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委員会の決定等 平成4年度原子力関係経費の見積りについて 平成3年9月
原子力委員会
Ⅰ 総論 我が国の原子力開発利用は、平和利用の堅持と安全の確保を大前提に、着実に進展している。原子力発電は、我が国の総発電電力量の約3割を賄うに至っており、今や原子力は国民生活及び産業活動に必要不可欠なエネルギー源となっている。
我が国の電力需要は、1979年の第2次石油危機以降、穏やかに推移してきたが、1987年度以降増勢に転じ、1990年度の総需要電力量の伸び率は、個人消費等に支えられて内需主動型の景気拡大が進行したこと等により、対前年度7.2%増と、4年連続で年率5%以上の高い伸び率で推移している。さらに、今後においても、民生用需要の堅調な伸びを背景に着実な伸びが予想されている。
一方、エネルギー供給構造に目を転ずれば、我が国は、一次エネルギー総供給の約6割を石油に依存しており、さらにこのうち7割以上を中東の石油が占めている。昨年8月のイラクによるクウェート侵攻に端を発した湾岸危機は、このような我が国のエネルギー供給構造の脆弱性を改めて浮き彫りにするとともに、エネルギーの安定供給の重要性に対する認識を新たにするものであった。幸いにして世界的な石油需給の逼迫は免れることができたが、世界的に、開発途上国、旧共産圏を中心としたエネルギー消費の増加が見込まれる中、長期的には石油供給に占める中東のシェアは高まっていくものと予想されている。
こうした状況を踏まえ、我が国としては、脆弱なエネルギー構造から脱却するため、引き続きエネルギー需要の増大を抑制し、石油依存度の低減及び石油代替エネルギーの開発・導入を進めていくことが重要である。
石油代替エネルギーの中でも原子力は、優れた供給安定性、経済性を有するとともに、先のロンドンサミットにおいても、温室効果ガスの排出削減に貢献することが確認されるなど、地球規模の環境問題の解決に重要な役割を果たすことが国際的にも期待されている。
さらに、原子力発電を進めることによって、限られた貴重な化石エネルギー資源の燃焼による消費を抑制し、より付加価値の高い用途に活用していくことが可能となる。また、原子力エネルギーの利用については、非発電分野においても大きな可能性を有しており、放射線利用等の進展を積極的に図ることによって、新しい技術や知識の創出が期待される。
我が国においては、原子力をエネルギー供給構造の脆弱性の克服に貢献する基軸エネルギーとして位置付け、その開発利用を推進していくこととしているが、その際、安全確保に万全を期すことが極めて重要である。かかる観点から、本年2月の関西電力(株)美浜発電所2号炉の蒸気発生器伝熱管損傷については、振れ止め金具の施工ミスと推察され、これを踏まえた対策が講じられつつあるが、今後、このようなことのないよう、引き続き、原子力の安全確保に万全を期すことが重要である。さらに、安全確保の実績を着実に積み重ねていくとともに、情報の正確かつ的確な提供等により、原子力の開発利用についての国民の理解と協力を増進することが極めて重要である。
以上を踏まえ、平成4年度は、昭和62年6月に策定した原子力開発利用長期計画に沿って、以下に示す各分野の具体的施策を講じ、原子力開発利用の総合的かつ計画的な推進を図るものとする。
1. 安全確保対策の総合的強化 原子力の開発利用を進めるに当たっては、これまでも厳重な規制を実施し、安全の確保に万全を期してきたところであるが、原子力開発利用の進展に対応した安全確保対策をさらに充実し、安全性の一層の向上を図っていく。
このため、内外の事故、故障等の調査機能を強化するなど原子力安全規制行政の一層の充実を図るとともに、安全研究を推進する。また、防災対策及び環境放射能調査の強化を図るとともに、安全確保に係る国際協力を積極的に行う。
2. 原子力発電の推進 軽水炉については、信頼性及び稼動率の向上、作業員の被ばく低減化等の観点から、技術の高度化を図るとともに、安全性・信頼性を実証するための実証試験等を実施する。
また、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして解体実地試験を行うなど原子炉の解体に係る技術開発等を行う。
3. 核燃料サイクルの確立 ウラン資源を有効に活用し、原子力発電の供給安定性を高めるためには、核燃料サイクルを確立することが不可欠である。このため、ウラン資源確保策の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、再処理技術の実証と確立、放射性廃棄物対策の推進等を行う。
また、青森県六ケ所村において進められている核燃料サイクル施設計画については、国としても、安全の確保に万全を期すとともに、その推進に必要な措置を講じ、円滑な事業化を促進する。
4. 新型動力炉の開発及びプルトニウムの利用 (1) 高速増殖炉
ウラン資源の利用効率が圧倒的に優れている高速増殖炉については、将来の原子力発電の主流となすべきものとして開発を進めることとし、平成4年度においては、原型炉「もんじゅ」の臨界を達成させる。また、実証炉の開発については、電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団等が相互に連絡・調整をとりながらメーカーの協力を得て進める。
(2) 新型転換炉
新型転換炉については、原型炉「ふげん」の連続運転を実施して、実証炉設計等へ反映するための運転経験データの蓄積と評価を進めるほか、実証炉の計画の推進を図る。
(3) プルトニウム燃料加工技術の開発等
プルトニウム利用に係る広範な技術体系の確立等を図るため、高速増殖炉での利用に先立ち、軽水炉及び新型転換炉におけるプルトニウム利用を進める。また、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料の加工技術の開発を推進することが重要であり、動力炉・核燃料開発事業団において、プルトニウム燃料製造施設の操業等を行う。また、プルトニウムの海外からの返還輸送については、平成4年秋頃に海上輸送により行う。
5. 先導的プロジェクトの推進 (1) 核融合の研究
核融合については、これが実用化された場合、人類が恒久的なエネルギー源を確保することを可能にするものであり、日本原子力研究所において臨界プラズマ試験装置(JT-60)による、重水素を用いた高性能化実験等を実施するとともに、国立試験研究機関による基礎的研究等を推進する。
