原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成28年版 原子力白書」HTML版 > 5-1 国際協力

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第5章 国際的取組

5-1 国際協力

 IAEAは、創設から60周年を迎える2016年に、気候変動対策や持続可能な開発という国際社会が直面する2つの最優先課題の解決において、原子力発電が重要な役割を果たすとの評価を示しています。東電福島第一原発事故後も、発電を含め原子力利用を維持する先進国、導入・拡大する途上国が存在しています。このため我が国は、グローバル化の中での原子力利用において、平和利用と核不拡散の担保、安全の確保及び核セキュリティの担保を前提として、戦略的な国際協力・連携を進め、核不拡散、核セキュリティ分野で世界をリードする位置付けの確立が求められています。
 2014年4月に閣議決定されたエネルギー基本計画においても、「東電福島第一原発事故の経験から得られた教訓を国際社会と共有することで、世界の原子力安全の向上や原子力の平和利用に貢献していくとともに、核不拡散及び核セキュリティ分野において積極的な貢献を行うことは我が国の責務であり、世界からの期待でもある」との考え方が示されました。
 我が国は東電福島第一原発事故後も、途上国、先進国との間で、二国間、多国間の協力を推進するとともに、国際機関の活動にも積極的に関与しています。


(1)途上国との協力

 我が国の開発途上国との協力は、相手国の原子力に関する知的基盤の形成、経済社会基盤の向上、核不拡散体制の確立・強化、安全基盤の形成等に寄与することを目的としています。そのために、農業・工業・医療等における放射線利用や関連する人材育成、事故の経験と教訓を共有し、原子力安全の向上に資する協力を進めています。特に、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保は一国のみにとどまる問題ではなく国際的に取り組むべき課題です。国際的な原子力の平和利用の拡大に伴い、アジアや中東地域の新興国において原子力発電開発が計画されており、これらの国々との原子力協力の重要性が高まっています。
 我が国はアジア地域における地域協力として、アジア原子力協力フォーラム(FNCA 1 )、IAEAの原子力科学技術に関する研究、IAEA技術協力基金(TCF)、IAEA平和的利用イニシアティブ(PUI)、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA 2 )やアジア原子力安全ネットワーク(ANSN 3 )、ASEAN+3(日中韓)、IAEAの原子力マネジメントスクール(アジア地域版の開催)や導入国の原子力基盤整備支援等に係る活動等に貢献しています。それと同時に、核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保に係る基盤整備等を中心とした二国間協力を精力的に進めています。

@ アジア地域をはじめとする多国間協力
1) アジア原子力協力フォーラム(FNCA)における協力
 地理的に日本に近い近隣アジア諸国は、経済的にも日本と密接な関わりがあり、農業・医療・工業の各分野での放射線の利用、研究炉の利用、原子力発電所建設や安全な運転体制の確立等多くの課題を共有しています。

図 5-1 第17回FNCA大臣級会合の様子(2016年11月、東京)

(出典)原子力委員会ウェブサイト「第17回FNCA大臣級会合開催報告」 4

 FNCAは、原子力技術の平和的で安全な利用を進め、社会・経済的発展を促進することを目的とした、我が国主催の地域協力関係です。我が国と、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、タイ及びベトナムの12か国が参加しています(IAEAがオブザーバー参加)。また、毎年1回、「大臣級会合」(協力推進のための政策対話を実施)、「スタディ・パネル」(政策課題や技術課題に関する情報交換)、「コーディネーター会合」(具体的な協力計画の審議)、の3つの会合を内閣府主催で開催しています。また、文部科学省により放射線利用を中心とする4分野8プロジェクトが実施されています [1]

イ) 大臣級会合
 大臣級会合では、FNCA各国の原子力所管の大臣級代表により原子力技術の平和利用に関する地域協力のための政策対話を行っています。
 2016年11月30日には、第17回FNCA大臣級会合が内閣府・原子力委員会主催により東京(日本)で開催されました(図 5 1)。我が国からは鶴保内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、石原内閣府副大臣、岡原子力委員会委員長らが出席したほか、FNCAに参加するその他11か国の大臣級及び上級行政官、OECD/NEAからマグウッド事務局長等が出席しました。マグウッド事務局長は基調講演において、原子力の様々な意思決定における一般公衆とのコミュニケーションの確立の重要性について強調しました。また会合では「放射性廃棄物の処理・処分」及び「発電・非発電分野での原子力利用」でのステークホルダー・インボルブメントについて円卓討議が行われ、以下の内容の共同コミュニケが採択されました。

