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第4章 原子力の研究開発

 実用化された原子力エネルギー利用技術は、我が国のエネルギー安定供給とエネルギー消費に伴って排出される温室効果ガス量の低減に貢献し、また、放射線利用技術は、学術の進歩、産業の振興、国民の福祉、生活の水準向上に大きく寄与しています。
 東電福島第一原発事故後、福島の着実な復興・再生に向けて、国の総力を挙げて、廃炉・汚染水対策や汚染された環境の回復に関する研究開発が進められています。また、事故の教訓を踏まえ過酷事故対策を含めた安全性向上に資する技術や、使用済燃料を含む放射性廃棄物処分に資する研究開発にも取り組む必要があります。
 これらの長期間にわたる研究開発を着実に実施していくためには、人材の維持・育成や、技術・知識の継承が必要です。我が国では政府や研究開発機関、大学、民間企業等が、原子力利用の安全性向上や、新しい原子力科学・技術を実用化していくための原子力の研究開発に取り組んでいます。


(1)原子力の研究開発に関する政策の基本的考え方

 第5期科学技術基本計画(2016年1月閣議決定)では、「第3章 経済・社会的課題の対応」の「エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化」の中で、「安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発を推進する。さらに、将来に向けた重要な技術である核融合等の革新的技術、核燃料サイクル技術の確立に向けた研究開発にも取り組む」としています [1]
 第4次エネルギー基本計画の「第4章 戦略的な技術開発の推進」で、取り組むべき技術課題として、原子力については「万が一の事故のリスクを下げていくため、過酷事故対策を含めた軽水炉の安全性向上に資する技術や信頼性・効率性を高める技術等の開発を進める。また、放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、安定した放射性廃棄物の最終処分に必要となる技術開発等を進める」としています [2]


(2)原子力の研究開発に関する取組と現状

@ 原子力安全研究
 東電福島第一原発以外の廃止措置を含めた軽水炉の安全技術・人材の維持・発展を図るため、経済産業省では「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」を策定し、継続的にローリングを行うとともに、2012年度より、発電用原子炉等安全対策高度化技術基盤整備事業を実施しています。原子力機構、量研機構等の国内の研究機関は、IAEA等の国際機関及び諸外国の研究機関とも連携して安全研究を実施しています。
 また、原子力規制委員会は、「規制基準等の整備に活用するための知見の収集・整備」、「審査等の際の判断に必要な知見の収集・整備」、「規制活動に必要な手段の整備」、「技術基盤の構築・維持」を目的とした安全研究を実施しています。
詳細は、第2章2−1に記載しています。

A 東電福島第一原発事故を踏まえた研究開発
 東電福島第一原発の廃止措置は、技術的難易度が極めて高い多くの課題を伴う中長期的な取組です。この取組を実効的かつ効率的に実施していくには、国内外の英知を結集して研究開発に取り組むとともに、東電福島第一原発事故の際に放出された放射性物質により汚染された環境の回復に向けた研究開発も進められています。
 経済産業省は、技術的難易度が高い課題について、現場での活用を目指した要素技術等の開発等を支援しています。文部科学省は、燃料デブリ取り出しや、廃棄物処理を含めた環境対策に関する基礎・基盤研究を支援しています。また、原子力機構は、廃止措置に向けた研究開発と人材育成を一体的に進めるため、福島県富岡町に「廃炉国際共同センター国際共同研究棟」を整備するとともに、遠隔操作機器の開発・実証試験を行う施設として、福島県楢葉町に「楢葉遠隔技術開発センター」を整備しました。加えて、東電福島第一原発から発生する燃料デブリやさまざまな放射性廃棄物の分析・研究を行うため、福島県大熊町に「大熊分析・研究センター」の整備等を行っています。
 福島県は、2012年12月にIAEAとの間で締結した「放射線モニタリング及び除染の分野における協力覚書」に基づいて、除染技術の検討や放射性物質の動態調査等の協力プロジェクトを進めています [3]。加えて、環境の回復・創造に取り組むための調査研究及び情報発信、教育等を行う総合的な拠点施設として、福島県三春町に環境創造センターを設置し、同センターでは2015年10月より福島県、国環研、原子力機構の三機関が協働して活動を開始しています。
 詳細は、第1章1−4に記載しています。

