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8-4 人材の確保及び育成

 東電福島第一原発事故の教訓を踏まえ、安全性を追求しつつ原子力エネルギーや放射線の利用を行っていくためには、高度な技術と高い安全意識を持った人材の確保が必要です。人材育成は、イノベーションを生み出すための基盤と捉えることもできます。
 一方で、我が国では、原子力利用を取り巻く環境変化や世代交代等により、人材が不足し、知識・技術が継承されないことへの懸念が生じています。このような課題は原子力関係機関の共通認識となっており、各機関の特色を生かしつつ、大学における教育、研究機関における専門知識を持つ研究者・技術者の育成、民間企業における現場を担う人材の育成、国等の行政機関の職員の育成等が進められています。


(1)人材育成・確保の動向及び課題

 安全確保を図りつつ原子力利用を進めるためには、発電事業に従事する人材、廃止措置に携わる人材、大学や研究機関の教員や研究者、利用政策及び規制に携わる行政官、医療、農業、工業等の放射線利用を行う技術者等、幅広い分野において様々な人材が必要とされます。
 しかしながら、原子力利用を取り巻く環境変化等を受け、大学では、原子力分野への進学を希望する学生の減少や、学部や専攻の大くくり化等(図8-12)による原子力専門科目の開講科目数の減少、原子力分野を専門とする大学教員、特に若手教員の減少、稼働している教育試験炉の減少に伴う実験・実習の機会の減少が進んでいます。また、企業では、建設プロジェクト従事経験者の高齢化が進んでいます。このような状況により、人材が不足し、知識や技術の継承が途絶えてしまい、原子力利用の推進と安全管理の両方に支障を来すことが懸念されます。なお、フィンランド、フランス、米国では原子力発電所の建設が大きく遅延しました。これは、新規建設が長年行われなかったことにより、原子力発電所特有の建設や製造経験の継承に失敗したことも一因であると分析されています。
 原子力委員会は、2018年2月に「原子力分野における人材育成について(見解)」を取りまとめ、優秀な人材の勧誘、高等教育段階と就職後の仕事を通じた人材育成について、それぞれ留意すべき事項を示しました。また、令和元年度版原子力白書では、原子力分野を担う人材の育成を特集として取り上げ、我が国の大学における原子力教育の質向上に向けて取り組むべき方向性例を示しました(図8-13)。


原子力関係学科・専攻の設立変遷

図8-12 原子力関係学科・専攻の設立変遷

(出典)第3回科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会原子力研究開発・基盤・人材作業部会資料2-2 文部科学省「国際原子力人材育成イニシアティブ事業の見直し等について」(2020年)



大学における原子力教育の質向上に向けて取り組むべき方向性例

図8-13 大学における原子力教育の質向上に向けて取り組むべき方向性例

(出典)原子力委員会「令和元年度版原子力白書」(2020年)に基づき作成


(2)人材育成・確保に向けた取組

① 産学官連携による取組

 「原子力人材育成ネットワーク」は、国(内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省)の呼び掛けにより2010年11月に設立されました。2022年3月末時点で84機関37が参加し、産学官連携による相互協力の強化と一体的な原子力人材育成体制の構築を目指して、機関横断的な事業を実施しています(図8-14)。具体的には、国内外の関係機関との連携協力関係の構築、ネットワーク参加機関への連携支援、国内外広報、国際ネットワーク構築、機関横断的な人材育成活動の企画・運営、海外支援協力(主に新規原子力導入国)の推進等を行っています38


原子力人材育成ネットワークの体制

図8-14 原子力人材育成ネットワークの体制

(出典)原子力人材育成ネットワークパンフレット39


② 国による取組

 文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」や英知事業等により、産学官が連携した国内外の人材育成の取組を支援しています。国際原子力人材育成イニシアティブ事業では、2021年に「未来社会に向けた先進的原子力教育コンソーシアム」(ANEC40)を創設し、我が国の原子力分野の人材育成機能を維持・充実していくために、大学や研究機関等が組織的に連携して共通基盤的な教育機能を補い合う取組を進めています。また、原子力科学技術委員会の下に原子力研究開発・基盤・人材作業部会を設置し、研究開発、研究基盤、人材育成に関する課題や在り方等について、国内外の最新動向を踏まえつつ一体的・総合的に検討を行っています。
 資源エネルギー庁は、我が国の原子力施設の安全を確保するための人材の維持・発展を目的の一つとして、「原子力産業基盤強化事業」において、世界トップクラスの優れた技術を有するサプライヤーの支援や、技術開発・再稼働・廃炉等の現場を担う人材の育成等を推進しています。また、小中学生向けに、学習指導要領に準拠したエネルギー教育副教材41を作成しています。同副教材では、原子力を含む様々な発電方法や燃料の長所と短所の両面や、持続可能な社会に向けたエネルギーミックスの考え方等を説明し、エネルギー問題に対する児童・生徒の当事者意識の醸成を目指しています。
 原子力規制委員会は、「原子力規制人材育成事業」により国内の大学等と連携し、原子力規制に関わる人材を効果的・効率的・戦略的に育成するための取組を推進しています。また、同委員会の下に設置された原子力安全人材育成センターでは、「原子力規制委員会職員の人材育成の基本方針」に沿って職員への研修や人材育成制度等の充実に取り組んでいるほか、原子炉主任技術者及び核燃料取扱主任者の国家試験を行っています。
 内閣府は、原子力災害への対応の向上を図るため、原子力災害対応を行う行政職員等を対象とした各種の研修等を実施しています。
 外務省は、若手人材を国際機関に派遣するJPO42派遣制度や経済産業省と共催でのウェビナー開催等を通じ、国際的に活躍する国内人材の育成を行っているほか、IAEAの技術協力事業を通じた海外人材の育成支援を実施しています。

