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1-6 原子力災害対策に関する取組

 2011年3月に発生した東電福島第一原発事故の教訓を生かし、このような事故の再発防止のための努力と、更なる安全性の向上を追求することが必要です。一方、原子力災害が万一発生した場合には、原子力施設周辺住民や環境等に対する放射線影響を最小限に留めるとともに、被害に対し応急対策を的確かつ迅速に実施することが不可欠です。
 事故の教訓を踏まえて、原子力災害対策に関する枠組み及び原子力防災体制が見直されました。これに基づき、防災計画の策定や訓練をはじめとして、平時から、適切な緊急時対応のための準備が図られています。


(1) 原子力災害対策の充実に向けた取組

① 原子力災害対策に関する枠組み
 東電福島第一原発事故後、各事故調査報告書の提言等を基に、我が国の原子力災害対策に関する枠組みが抜本的に見直され、「原子力災害対策特別措置法」(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)及び関連法令が改正され、関連の指針・計画や体制等が整備されました(図1-22)。

図1-22 平時と緊急時の原子力防災体制

(出典)内閣府「令和元年版 防災白書」(2019年)[124]

 現行の原子力災害対策では、原子力規制委員会が事故の教訓やIAEA安全基準を踏まえて策定した「原子力災害対策指針」に基づき、原子力災害対策重点区域65等が設定され、緊急時にはあらかじめ定められた基準に沿って避難や屋内退避をはじめとした防護措置が実施されます[125]
 同指針は、新たに得られた知見や防災訓練の結果等を踏まえ継続的な改定が進められています。2019年7月には、安定ヨウ素剤の服用等に関して、放射線防護の専門家等からなる検討チームで取りまとめた「安定ヨウ素剤の服用等に関する検討チーム会合報告書」に基づく改正が行われました [126]。また、2020年2月には、原子力事業者防災訓練を実施する中で見つかった課題を踏まえた緊急時活動レベルの見直し及び核燃料物質等の輸送時の災害対策に係る記載内容の充実が行われています [127][128]

② 地域の原子力防災の充実に向けた取組
 防災基本計画及び原子力災害対策指針に基づき、原子力災害対策重点区域を設定する都道府県及び市町村は、情報提供や防護措置の準備を含めた必要な対応策を地域防災計画(原子力災害対策編)にあらかじめ定めておく必要があります。
 そのため、2013年9月の原子力防災会議決定[129]に基づき設置された地域原子力防災協議会及びその下の作業部会において、国と関係地方公共団体が一体となって地域防災計画・避難計画の具体化・充実化に取り組んでいます(図1-23)[130]
 地域防災計画・避難計画の具体化・充実化が図られた地域については、避難計画を含む緊急時対応を取りまとめ、協議会において、それが原子力災害対策指針等に照らし具体的かつ合理的なものであることを確認しています。また、内閣府は原子力防災会議の了承を求めるため、協議会における確認結果を原子力防災会議に報告することとしています。2020年6月までに、川内地域、伊方地域、高浜地域、泊地域、玄海地域、大飯地域及び女川地域の計7地域の緊急時対応について、原子力防災会議でそれらの確認結果が了承されています[131]。緊急時対応の確認を行った地域については、PDCA サイクル66に基づき、原子力防災対策の更なる充実、強化を図っています。2020年7月までに、伊方地域及び高浜地域では2回、泊地域、川内地域、玄海地域、女川地域及び大飯地域ではそれぞれ1回緊急時対応が改定されています[132][133][134][135][136][137][138][139][140]

図1-23 地域防災計画・避難計画の策定と支援体制

(出典)内閣府「地域防災計画・避難計画の策定と支援」[141]

③ 原子力総合防衛訓練の実施
 原子力総合防災訓練は、原子力災害発生時の対応体制を検証することを目的として、原災法に基づき、原子力緊急事態を想定して、国、地方公共団体、原子力事業者等が合同で実施する訓練です。
 令和元年度は11月8日から10日の3日間にわたり、中国電力株式会社島根原子力発電所を対象とし、国、地方公共団体、原子力事業者、地域住民等の参加の下で実施されました。同訓練は、「島根地域の緊急時対応」取りまとめに向けた避難計画の検証等を目的として、自然災害及び原子力災害の複合災害を想定し、これらの事態の進展に応じた住民避難等に係る意思決定や実動の訓練を実施しました [142]

④ 環境放射線モニタリングに関する取組
 「大気汚染防止法」(昭和43年法律第97号)及び「水質汚濁防止法」(昭和45年法律第138号)に基づき、環境省において放射性物質による大気汚染・水質汚濁の状況を常時監視し、「放射性物質の常時監視67」にて公開しています。また、環境放射能水準調査等の各種調査が関係省庁、独立行政法人、地方公共団体等の関係機関によって実施されており、それらにより得られた結果は、原子力規制委員会の「放射線モニタリング情報68」のポータルサイトや「日本の環境放射能と放射線69」のウェブサイト等に公開されています。
 原子力事故が発生した場合等、緊急時には原子力災害対策指針に基づき地方公共団体や原子力事業者等の関係機関が連携して緊急時モニタリングを実施します。

1)原子力施設周辺等の環境モニタリング
 原子力規制委員会は、原子力施設の周辺地域等における放射線の影響や全国の放射能水準を調査するため、全国47都道府県における環境放射能水準調査、原子力発電所等周辺海域(全16海域)における海水等の放射能分析、原子力発電施設等の立地・隣接道府県(24道府県)が実施する放射能調査及び環境放射能水準調査として各都道府県が設置し実施しているモニタリングポストの空間線量率の測定結果を取りまとめ、原子力規制委員会の放射線モニタリング情報のポータルサイトで公表しています。
 また、環境省は、2001年1月より、環境放射線等モニタリング調査として、離島等(全国10か所)において、空間線量率及び大気浮遊じんの全α、全β放射能濃度の連続自動モニタリング並びに測定所周辺で採取した環境試料(大気浮遊じん、土壌、陸水等)の放射性核種分析を実施しています。これらの調査で得られたデータは、環境省のウェブサイト(環境放射線等モニタリングデータ公開システム70)で公開されています。

