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1-4 東電福島第一原発の廃炉への取組

 東電福島第一原発の廃炉及び汚染水対策は、「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」に基づいて進められています。このロードマップは、廃炉に向けた中長期の取組を実施していく上での基本方針と主要な目標工程等を定めたもので、2011年12月に初版が作成された後、取組の進捗状況を反映して随時改訂されています。
 また、中長期にわたる廃止措置を実施するには、国内外の幅広い分野の英知を結集し、研究開発を進めていく必要があります。また、廃炉作業や研究活動を維持、継続していくためには、研究者やエンジニアなどの人材育成・確保のための取組を進めることも重要です。国は、廃炉に関する技術的難易度の高い課題に対する研究開発や、基礎研究、人材育成の取組に関する事業を立ち上げて、これらの取組を推進するとともに、研究施設等の整備も進めています。


(1)東電福島第一原発の廃止措置等の実施に向けた基本方針等

 事故発生後の2011年5月、国及び東京電力は「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の収束・検証に関する当面の取組のロードマップ」を取りまとめました。同年12月に、このロードマップでステップ2の目標としていた「放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている」状態に到達しました。この対策と並行して、ステップ2達成後の中長期の取組について検討が行われ、ステップ2の到達と同時期の12月21日、原子力災害対策本部 政府・東京電力中期対策会議により「東京電力(株)福島第一原子力発電所1〜4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)が策定されました。
 中長期ロードマップでは、廃止措置等に関する具体的な工程・作業内容とともに、中長期にわたる作業の着実な実施に向けた、研究開発から実際の廃炉作業までの実施体制の強化や、人材育成・国際協力の方針等が示されており、中長期ロードマップに基づき、国も前面に立って、安全かつ着実に取組を進めています。また、中長期ロードマップは、東電福島第一原発の現場状況や、廃炉に関する研究開発成果などを踏まえ、継続的に見直していくことが原則とされており、随時改訂されています(2016年12月末時点での最新版の中長期ロードマップは、2015年6月に改訂された第3回改訂版です)。第3回改訂の主なポイントは、迅速さのみを追い求めるのではなく、リスク低減を最重視する考え方を明確化したこと、主要工程(マイルストーン)を明確化し一部スケジュールを見直したこと等が挙げられます(表 1-4)[56]

 また、中長期ロードマップでは、東電福島第一原発の廃止措置等の実施における原則を以下のとおりに定めています。[56]
 【原則1】 地域の皆様、周辺環境及び作業員に対する安全確保を最優先に、現場状況・合理性・迅速性・確実性を考慮した計画的なリスク低減を実現していく。
 【原則2】 中長期の取組を実施していくに当たっては、透明性を確保し、積極的かつ能動的な情報発信を行うことで、地域及び国民の皆様の御理解を頂きながら進めていく。
 【原則3】 現場状況や研究開発成果等を踏まえ、中長期ロードマップの継続的な見直しを行う。
 【原則4】 中長期ロードマップに示す目標達成に向け、東京電力や政府をはじめとした関係機関は、各々の役割に基づき、連携を図った取組を進めていく。政府は、前面に立ち、安全かつ着実に廃止措置等に向けた中長期の取組を進めていく。
 中長期ロードマップの工程では、廃止措置終了までの30〜40年の期間を3つの期間に区分しています。第1期は、2013年11月の4号機使用済燃料プールから燃料の取り出し開始をもって終了し、2016年12月末時点では、マイルストーン(主要な目標工程)等に基づきながら第2期の作業が進んでいる状況です(図 1-11)。中長期ロードマップに基づき、廃炉・汚染水対策は着実に進められています。

図 1-11 中長期ロードマップ(2015年6月12日改訂)の概要

(出典)経済産業省「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」 [56]