B 原子力研究開発の取組
1) 基礎的・基盤的な研究開発
 文部科学省では、基礎的・基盤的な研究の充実・強化を図るため、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」を開始し、競争的環境の下で大学等における研究を推進しています。同事業は、早急な対応が求められる原子力分野の課題に正面から向き合い、課題解決に貢献することを目的として、@戦略的原子力共同研究プログラム、A廃炉加速化研究プログラム、B廃止措置研究人材育成等強化プログラムの3つのプログラムを設定し、研究開発を推進しています [4]
 原子力機構は、原子力に関する総合的研究開発機関として、核工学・炉工学研究、燃料・材料工学研究、環境・放射線工学研究、先端基礎研究、高度計算科学技術研究等、原子力の持続的な利用と発展に資する基礎的・基盤的研究等を総合的に推進しています。核工学・炉工学研究では、原子炉設計のみならず放射線医療や宇宙物理研究等で広く利用されている汎用評価済み核データライブラリーの整備を [5] [6]、燃料・材料工学研究では、事故時等の燃料挙動評価手法の基盤整備の研究を行っています [7]。また、環境・放射線科学研究では、事故時の放射性物質の大気拡散解析を行う世界版緊急時環境線量情報予測システムWSPEEDI-IIの開発 [8]を、計算科学技術研究では、スーパーコンピュータ京を用いて、セシウムの粘土鉱物への吸着様態の解明を目指した原子レベルのシミュレーション研究 [9]や、部品単位の詳細度で原子力施設全体の耐震評価を行う組立構造解析手法の高度化 [8]を行っています。
 また、2016年4月には、原子力機構の核融合研究開発部門と量子ビーム応用研究の一部と放医研を統合し、量研機構が発足しました。量子科学技術についての基盤技術から重粒子線がん治療や疾病診断研究等の応用までを総合的に推進する体制となっています。また、これまで放医研が担ってきた放射線影響・被ばく医療研究についても引き続き実施するとともに、東電福島第一原発事故対応を教訓として、放射線影響に対する研究成果を平易な言葉で国民に伝えることを意識した取組が期待されています。

2) 核融合研究開発
 核融合エネルギーは、軽い原子核同士(重水素、三重水素)が融合してヘリウムと中性子に変わる際、質量の減少分がエネルギーとなって発生します。
 エネルギーの将来的かつ長期的な安定供給に期待されるエネルギー源として、核融合研究開発は、1950年代に本格的に開始され、段階的に推進しています。現在、量研機構、「大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 核融合科学研究所」(以下「核融合科学研究所」という。)と大学等が相互に連携・協力して核融合研究開発を進めています。
 国際熱核融合実験炉(ITER)計画は、核融合エネルギーの科学的技術的実現可能性を実証することを目指す国際共同プロジェクトであり、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国及びインドの7極により進められています(図 4-1) [10]。2007年のITER国際核融合エネルギー機構の発足後、2020年運転開始、2027年核融合運転開始を目標として建設作業が進められてきました。しかし、建屋や主要機器の一部の製作スケジュールが遅延し、スケジュールの見直しが行われた結果、2016年11月に、2025年に運転開始、2035年に核融合運転開始を目標とするスケジュールに見直されました [11]

図 4-1 ITERの概要

(出典)国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構ウェブサイト「ITERって何?」 [10]