特に、日本、米国、EC、ソ連により進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画の工学設計活動については、工学及び物理研究開発を着実に進めるとともに、我が国に設置される真空容器外機器を担当する共同設計チーム等において工学設計を積極的に推進する。
(2) 放射線利用の推進
放射線利用については、医療、工業、農業等の分野への幅広い応用を通じ、国民生活の向上に大きく貢献するものであり、その一層の普及・拡大及び利用技術の高度化を図ることが必要である。
難治性がんの治療を可能とする重粒子線がん治療装置の建設を平成5年度臨床試行開始を目指して進めるとともに、治療体制の整備を進める。また、原子力研究を始め広範な分野の基礎研究に飛躍的成果をもたらす大型放射光施設(SPring-8)の建設を平成10年度利用開始を目途に進める。
(3) 原子力船の研究開発
原子力船「むつ」の解役を進めるとともに、実験航海により得られた知見、データを活用し、引き続き将来の船用炉の開発のための研究を進める。
(4) 高温工学試験研究
高温ガス炉の技術基盤の確立・高度化及び高温工学に関する先端的基礎研究を行うため、高温工学試験研究炉の建設を進める。
6. 基盤技術開発等の推進 原子力技術の高度化を図るとともに、技術革新を生み出しうる基盤技術開発として、材料技術、人工知能技術、レーザー技術及び放射線リスク評価・低減化技術に関する研究を進める。また、燃料・材料の照射試験研究等の基礎研究を実施する。さらに、日本原子力研究所の研究ポテンシャルと外部の人的資源とを結合し、創造的研究を進めることにより、原子力研究領域の幅広い展開を図る。
また、原子力関係科学技術者の養成訓練を行うとともに、原子力発電所等の運転員の資質向上を図る。さらに、防災等に関する研修を行うための施設の整備に着手する。
7. 主体的・能動的な国際貢献 原子力分野における我が国の国際貢献への要請に応えるべく、二国間協力、近隣地域協力、国際機関対応等を積極的に行い、主体的・能動的な国際貢献を果たしていくこととする。また、新たに近隣諸国及びソ連・東欧諸国の原子力安全確保のための施策を講じる。
さらに、我が国は原子力平和利用の厳格な推進者として、保障措置、核物質防護等の充実強化を図るとともに、世界の核不拡散体制の維持強化に貢献する。
8. 国民の理解と協力 原子力の開発利用を円滑に進めていくためには、立地地域住民を始めとする国民全般の原子力に関する理解と協力を得ることが極めて重要である。このため、安全性、必要性等について、正確な知識及び情報を国民に伝えるための施策を推進するとともに、電源三法等を活用し、立地初期地点に係る施策や既設地域の自立的・長期的な振興施策を充実・強化すること等により、立地の一層の促進を図る。
原子力開発利用については、計画的にこれを進めることが重要であるが、厳しい行財政事情から、平成4年度原子力関係経費については、スケジュール及び資金の支出計画について可能な限りの調整を行ったところである。政府においては、このような事情を十分考慮し、平成4年度の予算編成に当たっては、所要資金及び人材の確保に特段の配慮がなされるよう期待したい。
Ⅱ 各論 1. 安全確保対策の総合的強化 原子力の研究開発利用を進めるに当たっては、これまでも厳重な規制と管理を実施し、安全の確保に万全を期してきたところであるが、安全確保対策を更に充実し、安全性の一層の向上を図っていく必要がある。さらに原子力の安全確保対策としては、原子力発電の推進、高速増殖炉原型炉の建設及び原型炉に続く高速増殖炉実証炉の開発、新型転換炉実証炉の建設計画、再処理工場等核燃料サイクル施設の建設及び建設計画並びに放射性廃棄物処理処分対策の推進、放射性物質の輸送の増大及び多様化等、今後における原子力研究開発利用の進展に対応していく必要がある。
(1) 原子力安全規制行政の充実
原子力の安全確保のための規制については、行政庁において法令に基づき、従来から厳正な安全規制を行っているが、今後とも、安全審査、運転管理監督体制等の一層の充実・強化、原子炉主任技術者制度などにより安全確保を図る。
原子力安全委員会においては、行政庁の行った設置許可等に係る安全審査についてダブルチェックを行うほか、設置許可等の後の各段階においても必要に応じ審議し、原子力の安全確保に万全を期する。
原子力安全委員会の調査・審議に当たっては、原子炉安全専門審査会及び核燃料安全専門審査会の調査・審議等において、独自の安全解析を行うなど審査機能等の充実・強化を図り、客観性・合理性の確保に努める。また、行政庁の行った原子力発電所等主要原子力施設設置許可等に係る審査についてダブルチェックを行う際には、当該施設の安全性に関し、公開ヒアリング等を実施する。
また、安全規制に必要な各種安全審査指針・基準等の整備を行うほか、内外の事故、故障等の調査機能を充実・強化する。なお、原子力安全委員会において、安全確保対策の充実やその研究に資するという観点から、設計基準事象の範囲を超えた事象であるシビアアクシデントについて、TMI事故の教訓、ソ連原子力発電所事故調査特別委員会報告書等を踏まえ、引き続き検討を進める。
放射性物質の輸送の増大、多様化に対処し、輸送の安全確保を図るため、放射性物質の輸送の安全評価等のための調査検討を進めるとともに、プルトニウムの安全輸送対策等についての検討を行う。
さらに国際原子力機関(IAEA)における原子炉の安全基準改訂に関する検討、放射性廃棄物安全基準策定に関する検討、放射線防護の諸指針作成に関する検討及び放射性物質の安全輸送に関する検討並びに経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)における原子力施設安全規制国際協力事業への参加並びに米国、フランス等との間での安全規制の情報交換の一層の充実に努め、原子力安全に関する国際協力を一層推進し、我が国の安全審査指針・基準等の整備等安全規制の充実に資するとともに、諸外国からの専門家を招へいするなど世界の原子力安全確保の向上に貢献するよう努める。
また、放射性同位元素等の利用の拡大に対処して、より一層の安全確保に努める。
国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年勧告については、放射線審議会で調査審議等を行う。
(2) 安全研究の推進
安全規制の裏付けとなる科学技術的知見を蓄積し、各種安全審査指針・基準等の整備・充実及び原子力施設等の安全性の向上を図り、軽水炉、新型炉、再処理施設等に関する原子力施設等安全研究、環境中における放射能の挙動及びその影響等に関する研究等の環境放射能安全研究及び放射性廃棄物安全研究を推進する。
① 原子力施設等安全研究
