前頁 | 目次 | 次頁 |
JT−60の現状について 平成3年9月20日
日本原子力研究所
日本原子力研究所(理事長伊原義徳)の臨界プラズマ試験装置(JT−60)は、これまで高温高密度プラズマを長時間安定に閉じ込める研究において世界のトップレベルにあったが、その後、約1年半に及ぶ大電流化及び重水素使用のための改造・整備を実施した。
JT−60は、本年3月末から調整試験を実施してきたところであるが、7月19日より核融合炉の実燃料である重水素を用いたプラズマ試験を開始した。試験は順調に進展しており、試験開始後2カ月という短期間ながら、2.3億度のプラズマを実現するなど、改造前のプラズマ性能の相次ぐ更新が行なわれている。試験はまだ緒についたばかりであるが、これまで得られた主な成果は以下の通りである。
(1) プラズマ電流が100万アンペアクラスの高パワー加熱時において、
イ) プラズマのイオン温度が改造前の最高温度(1.4億度)の約1.6倍に相当する2.3億度を越えた。<図1>
ロ) プラズマの閉じ込め特性は、標準モード(Lモード)の値の2倍強にも改善されている。
ハ) 重水素核融合反応により、1秒あたり最大1.3×1016個の中性子が発生した。この値は従来
の国内中型装置による中性子の発生量を3桁程度上回るものであり、他の大型トカマク装置であるECのJET(3×1016個/秒)及び米国のTFTR(5×1016個/秒)の水準に到達している。
(2) 改造前のプラズマ電流(320万アンペア)を上回る400万アンペアのプラズマにおいて、
イ) 計画どおり、安定した15秒間のプラズマを生成した。
ロ) プラズマ蓄積エネルギーが過去の最大値(320万ジュール)を1.6倍程度上回る516万ジュールを得た。<図2>
ハ) 短時間ではあるが、重水素プラズマによる高効率閉じ込めモード(Hモード)が得られた。
これらの成果については、9月19日の原子力委員会核融合会議及び9月20日の原子力委員会において報告がなされたところである。今後JT−60は、プラズマ加熱入力の増大を図るとともにプラズマ性能の向上を目指して実験を継続する予定である。これらの進展により、我が国の核融合の研究開発は新たな段階を迎え、核融合の実用化に向けて大きく貢献することが期待される。
(参考1)
JT−60における研究の経緯と今後の方向
1.JT−60は、昭和62年に当初の目標に到達後、原子力委員会の策定した原子力開発利用長期計画に基づいて、昭和63年よりプラズマの「閉じ込め研究」と「定常化研究」を2つの柱とした高性能化計画を進めている。 2.その最初の段階の高性能化実験(1)では、閉じ込め研究においては、プラズマ燃料の新しい供給方法であるペレット(水素の氷の粒)入射により閉じ込め性能の優れた高密度のプラズマを実現した。さらに、定常化研究においては、プラズマ電流の大部分(80%)を自発電流によって維持できることを実証するなどして、効率の良い定常核融合炉の現実的な展望を得るなど、多くの成果を得て平成元年10月に終了した。 3.その後、高性能化計画の中核であるJT−60の大電流化と重水素燃料の導入のため、装置本体の中心部(真空容器及びポロイダル磁場コイル)を更新するとともに施設整備を進めた。平成3年3月には大電流化改造工事が終了し、直ちに高性能化実験(2)を開始した。 4.大電流化改造により、ECのJETと並びダイバ一夕を有する世界の最有力トカマク装置となったJT−60では、プラズマ電流の増倍化と重水素プラズマの生成により、プラズマ閉じ込め性能を大幅に向上させ、将来の核融合炉におけるプラズマの研究開発の基盤を確保することを目指している。 5.また、核融合炉の定常な運転の実現に向け、ダイバータプラズマの制御技術の開発や誘導方式によらずプラズマ電流を維持する定常化研究を進めていく予定である。 6.これらの研究における成果は、現在、日本、米国、EC、ソ連の4極で進めている国際熱核融合実験炉(ITER)の共同開発にも重要な貢献を果たすものと期待されている。 (参考2)
用語解説
・大電流化:トカマク装置は、ドーナツ形のプラズマ中に電流を流し、それによって生ずる磁場とトロイダル磁場を組み合わせてプラズマ自身を閉じ込めている。プラズマの保温特性にあたるエネルギー閉じ込め時間は、プラズマ電流値に比例することがこれまでのトカマク実験により明らかとなっている。JT−60では、プラズマ電流を最大限流せるように既存のトロイダル磁場コイルの内側の真空容器及びそのまわりのコイルを更新した。
これによりプラズマ電流の設計値は改造前の最大値320万アンペアから600万アンペア程度となった。
・重水素の使用:重水素を用いたプラズマは、エネルギー閉じ込め時間とプラズマ温度が水素を用いたプラズマに比べ、質量が大きい分向上することが他の装置の実験によって示されており、重水素を用いることによりプラズマ閉じ込め性能の向上が期待される。また、第一世代の核融合炉では、実燃料として重水素と三重水素(トリチウム)を使用するので、重水素の使用により、実用炉に近い条件での実験が可能となる。
なお、重水素同士の核融合反応が起きて、エネルギーが245万電子ボルトの中性子が発生する。
・プラズマ加熱:核融合炉のプラズマでは、1億度以上のプラズマ温度が必要とされているが、プラズマ中に電流を流しプラズマ自身の抵抗を利用して加熱するジュール加熱では、温度が上昇するほど抵抗が小さくなることから、数千万度程度までの加熱が限界となる。このため、それ以上に温度をあげるためには、外部から中性粒子ビームや高周波によりエネルギーを与える必要がある。
・イオン温度:プラズマは、電子とイオンがバラバラの状態であるが、加熱方法によりどちらかのみを選択的に加熱することが可能である。今回の実験では比較的密度の低いプラズマにIMA程度のプラズマ電流を流し、外部から重水素の中性粒子ビームを入射して高い加熱入力を注入することにより、イオン温度が高く閉じ込め特性の優れたプラズマを得た。
・プラズマ閉じ込め特性:核融合炉のプラズマでは、高温プラズマのさまざまな不安定性を克服し、プラズマの密度、温度、エネルギー閉じ込め時間のそれぞれをバランス良く高める必要がある。これら3つの値の関係をプラズマ閉じ込め特性と言う。
・標準モード(Lモード)/高効率閉じ込めモード(Hモード):加熱されたプラズマのエネルギー閉じ込め時間は加熱するほど劣化するのが標準(Lモード)であるが、ある条件では劣化せずに標準モードよりも2倍程度エネルギー閉じ込め時間が度向上する状態(Hモード)が生ずる。
・大型トカマク装置:JT−60と米国のTFTR及びECのJETを世界の3大トカマク装置と言う。
・プラズマ蓄積エネルギー:プラズマ中に蓄えられた熱エネルギー、即ちプラズマの有する密度と温度の積の総量を言う。
|
前頁 | 目次 | 次頁 |