試験炉であるJMTR等も含まれています。JMTR廃止により機能が失われる照射利用について、原子力機構に設置されたJMTR後継炉検討委員会が2021年3月に「JMTR後継となる新たな試験照射炉の建設に向けた検討報告書」を取りまとめました。同報告書では、社会的要請・利用ニーズの再整理、海外施設利用に関する調査の結果を踏まえ、JMTR後継炉の概略仕様の検討結果が示されるとともに、今後の対応として、国レベルでの透明性の高い議論を進めていくこと、規制プロセスのリスク低減を図ること等が提案されました。さらに、これらの提案事項について、同委員会は2021年度に、新照射試験炉の建設に向けた具体的な対応方針の検討を進めました。
 また、2016年12月に「もんじゅ」を廃止措置とする政府方針を決定した際に、「もんじゅ」サイトを活用して新たな試験研究炉を設置し、今後の研究開発や人材育成を支える基盤となる中核的拠点となるよう位置付けることとされました。「もんじゅ」サイトに設置する新たな試験研究炉については、2020年9月に、西日本における研究開発・人材育成の中核的拠点としてふさわしい機能の実現及び地元振興への貢献の観点から、中性子ビーム利用を主目的とした中出力炉とする方針が示されました。これを受け、中核的機関(原子力機構、京都大学、福井大学)、学術界、産業界、地元関係機関等からなるコンソーシアムが構築され、試験研究炉の概念設計や運営の在り方検討等が進められています。


原子力機構における施設の集約化・重点化計画

図8-11 原子力機構における施設の集約化・重点化計画

(出典)原子力機構「施設中長期計画(令和3年4月1日)の概要」(2021年)



  1. Static Experiment Critical Facility
  2. Kyoto University Critical Assembly
  3. 2022年4月5日、京都大学は、2026年5月までにKURの運転を終了すると発表。
  4. 2019年8月、原子力人材育成作業部会、群分離・核変換技術評価作業部会、高温ガス炉技術研究開発作業部会とともに、「原子力研究開発・基盤・人材作業部会」に改組・統合。
  5. Takasaki Ion Accelerators for Advanced Research Application
  6. 第6章6-2(2)②「研究開発施設等の廃止措置」を参照。
  7. 「原子炉特研」は、核燃料物質使用施設として2018年に廃止措置が終了した後にRI施設として継続利用されており、継続利用施設と廃止施設の両方に含まれているため、継続利用施設数と廃止措置施設数の和は全施設数と一致しません。
  8. Japan Research Reactor No.2
  9. Japan Research Reactor No.4
  10. Transient Experiment Critical Facility
  11. Deuterium Critical Assembly



トップへ戻る