軽水炉に関する工学的安全研究については、日本原子力研究所を中心に、国立試験研究機関の協力の下に、総合的かつ計画的に実施する。特に、日本原子力研究所においては、大型非定常ループ(LSTF)等による加圧水型軽水炉のシビアアクシデントの拡大防止に関する実験(ROSA-V計画)、原子炉安全性研究炉(NSRR)による反応度事故に関する試験研究、材料試験炉(JMTR)及び実用燃料照射後試験施設(大型ホットラボ)による燃料の安全研究、事故時格納容器挙動試験等のシビアアクシデント時の安全研究等を実施する。さらに、圧力容器寿命のPTS(加圧熱衝撃)の影響評価研究を実施する。
また、新型転換炉については、動力炉・核燃料開発事業団において、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)の健全性評価に関する研究、シビアアクシデントに関する研究等を行う。
高速増殖炉については、動力炉・核燃料開発事業団等において安全設計及び評価方針の策定に関する研究、事故防止及び緩和に関する研究、シビアアクシデントに関する研究等を行う。
核燃料施設に関する工学的安全研究については、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等において、核燃料施設に共通な分野として臨界安全性に関する研究、遮へい安全性に関する研究、事故評価手法に関する研究、放射線管理技術等の研究等を、再処理施設の安全研究では耐食安全性に関する研究、再処理プロセスの安全性に関する研究等を実施する。特に、日本原子力研究所においては、各種安全解析コードの開発等を行うとともに、臨界安全性、TRU核種を含む放射性廃棄物に関する安全研究等を行う燃料サイクル安全工学研究施設(NUCEF)の建設を進める。また、動力炉・核燃料開発事業団においては、未臨界度確保に関する安全研究等を進める。
このほか、放射性物質輸送の安全性に関する研究、原子力施設の耐震安全性に関する研究等を船舶技術研究所、建築研究所等の国立試験研究機関等において実施する。
また、確率論的安全評価に関する研究については、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団を中心として引き続き進める。
さらに、国際協力による安全研究としては、軽水炉に関して日本原子力研究所が、燃料の性能、信頼性等に関する研究を行うハルデン計画、炉心損傷事故時の燃料挙動等に関する研究を行うCSARP(SFD)計画、炉心損傷事故時の原子炉圧力容器の健全性を評価するTMI-2原子炉圧力容器調査計画等に引き続き参加するほか、日本原子力研究所のNSRR及び加圧水型軽水炉の小破断冷却材喪失事故時の総合実験(ROSA-Ⅳ計画)等に関し、米国、ドイツ、フランス等との間の研究協力を引き続き行う。また、高速増殖炉について、反応度挿入事故時の燃料挙動の試験等に関し、動力炉・核燃料開発事業団が引き続き国際協力による研究に参加する。
② 環境放射能安全研究
環境放射能安全研究については、環境における放射能挙動等に関する研究、低レベル放射線の人体に及ぼす身体的・遺伝的影響の機構の解明及びそのリスクの評価に関する研究等を実施する。
低レベル放射線の人体に及ぼす影響については、放射線医学総合研究所において、低線量域における線量効果関係の実証等、人体に対する放射線リスクの評価に係る研究を推進するとともに低線量放射線の刺激効果に関する研究を実施する。また、プルトニウム等の内部被ばくに関する研究を行う。さらに、国立公衆衛生院等の国立試験研究機関において、ガンマ線照射における生体防護効果に関する研究等を実施する。
環境放射能の挙動等に関する研究については、放射線医学総合研究所その他国立試験研究機関、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団等において、環境放射線モニタリング及び公衆の被ばく線量評価に関する調査研究、一般環境及び人体内の放射能の挙動と水準並びに食品中の放射能水準の調査を引き続き行う。日本原子力研究所においては、緊急時においてより広範な放射能影響を予測するためのシステムの開発を進める。
③ 放射性廃棄物安全研究
低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分に関する安全研究については、日本原子力研究所等において、環境シミュレーション試験、陸地処分安全性フィールド試験等を実施する。また、原子力施設の廃止措置等により生ずる放射能レベルの極めて低い金属配管等の再利用のための調査研究を実施する。
高レベル放射性廃棄物の地層処分に関する安全研究については、安全に関する基本的考え方と安全評価の考え方に関する研究、地層処分システムの長期安定性に関する研究等を進めるほか、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、地質調査所等において、人工バリア要素の安全評価に関する研究、人工バリアシステムにおける放射性核種の移行に関する研究等を実施する。また、天然バリアに係る試験研究として、地下水の水理地質学的特性に関する研究、天然バリアにおける放射性核種の移行に関する研究、天然バリアの性能を評価するための類似の自然現象(ナチュラルアナログ)に関する調査研究等を実施する。さらに、地層処分システムの総合安全評価手法に関する研究等を進める。特に、天然バリアに係る試験については、カナダ等との二国間又は国際機関における情報交換、人的交流等による国際協力を積極的に推進する。
なお、TRU核種を含む放射性廃棄物の処分に関する安全研究については、日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団において、TRU核種を含む放射性廃棄物の安全性評価手法に関する研究等を実施する。
(3) 防災対策の充実・強化
原子力施設の万一の緊急時における防災対策を推進するため、緊急時連絡網、緊急医療体制及び防災活動資機材の整備及び原子力防災に関する普及啓蒙等の充実を図る。また、緊急時迅速放射能影響予測システムの整備、緊急技術助言組織による助言の迅速・的確化等のためのシステムの整備、航空機による緊急時モニタリングシステムの整備等の緊急時環境放射能監視体制の整備、防災支援機能の高度化等の充実・強化を図る。また、日本原子力研究所等における防災研修コースの充実・強化を図り、防災業務関係者の資質の向上を図る。さらに、原子力安全委員会において、ソ連原子力発電所事故調査特別委員会報告書を踏まえ、防護対策等のより一層の充実について検討を進める。
(4) 環境放射能調査の充実・強化
