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第3章 国際潮流を踏まえた国内外での取組

         

3-1 国際的な原子力の利用と産業の動向

 東電福島第一原発事故は、世界の原子力利用国に大きな影響を与え、また、社会・経済全体がグローバル化する中、世界における我が国の原子力利用の在り方が問われています。東電福島第一原発事故後、ドイツやイタリア、スイス等のように、脱原子力政策に転じる国々も現れた一方で、英国のように原子力を継続的に利用する国、また、中国やインドを筆頭に、アジア、中近東、アフリカ等において、電力需要の増加や地球温暖化対策等に対応するために原子力開発が進展している国もあります。さらに、中国やロシア等を中心に、これらの新興国に対して積極的に自国の原子力技術を輸出する動きも見られます。


(1)国際機関の動向

@ 国際原子力機関(IAEA)
 IAEAは、原子力の平和利用を促進すること、原子力の軍事利用への転用を防止することを目的として、1957年に国連総会決議を経て設置されました。IAEAの事務局長は現在、日本人の天野之弥氏が務めています。IAEAには2017年12月時点で169か国が加盟しています [1]
 IAEAは発電だけでなく、健康の改善や食糧生産性の向上等の様々な目的のために原子力技術を活用する取組を行っており、天野事務局長はこのような原子力利用の考え方を「AtomsforPeaceandDevelopment(平和と開発のための原子力)」としています [2] 。これの推進のため、IAEAは、同機関が有するサイバースドルフ原子力応用研究所を活用して、研究開発や人材育成に取り組んでおり、我が国を含む各国は、老朽化が懸念される同研究所の改修プログラムを支援しています。国連は2015年9月の国連総会において、貧困、不平等・不正義をなくし、地球を守るための2016〜2030年までの目標として「持続可能な開発目標」(SDGs)を採択しました。IAEAは自身のミッションがSDGsの達成に貢献するものであるとして、引き続き、各国における原子力利用への協力・支援を行っていく方針です。      

A 経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)
 NEAはOECDの専門機関として、1958年に欧州原子力機関(ENEA 1 )として発足し、1972年に我が国が欧州以外の国として初めて参加したことを受け、現在の名称に改められました。OECD/NEAは、加盟国間の協力を促進することにより、安全かつ環境的にも受け入れられる経済的なエネルギー資源としての原子力エネルギーの発展に貢献することを目的としています。2018年2月末時点で33か国が参加しています [3]
 OECD/NEAは2015年に、安全文化、原子力安全に関する人的・組織的要因、ステークホルダーの関与と一般公衆とのコミュニケーション等に関する取組を強化するために、原子力安全(人的側面)課を新設しました。又、将来にわたって必要となる多様な原子力人材育成のため、優秀な若い世代の原子力科学技術への興味関心を高めるための枠組みを検討しています。また、2015年には、2050年を見据えた将来のロードマップを策定するため原子力革新2050(NI2050 2 )イニシアティブを開始しました。同イニシアティブでは、第2世代炉から第4世代炉を対象に、原子炉、核燃料サイクルの技術開発に関する検討が行われています [4] 。      