2)原子力艦の寄港に伴う放射能調査
 米国原子力艦の寄港に伴う放射能調査は、海上保安庁、水産庁、関係地方公共団体等の協力を得て、原子力規制委員会が実施しています。2019年4月から2020年3月までに実施された調査結果では、放射能による周辺環境への影響はありませんでした[143]

3)緊急時の放射線モニタリングの充実
 原子力災害対策指針では、緊急時モニタリング等の実測値に基づいて、緊急時における避難、一時移転その他の防護措置の実施を判断する基準(運用上の介入レベル)を導入しています。また、国の指揮の下で、地方公共団体、原子力事業者及び関係機関が連携して緊急時モニタリングを実施することとしています [125]。このほか、原子力規制庁は、原子力災害対策指針を補足し、緊急時モニタリングの目的、体制、内容等を示す資料として「緊急時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料)」(2014年作成、2019年7月最終改訂)を作成・公表する[144]など、緊急時モニタリングの体制の整備及び充実・強化を図っています。

4)国外における原子力関係事象の発生に伴うモニタリングの強化
 「国外における原子力関係事象発生時の対応要領」(2005年放射能対策連絡会議)では、国外で発生する原子力関係事象についてモニタリングの強化等の必要な対応を図ることとしています[145]。原子力規制庁は、国外において原子力関係事象が発生した場合に空間放射線量率の状況をきめ細かく把握できるよう、モニタリングポストの整備等を行っています[146]

5)モニタリング技術の改良
 緊急時及び平常時のモニタリングを適切に実施するためには、継続的にモニタリングの技術基盤の整備、実施方法の見直し、技能の維持を図ることが重要です。そのため、原子力規制委員会は、環境放射線モニタリング技術検討チームを開催して、モニタリングに係る技術検討を進めています。2020年3月現在、同チームでは「放射能測定法シリーズ No.7ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリー」の改訂について、検討を行っています[147]

(2)原子力事業者の緊急時対応の強化

 原災法第3条には、原子力災害の拡大の防止及び復旧に対する原子力事業者の責務が明記されています。さらに、原子力災害対策指針では、「原子力事業者が、災害の原因である事故等の収束に一義的な責任を有すること及び原子力災害対策について大きな責務を有していることを認識する必要がある」と規定されています[125]
 原子力事業者は、原災法の規定に基づき、原子力事業者防災業務計画を作成し、原子力規制委員会に提出しており、同業務計画は原子力規制委員会のウェブサイト71上で公表されています。また、原子力事業者は、原災法に基づき防災訓練を実施し、その結果を原子力規制委員会へ報告しています。原子力規制委員会は、「原子力事業者防災訓練報告会」を開催し、各事業者が実施した訓練の評価結果の説明や良好事例の紹介を行うなど、防災訓練の改善を図る取組を実施しています。また、原子力規制庁は、原子力事業者防災訓練報告会の下に「訓練シナリオ開発ワーキンググループ」を開催し、発電所の緊急時対策所や中央制御室の指揮者の判断能力向上のための訓練及び現場の対応力向上のための訓練に係る検討を行っています[148]
 原子力事業者は、原子力発電所における事故を収束させるために必要な設備等を発電所敷地内に配備するとともに、自治体との協働等を通じた敷地外からの支援を行うための組織・体制も構築しています(図1-24)。

図1-24 原子力事業者による防災対策の強化

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会第23回会合資料第1号 資源エネルギー庁「2030年エネルギーミックス実現のための対策~原子力・火力・化石燃料・熱~」(2017年)[149]

(3) 原子力損害賠償制度に関する状況

 原賠法は、1961年に制定されて以降、必要な見直しが行われてきました。2018年12月には、原子力委員会原子力損害賠償制度専門部会における検討を踏まえ、万が一、原子力事故が発生した場合における原子力損害の被害者の保護に万全を期するため、東電福島第一、第二原発事故における対応のうち、一般的に実施することが妥当なもの等について所要の措置を講じる「原子力損害の賠償に関する法律の一部を改正する法律」が成立しました。
 同法は、関連する政省令とともに、2020年1月1日に全面施行されました。この改正により、①原子力損害が発生した場合に、賠償の迅速かつ適切な実施を図るための方針(損害賠償実施方針)の作成・公表を原子力事業者に義務付ける制度、②原子力損害を受けた被害者に対して原子力事業者が仮払金の支払いを行おうとする場合に、国が仮払金の支払いのために必要な資金を貸し付ける制度、③原子力損害賠償紛争審査会が和解の仲介を打ち切った場合の時効の中断に関する特例等が創設されました[150]


  1. 住民等に対する被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うために、重点的に原子力災害に特有な対策が講じられる区域のこと。
  2. 緊急時対応の具体化・充実化の支援及び確認(Plan)、協議会において確認した緊急時対応に基づく訓練の実施(Do)、訓練結果からの教訓事項の抽出(Check)、その教訓事項を踏まえた緊急時対応の改善(Action)
  3. http://www.env.go.jp/air/rmcm/index.html
  4. https://radioactivity.nsr.go.jp/ja/
  5. https://www.kankyo-hoshano.go.jp/kl_db/servlet/com_s_index
  6. http://housyasen.taiki.go.jp/
  7. https://www.nsr.go.jp/activity/bousai/measure/emergency_action_plan/index.html



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