原子力発電施設等の周辺における環境放射能の的確な監視体制の整備・充実を図るとともに、海洋モニタリングシステムの整備等を行うほか、環境放射能分析技術の研修を強化し、データの信頼性の向上を図る。さらに、核燃料サイクル施設周辺の海域を含む海洋環境放射能総合評価調査の充実を図る。また、放射性降下物等の影響を調査し、国民の健康と安全を確保するため環境放射能水準調査等の充実を図る。さらに、環境放射線のデータ等を迅速に収集するためのシステムの整備を進める。
(5) 放射線業務従事者の被ばく管理対策の充実
放射線業務従事者の被ばく管理については、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律、労働安全衛生法等に基づき、今後ともその徹底を図る。さらに、定期検査等における従事者の被ばくの低減化対策の充実を図る。
(6) 核燃料サイクルの確立、新型炉の開発等に当たっての安全確保
使用済燃料の再処理等核燃料サイクルの確立、原子炉の廃止措置に関する技術開発の推進、高速増殖炉、新型転換炉及び高温工学試験研究炉の開発、核融合の研究開発等の進展に即応して、必要な安全審査指針・基準等の検討及び安全性に関する研究開発を進める。
2. 原子力発電の推進 軽水炉については、信頼性及び稼働率の向上、作業員の被ばく低減化等の観点から、自主技術を基本として技術の高度化を図り、日本型軽水炉を確立するための調査を行うとともに、原子力発電検査技術の開発及び原子力発電施設の補修作業等を行うロボットの開発を行い、また、民間における原子力発電支援システムの開発の助成を行う。
また、軽水炉の安全性・信頼性を実証するため、大型再冠水効果実証試験、配管信頼性実証試験、耐震信頼性実証試験、原子力発電施設安全性実証解析等を実施する。さらに、作業員の被ばく低減化のための技術開発を実施するとともに高機能炉心に関する技術調査、高燃焼度等燃料確証試験をその実用化のため引き続き実施し、また、次世代の軽水炉に適用し得る高度安全システムの調査についても実施する。また、軽水炉の長寿命化及び稼働率向上のための技術開発、原子力発電所内における使用済燃料貯蔵対策の調査等を実施し、その実用化の促進を図るとともに、実用原子力発電所のヒューマンファクター関連技術開発、確率論的安全評価手法の改良・整備を実施する。さらに、高い転換比により、核燃料の利用効率を格段に向上し得る高転換炉の技術開発を実施する。
実用発電用原子炉の廃止の時期に備えて、日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)をモデルとして解体実地試験を行うなど原子炉の解体の技術開発を推進し、さらに、原子炉解体技術の高度化を進めるとともに、JPDRの解体における放射性廃棄物の除去に係る安全性実証試験を引き続き実施する。また、実用発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験を行うとともに、原子炉施設の廃止措置に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査を行う。さらに、原子炉施設の耐用年数に関する調査研究を行うとともに、原子力発電所の新立地技術として高耐震構造立地技術の確証試験及び原子力施設の支持基盤安定性評価技術に関する調査を実施する。
3. 核燃料サイクルの確立 我が国の自主的核燃料サイクルを早期に確立するため、海外ウラン探鉱活動の推進、ウラン濃縮国産化対策の推進、国内再処理事業の確立のための施策の推進、放射性廃棄物の処理処分対策の推進等を行う。また、民間核燃料サイクル施設の計画と有機的に連携しつつ、長期的な視点に立って、当該地域における原子力試験研究機関等の展開を図るための所要の措置を講じる。
(1) ウラン資源確保策の推進
動力炉・核燃料開発事業団によるオーストラリア、カナダ、ニジェール等における単独又は諸外国の機関と共同で行う海外ウラン調査探鉱活動を重点的に実施する。また、金属鉱業事業団の出融資制度等により、民間企業による海外ウラン探鉱開発活動を助成する。
また、国内における核燃料サイクル確立の観点から転換の事業化に関する調査を行う。
(2) ウラン濃縮国産化対策の推進
遠心分離法によるウラン濃縮の国産化を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてウラン濃縮原型プラントの運転試験を継続する。また、運転を終了した遠心機の解体・処理技術開発を進める。また、新素材を用いた遠心分離機の高度化に係る先導的な研究開発に着手するとともに、新素材高性能遠心分離機の実用規模カスケード試験装置の建設を進める。さらに、遠心法を用いた新しい濃縮方法に係る基礎的研究開発に着手する。
また、民間によるウラン濃縮商業プラントの建設・運転を推進するほか、ウラン濃縮の事業化に関する調査、テールウランの再転換貯蔵システム技術の確立等を行うとともに、民間で行うウラン濃縮遠心分離機製造技術の確立及び耐振動衝撃システム開発に対して助成を行う。
ウラン濃縮新技術については、原子力委員会のチェック・アンド・レビューに対応しつつ、所要の研究開発を進める。まず、原子レーザー法に関しては、日本原子力研究所において基礎プロセスの解明、データベースの整備等を行うとともに、民間が主体となって設立したレーザー濃縮技術研究組合が実施する機器開発に対する助成を行う。また、金属鉱業事業団において引き続き原子レーザー法ウラン濃縮用の金属ウランの連続生産技術に関する調査を行う。分子レーザー法に関しては、理化学研究所において従来までの原理実証試験の成果を踏まえ、分子法プロセスの最適化試験及びCO2レーザーの高度化試験を行う。動力炉・核燃料開発事業団においても、理化学研究所の協力を得つつ、工学実証試験を実施する。また、引き続きウラン濃縮施設に関する安全性実証試験を行う。
(3) 使用済燃料の再処理及び回収ウランの利用の推進
再処理技術の実証と確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設及びプルトニウム転換施設の操業を行うとともに、所要の施設整備を行う。また、同事業団等において再処理技術の高度化等の研究開発を進める。一方、民間による再処理工場の建設計画を推進することとし、動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理施設の建設及び運転によって得られた技術等を活用し、所要の協力を行う。また、大型再処理施設の環境安全の確保、保障措置の適用のための技術開発等を引き続き行うほか、民間再処理施設における海外技術の国内定着化等を図るため、民間事業者の行う技術確証等に対し助成を行うとともに、高然焼度燃料の再処理に関する試験研究及び再処理プロセス解析コードの開発並びに使用済燃料管理に関する技術開発及び原子力発電所内における貯蔵技術の確証等を行う。さらに、再処理施設の安全解析コードの整備、再処理施設の安全性実証試験等を引き続き実施するとともに、再処理技術の高度化に関する技術開発等を行う。また、大型再処理施設等からの周辺環境への影響を適切に評価するための継続的・体系的な放射能影響調査を行うための経費の交付を行う。
