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8-2 研究開発・イノベーションの推進

 第6次エネルギー基本計画や「統合イノベーション戦略2021」(2021年6月閣議決定)においては、原子力について、安全性・信頼性・効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、カーボンフリーな水素製造や熱利用等の多様な社会的要請に応える原子力関連技術のイノベーションを促進する観点の重要性が挙げられています。その上で、2050年に向けて、人材・技術・産業基盤の強化、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めていくとしています。
 これらやグリーン成長戦略3に基づき、原子力関係機関による連携や国際協力により、基礎的・基盤的なものから実用化を見据えたものまで様々な研究開発・技術開発が推進されています。


(1)基礎・基盤研究から実用化までの原子力イノベーション

 原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢であり、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、国、研究開発機関、大学、企業等が連携し、基礎・基盤研究から実用化に至るまでの中長期的な視点に立って、軽水炉の安全性向上に向けた研究開発に加え、高速炉、小型モジュール炉(SMR)、高温ガス炉、核融合等に関する研究開発等を推進しています(図8-3)。また、人的・資金的資源を分担し、成果を共有する国際的な枠組みで進めることが合理的であるという認識の下、国際協力の枠組みを活用した研究開発も進めています。


安全性・経済性等の向上に向けた原子力イノベーションの推進

図8-3 安全性・経済性等の向上に向けた原子力イノベーションの推進

(出典)第41回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料1 資源エネルギー庁「2030年に向けたエネルギー政策の在り方」(2021年)、原子力機構「高温工学試験研究炉(HTTR)の概要」に基づき作成


 原子力に関する基礎的・基盤的な研究開発は、主に原子力機構、量研、大学等で実施されています。原子力機構は、我が国における原子力に関する総合的研究開発機関として、核工学・炉工学研究、燃料・材料工学研究、環境・放射線工学研究、先端基礎研究、高度計算科学技術研究等、原子力の持続的な利用と発展に資する基礎的・基盤的研究等を担っています。量研は、量子科学技術についての基盤技術から重粒子線がん治療や疾病診断研究等の応用までを総合的に推進するとともに、これまで国立研究開発法人放射線医学総合研究所が担ってきた放射線影響・被ばく医療研究についても実施しています。
 また、文部科学省と資源エネルギー庁は、開発に関与する主体が有機的に連携し、基礎研究から実用化に至るまで連続的にイノベーションを促進することを目指し、2019年4月にNEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブを立ち上げました。同イニシアチブでは、文部科学省の「原子力システム研究開発事業」と経済産業省の「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」及び「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」について、原子力機構の研究基盤等も活用しながら相互に連携することにより、原子力イノベーションの創出を目指しています(図8-4)。2021年には両省の事業関係者による交流会が2回開催され、基礎研究と実用化研究の双方の取組を理解し、次のステップへと発展させることを目指し、ボトルネック課題等についての意見交換が行われました。
 さらに、2022年3月には、原子力発電の新たな社会的価値を再定義し、我が国の炉型開発に係る道筋を示すため、資源エネルギー庁の原子力小委員会の下に革新炉ワーキンググループを新たに設置することが発表されました4


NEXIPイニシアチブにおける各事業の位置付け

図8-4 NEXIPイニシアチブにおける各事業の位置付け

(出典)第2回科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会原子力研究開発・基盤・人材作業部会資料1-1 文部科学省「原子力イノベーションの実現に向けた研究開発事業の見直しについて」(2019年)