 我が国は、ITER計画を実施する国際機関であるITER機構(本部:フランス)との調達取り決めに基づき、超伝導コイルなどの主要機器等の製作において欧州に次いで多くを分担するなど、ITER計画の推進に大きな役割を担っています。2015年12月には、我が国が調達したプラズマ加熱装置用の超高電圧電源がイタリアに輸送され、建設中の中性粒子入射加熱装置実機試験施設への据付が開始されました。
 また、幅広いアプローチ(BA 1 )活動は、ITER計画を補完・支援するとともに、核融合原型炉に必要な技術基盤を確立することを目的とした先進的研究開発プロジェクトであり、日欧協力により、我が国で実施しています。我が国では量研機構が実施機関となっており、青森県六ヶ所村では、核融合原型炉の概念設計や研究開発、シミュレーション研究のための高性能計算機の運用などを行うとともに、核融合原型炉に必要な高強度材料の開発を行う施設の設計・要素技術の開発を進めています。さらに、茨城県那珂市では、先進超伝導トカマク装置JT-60SAを建設し、核融合原型炉建設に求められる安全性・経済性等のデータの取得や、ITERに先立ち取得した様々な予備的データによりITERの運転開始や技術目標達成の支援を目指すなどの取組が進められています。
 我が国は、上記プロジェクトのほか、IAEAや経済協力開発機構(OECD 2 )国際エネルギー機関(IEA 3 )の枠組みでの多国間協力、米国、欧州、韓国、中国との二国間協力も推進しています。これらの協力を通じて、ITERでの物理的課題の解決のために国際トカマク物理活動(ITPA 4 )で実施されている装置間比較実験へ参加するとともに、韓国や中国の超伝導トカマク装置での実験に参加しています。
 国内における研究開発としては、将来の原型炉開発を目標に、トカマク方式、ヘリカル方式、レーザー方式の3方式を中心とした核融合研究開発が進められるとともに、大型計算機システムを活用したシミュレーション研究が実施されています。
 量研機構は、2015年7月、核融合科学研究所及び名古屋大学との共同研究にて、スーパーコンピュータ「京」を活用したプラズマ乱流のシミュレーションにより、核融合プラズマ中に存在する幅広いスケールに及ぶ乱流間の相互作用存在とそのメカニズムを明らかにしました [12]。核融合科学研究所では、ヘリオトロン磁場による大型ヘリカル装置(LHD)を建設し、全国の関連分野の研究者による共同利用・共同研究に供しています。また、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターにおいては、2009年に完成した超短パルスレーザー装置(LFEX)の高出力化を進めるとともに、レーザー方式の先駆的・基礎的研究を実施しています。このほか、他の大学等においても、各種閉じ込め方式による基礎的研究、炉工学に係る要素技術等の研究が進められています。

3) 高温ガス炉研究開発
 高温ガス炉は、高い固有の安全性を有するため、異常事態に対処するための設備が簡素化できる大きな利点があります。また、高温の熱を供給できるため、発電のみならず水素製造のための手段としても利用するなど、原子力エネルギー利用の選択肢を広げることができます。
 原子力機構では、高温ガス炉の基盤技術の確立を目指し高温工学試験研究炉(HTTR)での運転・試験を進めています。HTTRは、2007年5月に定格出力3万kW、原子炉出口冷却材温度850℃で2010年3月には、約950℃での連続運転を実現しました。固有の安全性を確認するための安全性実証試験を2003年から開始し、2010年に出力30%において炉心の強制冷却が喪失した時の安全性を確証しました。また、原子炉の核発熱を利用することで二酸化炭素を放出しない革新的水素製造技術(熱化学ISプロセス)の開発を着実に進め、2016年に工業材料製の試験設備において約31時間の水素製造試験を実施しました。

 さらに、2017年5月に日・ポーランド外相会談で署名された「日・ポーランド戦略的パートナーシップの実施のための行動計画(2017-2020)」において、原子力機構とポーランド国立原子力研究センターの高温ガス冷却炉技術の研究・開発に向けた協力が奨励され、両機関で積極的な協力が進められています。
 文部科学省では、2014年、科学技術・学術審議会 原子力科学技術委員会の下に、「高温ガス炉技術研究開発作業部会」を設置して高温ガス炉技術の開発の必要性と方向性について検討し、「高温ガス炉技術開発に係る今後の研究開発の進め方について」報告書をとりまとめました。現在は、「高温ガス炉技術研究開発作業部会」の下に、「高温ガス炉協議会」を設置し、高温ガス炉の将来的な実用化像やそれに向けた研究開発課題、海外戦略等について議論を進めています。

4) 国際協力
 革新的な原子炉や核燃料サイクル技術(革新的原子力システム)に関する研究開発は、実用化に至るまで長い時間と膨大な資源が必要です。そのため、人的・資金的資源を分担し、成果を共有する国際的な枠組みで進めることが合理的であるという認識のもと、国際協力の枠組みを活用して研究開発を進めています。

[革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO)]
 革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト(INPRO 5 )は、増加するエネルギー需要への対応の一環として、2001年5月にIAEAの呼びかけにより発足したプロジェクトです。安全性、経済性、核拡散抵抗性などを高いレベルで実現する革新的システムの整備のための国際協力を目的としています。我が国は2006年から参加しており、2016年12月時点で、41か国と1機関(欧州委員会(EC 6 ))が参加しています。これまでに革新的システムの評価方法を開発しており、2006年からはこの評価方法を活用し、複数の技術協力プロジェクトを実施するとともに、2050年までを見通した原子力エネルギー利用のビジョンとこれを実現するための制度基盤の検討などを行っています。