<第17回FNCA大臣級会合(2016年)で採択された共同コミュニケの内容>

行動1:促進するべきテーマと活動

  • (FNCA参加国)地域における原子力エネルギーや原子力利用、中でも、農業、医療・健康を始めとする領域や、その他領域で参加各国に共通の課題、例えば、ステークホルダー・インボルブメント、廃棄物貯蔵・処分施設の建設、放射線安全及び安全文化の促進などに取り組むために、放射線安全・廃棄物管理に関するプロジェクトを一層促進する。

行動2:輻輳/横断領域における国際機関との協力の促進

  • FNCA参加国地域における原子力エネルギーや原子力利用が高まるにつれ参加国において重要な課題となりつつある、特に原子力の法的分野においてIAEAやOECD/NEAのような国際機関との連携を促進することとし、その焦点として2017年3月にスタディ・パネル/国際ワークショップを開催する。

行動3:FNCAの会合マネジメントと活動の改革及び継続的改善

  • 改善されたプロジェクト提案評価プロセスによる、「新規プロジェクト」もしくは「現行プロジェクトの新たなフェーズ」を2017年に開始するとともに、自己評価メカニズムの強化を通じたFNCA活動の効果・効率化を促進する。
  • FNCA各会合の役割や責務、機能を明らかにするとともに、会合間の有機的連携を確保するために、新たな会合ガイドライン(TOR 5 ) を、2017年の大臣級会合で採択・設定する。

行動4:FNCA賞の導入

  • プロジェクトによる当該年の顕著な功績とFNCA使命達成に向けた貢献を讃えるため、「最優秀研究チーム賞」及び「優秀研究チーム賞」(対象3チーム)を導入・表彰する。2017年に初回授与を行う。

ロ) スタディ・パネル
 FNCAでは、従来、放射線利用等非発電分野での協力が主でしたが、参加国におけるエネルギー安定供給及び地球温暖化防止の意識が高まりを受け、原子力発電の役割や原子力発電の導入に伴う課題等を討議する場として、2004年以降、スタディ・パネルを開催しています。2004〜2006年度には第1フェーズとして「アジアの持続的発展における原子力エネルギーの役割」について検討・評価し、2007〜2008年度には第2フェーズとして「アジアの原子力発電分野における協力に関する検討パネル」が設置され討議が行われました。2009〜2014年度には第3フェーズとして、「原子力発電のための基盤整備に向けた検討パネル」が設置され、2014年8月までに合計6回の会合が開催されました。2014年8月に開催された第6回会合では、中小型炉開発、緊急時対応・準備、ステークホルダー・インボルブメント等に関して議論が行われました。
 第16回大臣級会合(2015年12月開催)において、原子力科学技術に対する信頼構築のための活動強化等が決定されたことを受けて、2016年3月10日に、「原子力への信頼性とステークホルダーの参加、一般社会(公衆)とのコミュニケーション」をテーマとしたスタディ・パネルが開催されました。同会合では、発電所の立地や低レベル放射性廃棄物処理に関するステークホルダー・インボルブメントの具体的な取組が紹介されました(図 5-2)。

図 5-2 2016スタディ・パネルの様子

(出典)FNCAウェブサイト「FNCA「2016スタディ・パネル」」 6

ハ) コーディネーター会合
 FNCAの協力活動に関する参加国相互の連絡調整を行い、協力プロジェクト等の実施状況評価や計画討議等を行う場として、コーディネーター会合を年1回日本で開催しています。各国ともプロジェクトの実施に役割を持つコーディネーターを1名ずつ選出しており、日本では、和田智明・公益財団法人科学技術広報財団理事が務めています。
 2016年3月8〜9日には第17回コーディネーター会合が開催されました。同会合では、各プロジェクトについての活動報告及び今後の計画について議論が行われたほか、2015年の第16回大臣級会合の決議を踏まえ、気候変動への緩和策・適応策となるFNCAプロジェクト(気候変動研究、放射線育種、原子力発電の基盤整備)の推進について合意されました。

ニ) プロジェクト
 FNCAでは現在、以下の4分野で8のプロジェクトが実施されています。プロジェクト毎に、通常年1回のワークショップ等が開催されており、それぞれの国の進捗状況と成果が発表・討議され、次期実施計画が策定されます。

  1. 放射線利用開発:産業利用・環境利用(放射線育種、バイオ肥料、電子加速器利用、気候変動科学)、健康利用(放射線治療)
  2. 研究炉利用開発(研究炉利用)
  3. 原子力安全強化(放射線安全・廃棄物管理)
  4. 原子力基盤強化(核セキュリティ・保障措置)

