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第1章 東電福島第一原発事故への対応と復興・再生の取組

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)の事故(以下「東電福島第一原発事故」という。)は、福島県民をはじめ多くの国民に多大な被害を及ぼし、これにより、我が国のみならず国際的にも、原子力への不信や不安が著しく高まり、原子力政策に大きな変動をもたらしました。今後、原子力利用を続けていく上では、放射線リスクへの懸念等を含むこうした不信・不安に真摯に向き合い、その軽減に向けた取組を一層進めていくとともに、事故の発生を防止できなかったことを反省し、得られた教訓を活かしていくことが重要です。

1-1 東電福島第一原発事故の調査・検証

 東電福島第一原発事故の後、国内外の諸機関が事故の調査・検証を行い、多くの提言等を取りまとめて公表しています。事故原因について解明できていない点があるとともに、事故の社会への影響は現在も続いていることから、事故原因や被害の実態を明らかにする取組が引き続き必要です。


(1)東電福島第一原発事故に関する調査報告書

@ 国内外の諸機関による調査・検証
 我が国では、「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」(平成23年法律第112号)に基づき、国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下「国会事故調」という。)が事故の調査等を行い、2012年7月に報告書を公表しました [1]。閣議決定に基づき、政府に設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(以下「政府事故調」という。)も同様に2012年7月に報告書を公表しました[2]。民間では、例えば、事故の当事者である東京電力株式会社 1 (以下「東京電力」という。)が、社内の「福島原子力事故調査委員会」及び社外有識者からなる「原子力安全・品質保証会議 事故調査検証委員会」を設置し、調査・検証を行い、2012年6月に福島原子力事故調査報告書を公表しました [3]。また、政府及び事業者から独立した民間の市民の立場から組織された「福島原発事故独立検証委員会」は、2012年2月に事故の原因究明と事故対応の経緯についての報告書を公表しました [4]。さらに、原子力の専門家としての立場から、(一般社団法人)日本原子力学会は調査委員会を設置し、2014年3月に事故調査報告書を公表しました [5]
 国際的には、国際原子力機関(IAEA 2 )が2015年9月に、東電福島第一原発事故を総括する事務局長報告書を公表しました。同報告書は、「事故とその評価」、「緊急時への備えと対応」、「放射線の影響」、「事故後の復旧」、「IAEAの事故への対応」から構成されており、原子力施設の更なる安全性の確保とともに、緊急時対応や放射線被ばくに対する健康対策、事故後の復旧、地域社会の再生についての提言が取りまとめられています [6]。また、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA 3 )は2013年9月に、OECD/NEA及びその加盟国により事故後に実施した原子力安全に関する取組とその教訓を取りまとめ、より高い水準の原子力安全を確保するための提言とともに公表しました [7]。さらにOECD/NEAは2016年2月に、その後の取組の最新情報をまとめた報告書を公表しています [8]。 これらの事故調査報告書について、表1-1にまとめています。

表1-1  東京電力福島原子力発電所事故に関する主な事故調査報告書
報告書名 発行元 発行年月

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会

2012年7月

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会

2012年7月

福島原子力事故調査報告書

東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)

2012年6月

福島原発事故独立検証委員会調査・検証報告書

福島原発事故独立検証委員会

2012年2月

福島第一原子力発電所事故
その全貌と明日に向けた提言
学会事故調最終報告書

日本原子力学会

2014年3月

The Fukushima Daiichi Accident

国際原子力機関(IAEA)

2015年9月

The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident: OECD/NEA Nuclear Safety Response and Lessons Learnt

経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)

2013年9月

Five Years after the Fukushima Daiichi Accident: Nuclear Safety
Improvement and Lessons Learnt

経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)

2016年2月


A 国会事故調及び政府事故調による提言
 国会事故調は、ヒアリングや現地視察、タウンミーティング等を行い、調査の結論を10項目(「事故の根源的原因」、「事故の直接的原因」、「運転上の問題の評価」、「緊急時対応の問題」、「被害拡大の要因」、「住民の被害状況」、「問題解決に向けて」、「事業者」、「規制当局」、「法規制」)についてまとめ、7つの提言(表 1-2)を行いました。
 提言を受けて政府が講じた措置については、毎年、国会への報告書の提出が義務付けられており、政府は年度ごとに報告書を取りまとめ、国会に提出しています 4

表1-2 国会事故調報告書の提言内容
提言

提言1

規制当局に対する国会の監視 

国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する。

提言2

政府の危機管理体制の見直し

緊急時の政府、自治体、及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め、政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う。

提言3

被災住民に対する政府の対応

被災地の環境を長期的・継続的にモニターしながら、住民の健康と安全を守り、生活基盤を回復するため、政府の責任において対応を早急に取る必要がある。

提言4

電気事業者の監視

東電は、電気事業者として経産省との密接な関係を基に、電事連を介して、保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた。国会は、提言1に示した規制機関の監視・監督に加えて、事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある。

提言5

新しい規制組織の要件

規制組織は、今回の事故を契機に、国民の健康と安全を最優先とし、常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る。新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする。
@高い独立性、A透明性、B専門能力と職務への責任感、
C一元化、D自律性

提言6

原子力法規制の見直し

原子力法規制については、抜本的に見直す必要がある。

提言7

独立調査委員会の活用

未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止、本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や、使用済み核燃料問題等、国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために、国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとし、これまでの発想に拘泥せず、引き続き調査、検討を行う。