(2)海外の原子力発電主要国の動向

@ 米国
 米国は2018年2月末時点で99基の実用発電用原子炉が稼動する、世界第1位の原子力発電利用国です [5] 。2017年1月に発足したトランプ政権は、原子力支援に前向きな姿勢を示しています。同年6月のエネルギー週間における演説でトランプ大統領は、原子力をクリーンかつ再生可能であり、発電に伴い炭素を排出しないエネルギー源であるとし、その再興と拡大を開始するとの意向を示しました。DOEは「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN 3 )」等を通じて、先進炉や小型モジュール炉(SMR 4 )の開発を支援しています。また、連邦政府によって、経済性を主な理由とした既設炉の早期閉鎖を回避するための原子力の支援策が検討されているほか、州においても、温室効果ガス排出削減目標達成等の目的で、独自の原子力支援策を講じる例が見られています。例えばニューヨーク州では、州の温室効果ガス排出削減目標の達成に原子力発電は不可欠であるとして、電気事業者らに、ゼロ排出クレジット(ZEC 5 )の購入を通じて炭素排出ゼロという原子力発電プラントが持つ価値に対して対価を支払うよう求める制度が2016年8月に導入されています [6]
 米国の原子炉メーカーとしては、(株)東芝の元子会社のウェスチングハウス(WH)社、(株)日立製作所とゼネラルエレクトリック(GE)社の合弁会社である日立GEニュークリア・エナジー社等が海外での原子炉の受注に向けた活動を行っています。2017年12月時点では、WH社は、米国内でボーグル3、4号機の2基と中国で4基のAP1000を建設しています。また、チェコ、ポーランド、インド、トルコ等で受注活動を展開しています [7] 。なお、建設が進められていた米国のV.C.サマー2、3号機については、当初見積りより増加する建設コスト等を考慮して、建設継続を断念することが2017年7月に電気事業者から公表されています。一方GE社は(株)日立製作所との合弁会社を通じてインド、ポーランド等で受注活動を行っています。
 この結果、米国で現在建設中の原子炉は2基のみとなっていますが、既存炉の運転については、2回目の運転許可更新を申請し、80年運転を目指す電気事業者も出ています [7] 。      

A フランス
 フランスは原子力発電を推進してきましたが、オランド前大統領は、国内の原子力発電の割合を現行の75%から2025年までに50%に縮減する公約を掲げ、この目標を規定するエネルギー転換法が2015年に制定されました [8] 。2017年に就任したマクロン新大統領もこの方針を踏襲していますが、政府は2017年11月、送電系統運用会社(RTE 6 )の将来の電力発電需要予測の分析結果を踏まえ、2025年までに原子力比率を縮減する目標の達成は困難であるとの判断を示しました。なお、政府は、現状の設備容量を上限とした新規建設や、原子炉等の輸出については支持しています。2001年に設立されたアレバ社が、総合的な原子力事業を行ってきましたが、2011年の東電福島第一原発事故後の同社の経営状況の悪化を受けて、フランス政府は原子力産業界の再編を進めており、同社傘下の原子炉等製造会社アレバNP社(その後、フラマトム社に名称変更)が、我が国の三菱重工業(株)他の出資も受入れ、2018年1月1日に国営電力会社であるフランス電力(EDF 7 )の傘下に入りました。フラマトム社が開発したEPRは、フランス国内で1基、フィンランドと中国で計3基が建設されています [9] 。更に英国で4基 [10] 、インドで6基 [11] の建設も計画されています。      

B ロシア
 ロシアは、自国資源の化石燃料を輸出に回すために、国内の発電部門を原子力等その他電源で代替する戦略をとっています。国内の原子力発電については、2030年までに発電電力量に占める原子力の割合を25%とする目標を示しています。原子力事業は国営企業ロスアトムの下に一元化されており、同グループの下で積極的な海外進出を進めています。
 2018年2月時点で、ソビエト崩壊以降に輸出された炉として、ウクライナで2基、イランで1基、中国で2基、インドで2基のロシア製原子炉が運転中です。また、中国で2基、ベラルーシで2基、インドで1基、バングラデシュで1基のロシア製原子炉が建設中です。さらに、イランで2基、インドで1基、バングラデシュで1基、トルコで4基、フィンランドで1基、アルメニアで1基のロシア製原子炉の契約が締結済みです [12] 。さらに、その他中東、アジア、東欧、アフリカと世界各地から発注を受け、世界進出を強めています。ロシアは原子炉や関連サービスの供給と併せて、建設コストを賄う融資や投資建設(Build)・所有(Own)・運転(Operate)を担うBOO方式での契約も提案しており、初期投資コストの確保が大きな課題となっている輸出先国に対するロシアの強みとなっています。      