 さらに、事故収束に向けた取組を強化するため、政府・東京電力の役割分担が明確化されるとともに、東京電力は廃炉・汚染水対策に優先的・持続的に取り組むための社内体制の確保が必要とされました。これを受け、東京電力は、福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する責任と権限を明確化し、意思決定の迅速化を図るため、2014年4月に福島第一廃炉推進カンパニーを設置しました。
 加えて、国は廃炉推進に向けた技術的な観点からの支援体制を構築し、実行するため、2014年8月、原子力損害賠償支援機構を改組し、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を発足させました。原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、内外の知見・技術力を結集し、専門家による技術戦略の策定及び研究開発の企画・立案を行うとともに、「廃炉研究開発連携会議」 26 (以下「連携会議」という。)を通じ、廃炉に向けた基礎から実用に至る研究開発の連携強化を主導する役割を担います。また同機構は2015年4月に、中長期ロードマップに技術的根拠を与え、その円滑・着実な実行や改訂の検討に資することを目的として、「東京電力(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン2015」(以下「戦略プラン」という。)を策定しています。戦略プランでは、「東電福島第一原発における放射性物質によるリスクを継続的、かつ、速やかに下げる」ことを基本方針とし、燃料デブリ 27 取り出し及び廃棄物対策等に関する技術検討を行っています。2016年7月には、取組の進捗を踏まえ、戦略プランが取りまとめられています[57]
 原子力規制委員会は、2012年11月に東電福島第一原発が特定原子力施設 28 に指定されたことを受け、同年12月に「特定原子力施設監視・評価検討会」を設置しました。同評価検討会を中心に、東電福島第一原発の保安に必要な措置について、外部の専門家を交えて監視・評価を行っています。また、2015年2月には、東電福島第一原発の廃止措置に関する目標を示すため、「東京電力株式会社福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ」(以下「リスク低減目標マップ」という。)を策定し、目標の達成状況の評価を行っています。このリスク低減目標マップは、2015年8月、2016年3月、12月に改訂されており、今後も定期的に見直しが行われる予定です。さらに2015年12月には、「特定原子力施設放射性廃棄物規制検討会」を設置し、東電福島第一原発における放射性廃棄物の安定的な管理に係る課題について、外部の専門家を交えて検討を行っています。東電福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する体制及び役割分担を図 1-12に示します。


(2)東電福島第一原発の状況と廃炉に向けた取組

@ 汚染水対策
  燃料デブリの冷却のため、事故を起こした原子炉内に注水を行っています。この冷却用の水が原子炉建屋内に流入した地下水と混ざり合うことで、日々新たな汚染水が発生しています。2013年8月に汚染水を貯留するタンクから汚染水が漏えいするトラブルが発生したことを受けて、同年9月、原子力災害対策本部は、「汚染水問題に関する基本方針」[58] を決定し、廃炉・汚染水問題の根本的解決に向けて国が総力を挙げて取り組むため、廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議の設置も決定しました。現在、当該基本方針における「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」、という3つの基本方針に沿って対策が進められています。
 「汚染源を取り除く」対策として、2〜4号機の建屋海側の海水配管トレンチに滞留していた高濃度汚染水は、2015年12月までに除去されました。また、多核種除去設備を始めとする複数の浄化設備により汚染水の浄化を行っており、トリチウム以外の放射性核種は除去される見込みです。なお、水素の同位体であるトリチウムは、多核種除去設備等で除去できないため、「多核種除去設備等で処理した後の水」(以下「多核種除去設備等処理水」という。)の取扱いが最終的に残存するリスクとして挙げられています。このため、汚染水処理対策委員会の下に設置されたトリチウム水タスクフォースで、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する様々な選択肢について技術的検討・評価が行われました。2016年6月に報告書が取りまとめられました [59] 。その後、多核種除去設備等処理水の長期的取扱いの決定に向けて、政府は、2016年9月、汚染水処理対策委員会の下に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」を設置し、風評被害等の社会的な観点も含めた総合的な検討を丁寧に進めています。
 「汚染源に水を近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的として、建屋への地下水等の流入を抑制するものです。建屋山側の高台で地下水をくみ上げ海洋に排水する地下水バイパスが2014年5月から運用されているほか、地下水の流入を防ぐため、建屋周辺で地下水をくみ上げ、浄化して港湾へ排水するサブドレンが2015年9月から運用されています。また、凍土方式の陸側遮水壁の構築に向けて、原子力規制委員会の認可を得て、2016年3月に凍結が開始されました。さらに、雨水の土壌浸透を防ぐ広域的な敷地舗装も、施工予定箇所の9割(2016年3月末時点)のエリアで工事が完了しました。
 「汚染水を漏らさない」対策としては、建屋内に溜まっている水の水位を、周囲の地下水水位より低く保つよう、サブドレンと呼ばれる原子炉建屋とタービン建屋近傍にある井戸から地下水をくみ上げることにより、原子炉建屋およびタービン建屋へ流入する地下水を大幅に低減させる対策や、建屋内に溜まっている水の排水等により、水位管理が実施されています。また、2014年3月には建屋海側エリアの護岸における水ガラスによる地盤改良、2015年10月に海側遮水壁の設置が完了して、放射性物質の海洋への流出リスクが低減しました。
 また、貯水タンクについては、信頼性の高い溶接型タンクの設置や、フランジ型タンクから溶接型タンクへのリプレース等が進められているとともに、万一の漏えいにも備え、タンク周囲において、二重堰の設置や側板フランジ部への防水シール材等による予防保全策、パトロールなどが実施されています。