(2)軽水炉利用に関する研究開発

 1950年代、1960年代には様々な炉型の数十基の試験炉が建設されました。これらのうち、水により中性子を減速・冷却する軽水炉は、最も多く建設され利用されてきた炉型です。2020年末時点では、世界で運転中の442基の原子炉のうち軽水炉は365基で、発電設備容量では約89%を占めています(図8-5)。今もなお、原子力発電の主流は軽水炉によるものであり、世界の多くの国で継続的に利用され、新規建設も行われています。
 我が国では、再稼働している原子力発電所、再稼働を目指している原子力発電所、建設中の原子力発電所は、全て軽水炉です(第2章 図2-4)。地球温暖化対策に貢献しつつ安価で安定的に電気を供給できる電源として、これらの軽水炉を長期的に有効利用していくためには、安全性、信頼性、効率性の一層の向上が求められます。そのため、高経年化対策、稼働率向上、発電出力の増強、安全性向上5、過酷事故対策6、建設期間の短縮、建設性の向上、セキュリティ対策等の様々な課題に対応するための研究開発が、関係機関の連携により引き続き実施されています。
 また、原子力機構は、第4期中長期目標期間以降の軽水炉研究の推進を図るため、2022年1月に軽水炉研究推進室を設置しました。軽水炉研究推進室では、軽水炉研究に関するワンストップ窓口を担うとともに、産業界等からのニーズを基に原子力機構として進める軽水炉研究の戦略を策定し、原子力機構内の組織横断的な連携や研究成果創出のための支援を行うこととしています。


世界の原子力発電所における各炉型の割合(2020年末時点)

図8-5 世界の原子力発電所における各炉型の割合(2020年末時点)

(出典)IAEA「Nuclear Power Reactors in the World 2021 Edition」(2021年)に基づき作成


(3)高温ガス炉に関する研究開発

 高温ガス炉は、冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを利用しており、万が一冷却材がなくなるような事故が起きても自然に炉心が冷却されるという固有の安全性を有する原子炉です。また、900℃を超える高温の熱を供給することが可能であり、発電のみならず、水素製造を含む多様な産業利用についても期待されています。グリーン成長戦略では、高温工学試験研究炉(HTTR)を活用し、安全性の確認に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な要素技術の確立を目指すとされています。

① 高温工学試験研究炉(HTTR)

 HTTR(図8-6)は、我が国初かつ唯一の高温ガス炉であり、高温ガス炉の基盤技術の確立を目指してデータを取得・蓄積しています。1998年に初臨界を達成した後、2010年3月に定格出力3万kW、原子炉出口冷却材温度約950℃での50日間の連続運転を実現しました。原子力機構は、2020年6月に原子力規制委員会から新規制基準への適合性に係る設置変更許可を取得し、2021年7月に運転を再開しました。2022年1月には、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)の国際共同研究プロジェクトとして、原子炉出力約30%における炉心冷却喪失試験7を世界で初めて実施しました。また、950℃の熱供給能力を有効利用できるカーボンフリー水素製造技術(熱化学法IS8プロセス)の開発も進めています。


HTTR

図8-6 HTTR

(出典)原子力機構「高温工学試験研究炉(HTTR)の概要」


② 高温ガス炉研究開発に関する国際協力

 高温ガス炉の研究開発について、ポーランド及び英国との国際協力が進められています。 2017年5月に、日・ポーランド外相会談における「日・ポーランド戦略的パートナーシップに関する行動計画」への署名を受け、原子力機構はポーランド国立原子力研究センターと「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」を締結しました。さらに、両者は2019 年9月に「高温ガス炉技術分野における研究開発協力のための実施取決め」に署名し、研究データ共有等による研究協力の範囲で、高温ガス炉の設計研究、燃料・材料研究、原子力熱利用の安全研究等の協力を実施しています。
 また、2019年7月に署名された「日本国経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省との間のクリーンエネルギーイノベーションに関する協力覚書」を受け、原子力機構は2020年10月に、英国国立原子力研究所(NNL9)と締結している包括的な技術協力取決めを改定し、新たに「高温ガス炉技術分野」を追加しました。さらに、同年11月には、英国原子力規制局(ONR10)との間で高温ガス炉の安全性に関する情報交換のための取決めを締結しました。これにより、開発と規制の両輪で、英国との高温ガス炉開発の協力体制が強化されています。