 FNCAプロジェクトとして1999年度にスタートし、2016年に終了した人材養成プロジェクトでは、各国で必要とされる人材養成のニーズの抽出、トレーニング支援などを行い、2006年からは、人材ニーズと提供可能なプログラムをネットワーク化する“アジア原子力教育訓練プログラム(ANTEP 7 )”の構築を進めました(図 5-3)。この人材養成プロジェクトでは、ワークショップやシンポジウムを積極的に開催しており、2015年8月には、文部科学省の主催により、福井県でステークホルダー・インボルブメントをテーマとしたワークショップが開催され、2016年8月にも、マレーシア原子力庁(MNA 8 )及び文部科学省の共催で、ステークホルダー・インボルブメントや放射線教育をテーマとしたワークショップが実施されました。

図 5-3 ANTEPの概念図

(出典)FNCAウェブサイト「Function of ANTEP」 9 に基づき作成

2) RCA(原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定)における協力
 RCAは、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とした原子力に係る科学技術に関する共同の研究、開発及び訓練の計画を、IAEA締約国政府間の相互協力及びIAEAとの協力により、締約国の適当な機関を通じて促進及び調整することを目的とした枠組みです。RCAの下実施されるプロジェクトには、2016年12月末時点で,我が国を含むFNCAの参加国11か国(カザフスタンを除く)に加え、カンボジア、フィジー、インド、ラオス、ミャンマー、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、パラオ、シンガポール及びスリランカの、計22か国が参加しています。
 2016/2017年のサイクルでは、農業、医療・健康、環境、工業の4分野で15プロジェクトが実施されています。我が国はこれら4分野の中で「医療・健康」分野を特に重視しており、この分野の「RCA地域における強度変調放射線治療能力の強化」プロジェクトでは主導国を務めています。
 FNCAはイコールパートナーシップによる研究協力を行っていますが、近年、RCAとFNCAの協力が議論されており、現在、放射線加工・放射線治療・放射線育種分野における協力が実施されています [2]

3) IAEA技術協力基金(TCF)及びIAEA平和的利用イニシアティブ(PUI)
 国際原子力機関(IAEA)の二大目的は原子力の平和利用の促進と核不拡散であり、原子力の平和利用の促進の一環として、途上国を中心に保健・医療、食糧・農業、水資源管理、工業等の非発電分野及び原子力安全等の発電分野における技術協力活動を実施しています。
 技術協力基金(TCF)は、IAEA技術協力活動の主要財源であり、IAEAは、原子力に関する専門性を生かした技術協力活動を行っています。天野IAEA事務局長は、2015年から「平和と開発のための原子力(Atoms for Peace and Development)」を掲げ、IAEAとしても原子力科学・技術を活用した途上国への技術支援を重視し、SDGs達成に取り組んでいます。
 PUIは、2010年5月に開催された核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議において、原子力の平和利用分野を活用したIAEAの技術協力活動を促進するための追加的な財源として設立されました。PUIに対しては、22か国及び欧州委員会が拠出を行っており、これまでに約1億ユーロが拠出されています(2016年12月末現在)。2015年のNPT運用検討会議において、我が国は、PUIに対して5年間で2,500万ドルの拠出を表明しました。我が国は、2015年の表明以降、合計1,533万ドルを拠出(イヤーマーク、ODA、米国に次ぐ拠出額)し、発電分野のみならず、保健・医療、食糧・農業、水資源管理、環境等の非発電分野で、34のプロジェクトに割り当て、127の加盟国に裨益しました。