A 使用済燃料プールからの燃料取り出し
  事故当時、1〜4号機の使用済燃料プール内に保管されていた燃料は、リスク低減の観点から、各号機の使用済燃料プールから取り出しを行い、敷地内の共用プール等において適切に保管することとしています。1〜4号機の中で最も多くの使用済燃料が保管されていた4号機使用済燃料プールからの燃料取り出しは、2014年12月に完了しました。
 1〜3号機については、放射性物質を含んだダストなどの飛散防止対策と放射性物質濃度の監視を行いつつ、ガレキ撤去等の作業が進められており、東京電力は2018年度中頃を目途に3号機、2020年度内に1、2号機の燃料取出開始を目指しています。

B 燃料デブリ取り出し
  1〜3号機では、事故により溶融した燃料や原子炉内構造物等が冷えて固まった「燃料デブリ」が原子炉内の広範囲に存在していると推測されています。現状では、原子炉建屋内は線量が非常に高く、燃料デブリの所在や状態を直接確認できる状況にありませんが、燃料デブリ取り出しに向け、遠隔操作機器・装置等による内部状況調査が進められています。
 1号機と2号機では、ミュオンと呼ばれる宇宙線を利用した原子炉内部状況の測定 29 が実施されました 30 。1号機では炉心領域に燃料の塊は確認できませんでしたが、2号機は、原子炉圧力容器の底部に密度の高い物質の影が確認され、燃料デブリの大部分が原子炉圧力容器の底部に存在していると推定される結果が得られました。また、3号機においても現在調査を実施しています。
 加えて、遠隔操作ロボット等を用いた格納容器内部の調査が、1〜3号機において行われ、内部の映像や線量等の情報が取得されました。
 また、燃料デブリの取り出し工法についての検討も行われています。上記の炉内状況調査に加えて、原子炉格納容器下部の補修技術の開発と実規模試験、格納容器の構造健全性の検討等により、取り出し工法の実現性評価が原子力賠償・廃炉等支援機構を中心に行われています。これらの調査・評価結果等を踏まえ、2017年夏頃を目途に「燃料取り出し方針」を決定した上で、号機ごとの状況を踏まえ研究開発や実機適用のための検討が行われ、2018年度上半期までに初号機の燃料デブリ取り出し方法を確定し、2021年内に、初号機の燃料デブリの取り出しが開始される予定です。