(4)高速炉に関する研究開発

 高速の中性子を減速せずに利用する高速炉及びそのサイクル技術(高速炉サイクル技術)は、使用済燃料に含まれるプルトニウムを燃料として再利用する技術です。原子力関係閣僚会議が策定した戦略ロードマップ11では、①競争を促し、様々なアイディアを試すステップ、②絞り込み、支援を重点化するステップ、③今後の開発課題及び工程について検討するステップ、の3つのステップに大きく区分して研究開発を進めていく計画が示されており、2023年末頃までの当面5年間程度は、これまで培った技術・人材を最大限活用し、民間によるイノベーションの活用による多様な技術間競争を促進するとしています。また、グリーン成長戦略では、「常陽」や「もんじゅ」の運転・保守経験で培われたデータ等を最大限活用し、国際連携を活用した高速炉開発を着実に推進するとしています。

① 高速実験炉原子炉施設(「常陽」)

 「常陽」は、我が国初の高速増殖炉であり、高速炉の実用化のための技術開発や燃料・材料の開発に貢献しています。1977年の初臨界以来、累積運転時間約70,798時間、累積熱出力約62.4億kWh12に達しており、588体の運転用燃料、220体のブランケット燃料及び101体の試験燃料等を照射し、高速炉炉心での燃料集合体や燃料ピンの安全性と照射特性を明らかにしてきました。早期の運転再開を目指し、原子力機構は2017年3月に新規制基準への適合性審査に係る設置変更許可申請を行い、原子力規制委員会による審査が進められています。また、原子力機構は、「常陽」における医療用放射性同位体(RI)製造に向けた研究開発も行っています。

② 高速炉開発に関する国際協力

 高速炉の開発について、フランス及び米国との国際協力が進められています。
 2014年5月、日仏両政府は、フランスの第4世代ナトリウム冷却高速炉実証炉(ASTRID13)計画及びナトリウム冷却炉の開発に関する一般取決めを締結し、日仏間の研究開発協力を開始しました。その後、フランスの方針見直しを踏まえ、2019年6月、日仏政府間で高速炉研究開発の枠組みについて新たな取決めが締結されました。また、同年12月には、原子力機構、三菱重工業株式会社、三菱FBRシステムズ株式会社、フランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA14)及びフラマトム社の間で、ナトリウム冷却高速炉開発の協力に係る実施取決めが締結されました。同取決めの下で、シミュレーションや実験等の協力を行っています。

 米国では、ナトリウム冷却高速炉である多目的試験炉(VTR15)の建設を検討中です。2019年6月に日米政府間でVTR計画への研究協力に関する覚書が締結され、安全に関する研究開発等の協力が進められています。また、2022年1月には、原子力機構、三菱重工業株式会社、三菱FBRシステムズ株式会社、米国テラパワー社との間で、ナトリウム冷却高速炉の開発に係る覚書が締結されました。


(5)小型モジュール炉(SMR)に関する研究開発

 小型モジュール炉(SMR)は、プレハブ住宅に代表されるモジュール建築の手法を取り入れ、規格化したユニットを工場生産し、現地で組み上げる原子炉です。炉心が小さいため、自然原理を安全設備に取り入れシステムをシンプル化することにより安全システムの信頼性向上や避難区域縮小を図れることや、モジュール生産による工期短縮により初期投資コスト削減を図れることが期待されています。グリーン成長戦略では、海外の実証プロジェクトとの連携により、2030年までにSMR技術の実証を目指すとしています。
 NEXIPイニシアチブでは、SMRに関する研究開発・技術開発も行われています。また、米国、英国、カナダ等でSMRの実証プロジェクトが進められており(図8-7)、その一部には我が国の企業も参画しています。


SMRの概念図(米国NuScale社の例)

図8-7 SMRの概念図(米国NuScale社の例)