[第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)]
 第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF 7 )は、「持続可能性」、「経済性」、「安全性・信頼性」及び「核拡散抵抗性・核物質防護」の開発目標の要件を満たす次世代の原子炉概念を選定し、その実証段階前までの研究開発を国際共同作業で進めるためのフォーラムです。米国エネルギー省(DOE)の提唱により2001年に発足し、2016年12月時点で、13か国と1機関(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、日本、韓国、ロシア、南アフリカ、スイス、英国、米国及び欧州原子力共同体(EURATOM 8 ))が参加しています 9 。現在、第4世代原子力システムに求められている達成目標を満足し、2030年代以降に実用化が可能と考えられる6候補概念(@ガス冷却高速炉、A溶融塩炉、Bナトリウム冷却高速炉(混合酸化物(MOX)燃料、金属燃料)、C鉛冷却高速炉、D超臨界圧水冷却炉、E超高温ガス炉)を対象に、多国間協力で研究開発を推進するとともに、経済性、核拡散抵抗性・核物質防護及びリスク・安全性についての評価手法検討ワーキンググループで横断的な評価手法の整備を進めています。

5) 高速炉に関する研究開発
 高速炉及びそのサイクル技術(高速炉サイクル技術)は、使用済燃料に含まれるプルトニウムやマイナーアクチノイドを燃料として再利用する技術です。第5期科学技術基本計画 [1]及び第4次エネルギー基本計画 [2]においては、研究開発に取り組むこととしています。第3章3-1-2にいて、最近の高速炉に関する動向を掲載しております。

〈高速実験炉「常陽」〉
 高速実験炉「常陽」は1977年4月の初臨界以来、高速増殖炉の開発に必要なデータや運転経験を着実に蓄積しています。これまでに、累積運転時間約70,798時間、累積熱出力が約62.4億kW(発電設備を有しないため電気出力はない)に達しており、588体の運転用燃料、220体のブランケット燃料及び101体の試験燃料等を照射し、高速炉炉心での燃料集合体や燃料ピンの安全性と照射特性を明らかにしてきました。現在は、2007年11月に確認された燃料交換機及び炉心上部機構と計測線付実験装置試料部との干渉により運転を停止しています。原子力機構は2009年7月に原因究明と対策等を取りまとめ、復旧作業を進めていましたが、2015年6月に作業を完了しました。2017年3月には再稼働に向けて、原子力機構は、新規制基準への適合性審査に係る設置変更許可申請を行いました。

〈高速増殖原型炉「もんじゅ」〉
 高速増殖原型炉「もんじゅ」(図 4-3)については、1995年12月の2次主冷却系ナトリウム漏えい事故後、原子力機構が、ナトリウム漏えい対策のための改造工事及び安全性総点検を実施し、2010年5月に炉心確認試験のための運転を再開しました。しかし同年8月、燃料交換作業中に炉内中継装置を落下させるトラブルが発生し、再びプラントは停止状態となりました。その後、保守管理等の不備に係る種々の問題が次々と発覚したため、原子力規制委員会は原子力機構に対し、二度にわたり法令に基づき、保安のために必要な措置を講じるよう命令等を発出するとともに、主務省である文部科学省に対しても適切な監督を行うよう要請しましたが、十分な改善が見られていないとして、2015年11月、文部科学大臣に対して、おおむね半年を目途として、原子力機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること等を検討の上、これらについて講ずる措置の内容を示すよう勧告しました [13]。これを受けて、文部科学大臣の下に「もんじゅの在り方に関する検討会」が設けられ、2016年5月にもんじゅの運営主体の要件等に関する報告書が取りまとめられました [14]
 このようなもんじゅの状況や、高速炉研究開発協力に関する国際協力の進展等を踏まえ、2016年10月より高速炉開発会議にて議論が行われた結果、(1) 東電福島第一原発事故後に原子力規制委員会が策定した新規制基準へ対応し、運転を再開するには最低でも8年間の準備期間を要し、そのために必要となる多額の費用は、もんじゅ運転再開で得られる知見による今後の実証炉開発コストの低減効果に見合うとは言えないこと、(2) 日仏高速炉開発協力など国際的な高速炉研究開発が進められており、もんじゅ再開により得られる知見については別の方策により獲得が見込まれること、などから、運転再開はせず、今後、廃止措置へ移行し、あわせてもんじゅの持つ機能を出来る限り活用し、今後の高速炉研究開発における新たな役割を担うよう位置付けることとしました。また、将来的にはもんじゅサイトを活用し、新たな試験研究炉を設置することで、もんじゅを含む周辺地域を我が国の今後の原子力研究や人材育成を支える基盤となる中核的拠点となるよう位置付けるとの方針が示されました [15]

