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原子力開発利用長期計画の見直しに
当たっての基本認識について

平成4年7月28日
科学技術庁

1. 原子力開発利用を巡る情勢の変化

 現行の原子力開発利用長期計画策定以降の原子力開発利用を巡る情勢の変化について原子力開発利用長期計画検討会(以下「長計検討会」という。)は、次の認識を示している。

(1) 今後とも世界的にエネルギー需要は着実に増大することが予想される中、湾岸危機の勃発や地球環境問題の高まりを契機として、エネルギーの安定供給、環境影響等の観点から、原子力開発利用の意義はより高くなっている。

(2) 我が国が原子力の平和利用を引き続き円滑に推進するため、イラクのIAEA保障措置協定違反問題、ソ連の解体、北朝鮮の核開発疑惑等に起因する国際的な核兵器の拡散に対する懸念の高まり、我が国の経済力、技術力に対する期待の高まりを踏まえ、平和利用と核不拡散との両立や経済面、技術面での先進国としての我が国の役割等について改めて検討すべき時期にきている。

(3) 新規立地の長期化、学生の原子力産業離れ等の現象が顕在化しつつあり、立地促進、人材の確保・育成、推進体制の整備等原子力推進基盤を整備することが重要になってきている。

(4) 原子力発電設備容量は着実に伸び、核燃料サイクルについても事業化の段階に入るなど原子力開発利用は概ね着実に進展してきており、21世紀に向けてのより進んだ具体策の展開が可能になってきている。

2. 原子力開発利用の基本課題

 長期計画検討会は、上記の情勢変化を踏まえて今後の原子力開発利用の展開を考えた場合、長期的視点、国際的視点及び国民の理解と信頼を得るための視点という3つの視点からその課題について検討することが重要としている。

(1) 長期的視点からの基本課題
 ・基軸エネルギーとしての確立
 原子力は、供給安定性、経済性、環境影響等の面で優れており、エネルギー資源の乏しい我が国にとって、今後とも技術エネルギーたる原子力の開発利用を推進する意義は大きい。このため、原子力施設の立地の円滑な推進を図るための方策の検討及び世界のエネルギー需給、環境影響面等を勘案した原子力の位置付けについて検討することが必要である。
 ・長期的展望に立った総合開発戦略の必要性
 核燃料サイクルの確立を図る上では、それぞれが密接に関係する濃縮、燃料加工、発電、再処理、廃棄物処理処分等について、整合性をとりつつ総合的かつ体系的に推進することが重要である。このため、短期的な経済的合理性のみならず、将来における経済性の向上の可能性、研究開発の必要性等の長期的かつ総合的な視点も踏まえ、かつ、国際的にも理解が得られるよう計画の透明性に配慮しつつ、もんじゅ以降の高速増殖炉開発、プルトニウム利用、放射性廃棄物の処理処分等を始めとする核燃料サイクルの在り方について検討する必要がある。
 ・基礎研究・基盤技術開発推進の強化
 国民に原子力は夢と希望に溢れた分野であることを理解してもらうとともに、原子力の新たな可能性を切り拓き、科学技術の発展の面で世界に貢献していくという観点から、基礎研究、基盤技術開発を強化し、また先導的なプロジェクトを推進していくことが重要である。
 ・原子力推進基盤の整備
 原子力開発利用を今後とも推進していくためには、優れた研究者、技術者、技能者が不可欠であり、これらの人材の確保・育成のための方策を検討する必要がある。また、世界の原子力研究開発の中核の一つとしての役割を発揮できるよう研究機関を充実するための方策、大学と研究機関の連携・協力の在り方、研究炉等の整備方策等について検討する必要がある。

(2) 国際的視点からの基本課題
 ・核不拡散等と我が国の役割
 国際的な核不拡散問題に対する懸念の高まりの中で、世界の核物質管理の動向が我が国の原子力開発利用の進め方に影響を与えるようになってきている。我が国は従来から一貫して原子力を厳に平和利用に限り推進し、核不拡散と原子力平和利用の両立を図っているが、今後は我が国の原子力開発利用計画について国内外の理解が得られるよう努力することが一層重要になってきている。このため、世界に対し我が国の原子力活動の透明性を明らかにするとともに、世界的な拡不拡散体制の維持・強化に積極的に貢献する方策を検討する必要がある。その際、高速炉技術の柔軟な利用、適切な核物質防護措置等にも留意していくことが必要である。
 ・原子力の技術先進国の一員としての我が国の役割
 今後とも見込まれる世界的なエネルギー需要の伸び、旧ソ連・中東欧の原子炉を始めとする原子力施設の安全性・信頼性向上の要請を念頭に置き、かつ我が国の技術力、経済力を踏まえた上、我が国が原子力開発において果たすべき役割や取り組み方について検討する必要がある。その際、国際貢献を果たし得る国内のインフラストラクチャー整備についても留意していくことが必要である。