(出典)第13回原子力委員会資料第3号 資源エネルギー庁「原子力産業を巡る動向について」(2022年)に基づき作成


(6)核融合に関する研究開発

 核融合エネルギーは、軽い原子核同士(重水素、三重水素)が融合してヘリウムと中性子に変わる際、質量の減少分がエネルギーとなって発生するものです。将来的かつ長期的な安定供給が期待されるエネルギー源として、量研、大学共同利用機関法人自然科学研究機構核融合科学研究所と大学等が相互に連携・協力して段階的に研究開発を推進しています。グリーン成長戦略では、ITER(国際熱核融合実験炉)計画等の国際連携を通じた核融合研究開発を着実に推進し、21世紀中葉までに核融合エネルギー実用化の目処を得ることを目指すとされています。また、2021年8月には、文部科学省の核融合科学技術委員会が「核融合発電に向けた国際競争時代における我が国の取組方針」を取りまとめ、核融合発電の早期実現のために基幹技術の速やかな獲得に向けた研究開発を強化すべきであることや、人材育成や産学官の多様な機関間の協働の仕組み等の基盤整備が必要であること等を示しました。
 ITER計画は、核融合エネルギーの科学的、技術的実現性を確立することを目指す国際共同プロジェクトであり、日本、欧州、米国、ロシア等の7極35か国により進められています(図8-8)。近い時期での運転開始(ファーストプラズマ)、2035年核融合運転開始を目標としてサン・ポール・レ・デュランス(フランス)において建設作業が行われており、日本製の超伝導コイルを始め各極から機器が納入され、2020年夏から核融合炉の組立てが進められています。我が国では量研が国内機関となっており、ITER機構(本部:フランス)との調達取決めに基づき、超伝導コイル等の高い技術を必要とする主要機器等の製作を担当するなど、ITER計画の推進に大きな役割を担っています。


ITERの概要

図8-8 ITERの概要

(出典)ITER ORGANIZATIONウェブサイト


 また、幅広いアプローチ(BA16)活動は、ITER計画を補完・支援するとともに、核融合原型炉に必要な技術基盤を確立することを目的とした先進的研究開発プロジェクトであり、日欧協力により我が国で実施しています。我が国では量研が実施機関となっており、青森県六ヶ所村にある六ヶ所研究所では、核融合原型炉に必要な高強度材料の開発を行う施設の設計・要素技術開発のほか、核融合原型炉の概念設計及び研究開発並びにITERでの実験を遠隔で行うための施設の整備を進めています。さらに、茨城県那珂市にある那珂研究所では、先進超伝導トカマク装置JT-60SAを用いて、核融合原型炉建設に求められる安全性・経済性等のデータの取得や、ITERの運転や技術目標達成を支援・補完するための取組等を進めるため、運転開始に向けた準備を進めています。このような取組状況を踏まえ、2022年1月に核融合科学技術委員会が「核融合原型炉研究開発に関する第1回中間チェックアンドレビュー報告書」を取りまとめ、この段階までの目標の達成度について「おおむね順調に推移している」と評価しました。
 加えて、国際原子力機関(IAEA)や国際エネルギー機関(IEA)の枠組みでの多国間協力、米国、欧州等との二国間協力も推進しています。これらの協力を通じて、ITERでの物理的課題の解決のために国際トカマク物理活動(ITPA17)で実施されている装置間比較実験へ参加するとともに、協力相手国の装置での実験に参加しています。


(7)研究開発に関するその他の多国間連携

① 第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)

 第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF18)は、「持続可能性」、「経済性」、「安全性・信頼性」及び「核拡散抵抗性・核物質防護」の開発目標の要件を満たす次世代の原子炉概念を選定し、その実証段階前までの研究開発を国際共同作業で進めるためのフォーラムです。2021年3月末時点で、13か国と1機関(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、我が国、韓国、ロシア、南アフリカ、スイス、英国、米国及びユーラトム)が参加しています19。2030年代以降に実用化が可能と考えられる6候補概念(ガス冷却高速炉、溶融塩炉、ナトリウム冷却高速炉(MOX燃料、金属燃料)、鉛冷却高速炉、超臨界圧水冷却炉、超高温ガス炉)を対象に、多国間協力で研究開発を推進するとともに、経済性、核拡散抵抗性・核物質防護及びリスク・安全性についての評価手法検討ワーキンググループで横断的な評価手法の整備を進めています。2021年7月には、第4世代炉の安全性確保の考え方を記載した基本的な文書が改訂されました。