C 廃棄物対策
  東電福島第一原発事故により、ガレキや水処理二次廃棄物等の固体廃棄物が発生しています。今後、燃料デブリ取り出しに伴い、燃料デブリ周辺の撤去物、機器等が高線量の廃棄物として発生します。これらは、破損した燃料に由来する放射性物質を含んでいること、海水成分を含む場合があること、対象となる物量が多く汚染レベルや性状の情報が十分でないことなど、既往の原子力発電所の廃炉作業で発生する放射性廃棄物と異なる特徴があります。このため、性状把握、廃棄物の処理・処分に関する基本的な考え方の整理など、国の総力を挙げた取組が必要とされています。
 廃棄物の処理・処分に関しては、ガレキの分析、水処理二次廃棄物の性状把握、放射能濃度の測定が難しい放射性物質の分析手法の開発や、インベントリ評価技術の開発が実施されています。これらも踏まえ、中長期ロードマップに基づき、2017年度内に「廃棄物の処理処分に関する基本的な考え方」が取りまとめられる予定です。さらに、現在整備が進められている放射性物質分析・研究施設、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)大熊分析・研究センター等における分析・評価の結果を踏まえ、2021年頃までをめどに、処理・処分の方策とその安全性に関する技術的な見通しが示される予定です。

D 作業環境改善
  長期に及ぶ廃炉作業を達成するためには、高度な技術、豊富な経験を持つ人材を中長期的に確保していくことが必要です。そのためには、モチベーションを維持しながら安心して働ける作業環境を整備することが重要であり、作業環境の改善に向けて、法定被ばく線量限度の遵守に加え、可能な限りの被ばく線量の低減、労働安全衛生水準の不断の向上等に取り組む必要があります。東京電力は、これまで継続的に東電福島第一原発内の作業環境改善を進めており、放射性物質で汚染された瓦礫の撤去や地表面の除染等により2015年5月には全面マスク着用が不要なエリアが敷地内の約9割まで拡大しています。
 また、2016年7月には、「廃炉等作業員の健康支援相談窓口」が発電所やJヴィレッジに開設されました。これは、厚生労働省が労働者健康安全機構と連携して設置したもので、労働者から健康や放射線に関する不安などの相談や、事業者から労働者の健康支援に関する相談を受け付けています。


(3)廃炉に向けた研究開発、人材育成及び国際協力

@ 研究開発
  現在、国、民間企業、原子力機構、大学等が実施主体となり基礎・基盤研究から実用化研究の広範囲にわたる取組が行われています(図 1-13)。
 経済産業省は、技術的難易度が高い課題について、現場での活用を目指して要素技術等の開発を補助する「廃炉・汚染水対策事業」を実施しており、原子炉内の内部調査技術や、燃料デブリ取り出しに関する基盤技術、取り出した燃料デブリの収納・移送・保管に関する技術等の開発を進めています [60]

図 1-12 東京電力福島第一廃炉・汚染水対策の役割分担

(出典)原子力損害賠償・廃炉等支援機構ウェブサイト「福島第一原子力発電所廃炉・汚染水対策の役割分担図」 31 に基づき作成

図 1-13 東電福島第一原発廃炉に関する研究開発の全体像

(出典)原子力損害賠償・廃炉等支援機構「戦略プラン2016」 [57]

 文部科学省は、基礎・基盤研究の推進を目指し、2015年度より「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」を実施しています [61]。この事業のうち「廃炉加速化研究プログラム」では、東電福島第一原発の廃炉の加速に資するため、燃料デブリ取り出しや、廃棄物処理を含めた環境対策に関して、国際共同研究も含めた研究プログラムを実施しています。
 また、原子力機構は、廃炉に関する遠隔操作機器の開発・実証試験を行う施設として、「楢葉遠隔技術開発センター」を設置し、2016年4月より本格運用しました。また、2017年度内の運用開始を目指し、放射性廃棄物の分析・評価等を行う「大熊分析・研究センター」の設置を進めています。この他、原子力機構は、2015年4月には、国内外の英知を結集した廃炉研究や中長期的な人材育成機能の強化の実現に向け「廃炉国際共同研究センター」を設置しました。同センター及び文部科学省人材育成公募採択事業者(主に大学)は、基礎・基盤研究の推進協議体である「廃炉基盤研究プラットフォーム」を共同で運営し、東京電力を始め、各機関と協力して廃炉に向けた基礎・基盤研究の全体マップの提示、更新するとともに、これに基づいた研究を実施することにより廃炉の実現・加速に貢献していきます(図 1-14) [62]

