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1-3 福島の復興・再生に向けた取組

 東電福島第一原発事故により、原子炉施設から放出された放射性物質による環境汚染が生じました。この事態を受けて、政府は避難指示や食品の出荷制限等、放射線影響に対する緊急的な防護措置を実施しました。また、人体及び環境への放射線影響を把握するために、事故直後から空間線量率等のモニタリングや健康影響の調査・評価が実施されています。2016年12月末時点においても、多数の住民の方々が避難を余儀なくされ、一部食品の出荷制限が継続するなど、事故の影響が続いています。そのため、被災地では避難指示の解除や、復旧・復興に向けた以下のような取組が進められています。

  • 除染、放射性物質に汚染された廃棄物の処理、中間貯蔵施設の整備の実施
  • 避難住民の方々の早期帰還に向けた安全・安心対策、事業・生業の再建や風評被害対策といった生活再建に向けた支援への取組の実施
  • 福島イノベーション・コースト構想をはじめとした、復興・再生に向けた取組

(1)被災地の復興・再生に係る基本方針

 東電福島第一原発事故により、発電所周辺地域では地震と津波の被害に加えて、放出された放射性物質による環境汚染が引き起こされました。このような状況に対処するため、原子力災害対策本部、復興庁及び環境省等が一体となって政府一丸の体制で福島の復興・再生の取組を進めています。
 事故当日の2011年3月11日、内閣府に原子力災害対策本部が設置されました。3月29日にはその下に原子力被災者生活支援チームが設置され、緊急時対応としての避難区域等の設定・見直し、健康管理調査、環境モニタリング、災害廃棄物の処理・除染等への対応を開始しました。また、東電福島第一原発内の諸課題へ対応するために、同年9月に廃炉・汚染水対策チームが設置されました。
 このような事故への緊急的な対応体制は、2016年12月末時点では、長期的な復旧・復興の取組を目指した体制に移行しています(図 1-5)。新たな体制の下、原子力被災者生活支援チームは、主に避難指示区域の見直しや原子力被災者の生活支援等の役割を担っています。復興庁 10 は、復旧・復興の取組として長期避難者への対策や早期帰還の支援、避難指示区域等における公共インフラの復旧等の対応を行っています。また、環境省は、除染や廃棄物処理、中間貯蔵施設の整備等に取り組んでいます。福島の現地では、原子力災害対策本部の現地対策本部、復興庁の福島復興局、環境省の福島環境再生事務所(現・福島地方環境事務所)により対応に当たっています。これらの現地での取組体制を一元化し迅速な施策の判断を行うため、復興庁は2013年2月に福島復興再生総局を設置し、現地組織の一体的な運用を開始しました。

図 1-5 福島の復興に係る政府の体制(2016年12月末時点)

(出典)復興庁「福島の復興に向けた取組」(2015年)に基づき作成

 福島の復興・再生に向けて、2012年3月に地域再生特別法として「福島復興再生特別措置法」(平成24年法律第25号)(以下「福島特措法」という。)が施行されました(2013年5月、及び2015年5月に改正)。福島特措法に基づき、福島の復興・再生を総合的に推進する基本的な方針として、「福島復興再生基本方針」が2012年7月に閣議決定されました [37]。この中で福島の復興・再生の意義、目標、基本姿勢が示されるとともに、政府が実施すべき施策に関する基本的な事項が記載されています。地域産業の復興・再生や新産業の創出等の全県の復興・再生の計画は県が、避難解除等区域における環境整備等の計画については県の申し出により国が、福島復興再生基本方針に則って策定することとされました。
 さらに、2017年5月の福島特措法の改正及び同年6月の福島復興再生基本方針の改定により、「帰還困難区域」 11 内の特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画について、市町村が福島復興再生基本方針に即して策定することとされました [38]