② 原子力革新2050(NI2050)イニシアチブ

 原子力革新2050(NI202050)イニシアチブは、原子力エネルギーが低炭素エネルギーミックスにおいて重要な役割を果たすこと、新たな原子力技術を開発及び商用化するに当たりイノベーションが必要であることを踏まえ、OECD/NEAが開始した活動です。原子炉システム、燃料サイクル、廃棄物、廃止措置、発電以外への活用等、幅広い技術領域を対象にしており、2050年を念頭に置いた将来のロードマップを策定しています。


コラム ~海外事例:英国のAMR研究開発における高温ガス炉~

 英国政府は、先進モジュール炉(AMR2122が低コストでの発電、電力供給の柔軟性向上、産業プロセス利用や水素製造等の幅広い用途で活用可能な技術であるとして、2018年にAMR開発支援プログラムを開始しました。同プログラムは、実現可能性等の検討を支援する第1フェーズと、開発を支援する第2フェーズに分かれています。第1フェーズでは、2018年5月から同年12月末にかけて、計8社のプロジェクトにそれぞれ最大30万ポンドが支援されました。第2フェーズでは、第1フェーズの結果を踏まえ、2020年7月に、核融合炉、鉛冷却高速炉、小型高温ガス炉の3つのプロジェクトを選定し、それぞれに1,000万ポンドの資金援助を行う方針が発表されました。
 また、英国は2019年に先進国で初めて2050年までのカーボンニュートラルを法的拘束力がある目標として定めた国であり、その達成のためにもAMRを始めとする原子力技術を支援しています。2020年11月には、新型コロナウイルス感染症からの経済復興と地球温暖化対策の両立を目指すグリーンリカバリーを実現するための計画として、「10-Point Plan」を公表し、10分野の低炭素技術に関する政策を示しました。そのうち原子力分野では、3.85億ポンドの革新原子力ファンドを創設し、AMRの開発に1.7億ポンドを投じる方針が示されるとともに、2030年代初頭にAMR実証炉の運転を開始するという目標が示されました。
 2021年7月には、原子力イノベーション・研究局がAMRの技術評価報告書を公表し、6種類の炉型23を10項目24の観点で評価・比較した結果、AMR実証炉として高温ガス炉が最も有望であるとしました。なお、同報告書における高温ガス炉の評価に当たっては、原子力機構のHTTRが原子炉出口冷却材温度約950℃で50日の連続運転に成功したことや、米国、カナダ、我が国との協力関係が有益に作用する可能性についても言及されています。
 このような取組を背景に、英国政府は2021年7月、革新原子力ファンドの1.7億ポンドを活用したAMR実証プログラムにおいて、高温ガス炉を対象とする方針を示しました。さらに、この方針に対するパブリック・コメントを経て、英国政府は同年12月に、AMR実証プログラムとして2030年代初頭に高温ガス炉の実証を目指す方針を決定しました。2022年2月に公表されたAMR実証プログラムの概要では、プログラムの第一段階として、同年春から冬にかけて実現性に関する調査や基本設計、潜在的なエンドユーザーに関する検討等を行う計画が示されています。