(3) 国民の理解と信頼を得るための視点からの基本課題
 ・国民の理解の増進
 原子力開発利用を円滑に推進するためには、研究機関、電力、メーカー等の直接の担い手が各々の役割を積極的に果たしていくことが重要であることはもちろんであるが、同時に国民の理解と信頼を獲得することもそれに劣らず重要である。このため、原子力について国民一人一人が自らの問題として主体的に考える土壌を形成する方策について検討し、併せて原子力施設と地元社会との共存共栄のための方策について検討することが重要である。
 ・国民の信頼感の醸成
 国民の理解が十分得られていない原因として、原子力の安全性に対する信頼感が醸成されていないことが考えられることから、原子力施設の安全確保実績を積み重ねるとともに、安全性向上のための不断の努力を国民にはっきりと示して信頼感を醸成していく方策について検討していくことが重要である。
 ・理解・支持される計画の策定
 各般の原子力活動についての国民の理解を得ることが重要であることはもちろんであるが、加えて長期計画そのものが国民に支持されるものとなることも重要と考えられることから、長期計画策定過程において原子力以外の学識経験者等からも広く意見を求めることが有意義と考えられる。

長期計画の在り方

1. 長期計画の改定の必要性

 原子力開発利用をめぐる状況と基本課題を考えた場合、現行の長期計画を改定し、時代に即応したものとすることが必要と考えられる。その際、特に次の点について、重点的に検討・整理することが必要と考える。
 ・21世紀を展望した長期的かつ整合性ある原子力開発利用体系の構築
 ・東西冷戦終了後の新たな世界秩序における核不拡散と原子力平和利用との両立
 ・原子力の技術先進国の一員としての国際貢献、科学技術立国にふさわしい先導的プロジェクト、基礎研究・基盤技術開発の推進
 ・エネルギー問題、地球環境問題等の世界的課題に取り組む上での原子力の必要性等に対する国民の理解の増進

2. 長期計画の意義等

(1) 長期計画の意義
 長期計画の意義①:第一義的には、原子力の開発利用に携わる人に対して長期にわたる基本的かつ総合的な指針の大綱と基本施策の推進方向を明らかにし、原子力関係者による計画的かつ効率的な原子力開発利用の推進を図ることを目的としている。
 長期計画の意義②:それと同時に、国民の理解なくしてはその円滑な推進は図れないことから、原子力開発利用に関する明確なビジョンを国民に提示し、原子力開発利用政策の透明性を確保し、もって、国民の理解の促進を図るものである。
 長期計画の意義③:また、国内ばかりでなく広く世界に対しても、我が国の原子力開発利用に関する計画を示すことにより、世界的な理解と協調の下で、我が国の原子力開発利用を推進することにも資するものである。

(2) 長期計画の対象期間等
 意義①の観点からは、対象期間は、全体としては21世紀中葉までを視野にいれながら、向こう10年程度の計画を明らかにしていくことが適当と考えられるが、具体的に何年にするかは個々の領域の特性に合わせ、また、その検討状況に合わせて長期計画の検討作業の中で決めていくべきものと考える。
 意義②の観点からは、計画策定段階の参加者の問題、策定プロセスにおける意見聴取の問題として工夫していくことが適当と考える。

3. 長期計画改定の際の主要な検討事項

 今後、長期計画を改定するに際しては、まずは前述の基本課題を十分参酌し、検討することが重要である。その上で、原子力開発利用の各項目毎に主要な検討事項を示せば、以下の通りとなる。

(1) 原子力開発利用の意義

(2) 安全の確保

(3) 軽水炉利用の展望と高速増殖炉への展開
 ① 軽水炉
 ② ATR
 ③ FBR

(4) 核燃料サイクルの確立
 ① ウラン資源の確保
 ② ウラン濃縮
 ③ 再処理
 ④ プルトニウム利用

(5) バックエンド対策の推進
 ① 放射性廃棄物処理処分
 ② 廃止措置対策

(6) 核融合研究開発の推進

(7) 原子力の新たな分野への展開

(8) 基礎研究・基盤技術開発
 ① 基礎研究
 ② 基盤技術開発

(9) 官民協力による推進体制の強化

(10) 人材確保・養成

(11) 国民の理解と原子力施設の立地
 ① 国民の理解の増進
 ② 原子力施設の立地対策

(12) 国際貢献

(13) 核不拡散体制

(14) 核物質防護


(参考) 長計検討会で出た具体的検討内容の例

(1) 原子力開発利用の意義
 ・供給安定性、経済性、環境面等を踏まえた原子力開発利用の位置付け
 ・我が国のみならず世界的視点を入れた原子力開発利用の位置付け
 ・原子力の地球環境問題解決への貢献度合いのより具体的な分析に基づいた原子力開発利用の位置づけ

(2) 安全の確保
 ・原子力の安全性の一層の向上を目指した安全対策の充実等
 ・安全研究の推進(シビアアクシデント、PSA等)

(3) 軽水炉利用の展望と高速増殖炉への展開
 ① 軽水炉
 ・安全性、信頼性、経済性の一層の向上
 ・経年劣化対策等
 ② ATR
 ③ FBR
 ・「もんじゅ」以降のFBR開発の在り方、特に、FBR実証炉開発の進め方
 ・FBR実用化の展望