(2)放射線影響への対策

@ 避難指示区域の状況等
 東電福島第一原発事故の状況に鑑み、2011年4月に、原子力災害対策本部長が、福島県知事及び関係市町村長に対し、設定等を指示した「警戒区域」 12 、「計画的避難区域」 13 、「緊急時避難準備区域」 14 について、事故の収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ、区域の見直しが実施されることとなりました。2011年9月に「緊急時避難準備区域」が解除され、2011年12月に「警戒区域」が解除され、避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については、年間の被ばく線量を基準として、新たに「避難指示解除準備区域」 15 、「居住制限区域」 16 、「帰還困難区域」 14 に再編され、区域の見直しが開始されました(2013年8月完了)。
 避難指示は、@空間線量率で推定された年間積算線量が20mSv以下になることが確実であること、Aインフラや生活関連サービスが概ね復旧し、子供の生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、B県、市町村、住民との協議の3要件を踏まえ、解除されます。2014年4月には、田村市で初の避難指示の解除が行われ、同年10月には川内村の一部も解除されました。その後も2015年9月に楢葉町、2016年6月に葛尾村、川内村、2016年7月に南相馬市、2017年3月に飯舘村、川俣町、浪江町、2017年4月に富岡町について、帰還困難区域以外が解除されるなど、大熊町、双葉町を除き、全ての避難指示解除準備区域、居住制限区域の避難指示が解除されました。
 帰還困難区域については、概ね5年以内に避難指示を解除し居住を可能とすることを目指す特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画制度を盛り込んだ改正福島特措法が2017年5月に成立しました。政府としては、たとえ長い年月を要するとしても、将来的にその全てを避難指示解除し、復興・再生に責任を持って取り組むとの決意の下、本制度に基づき可能なところから着実かつ段階的に帰還困難区域の復興に取り組むこととしています。2017年4月時点での避難指示区域は図 1-6の最右図のとおりです。

図 1-6 避難指示区域の変遷(2011年4月から2017年4月まで)

(出典))内閣府原子力被災者生活支援チーム「避難指示区域の見直しについて」(2013年) 及び経済産業省「避難指示区域の概念図」(2016年) 等に基づき作成


A 食品中の放射性物質への対応
 放射性物質が環境に放出されたことから、2011年3月に厚生労働省は、原子力安全委員会が策定した「原子力施設等の防災対策について」中で示されていた「飲食物摂取制限に関する指標」を暫定規制値として定め、同数値を超える食品が市場に流通しないよう対応しました [39]。2012年4月、厚生労働省は「より一層の食品の安全と安心の確保」と「事故後の緊急的な対応としてではなく長期的な観点」を考慮した新たな基準値を設定し、以降は新たな基準値に基づいた管理がなされています [40]。新たな基準値は、コーデックス委員会 17 が定めた国際的な指標に沿ったもので、食品の摂取により受ける放射線量が年間1mSvを超えないようにとの考え方で設定されています(図 1-7)。厚生労働省は、地方自治体等からの報告のあった食品中の放射性物質の検査結果を、全て定期的に公表しています [41]。基準値を超過した割合は減少傾向にあり、2016年度では0.14%とほとんど見られなくなっています。また、厚生労働省は、全国15地域で実際に流通する食品を対象に、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量の推定を行い、国内外に公表しています。2016年9〜10月の調査の結果では、上限線量(年間1mSv)の1%未満という低いレベルであると見積もられています。放射線による健康影響を防ぐためには、食品の検査や出荷制限制度等による管理を引き続き実施することが必要です。国内における出荷制限だけでなく、諸外国・地域では、東電福島第一原発事故後に輸入規制措置が取られ、規制措置は2017年8月時点でも一部継続されています。
 風評被害を防ぐとともに、輸入規制の撤廃・緩和に向け、我が国における食品中の放射性物質への対応等について、より分かりやすい形で国内外に発信していくなどの取組を継続していく必要があります。

図 1-7 食品中の放射性物質の新たな基準値の概要

(出典)厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値」(2012年) [40]


(3)放射線影響の把握の取組

@ 放射線による健康影響の調査
 福島県は県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図る事を目的に、「県民健康調査」を実施しています。この中では「基本調査」 18 と「詳細調査」 19 が実施されており、個々人が調査結果を記録・保管できるようにしています。
 国は2011年度に県が創設した「福島県民健康管理基金」に交付金を拠出するなど、県を財政的に支援しています。2016年3月に県により公表された「県民健康調査における中間取りまとめ」では、「これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べて総じて小さいこと、被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短いこと、事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくい」と評価されています [42]
 国(環境省)は2013年11月に「東電福島第一原発事故に伴う住民の健康管理の在り方に関する専門家会議」を設置し、福島近隣県を含めた被ばく線量や健康管理の状況、課題を、医学的な見地から専門的に検討しています。同会議は、2014年12月に公表された「中間取りまとめ」で、「世界保健機関(WHO 20 )」と「原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR 21 )」の評価結果や複数の公表データを基に、専門家としての見解をまとめています [43]。中間取りまとめでは、被ばく線量の推計における不確かさに鑑み、放射線管理は中長期的な課題であるとの認識の下で、住民の懸念が特に大きい甲状腺がんの動向を慎重に見守っていく必要があるものの、「事故による放射線被ばくによる生物学的影響は現在のところ認められておらず、今後も放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まることも可能性としては小さいと考えられる」との見解が示されています。この中間取りまとめを踏まえ、2015年2月に「中間取りまとめを踏まえた当面の施策の方向性」を公表しました [44]。これに基づき、事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進、福島県及び福島近県における疾病罹患動向の把握、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実、リスクコミュニケーション事業の継続・充実の取組が進められています。
 なお、放射線の健康管理は中長期的な課題であることから、放射線による健康への影響について調査を継続するとともに、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づき、一般の方々にとってより分かりやすく説明していくことが求められます。