コラム ~群分離・核変換技術の研究開発に係る検討~

 群分離・核変換技術とは、高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種を半減期や利用目的に応じて分離する(群分離)とともに、長寿命核種を短寿命核種あるいは非放射性核種に変換する(核変換)ための技術です。従来技術では、使用済燃料を再処理する際、回収したプルトニウム等はエネルギー資源として有効活用され、その他の核分裂生成物等は高レベル放射性廃棄物として地層処分されます。しかし、群分離・核変換技術を適用することにより、分離した有用な元素の利用(ディーゼル排ガス浄化触媒装置における白金属の利用等)や、核変換による放射性廃棄物の減容化・有害度低減(半減期214万年のネプツニウム237(Np-237)を、半減期約18分のテクネチウム104(Tc-104)を経て非放射性のルテニウム104(Ru-104)に変換等)が可能となります。
 2群分離・核変換技術には、高速炉サイクルの中で実施する「発電用高速炉利用型」と、加速器駆動核変換システム(ADS25)を用いた「階層型」の2種類があり、原子力機構等において研究開発が進められています。また、第6次エネルギー基本計画では、高速炉や加速器を用いた核種変換など放射性廃棄物の処理・処分の安全性を高める技術等の開発を国際的な人的ネットワークを活用しつつ推進する方針が示されています。
 2021年5月には、文部科学省の原子力研究開発・基盤・人材作業部会の下に、群分離・核変換技術評価タスクフォースが設置されました。同タスクフォースでは、ADSを中心とした群分離・核変換技術について、我が国の現在の技術レベル、国際的な研究開発の状況、関連分野の技術の進展や産業界の動向等を踏まえ、必要な研究開発について検討を行い、同年12月に報告書を取りまとめました。同報告書では、「高レベル放射性廃棄物の処理・処分の社会的負担を軽減するため、廃棄物の減容・有害度低減を進めることは重要であり、我が国においても群分離・核変換技術の確立に向けた研究開発は引き続き着実に進めるべきである」とし、重点的に取り組むべき研究開発項目を分野ごとに示しています。


群分離・核変換技術の適用イメージ

群分離・核変換技術の適用イメージ

(出典)第40回原子力委員会資料第1号 文部科学省「群分離・核変換技術について」(2021年)



  1. 第2章2-1(5)「地球温暖化対策と原子力」を参照。
  2. 2022年4月14日付けで設置。
  3. 第1章1-2(2)②「原子力安全研究」を参照。
  4. 第1章1-3(2)「過酷事故に関する原子力安全研究」を参照。
  5. 制御棒による原子炉出力操作を行うことなく全ての冷却設備を停止し、冷却機能の喪失を模擬した試験。
  6. Iodine-sulfur
  7. National Nuclear Laboratory
  8. Office for Nuclear Regulation
  9. 第2章2-2(2)⑩「高速炉によるMOX燃料利用に関する方向性」を参照。
  10. 発電設備を有しないため電気出力はなく、熱出力のみ。
  11. Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration
  12. Commissariat à l'énergie atomique et aux énergies alternatives
  13. Versatile Test Reactor
  14. Broader Approach
  15. International Tokamak Physics Activity
  16. Generation IV International Forum
  17. ただし、アルゼンチンとブラジルは「第四世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定」に未署名。
  18. Nuclear Innovation
  19. Advanced Modular Reactor
  20. 英国においては、軽水以外を冷却材として用いる小型炉をAMRとして分類。
  21. 高温ガス炉、ナトリウム冷却高速炉、鉛冷却高速炉、溶融塩炉、超臨界水冷却炉、ガス冷却高速炉の6種類。
  22. 導入時期(2050年カーボンニュートラルに寄与する時期での導入可能性)、熱利用(低炭素水素生産等の高温熱利用の可能性)、安全性、核セキュリティ、英国にとっての価値(英国のサプライチェーン等を活用した雇用創出の可能性)、経済性、展開性(負荷追従性や立地の柔軟性等、展開時に考慮すべき要素)、適応性(医療用RI生産等の将来的な用途に対する柔軟性)、廃棄物・環境(資源採鉱から廃棄物処分までのライフサイクルで環境に与える影響)、国際協力の10項目。
  23. Accelerator Driven System



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