4) ASEAN、ASEAN+3、東アジア首脳会議(EAS)における協力
 ベトナム、マレーシアなどでは原子力発電の新規導入を目指しており、東南アジア諸国連合(ASEAN 10 )、ASEAN+3(日中韓)及び東アジア首脳会議(EAS 11 :ASEAN+8(日中韓、オーストラリア、インド、ニュージーランド、ロシア、米国))の枠組みにおける原子力協力が活発化しています。
 ASEANの枠組みでは、2008年に設立された原子力安全サブセクター・ネットワーク(NEC-SSN 12 )において、原子力発電に関する情報共有や技術支援が実施されています。2010〜2015年にかけては、原子力安全と核セキュリティの分野における取組が実施されました。NEC-SSNは2016〜2020年にかけて、公衆への情報提供、人材育成、原子力安全、原子力緊急時対応・準備等の分野において、IAEAやFNCA等の国際機関等との協力を進める方針です。2016年4月にはマレーシアにおいて、NEC-SSNの第6回年次会合が開催され、民生原子力分野でのキャパシティ・ビルディングやASEAN地域における原子力安全分野での協力が主要なテーマとして取り上げられました。
 また、ASEAN+3(日本、中国、韓国)及びEAS(日中韓、オーストラリア、インド、ニュージーランド、ロシア、米国)の枠組みでは、2016年9月に開催された第13回ASEAN+3エネルギー大臣会合の共同声明で、クリーンなベースロード電源として原子力発電の重要性を改めて再確認し、原子力安全、核セキュリティ及び核不拡散へのコミットを前提に、各国の経験及び成功事例を共有するなどの協力を促進することが盛り込まれました。また同時に開催された第10回EASエネルギー大臣会合で採択された共同声明では、地域において増大するエネルギー需要の充足とパリで開催されるCOP21での合意に沿った温室効果ガス削減のため、再生可能エネルギーを含むクリーンエネルギー及び低排出化石燃料技術に関する継続的なEAS協力の必要性が確認されています。なお、2015年10月に開催された第9回EASエネルギー大臣会合では、原子力に関心のあるEAS参加国に対して、IAEA基準及びガイダンスを推進・支持することを含め、原子力安全における協力を進めるように促すとの内容が盛り込まれた共同声明が採択されています [3]

5) アジア原子力安全ネットワーク(ANSN)における協力
 ANSNは2002年に開始したIAEAの活動の1つで、東南アジア・太平洋・極東諸国地域における原子力安全基盤の整備を促進し、原子力安全パフォーマンスを向上させ、地域における原子力の安全を確保することを目的としています。参加国間での原子力安全に関する情報、既存・新規の知見を蓄積、分析、共有するため、原子力安全基盤構築に向けた協力活動のための人的ネットワークとサイバーコミュニティの構築に向けた活動を行っています。ANSNには我が国、バングラデシュ、中国、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、フィリピン、シンガポール、韓国、タイ、ベトナムが加盟しているほか、準加盟国としてパキスタン、協力国としてオーストラリア、フランス、ドイツ、米国、欧州委員会が参加しています [4]。我が国は米国及び韓国とともに活動資金を拠出しています。

A 二国間協力
 我が国では、各国に対して、以下の取組を実施しています。

  • 文部科学省による放射線利用分野を含む人材交流
  • 経済産業省資源エネルギー庁による原子力発電導入支援に関する取組
  • 原子力規制委員会原子力規制庁による原子力の新規導入国向け研修
  • 外務省による旧ソ連諸国等での保障措置・核物質防護関連の支援 等

 主な取組の概要は以下のとおりです。

1) 放射線利用技術等国際交流(講師育成・研究者育成)
 文部科学省は1985年から原子力分野での研究交流制度を実施しており、近隣アジア諸国の研究者を日本の研究機関や大学へ受け入れて研究炉や放射線利用施設等を用いた実習等を行うとともに、日本の研究機関や大学からアジア諸国へ原子力の専門家を派遣してきました。
 また同事業では、アジアを対象とした原子力講師の育成事業を実施しており、アジア各国で原子力人材養成に関わっている者を我が国に受け入れて研修を行っています。これに加えて、我が国より相手機関に講師を派遣し、講師育成のための研修を実施しています(図 5-4)。

2) 原子力発電導入支援に関する取組
 経済産業省資源エネルギー庁は、原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対し、我が国の原子力事故から得られた教訓等を共有する取組を行っています。2016年はトルコ、カザフスタン、ポーランドといった国について、原子力発電導入国等からの研修生の受入れ、我が国専門家等の外国への派遣等を通じて、原子力、発電導入に必要な法制度整備や人材育成等を中心とした基盤整備の支援を行いました。

3) 原子力発電所の安全規制に関する国際研修事業
 原子力規制委員会原子力規制庁では、ベトナム、トルコといった原子力新規導入国を対象に、現地の規制当局に対する研修を通じた人的交流を行っています。またANSN等を通じて情報発信も行っています。

4) 各国に対する非核化協力
 旧ソ連時代に核兵器が配備されていたウクライナ、カザフスタン、ベラルーシの3か国は、独立後、非核兵器国としてIAEAの保障措置を受けることとなりました。しかし、技術的基盤を欠いていたため、我が国は3か国に対して国内計量管理制度確立支援や機材供与等の協力を実施し、非核化への取組を支援してきました。