③ 研究開発機関による取組

 原子力機構、量研では、それぞれが保有する多様な研究施設を活用しつつ、研究者、技術者、医療関係者等幅広い職種を対象とした様々な研修を実施しています。
 原子力機構の原子力人材育成センターでは、RI・放射線技術者や原子力エネルギー技術者を養成するための国内研修、専門家派遣や学生受入れ等による大学との連携協力、近隣アジア諸国を対象とした国際研修等を行っています(図8-15左)。
 量研の人材育成センターでは、放射線の安全利用に係る技術者の育成、原子力災害、放射線事故、核テロ対応の専門家育成、及び将来の放射線技術者育成に向けた若手教育と学校教育支援を通し、放射線に関わる知識の普及と専門人材の育成を実施しています(図8-15右)。


原子力機構における研修(左)、量研による被ばく医療研修(右)の様子

図8-15 原子力機構における研修(左)、量研による被ばく医療研修(右)の様子

(出典)左:原子力機構「原子力人材育成センターパンフレット」、右:量研人材育成センター提供資料


④ 大学・高等専門学校による取組

 大学や高等専門学校(以下「高専」という。)においても、特色のある人材育成の取組が進められています。
 例えば、東京大学の原子力専攻(専門職大学院)における授業科目の一部は、国家資格である核燃料取扱主任者及び原子炉主任技術者の一次試験を一部免除できるものとして、原子力規制委員会により認定されています。京都大学では、京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)を用いて京都大学及び他大学の大学院生が参加する大学院生実験を実施しており、原子炉の基礎実験だけでなく、燃料の取扱い、原子炉運転操作等、原子炉に直接接する貴重な体験を提供しています(図8-16)。近畿大学でも、近畿大学原子炉(UTR-KINKI)を用いて、全国の大学の学生・研究者に原子炉実機を扱う実習を提供しています。大阪大学は、放射線科学基盤機構を設置し、人材育成を部局横断で機動的に行っています。


京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)における大学院生実験

図8-16 京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)における大学院生実験

(出典)京都大学臨界集合体実験装置ウェブサイト「大学院生実験 実験模様」


 国立高専機構は、モデルコアカリキュラムを策定し、全国の国立高専で育成する技術者が備えるべき能力についての到達目標等を提示しています。分野別の専門的能力のうち電気分野では、到達目標の一つとして、原子力発電の原理について理解し、原子力発電の主要設備を説明できることが挙げられています。各国立高専では、同カリキュラムに基づき、社会ニーズに対応できる技術者の育成に向けた実践的教育が実施されています。

⑤ 原子力関係団体や各地域による取組

 一般社団法人原子力安全推進協会(JANSI)は、緊急時対応力の向上のためのリーダーシップ研修、原子力発電所の運転責任者に必要な教育・訓練、運転責任者に係る基準に適合する者の判定、原子力発電所の保全工事作業者を対象とした保全技量の認定等を構築、運用しています。また、公益社団法人日本アイソトープ協会や公益財団法人原子力安全技術センター等では、地方公共団体、大学、民間企業等の幅広い参加者を対象に、放射線取扱主任者等の資格取得に関する講習等を実施しています。
 さらに、各地域において、原子力関連施設の立地環境を生かした取組が進められています。福井県では1994年9月に若狭湾エネルギー研究センター、2011年4月に同研究センターの下に福井県国際原子力人材育成センターが、茨城県では2016年2月に原子力人材育成・確保協議会が、青森県では2017年10月に青森県量子科学センターがそれぞれ設立され、当該地域の関係機関等が協力して原子力人材の育成に取り組んでいます。


コラム ~廃炉創造ロボコン~

 原子力機構及び廃止措置人材育成高専等連携協議会の主催により、長期に及ぶ東電福島第一原発の廃炉作業を想定したロボットコンテストである「廃炉創造ロボコン」が実施されています。同大会は、ロボットの製作を通じて、学生に廃炉に関する興味を持ってもらうと同時に、学生の創造性、課題解決能力、課題発見能力を養うことを目的としています。
 2021年12月に開催された第6回廃炉創造ロボコンには、全国の12高専から13チームが参加しました。原子炉建屋内の高線量エリアにおいて高い位置の壁を除染するという課題に対して、各チームが制作したロボットの性能や操作を競い合い、広い除染面積を達成しコンパクトで完成度の高いロボットが評価された小山高専が文部科学大臣賞(最優秀賞)を受賞しました。


第6回廃炉創造ロボコンの様子

第6回廃炉創造ロボコンの様子

(出典)原子力機構及び廃止措置人材育成高専等連携協議会提供資料



  1. 大学等(27)、電力事業者等(14)、原子力関連メーカー(7)、 研究機関・学会(10)、原子力関係団体(16)、行政機関(7)、その他(3)。
  2. 原子力人材育成ネットワーク等がIAEAと共催している「Japan-IAEA原子力エネルギーマネジメントスクール」等の開催については、第3章3-3(1)①4)「原子力発電の導入に必要な人材育成の支援」を参照。
  3. https://jn-hrd-n.jaea.go.jp/material/common/pamphlet20210702.pdf
  4. Advanced Nuclear Education Consortium for the Future Society
  5. https://www.enecho.meti.go.jp/category/others/tyousakouhou/kyouikuhukyu/fukukyouzai/
  6. Junior Professional Officer



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