第1章 国民の信頼回復に向けて
4.今、原子力政策に求められているもの

〜ともに考える原子力〜

 原子力委員会は、原子力を取り巻く状況の変化を踏まえ、将来の原子力開発利用の全体ビジョンの構築を念頭に当面の政策課題に取り組むとともに、新円卓会議の開催など、原子力に対する国民の理解と協力の促進に向けて取り組みます。

 前節まで、過去1年余における原子力開発利用の動向を概説しつつ、現在の原子力の置かれている状況を、原子力に対する国民の信頼回復という視点で見てきた。本節では、これらをも踏まえ、今後の原子力政策を如何に展開すべきか、幅広い視点に立って考えてみたい。

 我が国を取り巻く内外の社会・経済情勢が変化し、国民生活を始め、社会・経済全体が大きな変革期を迎える中、原子力開発利用もその例外ではない。
 地球温暖化問題への国際的な関心の高まりは、今後、地球温暖化という人類の生存基盤を脅かす問題に、原子力がいかに貢献できるかについて、我が国の温暖化防止対策という枠を超えて、特にアジア地域の原子力先進国という我が国の立場を踏まえたグローバルな視点から、今後この問題を考えていくことの重要性を改めて認識させる契機となった。
 また、1998年5月にインド及びパキスタンが地下核実験を実施し、これに対して原子力委員会は、同月12日の委員長談話及び29日の委員会声明において強い遺憾の意を表したところであるが、冷戦構造後のグローバリゼーションの進展の中、原子力分野の国際協力や核不拡散・核軍縮への国際的な動きへの対応については、原子力の平和利用を大前提として、我が国の理念を明確にし、適切にこれを行っていく必要がある。
 国内の原子力開発利用においては、残された重要課題である高レベル放射性廃棄物処分問題や核燃料サイクルに柔軟性を持たせる使用済燃料の中間貯蔵について、具体的な取り組みに向けた基本的考え方が国民の前に示され、今後着実な展開が重要となっている。
 「もんじゅ」事故を契機とした高速増殖炉開発をめぐる国民的議論では、高速増殖炉は、将来の非化石エネルギー源の一つの有力な選択肢としてその研究開発を進めるべきとしたが、一方で、研究開発を進めるに当たっての柔軟性の必要性を指摘した。
 さらに、動燃問題は、極めて高い安全性が要求され、先駆者の少ない原子力という特殊な分野における研究開発機関の組織体制あり方、欧米先進国へのキャッチアップを目指し、国の成果をユーザーとしての電気事業者等に技術移転を図っていく我が国のこれまでの原子力開発、技術移転のあり方、あるいはこれまで曖昧になりがちであった原子力委員会、国、研究開発機関の責任分担や裁量権のあり方についても問題を提起し、原子力など巨大科学技術開発のあり方について一石を投じた。
 また、行政改革会議での議論を踏まえた「中央省庁等改革基本法案」(1998年2月17日国会提出)において、原子力委員会は原子力安全委員会とともに内閣府に置かれることとされており、原子力委員会としては、その重責を改めて認識するものである。
 一方、我が国の社会においては、国の行うことについては、国民に情報を公開し、常に説明する責任、すなわちアカウンタビリティーが求められるようになってきている。過去において原子力に関するアカウンタビリティーが十分であったかといえば、反省せざるを得ない面もある。

 我が国の原子力開発利用はその着手から40年余を経た今日、原子力を取り巻く上述のような諸情勢の変化に適切に対応しうる、新たな視点、アプローチからの政策策定が必要となってきている。
 その際、原子力は、現在我が国の総発電電力量の約3分の1を賄っている重要なエネルギー源であること、資源小国である我が国が今後とも豊かで安定した発展を遂げていく上で、原子力の果たすべき役割という観点を踏まえることが重要と考えられる。また、地球温暖化対策での議論に見られるように、現在、地球的視野に立って我々人類の将来を考えることが益々重要になってきている。人類が、早晩、直面する人口問題、エネルギー問題、資源問題、地球環境問題などの解決に当たっては、我が国は国際社会とともに考え、行動していかなければならない。そのような状況の下で、人類全体が、限られた資源を活用し、豊かで潤いのある生活を実現しつつ、かつ、地球環境と調和した人類社会の発展を遂げていくためには、エネルギー源としての原子力、とりわけ、プルトニウム利用による核燃料サイクルは、資源論、環境論の両面から重要性を増すものと考えられる。また、このような視点に立てば、原子力先進国としての我が国は、原子力開発利用にあたり、国際社会と手を携えながら取り組むことが肝要である。さらに、原子力の有する総合科学技術の側面に着目すれば、最先端のがん治療など国民生活への応用のみならず、広範な科学技術分野での新たな知見や革新技術の創出など、21世紀社会の基盤となる知的資産の形成にも貢献することが期待される。
 原子力開発利用に国民が漠とした不安を抱いているとすれば、それを払拭するためにも、このように長期的かつ地球的な視点に立った幅広い原子力開発利用の将来展望を明らかにしつつ、具体的な政策を展開していくことが重要であり、また、このことは原子力委員会が担っている責務であると考える。その際、原子力開発利用が、国民の理解と協力の上に始めて成り立つものであることに鑑みれば、その足元をしっかり踏み固めつつ、歩を進めることは当然であり、広く国民の声に耳を傾けつつ、「原子力政策への国民の負託」が何かを常に念頭に、政策の策定等に努めることが重要であると考える。

 以上の認識を踏まえ、原子力委員会では、今後、原子力を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ、21世紀に向けた原子力開発利用の全体ビジョンの構築を念頭に、引き続き当面の政策課題に取り組むとともに、平成10年度原子力開発利用計画において述べたように、原子力に関し、国民各界各層の参加を得て多角的に議論を行う「新円卓会議」(仮 称)を開催するなど、原子力に対する国民の理解と協力の促進に向けた取り組みを一層強化することとする。国民の一人一人が「どうなる原子力」ではなく「どうする原子力」という観点に立ち、原子力を自らの問題としてともに考えることを期待したい。


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