(4) 核燃料サイクルの確立
 ① ウラン資源の確保
 ・天然ウラン資源情勢、我が国におけるウラン資源の確保の見通し
 ② ウラン濃縮
 ・長期需給見通し及び濃縮国産化の規模等の今後の展望
 ・ウラン濃縮技術開発の進め方
 ③ 再処理
 ・使用済燃料の貯蔵オプション、海外再処理委託に対するスタンスの明確化
 ・民間第二再処理工場の展開の在り方
 ・高速炉燃料再処理の研究開発の進め方
 ④ プルトニウム利用等
 ・プルトニウム需給見通し及びFBR、ATR、軽水炉によるプルトニウム利用の位置づけ
 ・軽水炉によるプルトニウム利用の計画的な遂行
 ・国内MOX燃料加工体制の確立
 ・回収ウランの利用の進め方

(5) バックエンド対策の推進
 ① 放射性廃棄物処理処分
 ・高レベル放射性廃棄物の処理処分対策の推進
 ・核種分離・消滅処理の研究開発の推進
 ・TRU廃棄物等処理処分方策の確立
 ・低レベル放射性廃棄物の処分の推進
 ・放散性廃棄物処理処分対策における国際的な協調・協力
 ② 廃止措置対策
 ・原子力施設の廃止措置対策の推進

(6) 核融合研究開発の推進
 ・国際協力を踏まえた核融合研究開発の推進方策
 ・先端的科学技術の牽引車としての核融合の位置づけ
 ・エネルギー源への参入を目指した核融合推進シナリオの提示

(7) 原子力の新たな分野への展開
 ・非発電動力、熱利用、放射線利用等の原子力の非発電分野への展開
 ・放射線の利用の一層の普及・拡大(RI廃棄物の処理処分体制の整備を含む)
 ・大型放射光施設(Spring-8)、重粒子がん治療装置の建設等加速器技術の進歩による放射線利用技術の高度化
 ・高温工学試験研究炉の建設による熱利用系の研究開発の推進
 ・舶用炉研究開発の推進方策の在り方
 ・中小型炉、固有の安全特性等の研究の推進

(8) 基礎研究・基盤技術開発
 ① 基礎研究
 ・量子レベルでの原理・現象の工学的な利用等の新たな領域の拡大の可能性とその研究推進方策、体制等
 ・産学官の研究ポテンシャルを結集した先端的基礎研究の推進方策
 ・大学と研究機関等との連携
 ② 基盤技術開発
 ・産学官の研究ポテンシャルを結集した基盤技術開発の推進方策
 ・従来の4分野に加えて、新たな基盤技術開発分野の発掘

 (9) 官民協力による推進体制の強化
 ・国際協力推進のための体制の確立
 ・官民の適切な役割分担に基づいた技術開発等の円滑な推進
 ・原子力開発利用の進展に応じた研究機関の役割の検討

 (10) 人材確保・養成
 ・大学教育・研究へのサポートの方策
 ・研究者、技術者等の確保・養成対策
 ・魅力ある原子力、若者に夢を与える将来計画の策定
 ・研究炉の問題への対応

(11) 国民の理解と原子力施設の立地
 ① 国民の理解の増進
 ・国民の理解の増進のための活動を進める上での基本ポリシーの確立及び国民の信頼感の醸成を図るための方策
 ・相手の状況に応じたきめ細かなPAに関する対策
 ・関係機関間の協調体制の在り方
 ・放射線影響に関する長期的観察と知見の蓄積等PAにも資する研究の進め方
 ・原子力技術に関する情報提供
 ・核物質防護に関する国民の一層の理解の促進
 ② 原子力施設の立地対策
 ・第4紀層立地方式、海上立地方式、地下立地方式等新立地方式の検討など立地選択肢の拡大

(12) 国際貢献
 ・世界の原子力安全の向上に資する方策
 ・発展途上国等における原子力利用への貢献方策
 ・国際機関における我が国の貢献方策

(13) 核不拡散体制等
 ・核不拡散体制の維持強化方策
 ・国内外で理解の得られるような総合開発戦略の港築
 ・核不拡散体制への我が国の貢献の在り方
 ・保障措置体制の在り方
 ・核不拡散体制に関する国際協力の在り方及びプルトニウム管理に対する考え方
 ・NPT延長問題への対応策
 ・原子力関連資材の輸出規制枠組み等の核不拡散上の輸出規制制度の強化・改善

(14) 核物質防護
 ・核物質防護対策の推進


(参考)

  原子力開発利用長期計画検討会の構成員
(座長) 大山 彰 原子力委員会委員長代理

 久保寺昭子 東京理科大学教授

 近藤 駿介 東京大学教授

 鈴木 篤之 東京大学教授

 鳥井 弘之 (株)日本経済新聞社論説委員

 深海 博明 慶應義塾大学教授

 藤家 洋一 東京工業大学教授

 依田 直 (財)電力中央研究所理事長

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