コラム 〜東電福島第一原発事故による放射線による健康影響について〜

―国際機関による評価−
 WHOとUNSCEARの2つの国際機関は、それぞれ独自に住民の放射線被ばくによる健康影響の評価結果を公表しています [45] [46] [47]。WHOでは、住民の健康管理に関する施策が適切に実施されるために、過小評価を避け、迅速に情報提供することを目的として評価しています。またUNSCEARは、可能な限り調査までに得られた情報に基づいて、健康影響等に関する評価を行うことを目的として評価しています。WHOの報告とUNSCEARの報告の結論に大きな違いは見られず、東電福島第一原発事故に伴う追加被ばくによる健康影響が自然のばらつきを超えて観察されることは予想されないとしています。なお、いずれの評価にも一部で不確かさが残るため、今後も新たに収集した知見に基づいて、継続的に健康影響の評価を実施していくことが望まれます。

WHO報告書とUNSCEAR報告書の評価の比較(全体概要) [48]

(出典)環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料」(2017年)


A 環境放射線モニタリング
 東電福島第一原発事故を受けて、事故の状況を把握するための環境放射線モニタリングが実施されています。事故直後には、国と福島県がそれぞれモニタリング計画を策定してモニタリングを実施しました。また、IAEAによるモニタリング支援、食品安全等への助言と支援も実施されました。その後、放射性物質の拡散状況を踏まえ、自治体や事業者等、その他の機関も含めて幅広くモニタリングを実施する体制が整備されました。国は2011年7月以降、モニタリング調整会議において、複数の機関が実施している放射線モニタリングの調整を行い、総合モニタリング計画として定期的に取りまとめています。総合モニタリング計画に基づいたモニタリングの結果は、原子力規制委員会から「放射線モニタリング情報 22 」として公表されています。特に空間線量率は、全国に設置されたモニタリングポストの測定結果をリアルタイムで確認することができます。


(4)放射性物質による環境汚染からの回復に関する取組と現状

@ 除染の取組
 2011年8月に、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が制定されました。これに基づき、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことのある地域を除染特別地域に指定し、国が除染実施計画を策定し、除染事業を進めています。また、これらの地域以外でも、地域の放射線量が毎時0.23μSv以上の地域がある市町村について、当該市町村の意見を聞いたうえで汚染状況重点調査地域に指定し、各市町村で除染を行っています。
 両地域とも、2017年3月までに計画に基づく面的除染を完了させるべく、自治体とも連携して全力で取り組んできました(帰還困難区域を除く)。
 その結果、除染特別地域に指定されている福島県内の11市町村では、2017年3月末までにすべての市町村で帰還困難区域を除く避難指示区域における面的除染が完了しました。
 また、汚染状況重点調査地域についても、2017年3月末まで住宅や公共施設等日々の生活の場における除染作業がおおむね完了しました。

A 放射性物質に汚染された廃棄物の処理
1) 廃棄物の分類
 「放射性物質汚染対処特措法」において、廃棄物の分類と遵守すべき処理基準が定められました。この中で、環境大臣が指定した汚染廃棄物対策地域(以下「対策地域」という。)にある廃棄物のうち、一定要件に該当する「対策地域内廃棄物」と、事故由来放射性物質による汚染状態が合計で8,000ベクレル/kgを超えると認められ、環境大臣の指定を受けた「指定廃棄物」の2つを併せて「特定廃棄物」と定め、国が収集、運搬、保管及び処分を行うこととしています。
 放射能濃度は時間の経過とともに低下するため、指定廃棄物の放射能濃度が8,000ベクレル/kgを下回る場合があります。このため2016年4月に放射性物質汚染対処特措法施行規則の一部が改正され、指定廃棄物の指定解除の要件や手続きが整備されました。同年7月には千葉県において全国で初めて指定廃棄物の指定が解除されています。

