第1章 国民の信頼回復に向けて
3.原子力開発利用に対する国民の不安と不信

(2)国民の信頼回復に向けた取組

 国においては、情報公開を始め、原子力政策の策定過程における透明性の向上に努めるとともに、様々な場を通じて国民との対話を進め、原子力に対する国民の信頼回復に努めています。

 国においては、国民の原子力に対する不安や不信に応え、国民の信頼回復を図るため、特に以下の施策を進めている。

①情報公開と政策決定過程への国民参加
 原子力に関する情報の公開や、政策決定過程の透明性の確保の必要性は、国民の原子力に対する理解と協力を得る上で、その重要性が増している。また、先にも触れた、「安全」と「安心」の乖離を埋めるためにも、情報公開が重要な役割を果たすことは、先の円卓会議での議論の中でも指摘されたところである。
 原子力委員会は、この様な認識の下、円卓会議の提言を受けて、1996年9月25日に「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」を決定し、専門部会については1996年10月以降、また、原子力委員会本会議についても1997年4月以降、基本的に議事を全面公開とし、広く国民に原子力政策の審議過程が見えるように努めてきている。さらに、政策決定において重要な役割を担っている専門部会等の報告書の策定に際し、国民から意見募集を行い、国民の原子力政策決定過程への参加を図ってきた。これまで5つの専門部会等報告書案について、国民からの意見募集を行い、計1,150人から1,931件の意見が寄せられ、各々の部会等において検討の上、反映すべき意見は採用し、不採用とした意見については明確な理由を付して、報告書と併せて公開している
 これらの会議資料、議事録、専門部会等の報告書案は、現在インターネット上でも公開され、全国どこからでも情報を得られるようになっている。高度情報化の進む中で、インターネット利用者も年々急増しており、こうした新しいメディアの利用はより多くの人々が原子力政策や原子力開発利用に関する情報や動向をタイムリーに入手できる有力なツールとして、関係省庁や研究開発機関においても積極的に導入されている。
 また、国では、原子力施設の設置許可申請書やトラブルに関する報告書など、原子力安全に関する情報を含む原子力関連情報提供機関の中核として原子力公開資料センター(参照)(東京:文京区白山、1997年1月14日開設)や原子力発電ライブラリ(参照)(東京:港区虎ノ門)を運営するとともに、今後、未来科学技術情報館(参照)(東京:新宿)、サイエンス・サテライト(参照)(大阪:扇町)、原子力連絡調整官事務所などを活用し、地域に根ざしたより利便性の高い情報提供サービスを順次充実することとしている。


(科学技術庁ホームページ(http://www.sta.go.jp)「関係諮問機関等」のうち、「原子力委員会」を参照。原子力政策円卓会議関連情報の掲載から始め、専門部会等関連資料、原子力委員会本会議関連資料等を順次充実した。)

科学技術庁ホームページ  http://www.sta.go.jp

図1-3-3 インターネットによる専門部会等報告書案に対する
国民からの意見募集及び科学技術庁ホームページ

②国民との対話
 原子力委員会の高レベル放射性廃棄物処分懇談会がまとめた報告書の目的は、関係機関に対して施策の提言を行うこと及び国民にこの問題の周知を図り、議論を深めることであり、原子力委員会のイニシアティブにより、高レベル放射性廃棄物処分への今後の取り組みに関して、地域住民、高レベル放射性廃棄物処分懇談会及び原子力バックエンド対策専門部会の構成員の参加を得て、各方面から意見を聴取・交換するため、全国5カ所で意見交換会を開催した。また、核燃料サイクル施設の安全性や必要性、プルサーマル計画の必要性などに関し、地域住民を対象としたシンポジウムやフォーラムが原子力施設立地地域を中心に多数開催されている。これらは地方自治体主催のものや国主催のものもあるが、その多くに科学技術庁や通商産業省の職員が出席し、国の政策の説明や、住民の疑問に直接答えるなどの努力を続けている。
 さらに広く国民の原子力に関する疑問や関心に答えるため、国では1987年以来、5人以上の集まりであれば、エネルギーや原子力に関する専門家を講師として派遣する講師派遣事業(参照)を行っており、1998年3月末までで、1,700回以上、10万人が利用している。派遣希望テーマの変遷を見ると、1988年当時は、原子力の必要性について説明を希望する声が高かったが、近年は地球環境とエネルギーなどの問題に要望が高くなってきているなど、国民の原子力に対する関心の受け止め方の変化が見られる。また、国民との直接対話を通じて原子力に対する理解を深める活動は、原子力に対して様々な立場の市民団体が主催する「対話集会」等への国の職員の参加も含め、多角的に行われている。

図1-3-4 エネメイト事業における施設見学会

 原子力に関する国民の意見を適時に聴取する機能として、国においては、自治体の推薦及び一般公募からなる原子力モニター制度(参照)や、女性を対象としたエネメイト事業を実施しており、原子力モニター制度については、1996年度から導入した公募モニターの定員枠を1998年度の改選から拡充した。原子力モニター制度においては、意見、報告の提出や、原子力施設の見学会への参加に加え、原子力の専門家や国の職員を交えたモニター同士が議論するモニター懇談会を開催するなど、対話を通じて原子力の問題を考える場を提供している。
 なお、1997年度に原子力モニターから寄せられた意見を分析すると、動燃の火災爆発事故以降、動燃に対する意見が増大し、全体数の約3割を占めたのが特徴であるが、併せて、原子力に関する報道の在り方や、原子力に関する教育の充実を指摘する声も多い。国民の大部分がマスメディアを通じて原子力に関する情報を得ている点を考えれば、マスメディアの役割は大きい。また、青少年の理科離れが進む中で、エネルギーや環境問題との関連で原子力を幅広く理解し、そのための科学的教養を身につけることは、原子力の問題を国民一人一人が自らの問題として考えていく上で重要である。近年、原子力学会や放射線教育フォーラムなどから学校教育課程の中で原子力や放射線に関する学習の充実を図ることの重要性が指摘されているが、原子力委員会としても、教育現場用の原子力に関する副読本に関する調査研究を進めるとともに、科学技術庁においても教員を対象とした実験セミナーの開催等、教育現場での原子力についての知識の普及に努めている。
 これら報道や教育の問題は原子力に関する「安全」と「安心」のギャップを埋めていく上でも重要であり、関係機関においてもさらなる取り組みが求められている。

 事業発足当初の1988年は、原子力発電の必要性についてのテーマが多く、その後、チェルノブイリ原子力発電所事故、関西電力(株)美浜発電所2号機蒸気発生器伝熱管損傷事故、阪神大震災、「もんじゅ」事故などへの関心の高さから、原子力発電の仕組みや安全性あるいは放射線・放射能に関するテーマが多くを占めるようになっている。近年は、特に地球温暖化問題に対する原子力や新エネルギーの役割についての関心が高くなっている。
図1-3-5 講師派遣事業のテーマの変遷

 原子力モニターからは随時、意見を聴取しており、1998年3月に、1996年7月以降1997年7月までに原子力モニターから寄せられた延べ720通の随時報告を取りまとめた。
 意見は、①原子力の安全・安心に関する事項、②エネルギーと原子力に関する事項、③原子力と核燃料リサイクルに関する事項、④原子力と社会との関わりに関する事項の4つの項目にわけて分類・整理した。
 中でも、「④原子力と社会との関わりに関する事項」のうち、「原子力に関する教育、広報啓発活動、報道の重要性・役割に関する事項」や「情報公開の促進、国民の政策決定過程への参画に関する事項」に関する意見がその多数を占めている。

図1-3-6原子力モニターの意見の集計


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