また、高速増殖炉の使用済燃料を再処理する技術を確立するため、動力炉・核燃料開発事業団において実際の炉で照射した燃料を用いた工学規模の試験を行うためのリサイクル機器試験施設の準備工事等を行うとともに、所要の研究開発を進める。回収ウランの利用に関しては、その利用方策について検討するとともに、技術の確立を図るため、動力炉・核燃料開発事業団においてMOX燃料の母材としての利用、UF6転換及び再濃縮に関する調査研究を進める。
(4) 放射性廃棄物の処理処分対策の推進
低レベル放射性廃棄物については、原子力発電の進展に伴い、今後発生量の増大が予想されているところであり、その適正な処理処分のための技術開発を推進するとともに、発生から処理処分に至る効率的な全体システムの確立に資する調査等を進める。
低レベル放射性廃棄物の陸地処分については、引き続き日本原子力研究所において、環境シミュレーション試験等の安全評価に関する試験研究等を推進する。また、民間による低レベル放射性廃棄物埋設施設の建設計画を推進するとともに、安全性実証試験を継続する。さらに、放射性廃棄物処分の安全解析コードの整備、埋設処分を行うことが具体化している放射能濃度の上限値を上回る低レベル放射性廃棄物の処分技術の開発等を推進する。
海洋処分については、関係国の懸念を無視して行わないとの考え方の下に、その実施については慎重に対処する。
原子力施設の解体等から発生する放射能濃度の極めて低い廃棄物について、合理的処分に係る安全性実証試験及び再利用技術開発等を進めるとともに、解体炉内構造物等の処理処分技術の開発等を進める。また、核燃料施設の解体に伴って生ずる放射性廃棄物の処理処分方策に係る調査を進める。
高レベル放射性廃棄物の処理処分の研究開発については、動力炉・核燃料開発事業団を中心に進める。動力炉・核燃料開発事業団においては、ガラス固化処理の関連技術開発及びガラス固化技術開発施設の建設を進め、試験運転を開始する。また、地層処分技術を確立するための深地層試験等の研究開発と高レベル放射性廃棄物等の貯蔵を行う貯蔵工学センターについては、深地層試験場、ガラス固化体貯蔵プラント等の概念設計等を進めるほか、同センター計画についての地元の理解を深めるための広報活動を行う。さらに、地層処分に関しては、地層処分技術の確立を目指した研究開発を国の重要プロジェクトとして引き続き推進し、地層に関する調査研究、人工バリア、天然バリア、地層処分システム、サイト特性調査技術等に関する研究開発、地質環境等の適性を評価するための全国的な調査等を行う。また、ガラス固化体の放射線源としての利用に係る技術開発を行う。
日本原子力研究所においては、高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する安全性評価試験等を引き続き実施する。また、国立試験研究機関等においても、処理処分に関する基礎的調査研究を実施する。さらに、国際協力の分野においては、日豪協力によるシンロック固化処理の研究、日加協力による地層処分の研究等を進めるほか、OECD/NEAにおける豪州のウラン鉱床を用いた天然バリアの隔離機能等の評価研究に引き続き参加していく。
また、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所において、高レベル放射性廃棄物の処分の効率化及び有用核種の資源化の観点から高レベル放射性廃液の核種分離、長寿命核種の消滅処理等の研究開発等を長期的な課題として積極的に推進するとともに、OECD/NEAにおける核種分離・消滅処理技術の情報交換計画(オメガ計画)に積極的に参加する。
また、アルファ核種を含む廃棄物の処理処分に関する調査を引き続き行う。TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分については、動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム廃棄物処理開発施設の運転を進めるとともに、動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所における発生量の低減化、減容、固化技術等の処分技術及び天然バリア中における核種移行に関する研究等の処分技術の開発を行う。さらに、TRU核種を含む放射性廃棄物の固化等の処理についての安全性実証試験に着手する。
使用済燃料の海外再処理委託に伴う返還廃棄物に関しては、我が国への受入れが円滑に行えるよう、受入れ検査機器の開発を行う。さらに、放射性廃棄物輸送容器等の安全性実証試験を行う。
以上のほか、核燃料サイクル分野における民間への技術協力体制の充実を図るとともに、技術移転の円滑化方策、核燃料サイクル支援基盤技術等の調査、放射性物質の輸送に関する調査及び核燃料施設の解体技術に関する調査を行うとともに、再処理施設の解体技術開発を行う。さらに、動力炉・核燃料開発事業団において、核燃料施設の解体技術の開発や、金属燃料等の新型燃料による核燃料サイクルに関する技術についての調査・研究を行う。
4. 新型動力炉の開発及びプルトニウムの利用 核燃料の有効利用を目指す新型動力炉である高速増殖炉及び新型転換炉の開発を推進する。
(1) 高速増殖炉
高速増殖炉の開発については、動力炉・核燃料開発事業団において、実験炉「常陽」において熱出力10万kWの照射用炉心での定格運転を行い、燃料、材料の照射試験等を実施する。同原型炉「もんじゅ」については、平成4年度臨界を目途としてこれを進める。さらに、機器システム、燃料、材料、安全性等の研究開発を進める。
同実証炉の開発については、電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団等が相互に連絡・調整をとりながらメーカーの協力を得て進める。
また、大型構造設計に関する技術確証試験を行う。さらに、安全解析コードの整備に着手する。
(2) 新型転換炉
新型転換炉原型炉「ふげん」については、連続運転を実施して、実証炉設計等へ反映するための運転経験及びデータの蓄積と評価を進めるほか、供用期間中検査装置の開発等の運転に関連する研究開発を進める。