2) 廃棄物の処理
 指定廃棄物は、2016年12月末時点で12都県で発生しており、このうち宮城県、栃木県、千葉県の3県では、国が長期管理施設を設置する方針です。また、茨城県、群馬県では8,000ベクレル/kg以下となるのに長時間を要しない指定廃棄物については、「現地保管継続・段階的処理」の方針が決定するなど、各県の実情に応じた取組が進められています。

図 1-8 指定廃棄物の処理

(出典)環境省放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト「指定廃棄物について」 23

 2016年12月末時点では、対策地域は福島県内の11の市町村にまたがっています。可燃性の廃棄物については仮設焼却施設により減容化が行われており、金属くず、コンクリートくずは安全性が確認された上で、積極的に再生利用する方針です。
 図 1-8に示すとおり、福島県内の対策地域内廃棄物及び指定廃棄物のうち、放射能濃度が10万ベクレル/kg以下の廃棄物は、富岡町にある既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)へ、10万ベクレル/kgを超えるものは中間貯蔵施設に搬入することとされています。可燃性の指定廃棄物は、減容化と性状の安定化を図るための焼却等の対策も進められています。

B 除染に伴って発生した土壌等の中間貯蔵施設の整備に向けた取組
 放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌及び福島県内に保管されている10万ベクレル/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設を整備することとしています。
 中間貯蔵施設の運営事業については、2014年11月に「日本環境安全事業株式会社法」(平成15年法律第44号)の一部が改正され、中間貯蔵に関する国の責務が規定され(同法第3条)、「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが明文化されました。
 2015年3月から輸送を実施しております。また、2016年3月に環境省は「当面5年間の見通し」を公表し、「復興・創生期間」の最終年である2020年度までに、500万〜1,250万m3程度の除去土壌等を搬入できる見通しとしています。2016年11月には受入・分別施設と土壌貯蔵施設の整備に着手しました。施設の整備状況や輸送の状況は、中間貯蔵施設情報サイト 24 にて公表されています。
 また、安全の確保を大前提として、最終処分の実現に向けて、除去土壌等の減容化、再生利用に向けた取組も進めています。除去土壌等の中間貯蔵事業の確実な実施に向けて、今後も自治体や地元住民と十分に協議を行いつつ、これらの取組を進めていきます。


(5)被災地支援に関する取組と現状

@ 被災地の復興・再生に向けた取組
 2013年12月に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」(2015年6月改訂)(以下「福島復興の指針」という。)では、「早期帰還支援と新生活支援の両面で福島を支える」、「東電福島第一原発事故収束に向けた取組を強化する」、「国が前面に立って原子力災害からの福島の再生を加速する」という3つの方針が示されました [49] [50]。2016年12月には、福島の復興・再生をさらに加速するために必要な対策の追加・拡充を目的として、原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針が策定され、現在、その指針に基づいた取組が進められています [51]

1) 避難指示の解除と早期帰還に向けた支援の取組
 震災直後から避難指示に基づき、住民の方々が避難し、避難指示区域等からの避難者数は2012年9月時点で約11.1万人に上ったと集計されています [52]。このような状況に対応するため、2013年3月、復興庁は「早期帰還・定住プラン」を取りまとめ、住民の帰還のために必要な環境整備を、避難指示解除を待つことなく、前倒しで行っていく方針を示しました。早期帰還・定住プランに基づき、各自治体が順次工程表を策定しています [53]
 福島復興の指針の2015年6月改訂により、早期帰還支援と新生活支援の対策の深化が図られ、安全・安心対策の充実、帰還支援への福島再生加速化交付金の活用、帰還住民のコミュニティ形成の支援といった取組を、国と地元が一体となってこれまで以上に注力していく方針が示されました。今後、避難指示の解除が進む中で、生活インフラの整備やコミュニティの維持・形成など、住民の方々の帰還に向けた環境作りのため、更なる取組が望まれます。