図 4-3 高速増殖原型炉「もんじゅ」

(出典)原子力機構高速増殖原型炉もんじゅ/もんじゅ運営計画・研究開発センターウェブサイト「もんじゅとは」 10

〈第4世代ナトリウム冷却高速炉実証炉(ASTRID)への日仏協力〉
 2014年5月、第4世代原子炉ASTRID計画及び高速炉協力に係る日仏政府機関間の取決めの署名がなされました。ASTRIDは、フランスが開発を進めている実証炉で、安全性・信頼性の実現と、放射性廃棄物の減容・有害度低減を目的としています。
 我が国は、原子力機構が中心となり、ナトリウム冷却高速炉の安全性向上のための共同設計を実施しています。また、安全性や原子炉技術、燃料等に関する共同研究を進めるとともに、原子力機構の施設を用いた試験について、共同で計画の立案を行っています。

C 研究用原子炉等の活用
 研究用原子炉等は、我が国の原子力研究開発基盤を支えるとともに、原子力人材を養成する場として必須のものです。原子力機構及び大学等の試験研究炉や臨界実験装置が、最も多い時期には20基程度運転していましたが、現在は9基までに減少し(図 4-4)、さらに老朽化も進んでいます。また、東電福島第一原発事故以降は、新規制基準対応のため全ての研究炉が一旦、休止しました。このような現状を踏まえ、原子力委員会は2016年4月に研究用原子炉等に関する見解を取りまとめ、全研究炉の休止による人材育成や研究開発に深刻な影響が及んでいること、運転を再開した場合も高経年化対策や廃止措置等の課題があることを指摘しました。また、人材育成や研究開発等の観点から優先度の高い研究炉に対して、集中的に人的資源・経営資源を投入し、規制対応等を進めるべきであるとし、原子力機構においては大学等研究期間・民間企業に対する施設・設備供用の一層の促進を図ることが望ましいとの見解を示しました [16]。なお、2016年5月に京都大学の京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)及び近畿大学の近畿大学炉、2016年9月に京都大学の京都大学炉(KUR)について、新規制基準への適合に係る設置変更が規制委員会により許可(承認)され、使用前及び定期検査合格を経て、2017年3月に近畿大学炉、6月にKUCAがそれぞれ運転を再開しました。

 原子力機構は2016年10月に「施設中長期計画案」を発表し、研究用原子炉を含む全原子力施設について集約化・重点化を図り、継続利用施設について安全対策を進める方針を示しています。施設の集約化・重点化に当たっては、最重要分野とされる「安全研究」及び「原子力基礎基盤研究・人材育成」に必要不可欠な施設を継続利用とする方針です。さらに、東電福島第一原発事故への対処、高速炉研究開発、核燃料サイクルに係る再処理、燃料製造及び廃棄物の処理処分研究開発といった原子力機構の使命達成に必要不可欠な施設についても、継続利用とする方針です。2017年度予算の決定等を受け、2017年3月末に同計画を取りまとめました [17](図 4-5)。

図 4-5 原子力機構における施設の集約化・重点化計画

(出典)原子力機構「施設中長期計画の概要」(2017年)

〈材料試験炉(JMTR)〉
 原子力機構の材料試験炉(JMTR 11 )は、1968年に初臨界を達成して以来、発電用軽水炉の燃料や構造物の材料等の照射試験、大学を中心とした基礎研究、人材育成、ラジオアイソトープの製造等に広く利用されてきました。JMTRは2006年に一旦停止した後、2007から老朽化した機器の更新を行い、再稼動後は産業界等に広く開放して軽水炉の高経年化対策や次世代軽水炉の開発のほかITERに係る研究開発等の科学・技術水準の向上等への貢献が期待されていましたが [18]、原子力機構が2017年3月末に発表した施設中長期計画では廃止検討施設とされています。