図 1-14 廃炉基盤研究プラットフォームの位置付け

(出典)廃炉基盤研究プラットフォーム第1回運営会議資料 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 福島研究開発部門「廃炉基盤研究プラットフォームの位置付け及び活動内容」(2015年) [62]

 こうした各機関の研究開発を一元的にマネジメントし、実際の廃炉作業に効果的に結び付けていくため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に設置された連携会議では、各機関の研究開発の取組内容の情報共有、廃炉現場と研究現場との協力・連携の場の構築、研究者・エンジニア等人材の育成・確保の強化を行っています。
 このほかに、福島県は、2012年12月にIAEAとの間で締結した「放射線モニタリング及び除染の分野における協力覚書」に基づいて、除染技術の検討や放射性物質の動態調査等の協力プロジェクトを進めています [63]。また、環境の回復・創造に取り組むための調査研究及び情報発信、教育等を行う総合的な拠点施設として、福島県三春町に福島県環境創造センター(以下「環境創造センター」という。)を設置し、同センターは2015年10月より活動を開始しています。設置に先立ち策定された同センターの中長期取組方針では、福島県と原子力機構、「独立行政法人(現 国立研究開発法人) 国立環境研究所」(以下「国環研」という。)の三者が連携・協力し、同センターを拠点とする調査研究等に取り組むとの方針が示されています [64]
 2016年4月、原子力機構 福島環境安全センターが福島市内から環境創造センター内に移転されました。原子力機構 福島環境安全センターでは、福島県の環境回復に係る調査研究として環境モニタリングや放射性物質の動態に関する調査・研究、除染・廃棄物に係る研究としての除染効果の評価・将来の線量予測評価等を実施しています。また、国環研 福島支部では、放射性物質により汚染された地域の環境回復を進め、安全・安心な生活を確保するための「環境回復研究」、環境と調和した被災地の復興を支援する「環境創生研究」、環境・安全・安心面から将来の災害に備えるための「災害環境マネジメント研究」の3つの災害環境研究プログラムを実施しています。

A 人材育成
 30〜40年程度かかると見込まれる廃止措置を実施するためには、中長期的な視点での計画的な人材育成が必要です。このため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構に設置した連携会議に参加する各機関は、各々の立場から研究者・エンジニア等人材の育成・確保・流動のための取組を行っています。
 文部科学省は「廃止措置研究・人材育成等強化プログラム 32 」を実施し、安全かつ着実に廃止措置等を進めていく上で、困難な課題の解決に貢献する人材の育成を図っています。同プログラムは、2016年7月時点で、7つの大学・研究機関 33 をし、廃止措置等の現場のニーズを踏まえた基盤研究を実施するとともに、人材育成推進のための取組を実施しています。
 原子力機構は、「廃止措置研究・人材育成等強化プログラム」等の採択機関との連携講座を開設する予定であり、学生の受入れ制度の活用等、人材育成を実施しています。また、廃炉国際共同研究センターを中心に、国内外の大学、研究機関、産業界等の人材交流ネットワークを形成しつつ、研究開発と人材育成を一体的に進める体制を構築していく予定です。
 国際廃炉研究開発機構(IRID)は、文部科学省「廃止措置研究・人材育成等強化プログラム」に関するカンファレンス等への参加や、中学校・工業高等専門学校等での出前授業の実施など、東電福島第一原発の現状把握や廃止措置に必要とされる技術を、大学関係者・学生・児童生徒に周知する活動を行っています。東電福島第一原発事故を受けて、これまで以上に原子力の研究開発等へ携わる意欲を喚起する必要があります。教育基盤の整備とともに、廃止措置に向けた研究の必要性を教育関係者や児童生徒・学生に向けて周知する活動の継続・強化が望まれます。