同実証炉については、平成11年度運転開始を目途に建設・運転の実施主体である電源開発株式会社において用地取得等を進める。また、動力炉・核燃料開発事業団においては、プルトニウム燃料の改良・加工に関連する研究開発を進める。
また、同実証炉の安全解析コードの整備を進めるとともに、建設及び運転に必要な技術確証試験等を行う。
(3) プルトニウム燃料加工技術の開発等
動力炉・核燃料開発事業団において、高速増殖炉「常陽」、「もんじゅ」及び新型転換炉「ふげん」等に使用するプルトニウム燃料の開発のため、引き続きプルトニウム燃料製造施設の操業等を行う。また、新型動力炉原型炉の各種機器・機材等の寿命信頼性等に関する実証試験及び安全性に関する実証解析等を進める。
軽水炉用プルトニウム燃料の加工について、燃料棒の溶接、組立及び検査技術の確証を行う。さらに、プルトニウム燃料加工事業体制確立のための調査及び核燃料のリサイクル利用システム最適化方策についての調査を行う。また、軽水炉及び新型転換炉におけるプルトニウム、回収ウラン及びテールウランの利用方策に関する調査並びにプルトニウム及びウランの効率的かつ計画的な利用を促進するため、核燃料サイクル評価システムの確立を図る。さらに、プルトニウムの海外からの返還輸送については、平成4年秋頃に海上輸送により行う。
また、これらのプルトニウム利用について国際的理解を得て円滑に行うため、必要な調査を行う。
5. 先導的プロジェクトの推進 (1) 核融合の研究
核融合については、大学における各種研究の進展を考慮し、国際協力の推進にも留意しつつ、日本原子力研究所におけるトカマク方式による大規模な研究開発、国立試験研究機関による研究等を計画的に推進する。
日本、米国、EC、ソ連の4極間の国際協力により進められている国際熱核融合実験炉(ITER)計画の工学設計活動については、主体的な貢献を果たすべく本活動の実施に必要な工学及び物理研究開発を着実に進めるとともに、真空容器外機器を担当する共同設計チームの設置のため、所要の整備を行う。また、日本原子力研究所においては、大電流化等の改造を行った臨界プラズマ試験装置(JT-60)を用いて、プラズマ閉じ込め性能等の一層の向上を図る高性能化実験を進め、その一環として、実燃料使用時のプラズマの振舞を模擬した研究等を行うために、重水素を使用した実験を行う。
また、非円形断面トーラスプラズマの研究を一層推進するため、高性能トカマク開発試験装置(JFT-2M)の増力を行うとともに、プラズマ加熱を始めとする核融合炉心工学技術及び超電導磁石技術、トリチウム取扱い技術を始めとする炉工学技術の研究開発を進める。
電子技術総合研究所においては、高ベータ・プラズマの研究のため逆磁場ピンチ型核融合装置(TPE-1RM15及びTPE-2M)による実験を進めて、プラズマの高性能化を図る。また、金属材料技術研究所、名古屋工業技術試験所及び計量研究所においては、核融合炉に関連する材料等の基礎的研究を行う。
さらに、米国のダブレット-Ⅲを使った共同実験、核融合材料の共同照射研究、トリチウムの大量取扱い技術の取得を目指したトリチウムシステムの試験施設(TSTA)計画、新しいプラズマ加熱方法に関する研究等の日米間の共同研究及び日-EC核融合協力協定に基づくECとの間のプラズマ対向材料及び機器に関する共同研究等の二国間協力を推進する。さらに、経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD/IEA)の下で、米国のTFTR及びECのJETと我が国のJT-60との間における大型トカマク装置の多国間研究協力等を推進する。
(2) 放射線利用の推進
放射線利用については、医療分野における各種疾病の診断、重粒子線等によるがん治療等に関する研究、工業分野における放射線化学等の研究開発、農林水産分野における放射線育種等の研究開発等を推進する。このため、放射線医学総合研究所において、サイクロトロンを用いて速中性子線及び陽子線によるがん治療研究を引き続き進めるとともに、がん細胞の殺傷力が大きく、かつ正常組織の損傷が少ないことから、従来の放射線に比べがん治療成績の著しい向上が期待される重粒子線によるがん治療法に関する調査研究、重粒子線がん治療装置の製作・重粒子線棟の建設等治療体制の整備を行う。また、ポジトロン核種による診断に関する研究開発等、短寿命放射性同位元素による画像診断技術の開発を推進する。
日本原子力研究所においては、放射線化学関係の研究並びに放射性同位元素の生産及び利用を推進するとともに、種々のイオン粒子線の重照射等により、耐放射線性極限環境材料、機能材料の研究開発やライフサイエンス等の分野において画期的な新材料の開発、新技術の創出に寄与できる研究として産・学・官の研究者から強い要望が寄せられている放射線高度利用研究を行うため、イオン照射設備及び建屋の整備等を推進する。さらに、環境保全のための放射線利用を進めるため、電子線を用いた石炭排煙処理及び都市ごみ燃焼排煙処理のパイロット試験を行う。
理化学研究所においては、AVF型入射器及び線型加速器を前段加速器として、リングサイクロトロンを主加速器とした重イオン科学用加速器を用いて、原子核・原子・素粒子物理等の広い分野にわたった重イオン科学総合研究を推進する。また、重イオン科学総合的研究の一環として、ミュオンに関する研究を英国ラザフォード研究所との共同により行う。
また、日本原子力研究所と理化学研究所においては、関係する研究者の協力の下、原子力分野の研究の基盤を形成すると期待される大型放射光施設(SPring-8)の加速器機器の製作及び建屋等の建設を行うとともに、必要な研究開発を進める。
国立試験研究機関においても、電子技術総合研究所において放射線標準に関する研究、国立病院等において放射性同位元素を用いた疾病の診断及び治療に関する研究、農林水産省各試験場における放射線による品種改良、トレーサー利用による生理生態研究等を行うほか、国立衛生試験所等における食品照射に関する研究等を実施する。
さらに、鹿児島県奄美諸島及び沖縄県下の諸島における放射線照射によるウリミバエ防除事業に対して必要な助成を行う。
(3) 原子力船の研究開発
原子力船「むつ」の解役については、燃料取出しに係る作業等所要の措置を講じる。また、将来の舶用炉の開発のための研究については、原子力船「むつ」の実験航海によって得られた実験データ・知見等の成果を活用しつつ、設計評価研究等を進める。
(4) 高温工学試験研究
