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巻頭言 退任に当って 向坊 隆
気のつかない間に10年余が経って、第3期目の任期が来た機会に辞任致しました。この間、長年に互り暖かい御援助を頂いた数多くの方々に厚く御礼申し上げます。
原子力委員会の発足した時には、私は米国に居りましたので、事情がよく分らず、米国と似た組織が出来た位に思っていました。しかしよく考えて見ると基本的に両国の委員会には違ったところがありました。第一に米国では原子力委員会が核兵器の開発にも責任を持っておりました。これに対して、わが国では原子力委員会の最大の任務は原子力の平和利用を担保することでありました。核の軍事利用は国が決意しなければ出来ないことですから、平和利用の担保とは、実は政府を監視することでした。第二に米国では原子力委員会は独立した行政機関として大勢の人を抱え、強い権限を持っていました。わが国では原子力委員会は諮問委員会であり、行政機関ではありません。只、委員会は独自に審議決定することが出来、その決定を総理大臣が尊重せねばならないになっている点が諮問委員会としては独特のもので、これは特に原子力施設の安全確保の上からは大きな役割を果して来たものと思います。
米国ではその後、事情が変り、原子力はエネルギー省の管轄になったことは御承知の通りでありますが、私の滞米中の原子力委員会には、もう一つわが国の場合と違った点がありました。それは委員会の中に一人は野党推薦の人が入っており、その人の意見が他のメンバーと違う時には、委員会決定の発表に当り、必ず少数意見として、それがつけ加えられていた点でした。これから、わが国でも成るべく多数の意見を政策に反映させる意味で、このような制度は何等かの形でとり入れては如何かと思います。
わが国の原子力開発は、米、仏に次ぎ、ロシアと並ぶ規模に迄発展しました。しかし、核燃料サイクル、プルトニウムの利用、高レベル廃棄物の処理、処分などの難かしい問題を解決しない限り、わが国の原子力開発はシステム全体が完結したとはいえません。将来のわが国のエネルギー需給を考えれば、原子力が現在以上に発展して、エネルギー供給の上で、ある程度の役割を担うことになるでしょう。
それに向って産官学が協力して問題解決に努力されることを切に期待し、退任の御挨拶と致します。
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