2) 生活の再建や自立に向けた支援の取組
 住民の方々が帰還して故郷での生活を再開するためには、働く場所、買い物をする場所、医療・介護施設、行政サービス等の機能が整備されている必要があります。しかしながら、こうした機能を担っていた事業者の多くは、住民の避難に伴う顧客の減少、長期にわたる事業休止に伴う取引先や従業員の喪失、風評被害による売上減少といった苦難に直面しています。こうした状況を踏まえ、2015年8月、国、福島県、民間からなる「福島相双復興官民合同チーム(官民合同チーム)」が創設されました。同チームにより、避難指示等の対象となった12市町村の被災事業者を個別に訪問し、事業再開等に関する要望や意向を把握するとともに、事業再建計画の策定支援、支援策の紹介、生活再建への支援等の取組が進められています。被災農業者に対しては、同チームの営農再開グループが市町村等を訪問して、営農再開支援策の説明を行うとともに、地域農業の将来像の策定と将来像の実現に向けた農業者の取組を支援してきており、今後、2016年12月に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」に基づき、同グループの体制を強化し、農業者への個別訪問活動を行うこととしています。
 また、官民合同チームの中核である(公社)福島相双復興推進機構へ国の職員の派遣を可能とするなどの措置を、福島復興再生特別措置法に盛り込み、国、県、民間が一体となって腰を据えた支援を行うための体制整備を進めます。
 また、震災から6年を経過してもなお、福島で生産された商品の販売等や観光業の不振が生じるなど、風評被害が続いています。これに対して、復興庁では2013年3月から関係省庁を集めて、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」を開催しています。2014年6月には「風評対策強化指針」を取りまとめ、同強化指針に基づいて「風評の源を取り除く」、「正確で分かりやすい情報提供を進め、風評を防ぐ」、「風評被害を受けた産業を支援する」という3つの対策が推進されています。その後も同タスクフォースにおいて、この取組に対するフォローアップが行われるなど、継続的に対策が進められています。特に、農林水産業については、「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」に基づき、政府が福島県、農業関係団体等と、風評被害の実態や実施の効果を継続的に検証する体制を設けるとともに、生産から流通・販売に至るまで風評の払拭に必要な支援を進めることとしています。また、2017年5月に福島復興再生特別措置法を改正し、福島県産農林水産物等の販売等の実態調査や当該調査に基づく指導・助言等の措置を講ずることを法律に位置づけました。

3) 新たな産業の創出・生活の開始に向けた広域的な復興の取組
 東日本大震災後に段階的に復旧してきた常磐自動車道は、2015年3月に全面開通し、国道6号も一般通行を再開しています。JR常磐線は段階的な復旧が進められており、2016年12月末時点で竜田〜小高間を除く区間の路線で運行が再開しています。帰還困難区域を含む全線は、2019年度末までの開通を目指しています。
 また、「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会」において、避難指示が出された福島県の12市町村の将来像が中長期かつ広域的な視点から検討され、2015年7月に、30〜40年後の姿を見据えた2020年の課題と解決の方向が提言として取りまとめられました。2016年5月の第11回検討会では「福島12市町村将来像実現ロードマップ2020」が取りまとめられ、5分野・19項目の取組 25 が示されました。さらに、2017年6月には、「福島12市町村将来像実現ロードマップ2020改訂版」が策定され、主要個別項目への取組に小中学校再開のための環境整備などの新規3項目が追加され、合計22項目に拡充されました。
 これらの取組の一つに挙げられている「福島イノベーション・コースト構想」については、新たな産業基盤の構築を目指し、国・県・自治体が一体となって、推進に向けた取組が実施され、廃炉研究開発、ロボット研究・実証、情報発信拠点(アーカイブ)、国際産学連携等の各拠点の整備が進んでいます。また、2014年12月より、原子力災害対策本部の現地対策本部長を座長として、福島県知事、地元市町村長、有識者、関係省庁で構成される「イノベーション・コースト構想推進会議」が開催されており、2017年2月の第8回会議では、地元企業の参画促進、構想を担う人材の育成、農業分野の加速、構想推進体制の抜本強化といった今後の方向性が示されるなど、同構想の具体化に向けた検討が進められています。さらに、 2016年12月20日に閣議決定された「原子力災害からの福島復興の加速のための基本指針」において、福島イノベーション・コースト構想の実現に向けた多岐にわたる課題を政府全体で解決していくため、福島復興再生特別措置法に基づく計画に同構想に係る取組を位置付け、関係省庁による具体的な連携体制の構築等を進める閣僚級の会議体の創設や、関係省庁、県等が参画して同構想の推進に関する基本的な方針を共有していく場としての協議会を創設することが示されました。
 これを踏まえ、2017年5月に改正された福島復興再生特別措置法に「福島イノベーション・コースト構想」が位置付けられるとともに、2017年7月に開催された第1回福島イノベーション・コースト構想関係閣僚会議において、「福島イノベーション・コースト構想の今後の方向性」が決定されました。また、2017年8月に開催された「原子力災害からの福島復興再生協議会」において、同協議会の下に「福島イノベーション・コースト構想推進分科会」が設置され、同年秋を目途に、初回会合が開催される予定です。このように、福島イノベーション・コースト構想の更なる加速化に向けた取組が進められています(図 1-9)。