日本原子力研究所において、高温熱供給、高熱効率、高い固有の安全性等優れた特性を有する高温ガス炉の技術基盤の確立・高度化及び高温工学に関する先端的基礎研究を行うための中核的な研究施設である高温工学試験研究炉の建設を進める。平成4年度においては、前年度に引き続き原子炉建屋の建設、炉心支持構造物、一次冷却設備の製作等を行うとともに、共同溝等の付属設備及び補助冷却設備等の製作を開始する。さらに、大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)等を用いて、燃料体、炉心構造物等の物性試験を行うほか、OGL-1、VHTRC等既存の施設を活用し、高温ガス炉の要素技術の開発を行う。さらに、これらを行うに当たり、燃料・材料試験、高温計装技術開発、安全設計、高温熱利用の研究等各種の分野において共同研究、情報交換等の国際協力を積極的に展開していく。
6. 基盤技術開発等の推進 (1) 基盤技術開発及び基礎研究の推進
21世紀の原子力技術体系を構築することを目的として、我が国独自の原子力技術の高度化、多様化に対応することを可能にし、現在の原子力技術体系に大きな波及効果を与え得る革新技術の創出が期待できる基盤技術開発を推進する。当面、原子力用材料、原子力用人工知能、原子力用レーザー及び放射線リスク評価・低減化の4つの技術領域について、日本原子力研究所、動力炉・核燃料開発事業団、理化学研究所、国立試験研究機関等において蓄積されたポテンシャルを活用する。これら基盤技術の推進に当たり、特に各機関が研究ポテンシャルを結集して行うべき技術開発課題を原子力基盤技術総合的研究として設定し、国際交流を含む産・学・官の連携の下に研究開発を進める。
また、汎用研究炉(JRR-3)、材料試験炉(JMTR)等による各種の研究、燃料・材料の照射試験等を引き続き実施する。さらに、タンデム型重イオン加速器の一層の性能向上を図るとともに、核データの取得のための研究等を行う。高転換軽水炉については、炉物理・熱水力の研究を行い、炉の概念について検討を行う。また、高い固有の安全性を有する原子炉の概念設計等を行うとともに、原子炉の設計システムの高度化を図るための調査検討を行う。さらに、日本原子力研究所の研究ポテンシャルと外部の人的資源とを結合し、創造的研究を進めることにより、原子力研究領域の幅広い展開を図る。
新超電導技術に関しては、日本原子力研究所において、耐放射線性の解析のための試験、中性子線回折による構造解析等を行うとともに、動力炉・核燃料開発事業団において、原子力分野における超電導技術の利用に関する調査を進める。
このほか、国立試験研究機関においても、核融合、安全研究、放射線利用等の分野で基礎研究を実施する。
(2) 科学技術者等の養成訓練
原子力関係科学技術者の養成訓練については、大学に期待するほか、海外に留学生として派遣し、その資質向上に努める。また、日本原子力研究所のラジオアイソトープ・原子炉研修所及び放射線医学総合研究所において養成訓練を引き続き実施する。
また、引き続き、原子力発電所等の運転員の長期養成計画、資格制度等の運用により運転員の資質向上を図る。
さらに、防災等に関する研修を行うための施設の整備を行う。
7. 主体的・能動的な国際貢献 原子力分野における我が国の国際貢献への要請に応えるべく、原子力開発利用について核不拡散との両立を図るとともに、安全確保の重要性を認識しつつ、主体的・能動的な国際貢献を果たしていくこととする。
(1) 二国間協力等
先進国との協力については、原子炉の安全研究、新型動力炉、高温ガス炉、核融合、放射性廃棄物処理処分、廃炉等の研究開発等の各分野に関し、米国、ドイツ、フランス、イギリス、オーストラリア、カナダ等との二国間協力及び多国間協力を進める。また、我が国原子力施設の規制の充実に資するため、米国、フランス、ドイツ等との規制情報交換を進める。
開発途上国との協力については、原子力関係要人及び専門家の我が国への招へい、原子力技術アドバイザーの開発途上国への派遣、原子力関係管理者研修、原子力専門家の登録・派遣あっせん事業並びに開発途上国関連情報の収集・提供を引き続き行う。さらに、開発途上国の原子力研究者の我が国研究機関への招へい及び我が国の研究者の開発途上国への派遣を充実・強化する。
また、ソ連チェルノブイル原子力発電所周辺地域の放射線影響等の調査を行う。さらに、IARAの「原子力科学技術に関する研究開発及び訓練のための地域協力協定」(RCA)に基づくRI・放射線利用分野等の協力を引き続き進めていく。
さらに、近隣諸国及びソ連・東欧諸国の原子力安全確保のため、IAEAの活動を通じた支援を行うとともに、これらの諸国の原子力関係者に対し、研修等を実施する。
(2) 近隣地域協力
近隣アジア地域の原子力分野における放射線利用、研究炉利用、安全確保対策等の共通課題の解決に当たっては、本地域の限られた研究開発資源を効果的・効率的に活用するとの観点から、地域として一体の協力を進めることが必要である。このため、引き続き近隣アジア地域の原子力行政の責任者を招へいして地域協力について検討する。また、安全規制担当官の間での情報交換等を行う。
(3) 国際機関対応
IAEAの保障措置業務の改善に協力していくとともに、IAEAを中心として行われている原子力国際協力の枠組みについての国際的検討の場に積極的に参加する。
また、IAEAでの原子炉の安全基準改定事業、放射性廃棄物安全基準制定事業、OECD/NEAにおけるオメガ計画等に参加するなど、IAEA、OECD/NEA等の国際機関の活動に積極的に貢献するとともに、我が国の原子力活動に対する国際社会の理解の増進を図るため、これら国際機関会合の招致等を行う。
(4) 国内環境整備
我が国の国際対応を円滑に進めていくため、適切な国内環境の整備を進めていくこととし、増大する外国人研究者の受入れに対処するための宿舎や国際研究交流実験棟の整備、外国人研究者の受入れ制度(リサーチフェロー制度)の拡充、国際人養成研修等を実施する。
(5) 核不拡散対応の強化
我が国の核不拡散対応を一層明確かつ主体的なものとして確立するため、種々の検討を積極的に進める。
保障措置については、原子力の平和利用を確保し、核兵器の不拡散に関する条約を履行するため、国内保障措置体制の拡充・強化を図る必要がある。このため、核物質に関する情報処理、試料の分析、査察等の業務を充実・強化するとともに、その支援体制の一層の充実を図る。また、IAEA等との協力を強化し、大型再処理施設等に係る保障措置の有効性向上のための技術の研究開発、保障措置の効率化システムの調査検討、プルトニウム利用に係る核拡散抵抗性等の調査等を行う。
このほか、最近の国際動向を踏まえ、核物質等の新たな国籍別管理システムの開発を行う。
核物質防護については、我が国の核物質防護体制の充実を図るとともに、国際的に核物質防護についての検討等を行う。また、大型再処理施設に対する核物質防護システムの検討、動力炉・核燃料開発事業団における核物質防護に関する技術開発等関連調査研究等を行う。