(2)主要国との協力

 原子力には、各国に共通する技術課題や、多額の資金、研究者・技術者の結集が必要な分野が存在するため、国際的な協力の下に研究開発を進めることにより、効率化等を図ることが重要です。また、核燃料サイクルについては、この分野で長年にわたり研究開発を進め、技術を蓄積している先進諸国と協調して、それぞれの開発成果を有効利用し、さらに社会的な理解の促進を図っていくことが重要です。近年、米仏等の原子力先進国とは、原子力を含むエネルギー分野での協力の在り方について継続的な議論を行っています。

@ 国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC)
 国際原子力エネルギー協力フレームワーク(IFNEC 13 )は2006年2月に米国のブッシュ政権(当時)時代に開始された「国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP 14 )」の名称と枠組みを変更して2010年6月に発足しました。GNEPでは、米国がそれまでの使用済燃料の直接処分一辺倒の方針を転換して、再処理技術と高速炉の開発が目指されましたが、米国の政権交代等の影響を受けて2009年6月に中止されました。IFNECは、GNEPの国際協力の枠組みを維持し、原子力安全、核セキュリティ、核不拡散を確保しつつ、原子力の平和利用を促進するための互恵的なアプローチを目指し、参加国間の協力の場を提供することを目的としています。我が国も、原子力の平和利用の拡大に向けて、我が国の経験と知見を活かしながら各国と協力する方針を表明しています [5]
 IFNECは、2016年12月末時点で、参加国34か国、オブザーバー国31か国、オブザーバー機関4機関で組織されています。その組織は、各参加国/機関の閣僚級メンバーで構成される執行委員会、米仏中日の4か国の局長級メンバーにより構成され活動を実施する主体である運営グループ、特定分野での活動を実施するワーキンググループ(WG)の3階層で構成されており、我が国は、運営グループに参加し、副議長を務めています。
 2016年10月には、第7回執行委員会会合がアルゼンチン・ブエノスアイレスで開催され、我が国からは進藤内閣府大臣官房審議官(運営グループ副議長)が政府代表として出席しました。執行委員会会合では、運営グループ、基盤整備WG及び燃料供給サービスWGの活動や、5月に開催された原子力ファイナンス会議についての報告が報告されました。また、運営グループ議長からの提案に基づき、原子力発電所の供給国と需要国との間の対話を促進するためのアドホックグループの設立が、加盟国多数の支持により可決されました。我が国は運営グループ議長及びアルゼンチンとともに、本アドホックグループの共同議長を務めることとなりました。今回の執行委員会会合で採択された共同声明の中では、以下のような優先活動課題とガイダンスが示されました。

<IFNEC第7回執行委員会会合 共同声明のポイント>

  • 運営グループは、新たに原発の供給国と需要国の対話に関するアドホックグループ(アドホック・原子力需給者グループ)を立ち上げる。2017年の執行委員会においては、本グループの成果が報告され、グループを継続するか否かについて決定される。
  • 燃料供給グループWGは、使用済燃料や放射性廃棄物の最終処分に関する国際的な取決めに取り組むために、重要論点を特定し、これに取り組む。
  • 基盤整備WGは、人材養成、規制体系、緊急時対応計画、廃棄物管理等の原子力計画の安全な推進に必要な基盤構築に関わる重要な課題に継続的に取り組む。
  • 事務局は、参加国への調査結果についての分析を継続し、包括的な調査レポートを取りまとめ、2017年の第一四半期までに報告する。

A 米国との協力
 米国とは、2012年4月の日米首脳会談を受けて、包括的な戦略的対話を促進し、民生用原子力の安全かつ安定的な利用、グローバルな核不拡散分野における共通の目的の推進及び東電福島第一原発事故への対応に関連した共同の活動を進めるために、「民生用原子力協力に関する日米二国間委員会」を設置しました。同年7月(東京)の第1回会合で、二国間協力の調整を行うために、核セキュリティ、民生用原子力の研究開発、原子力安全及び規制関連、緊急事態管理、廃炉及び環境管理の5項目に関するワーキンググループが設置されました。
 2015年11月に開催された第4回会合では、これらのワーキンググループの活動状況が報告され、共有された核不拡散の目的の前進における二国間協力を継続する意図が再確認されています [6]。また、核セキュリティに関しては、2016年の第4回米国核セキュリティ・サミットを成功させるために両国が協力すること、サミット後も日米核セキュリティ作業グループ(NSWG)の活動を継続することが確認されました。2014年の第3回ハーグ核セキュリティ・サミットにおいて発表した事項を実施するため、日本と米国は我が国のFCAから高濃縮ウラン(HEU)燃料及びプルトニウムの撤去がタイムリーに完了するよう最大限の努力を続けることになりました。なお、2016年の第4回米国核セキュリティ・サミットにおいて、我が国のFCAから全ての高濃縮ウラン(HEU)燃料及びプルトニウム燃料の米国への撤去を完了したことを発表しました。
 また米国とは2014年以降、「日米エネルギー戦略対話」を開催し、世界のエネルギー情勢、エネルギー安全保障、日米エネルギー協力等について協議を行っています。2014年12月には米国ワシントンD.C.で第1回対話が、2015年11月には東京で第2回対話が開催され、我が国からは外務省、経済産業省及び防衛省の代表者が、米国からは国務省、DOE等の代表者らが参加しました。