図 1-9 福島イノベーション・コースト構想の進展状況(2017年7月時点)

(出典)第1回福島イノベーション・コースト構想関係閣僚会議(2017年7月) 資料1

4) リスクコミュニケーションの推進等
 放射線に関する健康上の不安解消、農林水産物の風評の払拭、避難されている児童生徒等へのいじめなど、原子力災害に起因するいわれのない偏見や差別の解消を図るためには、放射線の影響についての国民の正しい理解を増進させる必要があります。これまで「帰還に向けた放射線リスクコミュニケーションに関する施策パッケージ」の取りまとめ(2014年2月) [54]や国内外への情報発信等、関係省庁は連携して放射線に関するリスクコミュニケーションに取り組んできました。さらに、震災から6年を経過した現状を踏まえ、放射線に関する国民の理解の増進に対する関係省庁の連携した取組を抜本的に強化するため、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」にプロジェクトチームを設け、風評払拭のためのリスクコミュニケーション等の戦略を取りまとめる等の取組を進めることとしています。

A 原子力損害賠償の取組
 政府は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律147号)(以下「原賠法」という。)に基づき、2011年4月、「原子力損害賠償紛争審査会」を文部科学省に設置しました。原子力損害賠償紛争審査会は、被害者の迅速、公平かつ適正な救済のために、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)を同年8月に策定し [55]、2016年12月末時点で、第四次追補まで策定されています。賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示すとともに、指針に明記されていない損害についても、事故との相当因果関係があると認められたものは賠償の対象とするよう、柔軟な対応を東京電力に求めています。また、「原子力損害賠償紛争解決センター」においては、事故の被害を受けた方からの申立てにより、仲介委員が当事者双方から事情を聴きとって損害の調査・検討を行い、和解の仲介業務を実施しています。
 原子力事業者の損害賠償に必要な国からの資金の交付等の業務を行い、原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給等の確保を図るため、2011年9月に「原子力損害賠償支援機構」が設立されました(図 1-10)。2014年8月からは「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」に改組され、「原子力事業者からの負担金の収納」、「原子力事業者が損害賠償を実施する上での資金援助」、「損害賠償の円滑な実施を支援するための情報提供及び助言」、「仮払法に基づく国又は都道府県知事からの委託による仮払金の支払い」、「廃炉の主な課題に関する具体的な戦略の策定」を主な業務としています。
 東京電力は中間指針等を踏まえた損害賠償を実施しており、2017年1月末現在、総額で約6兆9,522億円の支払いを行っています。

図 1-10 原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援

(出典)経済産業省「平成26年度エネルギーに関する年次報告」(2015年)に基づき作成


  1. 復興庁は、復興庁設置法により2021年3月31日までを期限として時限措置的に設置されています。
  2. 年間積算線量が50mSvを超え、5年後にも年間積算線量が20mSvを下回らないおそれがあり、引き続き避難を徹底する区域です。
  3. 東電福島第一原発から20km圏内で(「避難指示区域」と重複)、例外を除き立ち入りを禁止する区域です。
  4. 東電福島第一原発から 20km圏外で、事故後1年間の被ばく線量の合計が20mSvになるおそれがあり、住民の方々に避難を要請する区域です。
  5. 東電福島第一原発から20〜30km圏内で、上記に該当せず、緊急時に屋内退避若しくは避難を要請する区域です。
  6. 年間積算線量が20mSv以下になることが確実と確認され、住民の一時帰宅や一部事業が再開する区域です。
  7. 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり、避難の継続が求められているが、住民の一時帰宅や道路の復旧工事のための立ち入りを許可する区域です。
  8. 消費者の健康の保護等を目的として設置された、国際的な政府間機関です。
  9. 問診表に基づく行動記録から、外部被ばく実効線量が推計されています。
  10. 「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の4種の調査が含まれています。
  11. World Health Organization
  12. United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation
  13. http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/
  14. http://shiteihaiki.env.go.jp/radiological_contaminated_waste/designated_waste/
  15. http://josen.env.go.jp/chukanchozou/
  16. 「産業・生業の再生・創出」、「住民生活に不可欠な健康・医療・介護」、「未来を担う、地域を担うひとづくり」、「広域インフラ整備・まちづくり・広域連携」、「観光振興、風評・風化対策、文化・スポーツ振興」の5分野で取組が示されました。

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