8. 国民の理解と協力 原子力の研究開発利用を円滑に進めていくためには、原子力施設立地地域住民を始めとする国民全般の原子力に関する理解と協力を得ることが極めて重要である。このため、原子力施設の安全運転の実績を積み重ね、国民の信頼感を得るとともに、原子力の安全性、必要性等について、正確な知識及び情報を国民に伝えるための施策を関係機関との密接な連携の下に推進していく必要がある。さらに、原子力施設の立地による波及効果を立地地域の長期的発展へ結び付けていくとの観点から、地域振興方策を充実していくこととする。
(1) 広報活動等の推進
原子力の研究開発利用に関する国民の正しい認識を深め、原子力発電及び核燃料サイクルを始めとする原子力の研究開発利用を一層円滑に推進するため、一般国民各層を対象とした適時的確で懇切丁寧な広報活動を展開する。
そのため、個別地点対策として、原子力発電所、核燃料サイクル施設等の立地予定地域を対象とした広報素材の作成、テレビ等マスメディアを活用した広報活動等の実施、原子力講座・フォーラム及び講習会の開催等の原子力施設の立地についての地元住民の理解と協力を得るための施策を進め、地方自治体の行う広報対策等への助成を行う。
また、地方支分部局等の機能的な活動により、原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに、原子力発電所の立地地域及び核燃料サイクル施設の立地予定地域については、原子力連絡調整官による地元と国との密接な連絡調整を進める。
さらに、全国を対象として、新聞、テレビ、ラジオ等マスメディアを活用した広報事業、映画・ビデオ等各種広報素材の作成・提供のほか、説明会・講習会の開催等を行う。
また、国民の理解と協力を得るための施策の推進に当たっては、国際的な連携を強化することが必要であることから、諸外国との密接な情報交換等を行うとともに、IAEA及びOECD/NEAと協力しつつ、パブリック・アクセプタンス(国民的合意形成)に関する事業の強化を図る。
(2) 立地地域の振興方策の充実等
発電用施設周辺地域整備法等の電源三法制度を活用し、原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上等に必要な公共用施設の整備、住民、企業等に対する給付金の交付等の施策を引き続き推進するとともに、立地初期地点に係る施策や既設地域の自立的・長期的な振興施策を充実・強化することにより、立地の一層の推進を図る。また、環境放射能の的確な監視体制を整備するとともに、従事者等の追跡健康調査、運転管理方策調査、温排水の影響調査、再処理施設放射能影響調査、防災対策、原子力発電施設等の安全性・信頼性実証試験等を推進し、原子力発電施設等の立地の円滑化を図る。
(生活関連経費重点化枠要望)
画期的ながん治療法である重粒子線がん治療法を全国に普及し、がんを撲滅するための、重粒子線がん治療体制の整備について、その実現を図ることが重要である。
Ⅲ 見積りの概要 平成4年度において、以上の施策を進めるために必要な原子力関係経費は、総額約4,336億円、(一般会計約1,854億円、電源開発促進対策特別会計約2,482億円)、国庫債務負担行為限度額約719億円(一般会計約660億円、電源開発促進対策特別会計約60億円)と見積られる。
原子力関係機関別見積りについては、「Ⅳ.概算要求総表」に示すとおりであるが、主要な原子力研究開発機関別の見積りの概要を示せば以下のとおりである。
1. 日本原子力研究所 日本原子力研究所の総事業費は約1,158億円であり、これに必要な政府支出金は約1,019億円(国庫債務負担行為限度額約494億円)である。また、必要な人員増は総計30名である。
このうち原子力施設の工学的安全性研究及び環境安全性研究に必要な経費は約113億円(国庫債務負担行為限度額約14億円)であり、増員は3名、核融合の研究開発に必要な経費は約219億円(国庫債務負担行為限度額約92億円)であり、増員は9名、高温工学試験研究に必要な経費は約63億円(国庫債務負担行為限度額約264億円)であり、増員は3名、放射線高度化利用研究をはじめとする一般研究等に必要な経費は約343憶円(国庫債務負担行為限度額約124億円)であり、増員は14名である。原子力船の研究開発に必要な経費は約38億円であり、増員は1名である。
2. 動力炉・核燃料開発事業団 動力炉・核燃料開発事業団の総事業費は約2,133億円であり、これに必要な政府支出金は約1,537億円(一般会計約528億円、電源開発促進対策特別会計約1,009億円)、国庫債務負担行為限度額約119億円(一般会計約60億円、電源開発促進対策特別会計約60億円)である。また、必要な人員数は、総計50名(一般会計13名、電源開発促進対策特別会計37名)である。
このうち、高速増殖炉及び新型転換炉の開発に必要な経費は総額約1,175億円であり、これに必要な政府支出金は約1,044億円(国庫債務負担行為限度額約109億円)であり、増額は27名、ウラン濃縮技術開発、探鉱開発等核燃料開発に必要な経費は、総額約213億円であり、これに必要な政府支出金は約150億円(政府保証借入金約6億円、国庫債務負担行為限度額約2億円)であり増員は3名、再処理施設の運転等に必要な経費は総額約745億円であり、これに必要な政府支出金は約343億円(政府保証借入金約190億円、国庫債務負担行為限度額約9億円)であり、増員は20名である。
3. 放射線医学総合研究所 重粒子線等の医学利用、リスク評価に関する生物学的調査、公衆の被曝評価に関する研究、重粒子線がん治療法に関する調査研究等の特別研究の強化推進等に必要な経費は約138億円である。
4. 国立試験研究機関 先端的基盤研究、総合的研究、核融合、安全研究、食品照射等、原子力研究に必要な経費は約21億円である。
5. 理化学研究所 ミュオンに関する研究等の重イオン科学総合研究、原子力用短波長レーザーの開発研究及び原子力プラント内保全作業ロボットの研究開発等の基盤技術開発、大型放射光施設(SPring-8)の建設及び赤外レーザーによるウラン同位体分離濃縮等の原子力研究に必要な経費は約63億円である。
Ⅲ 概算要求総表 1. 平成4年度原子力関係予算概算要求総表 2. 科学技術庁 一般会計概算要求総表 3. 各省庁(科学技術庁を除く)一般会計概算要求総表 4. 電源開発促進対策特別会計原子力関係予算概算要求表 5. 平成4年度 原子力関係予算概算要求重要事項別総表 〔生活関連経費重点化枠要望〕 |
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