B フランスとの協力
 我が国とフランスとは、原子力規制、核燃料サイクル、放射性廃棄物管理等の分野において、長年にわたり協力関係を構築してきました。2011年10月の東京での日仏首脳会談における両国首脳の主導により設置された原子力エネルギーに関する日仏委員会の第6回会合を2016年11月にパリにて開催し、両国の原子力エネルギー及び核燃料サイクルに係る政策、高速炉協力、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・除染等に係る協力、原子炉の第三国展開に係る産業協力、原子力安全規制に係る二国間の協力等につき、意見交換を行いました [7]。産業協力では、アレバ社と三菱重工業(株)が次世代の中型炉のATMEA 1の開発、設計及び普及を行うため、2007年にATMEA社を設立しており、ATMEA 1はトルコのシノップにおいて建設が計画されています。また、高速炉協力では、日仏両国は長年にわたり開発を牽引しており、我が国は2014年に、フランスが開発を進めるASTRID計画に参加しています。

C 英国との協力
 2012年4月に行われた日英首脳会談では、民生原子力分野における二国間協力を強化するため、両国政府高官による年次対話を開始することが決定されました。研究開発、広報、安全規制、廃炉・除染、原子力政策の5つの分野において、両国の協力に関する協議が行われています。2016年11月には、第5回年次対話が開催されました [8]。さらに2016年12月22日、世耕経済産業大臣とクラークビジネス・エネルギー・産業戦略大臣は、民生原子力分野における両国の協力を強化する覚書に署名しました。協力分野は、廃炉及び除染、研究及び開発、世界的な安全性並びにセキュリティの取組、新規原子力発電所建設の4分野が挙げられています [9]


(3)資源外交の強化

 我が国では、多国間の国際エネルギー枠組みを活用し、エネルギーの安定供給確保に向けた取組を進めるとともに、二国間の協力を通じて、エネルギー供給国との関係強化を行っています。ウラン資源確保のためには、以下のような取組を推進しています。

・カザフスタン
 カザフスタンは、ウラン資源埋蔵量が世界第2位という資源国であり、我が国へのウラン供給拡大の潜在性が大きいものと認識されています。原子力産業・技術の高度化等広範囲な分野への協力関係拡大を目指しています。
 2016年11月の日カザフスタン首脳会談でも、原子力分野での協力強化について合意されました。

・オーストラリア
 資源国であるオーストラリアは、我が国にとって、石炭、液化天然ガス、ウラン等の資源エネルギーの分野において重要なパートナーです。2014年6月には、1985年以来続けている日豪エネルギー高級事務レベル協議の第35回協議をブリスベンにて開催し、両国のエネルギー・鉱物資源政策や電力市場改革、エネルギー技術等について意見交換を行いました。


(4)原子力分野における国際協力の進展

 原子力発電の導入に当たっては核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保が不可欠です。我が国はそうした観点から、二国間原子力協力を行うに際しては、相手国に対しIAEA保障措置制度に関する追加議定書などの関係条約の締結を求めるとともに、必要な場合には相手国における核不拡散、原子力安全及び核セキュリティの確保のための基盤整備支援を行っています。また、二国間原子力協定は、特に原子力の平和利用の推進と核不拡散の確保の観点から、原子炉のような原子力関連資機材等を移転するに当たり移転先の国からこれらの平和利用などに関する法的な保証を取り付けるために締結するものです。2017年8月末時点で、我が国は、カナダ、オーストラリア、中国、米国、フランス、英国、欧州原子力共同体(ユーラトム 15 )、カザフスタン、韓国、ベトナム、ヨルダン、ロシア、トルコ、アラブ首長国連邦及びインドとの間で原子力協定を締結しています。なお、最近の、我が国を含む主要国(米国、フランス、英国、中国、ロシア、インド)における二国間原子力協定に関する主な動向は以下のとおりです(表 5-1)。