〈JRR-3、JRR-4〉
 原子力機構の研究炉JRR-3 12 は、中性子ビーム実験及び材料照射が可能な高性能汎用研究炉として、原子力の基礎研究、大学の共同利用、民間利用に広く供され、中性子散乱実験、材料照射試験、医療用ラジオアイソトープ製造、NTDシリコン半導体の製造等に利用されています。2014年9月に新規制基準への適合性確認に係る申請を行い、審査対応を進めています。
 また、原子力機構の研究炉JRR-4 13 は、利用者の希望により出力や運転時間、パターンを容易に変更できる特長を生かし、医療照射(ホウ素中性子捕捉療法(BNCT 14 ))、原子力技術者の研修等に利用されていました。しかし、2013年9月に策定された「日本原子力研究開発機構の改革計画」において廃止が決定されました。その後、2015年12月に原子力規制委員会に廃止措置計画の申請が行われ、2017年6月に同計画が認可されました。

D 厚い知識基盤の構築
 新しい技術を市場に導入するのは主として事業者である一方、技術創出に必要な新たな知識や価値を生み出すのは研究開発機関や大学であり、両者の連携や協働は重要です。欧米では、事業者と研究機関・大学が知識基盤を共有しつつ、それぞれの強みを活かして連携・協働が図られています。ところが、我が国の原子力分野では、このような連携が十分とは言えず、科学的知見や知識も組織ごとに存在している状況です。このような現状を踏まえ、原子力委員会は、2016年12月に軽水炉利用に関する見解を取りまとめた際に、原子力を取り巻く分野横断的・組織横断的な連携が不十分であると考えられ、欧米における取組等も参考に、産業界と研究機関・大学をまたぐようなネットワークや、省庁横断的な体制の構築等、早急に仕組み作りを検討すべき旨を指摘しました [19]

コラム 〜欧米における研究開発機関と産業界の連携・協働〜

 欧州や米国では、研究開発機関や大学と原子力事業者等の産業界が知識基盤を共有しつつ、それぞれの強みを活かして補完的に連携・協働しながら軽水炉技術の向上等が図られています。研究機関だけでなく、政府、規制機関、産業界が連携する取組の代表事例として、欧州におけるNUGENIA、米国における軽水炉持続プログラムLWRS 15 が挙げられます。

<欧州のNUGENIA>
 NUGENIAは、安全で信頼性、競争力のある第二、第三世代の核分裂技術を実現するために、2012年に設置された研究開発の枠組みで、欧州を中心とした政府、企業、研究機関、大学の103のメンバーが参画しています。具体的には、原子炉安全、リスク評価、過酷事故、原子炉の運転改善、軽水炉技術の向上等の分野をターゲットとして、産業界、研究開発機関等が連携し、知識基盤の構築や付加価値の高い研究開発結果の実用化を目指しています。

<米国の軽水炉持続プログラム>
米国ではエネルギー省(DOE)が軽水炉持続プログラム(LWRS)を実施し、既存炉の寿命延長を目刺しつの研究領域(材料の経年劣化、原子炉安全、リスク情報を活用した安全裕度の評価、計測・制御・情報システムの改良)を設定し、研究開発を支援しています。本プログラムでは、アイダホ国立研究所を中心とした国立研究所のインフラ・資源を活用するとともに、米国の電力研究所(EPRI)を中心とした産業界と連携・協働して展開するとともに、NRCとも連携しています。


  1. Broader Approach
  2. Organization for Economic Co-operation and Development
  3. International Energy Agency
  4. International Tokamak Physics Activity
  5. International Project on Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles
  6. European Commission
  7. Generation IV International Forum
  8. European Atomic Energy Community
  9. ただし、枠組み協定にアルゼンチンとブラジルは未署名、英国は署名していますが未批准で、オーストラリアは署名準備中です。
  10. https://www.jaea.go.jp/04/turuga/monju_site/page/facilities.html
  11. Japan Materials Testing Reactor
  12. Japan Research Reactor No.3
  13. Japan Research Reactor No.4
  14. Boron Neutron Capture Therapy
  15. Light Water Reactor Sustainability

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