(出典)東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)「国会事故調報告書」(2012年)に基づき作成

 政府事故調は、2011年5月24日付け閣議決定に基づき、事故による被害の原因究明のための調査・検証を行い、もって当該事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的として設置されました。現地の視察やヒアリング等による調査を行い、合計13回開催された委員会会合での議論の結果、2012年7月に最終報告書を公表しました。この報告書では、7つの観点(「事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況」、「事故発生後の政府等の事故対処」、「被害の拡大防止策」、「事故の未然防止策や事前の防災対策」、「原子力安全規制機関等」、「東京電力」、「IAEA基準などとの国際的調和」)から問題点を分析し、合計25項目からなる7つの提言(表 1-3 )を行っています。政府は、これらの提言を受けて講じた措置について、年度ごとに報告書を取りまとめています。

表 1-3 政府事故調報告書の提言内容
提言

提言1

安全対策・防災対策の基本的視点に関するもの

1)複合災害を視野に入れた対策に関する提言

2)リスク認識の転換を求める提言

3)「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言

4)防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言

提言2

原子力発電の安全対策に関するもの

1)事故防止策の構築に関する提言

2)総合的リスク評価の必要性に関する提言

3)シビアアクシデント対策に関する提言

提言3

原子力災害に対応する態勢に関するもの

1)原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言

2)原子力災害対策本部の在り方に関する提言

3)オフサイトセンターに関する提言

4)原災対応における県の役割に関する提言

提言4

被害の防止・軽減策に関するもの

1)広報とリスクコミュニケーションに関する提言

2)モニタリングの運用改善に関する提言

3)SPEEDIシステムに関する提言

4)住民避難の在り方に関する提言

5)安定ヨウ素剤の服用に関する提言

6)緊急被ばく医療機関に関する提言

7)放射線に関する国民の理解に関する提言

8)諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言

提言5

国際的調和に関するもの

1)IAEA基準などとの国際的調和に関する提言

提言6

関係機関の在り方に
関するもの

1)原子力安全規制機関の在り方に関する提言

2)東京電力の在り方に関する提言

3)安全文化の再構築に関する提言

提言7

継続的な原因解明・被害調査に関するもの

1)事故原因の解明継続に関する提言

2)被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言

(出典)東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)「最終報告」(2012年)に基づき作成


(2)事故原因の解明と被害の実態把握に向けた取組

@ 事故原因の解明
 国会事故調や政府事故調、IAEA事務局長報告書等において、事故の大きな要因としては、地震・津波を起因として電源を喪失し、原子炉を冷却する機能が失われたことにあるとされています。しかしながら、東電福島第一原発事故の現場は、原子炉建屋や格納容器内部等の放射線量率が非常に高く、現地調査に着手できない事項などもあり、引き続き、調査、検討を行う必要があります。
 原子力規制委員会の所掌事務の1つとして、「原子炉の運転等に起因する事故の原因及び原子力事故により発生した被害の原因を究明するための調査に関すること」が定められています。原子力規制委員会は、東電福島第一原発事故についての分析を行う体制を構築し、中長期にわたっての継続的検討を行い、2014年10月に「東京電力福島第一原子力発電所事故の分析中間報告書」を取りまとめました [9]。中間報告書ではこれまでの検討において、国会事故調報告書において未解明問題として指摘されている事項については、概ね検討を終えたと考えており、本報告書においてそれぞれとりまとめています。しかし、高線量であることなどの理由により現地調査に着手できない事項などもあり、引き続き、継続した現地調査・評価・検討が必要であるとしています。また、福島第一原子力発電所の作業の進捗に併せ、新たに明らかになった事実などについても、今後、現地調査や東京電力への確認等を踏まえ、長期的に検討を継続する必要があるとしています。
 また、東京電力は、2012年6月に公表した「福島原子力事故調査報告書」と2013年3月に公表した「福島原子力事故の総括および原子力安全改革プラン」において、事故の総括をしています。それらの中で未確認・未解明とされた事項については継続的に調査を実施し、四半期に一度「原子力安全改革プラン進捗報告」を行っています [10]

A 被害の実態把握
 被害の実態把握のための取組の一つとして、内閣府は「東日本大震災における原子力発電所事故に伴う避難に関する実態調査」を実施しました [11]。この調査は、福島県内の22市町村の住民を対象としたアンケート調査と、警戒区域等が設定された12市町村の避難支援者(市町村、警察など)へのヒアリング調査から成り、発災時や避難時において、住民や各関係者がどのように行動したのかなどの対応状況の実態を調査したもので、その結果は2015年12月に公表されました。当該調査結果により、主に「発災直後の情報伝達と避難」、「避難先、避難方法」、「避難時に必要な物資の供給」、「要配慮者への対応」、「長期化した避難への中長期的な対応」、「原子力事業者への監督体制」に課題があることが明らかになったところです。内閣府では、2016年8月に、得られた様々な課題と、改正後の災害対策基本法や原子力災害対策特別措置法、新たに策定された原子力災害対策指針等に基づき、講じている対応について取りまとめています [12]


  1. 2016年4月よりホールディングカンパニー制に移行し、「東京電力ホールディングス株式会社」に社名変更しています。
  2. International Atomic Energy Agency
  3. Organization for Economic Co-operation and Development / Nuclear Energy Agency
  4. 「国会法」(昭和22年法律第79号)附則第11項において規定されています。

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