B 国際社会との協力
 東電福島第一原発事故を起こした我が国としては、事故の経験と教訓を世界と共有するとともに、国際機関や海外研究機関等と連携し国内外の知見・経験を結集して、国際社会に開かれた形で廃止措置等を進め、国際社会に対する責任を果たしていかねばなりません。
 このため、2015年11月には、廃炉国際共同研究センターにより「CLADS 廃止措置研究国際ワークショップ」が開催され、主に燃料デブリ取り出しに向けた研究開発の現状と、今後の国際協力の進め方の議論が行われました。また、2016年4月には、「第1回福島第一廃炉国際フォーラム」が、IAEA及びOECD/NEA等の国際機関や国内外の関係機関の協力を得て、経済産業省資源エネルギー庁と原子力損害賠償・廃炉等支援機構の共催で開催されました。このフォーラムでは、東電福島第一原発の廃止措置の進捗状況や研究開発の成果といった技術的側面だけでなく、地域社会とのコミュニケーション等の社会的側面も重要なテーマとして取り上げられ、海外で実施された原子力施設の廃止措置等に関する取組についても発表が行われました。昨年に引き続き、毎年秋に開催されるIAEA総会において、世界各国の関係者・専門家との間での相互理解を得ることを目的に、米・英・仏等とも協力して、福島第一原発の廃炉に関するサイドイベントを開催しました。
 外務省は、東電福島第一原発事故発生以降、国際社会に対して透明性を確保する形で情報発信を行ってきましたが、右取組を強化する観点から、2013年からIAEAを通じた包括的な形での情報提供も併せて行っています。また、汚染水対策の一環として、総合モニタリング計画に基づく我が国の放射能分析機関による海洋環境放射能モニタリングの結果の信頼性・透明性向上のために、2014年からIAEAとの協力を進め、相互比較分析に基づく分析結果や比較可能性の視点から信頼性を確認するための取組を実施しています。
 OECD/NEAでは、2012年より開始され、現在では我が国を含む11か国の研究機関が参加して「福島第一原発事故に関するベンチマーク研究(BSAF 34 )プロジェクト」が、事故の進展や原子炉内の燃料デブリ分布の推定等を行うことを目標に実施されいます。加えて、海外に向けた廃炉・汚染水対策の進捗状況の発信や、解析に必要な事故時のプラントデータを共有するための、ウェブサイト 35 が設置されています。また、2013年に設立された「福島第一原子力発電所事故後の安全研究の機会に関する上級専門家グループ(SAREF 36 )」は、我が国が主導し、東電福島第一原発の情報を基に、安全研究の観点から廃炉に関する検討を行っており、2016年に報告書がまとめられました。
 国際共同研究としては、前述の文部科学省「廃炉加速化研究プログラム」の枠組みで、英仏米の各国と2か国共同研究を実施しています。さらに、東電福島第一原発廃炉に関するOECD/NEAと共同研究の強化に向けて、2013年より実施しているTAF-IDプロジェクト 37 と連携し、さらに、燃料デブリに関する豊富な知見を有するロシアの研究機関との研究協力を推進する形で、2017年6月から新たな国際協力プロジェクト「福島第一原子力発電所のシビアアクシデント解析を参考にした燃料デブリと核分裂生成物の熱力学的特性評価(TCOFF) 38 」が開始されました。また、廃炉国際共同研究センターでは、海外からの研究者招へい、海外研究機関との共同研究を実施しており、国際的な研究開発拠点の構築を目指しています。一方、経済産業省による補助事業、廃炉・汚染水対策事業では、海外の研究機関や企業とも協力して廃炉・汚染水対策に係る技術開発が進められています。
 さらに、福島第一原発の廃炉・汚染水対策の進捗や、これに伴い得られたデータ等を積極的に情報発信をしていくことは、福島の状況に関する国際社会の正確な理解の形成に不可欠です。そこで、2016年より、福島第一原発の廃炉・汚染水対策等に関する英語版動画やパンフレットを作成して、IAEA総会サイドイベントや要人往訪の際などの機会など、様々なルートで、海外に向けて情報を発信するとともに、経済産業省のウェブサイト 39 にも掲載しています。
 2016年の伊勢志摩サミット首脳宣言では、「我々は,福島第一原子力発電所における廃炉及び汚染水対策の着実な進展,並びに福島の状況に関する国際社会の正確な理解の形成に向けて,国際社会と緊密なコミュニケーションの下でオープンかつ透明性をもって日本の取組が進められていることを歓迎する。」と述べられ、同エネルギー大臣会合でも「我々は、福島の状況に関する正確な国際的理解を高めるため、日本が継続的に放射能汚染及び空間線量を調査し、科学に基づく情報を発信していること、また、同国が国際社会と緊密にコミュニケーションしつつオープンかつ透明な形で進めるよう努力していることを歓迎する。」旨が述べられています。