表 5-1 諸外国における二国間の原子力協定に関する最近の主な動向(過去3年間)

(出典)各国関連機関発表に基づき作成


(5)国際機関への参加・協力

 IAEAやOECD/NEAにおいては、原子力施設及び放射性廃棄物処分の安全性、原子力の開発や核燃料サイクルにおける経済性、技術面での検討等、技術的側面を中心にこれに政策的側面を併せた活動が行われています。

コラム 〜IAEA総会〜

 IAEA総会は、毎年1回、加盟各国の閣僚級代表が参加してウィーン(オーストリア)のIAEA本部で開催されています。2016年9月26〜30日に第60回総会が開催され、日本政府代表として石原内閣府副大臣が出席し、26日には政府代表として一般討論演説を行い、以下のような日本の取組について説明し、原子力の平和利用の促進と核不拡散の強化に一層貢献していく決意を改めて表明しました [10]

  • 日本の原子力政策(重要なベースロード電源としての原子力の位置付け、立地自治体の理解を得ながら、新規制基準を満たした原子力発電所の再稼動の推進)
  • 東電福島第一原発事故への対応(廃炉・汚染水対策や環境回復の着実な進展の説明、日本産食品の安全確保の取組や科学的根拠に基づく対応の呼びかけ)
  • 原子力安全強化(国際協力の重要性の強調と貢献への意志の表明)
  • グローバル課題(天野事務局長が掲げる「平和と開発のための原子力」への支持、及びIAEAによる技術協力への日本の貢献)
  • 核セキュリティの強化(IAEAの中心的役割への支持、及び日本の貢献)
  • 核不拡散体制強化のための取組(アジア地域の不拡散強化に向けた日本の取組及び北朝鮮の核問題やイラン核合意に対するIAEAの対応の支持)等

IAEA総会で演説する石原内閣府副大臣)

(出典)内閣府ウェブサイト「IAEA第60回総会」 16

また我が国出身の天野事務局長は、総会初日冒頭の演説において、過去60年間にわたる国際の平和と安全へのIAEAの貢献を強調しつつ、国連の持続可能な開発目標(SDGs 17 )達成に向けた貢献、深刻な懸念である北朝鮮の核問題への対応、イランの核合意の監視・検証の取組、原子力発電を行っている国に対する原子力安全や核セキュリティ分野における支援の実施、原子力安全や核セキュリティの強化のためのIAEAの取組等について説明した。

第60回IAEA総会での天野事務局長の演説

(出典)IAEAウェブサイト「General Conference Day 1 Highlights」 18

@ 原子力安全の高度化
 IAEAを中心として、加盟国の原子力安全の高度化に資するべく国際的な規格基準の検討・策定が行われています。IAEA憲章に基づき、原子力施設、放射線防護、放射性廃棄物及び放射性物質の輸送に係るIAEA安全基準文書 19 が作成され、加盟国において国際的に調和のとれた安全基準類の導入等に貢献しています。我が国も安全基準類の継続的な見直し活動に協力しており、2015年11月と2016年4月に開催された第38回、第39回の安全基準委員会には、我が国から原子力規制委員会の更田委員が参加しています。

A 原子力発電の導入に当たっての基盤整備
 IAEAは、原子力発電の新規導入国向けに、導入に当たって検討課題となる項目(19項目)と、導入の各段階における達成目標を記したマイルストーン文書を作成し、原子力導入を支援しています。この文書は2008年10月の発行から見直されており、2015年7月に最新版が発行されました [11]。マイルストーン文書作成のほかにもIAEAは、原子力導入において必要なインフラについて、マイルストーン文書に示された19項目を使って評価する総合原子力インフラレビュー(INIR 20 )を実施する等、基盤整備に関する取組を継続して行っています。我が国では、これらIAEAの活動に対して特別拠出金により支援を行う他、IAEAと協力して、世界各国の将来の原子力エネルギー計画を策定・管理するリーダーとなる人材の育成を目的とする「IAEA 原子力エネルギーマネジメントスクール」のアジア版を2012年以降毎年日本で開催しています。2016年7月に東京及び東海村で開催された第5回マネジメントスクールでは、原子力委員会の岡委員長をはじめ様々な専門家による原子力利用に関する講義や原子力関連施設の見学、研修生によるグループワーク等を行いました。