C 中国
 中国は、原子力発電の開発に積極的であり、2018年3月時点で20基の原子炉が建設中です。中国は第3世代炉の海外からの導入と国産化を進めています。国産第3世代炉である華龍1号が国内で4基建設されているほか、米WH社製のAP1000の世界初号機も浙江省・三門で建設中です [13] 。2016年3月に策定された第13次五カ年計画では、2016〜20年の間に、沿海部で原子炉の新設プロジェクトを進めていくほか、大型再処理施設の建設も進めていく等としています。
 また、中国は原子炉の輸出にも積極的に取り組んでいます。すでにCNP-300炉4基のパキスタンへの輸出を実現しており、今後は第3世代炉である華龍1号の海外輸出も推進する方針です [14] 。華龍1号については既にパキスタンで建設が開始されているほか、アルゼンチンでの建設のための契約が締結されています。また2015年10月には、仏EDFとの協力の下、英国のブラッドウェルサイトに華龍1号を建設する方向で協力することで、英中両国政府首脳が合意しています。2016年3月には、華龍1号を中国の原子炉輸出の主力ブランドとすることを目指し、華龍国際核電技術有限公司(華龍公司)が設立されました。さらに、華龍1号以外にもAP1000を国産化・大型化して開発を進めているCAP1400や高温ガス炉を、トルコ、南アフリカ、サウジアラビア等の国々に輸出すべく、取組を続けています。      

D 英国
 英国政府はエネルギー安定供給と温暖化対策のために原子炉新設を推進する方針です。政府が自国の今後の生産性向上を目指し、2017年11月に公表した「産業戦略」では、原子力が英国の生産性向上と成長に不可欠であるとともに、エネルギーミックスにおいて極めて重要と位置付けられています。2017年12月末時点では、5か所で11基の原子炉の新設が計画されており [10] 、我が国の原子炉メーカーも進出を目指しています。また、中国企業も英国市場への進出を目指しています。前述のブラッドウェルサイトでの華龍1号の建設のほかにも、仏EDFの子会社EDFエナジーによるヒンクリーポイントC原子力発電所(HPC 8 )の建設(EPR、2基)に中国広核集団(CGN 9 )が33.5%出資すること、EDFによるサイズウェルC原子力発電所の建設計画(EPR、2基)に対しても、CGNが出資することで2015年10月に英中首脳が合意しました。HPC建設プロジェクトについては、英政府、EDF、中国企業が2016年9月に、契約関連文書に調印しています。
 なお英国は2016年6月の国民投票の結果を受けて、2019年3月にEU及びユーラトムから離脱する方針です。ユーラトム離脱に伴い、英国はIAEAと保障措置協定、米国等の原子力協力国と新たに協定を締結する方針で、既に交渉が開始されています。      

E 韓国
 韓国は、2018年2月末時点で、24基、2,250万kWの原子力発電所が運転中で、総発電量に占める原子力発電の割合は30%です [5] 。政府は原子力発電技術の国産化と次世代炉の開発等、これまでは積極的な原子力政策を進めてきました。しかし2017年5月に発足した文在寅新政権は、新増設を認めず設計寿命を終えた原子炉から閉鎖する漸進的な脱原子力を進める方針を掲げました。政府は2017年10月、建設中の新古里5、6号機については建設継続を認めましたが、計画段階にあった6基の新設は白紙撤回し、運転中の原子炉の運転延長を禁止する脱原子力ロードマップを決定しました。
 ただし、政府は国産炉の海外輸出は引き続き推進する方針です。韓国電力公社(KEPCO 10 )は2012年から、UAEにおいて4基の韓国次世代軽水炉APR-1400の建設を進めてきました。政府はサウジアラビア、チェコ、英国等の原子炉の新設を計画する国に対してアプローチしていくとしています。      

F インド
 インドは増大する電力需要に対応するために、発電設備の増設や送配電インフラの整備が課題となっています。インドは核兵器不拡散条約(NPT 11 )に加盟しなかったことから、外国から必要な核燃料等の供給を受けることができませんでした。しかし、2008年には包括的保障措置協定の未締結国に対する原子力関連資機材の輸出を行わないと定めた「NSGガイドライン 12 」をインドには例外的に適用しないことが決定されました。これを受けて、米国、フランス、ロシア等は、原子炉の輸出も念頭に、インドと原子力協定を結んでいます。我が国も、2017年7月にインドとの原子力協定を締結しました。
 2017年12月末時点で、インドでは6基の原子炉が建設中ですが、更にインド国産の重水炉が10基、高速炉が2基、フランスのEPRが6基、ロシアのVVERが3基、米国WH社のAP1000が2基、建設が計画されています [15] 。      