  1. 2015年5月に、廃炉・汚染水対策チーム会合において設置が決定されました。原子力損害賠償・廃炉等支援機構、原子力機構、国際廃炉研究開発機構、東京電力、プラントメーカー、関連有識者、文部科学省、経済産業省資源エネルギー庁などで構成されています。
  2. 事故で溶けた燃料が、原子炉内構造物や制御棒などと共に冷えて固まったものです。圧力容器内のみならず、格納容器の底部にも分布していると考えられています。
  3. 災害への応急処置後も特別の管理が必要な施設として原子力規制委員会が指定した施設です。
  4. 透過性が高い宇宙線であるミュオンが高密度の物質で遮られる性質を利用して、密度の高い核燃料や核燃料を含む燃料デブリが原子炉内でどのように分布しているかについての測定が実施されました。
  5. 2015年2〜9月に1号機、2016年3〜7月に2号機の測定が実施されました。
  6. http://www.dd.ndf.go.jp/jp/about/about/index.html
  7. 「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」で進められているプログラムです。
  8. 東京大学、東京工業大学、東北大学、福井大学、福島大学、福島工業高等専門学校、地盤工学会の7機関で進めています。
  9. Benchmark Study of the Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
  10. Information Portal for the Fukushima Daiichi Accident Analysis and Decommissioning Activities (https://fdada.info/)
  11. Senior Expert Group on Safety Research Opportunities Post-Fukushima
  12. TAF-ID (Thermodynamic of Advanced Fuels - International Database)プロジェクト
    高速炉等の次世代燃料及び軽水炉破損燃料の挙動評価に役立てるために、各国の所有する様々な化合物等に関する熱力学データベースを相互レビュー・統合し、国際標準データベースとして整備するプロジェクトです。2013年3月から3年間の計画で開始され、2016年12月まで延長予定です。
  13. TCOFF(Thermodynamic Characterization of Fuel Debris and Fission Products based on Scenario Analysis of Severe Accident Progression at Fukushima-Daiichi Nuclear Power Station)プロジェクト
    福島第一原子力発電所事故のシナリオ解析を参考に燃料デブリと核分裂生成物の熱力学的な特性を評価し、既存の熱力学データベースの高度化やデブリ取り出しに向けた材料科学的な課題の検討を行うプロジェクトです。平成29年6月より平成31年12月までの予定で実施中です。現在、9か国及びEUから16個の研究機関が参加(ロシアからの参加は3機関)しています。
  14. http://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/

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