B OECD/NEAを通じた原子力安全研究
 NEAはOECDの専門機関として、1958年に欧州原子力機関(ENEA 21 )として発足し、1972年に我が国が欧州以外の国として初めて参加したことを受け、現在の名称に改められました。NEAでは、加盟国間の協力を促進することにより、安全かつ環境的にも受け入れられる経済的なエネルギー資源としての原子力エネルギーの発展に貢献することを目的としています。2016年12月末時点で31か国(ニュージーランドを除くOECD加盟国)が参加しています。このほか、ロシアがNEAの全活動に、ブルガリア、リトアニア、ルーマニア、ウクライナ、台湾等が一部の活動においてオブザーバー参加しています。運営委員会が年2回開催され、政策的な決定が行われるとともに、7つの常設技術委員会、1つの管理委員会及びその下部に設置されたワーキンググループがその実施を担っています。
 我が国では、原子力の研究・開発に必要な核データ等の提供といったデータバンク事業への参加に加え、NEA BSAF等の共同研究に参加しています。2012年に開始されたBSAFは、シビアアクシデントの解析コードの高度化、炉心溶融した東電福島第一原発1〜3号機の現状の分析、廃止措置に関する情報の提供を目的としています。2015年にはプロジェクトの第2フェーズが開始されており、我が国も含めた11か国が参加しています [12]
 また我が国はNEAが各国規制機関の協力を強化し、新設計原子炉の安全性向上のための参考となる規制実務、基準確立を目的として2006年に開始した多国間設計評価プログラム(MDEP 22 )にも参加しています。MDEPには2016年12月末時点で15か国及びIAEAが参加しています。

C 福島県IAEA緊急時対応能力研修センター
 福島第一原発事故後,IAEAと我が国は事故対応と国際的な原子力安全強化のため緊密に協力してきました。2012年12月には,我が国とIAEAの共催で原子力安全に関する福島閣僚会議を開催し、同会議で、IAEAと外務省との間で、国際的な原子力安全強化に係る実施取決めに署名しました。同実施取決めに基づき、2013年5月、IAEAは、福島県に原子力事故対応等のためのIAEA初となるRANET 23 の研修センター 24 を指定しました。我が国のIAEAへの拠出金を通じて、これまで放射線モニタリング、リスクコミュニケーション等をテーマに各国の原子力事故対応等に関わる政府関係者に向けて、合計18回 25 のワークショップを実施し、約60ヶ国から約400名が参加しました。
 本事業を通じて、福島の経験を国際社会に共有し、国際的な原子力安全への貢献が期待されるとともに、権威ある国際機関の拠点として世界各地より来訪者を受け入れ,福島の復興への貢献が期待されます。
 2017年より、原子力技術を活用した、建造物の強度測定に関する機材(非破壊検査機材)を活用、自然災害に対する準備及び対応能力に向上に関するワークショップを開催しており、キャパシティ・ビルディングの活動拠点としての機能を原子力災害から自然災害の分野まで拡大しております。


  1. Forum for Nuclear Cooperation in Asia
  2. Regional Cooperative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology
  3. Asian Nuclear Safety Network
  4. http://www.aec.go.jp/jicst/NC/sitemap/fnca_20161130.htm
  5. Terms of Reference
  6. http://www.fnca.mext.go.jp/panel/panel4_01.html
  7. Asian Nuclear Training and Education Program
  8. Malaysian Nuclear Agency
  9. http://www.fnca.mext.go.jp/english/hrd/antep/about.html
  10. Association of Southeast Asian Nations
  11. East Asia Summit
  12. Nuclear Energy Cooperation Sub-sector Network
  13. International Framework for Nuclear Energy Cooperation
  14. Global Nuclear Energy Partnership
  15. EURATOM(European Atomic Energy Community)
  16. https://www.cao.go.jp/minister/1608_h_ishihara/photo/2016-003.html
  17. Sustainable Development Goals
  18. https://www.iaea.org/newscenter/news/general-conference-day-1-highlights-26-September-2016
  19. 安全原則(Safety Fundamentals)、安全要件(Safety Requirements)、安全指針(Safety Guides)の3段階の階層構造となっており、各国の上級政府職員で構成される安全基準委員会で承認を経て策定されます。現在、約120報の安全基準文書が策定されています。
  20. Integrated Nuclear Infrastructure Review
  21. European Nuclear Energy Agency
  22. Multinational Design Evaluation Program
  23. Response and Assistance Network(緊急時対応援助ネットワーク): 2000年にIAEA事務局により設立された原子力事故又は放射線緊急事態発生時の国際的な支援の枠組みです。現在参加国は日本を含む31ヶ国です。
  24. Capacity Building Centre(CBC)
  25. 合計18回の内、3回は国内自治体向けのワークショップです。これまで、新潟県、佐賀県、青森県等の自治体から参加しました。

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