(3)原子力産業の国際的動向

@ 国内外のサプライヤーの動向
 我が国では、2006年10月に英国原子燃料会社(BNFL 13 )傘下にあった米国WH社を(株)東芝が買収したことを皮切りに、2007年6月及び7月には、(株)日立製作所と米国GE社がそれぞれの原子力部門に相互に出資する新会社GE日立ニュークリア・エナジー及び日立GEニュークリア・エナジー(株)を設立しました。さらに、同年9月には、三菱重工業(株)が仏アレバ社と100万kW級中型炉の開発販売を行う合弁会社ATMEAの設立を発表しました。このうちWH社は、米国における2か所のAP1000建設サイトにおける建設費用高騰等が原因となって米国連邦倒産法第11章に基づく再生手続を申立てました [16] 。(株)東芝も、リスクを抑えるため今後海外での原子炉建設事業では土木建築は行わず、機器供給やエンジニアリング等に特化するとの経営方針を示しています [17] 。なお(株)東芝は2018年1月18日に、カナダに本拠を置く投資ファンドのブルックフィールド・ビジネス・パートナーズ(BBP)にWH社の全株式を譲渡する契約を締結しています [18]
 ロシアでは複数の国営企業が原子力事業を行ってきましたが、2007年12月に国営企業ロスアトムの傘下に全事業を一元化する事業体制が確立されました。
 韓国では中核メーカーが政府の支援の下、海外からの技術導入を終え、技術の国産化を進めています。国産の韓国標準型炉の建設実績や、現在国家プロジェクトとして開発を進めている次世代原子炉の輸出を目指しており、UAEにおいて、4基の原子炉を建設中です。また前述のとおり、中国の原子炉メーカーも、海外からの導入技術を踏まえ、100万kWクラスの国産炉の開発や輸出を進めています。
 今後も、世界においては、各国の企業グループが、既存市場及び新興市場において、国境を越えた激しい受注競争を繰り広げていくことになると考えられます。      

A 我が国の原子力輸出の動向
 我が国はこれまで培った原子力技術を活かし、以下に示すような国における原子力発電所建設プロジェクトへの参加を進めています。      

1)英国
 英国政府による原子力発電所新設推進方針のもと、ウィルファとオールドベリーでは、日立GEニュークリア・エナジー(株)子会社のホライズン社が、日立GEニュークリア・エナジー(株)の開発する改良型沸騰水型軽水炉(ABWR 14 )を計4基建設する計画です。また、ムーアサイドでは、(株)東芝子会社のNuGeneration社が、米WH社のAP1000を3基建設する計画でしたが [10] 、(株)東芝はNuGeneration社株式を売却する方針であり、その株式売却の優先交渉権者として韓国KEPCOが2017年12月に選定されています [19] 。  
    
2)トルコ
 トルコでは現在、アックユ(地中海沿岸)とシノップ(黒海)の2つのサイトで、原子力発電所の建設計画が進められています。アックユについては、2010年にロシアの受注が確定しており、4基のVVER-1200が建設される計画です [20] 。シノップについては、2013年5月に三菱重工業(株)を中心とするコンソーシアムに排他的交渉権が付与され、これを踏まえ、コンソーシアムとトルコ政府との間で商業契約が合意されています。コンソーシアムは、シノップサイトの地質調査や環境影響評価等を含むフィージビリティ調査を行っています。  

    

  1. European Nuclear Energy Agency
  2. Nuclear Innovation 2050 。
  3. Gateway for Accelerated Innovation in Nuclear
  4. Small Modular Reactor
  5. Zero Emission Credits
  6. Reseau de Transport d'Electricite
  7. Electricite de France
  8. Hinkley Point C nuclear power station
  9. China General Nuclear Power Corporation
  10. Korea Electric Power Corporation
  11. Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons
  12. NSGガイドラインについては4章4-3で詳細を記載しています。
  13. British Nuclear Fuels Limited
  14. Advanced Boiling Water Reactor



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