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資料

総合エネルギー調査会中間報告総論(要旨)

1990年6月
総合エネルギー調査会
総合部会


 Ⅰ.エネルギーを取り巻く今後の状況

1.使い手の視点から見た今後の状況

 国民生活におけるゆとりと豊かさの追求は、モノやサービスへのニーズの一層の高まりを通して、民生部門を中心に、産業部門及び運輸部門においても、我が国エネルギー消費の増大を招来。

・生活者としてのゆとりと豊かさの追求は、住宅面積の拡大、暖冷房・給湯ニーズの増大、多機能・高性能な製品やサービスへのニーズの増大、生活関連社会資本へのニーズの増大等を通して、本格的な省エネルギーへの取組みがないならば、家庭及び運輸(特に旅客)の各部門のエネルギー需要の大幅な増大を招来。
・このようにエネルギー需要が増大に向かうことは、家庭部門でのエネルギー消費が、他の先進国に比べ少ないこと等から見ても、ある程度已むを得ない傾向。
・一方、高度化、多様化するニーズに合致した製品・サービスの提供等国民生活の向上に対応する企業活動のほとんどは、エネルギー消費の増大を伴う。
・石油危機以降、実施された産業部門の相当徹底したエネルギー利用効率化による省エネ余地の減少から、企業において省エネルギーへの取組みが強化されないならば、産業、業務、更には運輸(特に貨物)の各部門におけるエネルギー需要もかなり増大。


表1 今後の生活における力点




表2 着実に広がる住宅の広さ





表3 家庭部門における世帯当たりエネルギー消費原単位の国際比較(1986年)





表4 各国主要産業のエネルギー消費のIIP原単位及びGDP原単位の改善比較

   (1973年-1986年)



2.地球的視点から見た今後の状況

  ①資源制約の顕在化
ⅰ)世界における石油供給力の拡大
ⅱ)石油消費国における石油代替エネルギーの開発・導入及び需要抑制が不十分な場合には、90年代半ばにも、世界的に石油需給は逼迫化するとともに、供給の不安定化、価格の大幅な上昇が懸念。また、長期的な趨勢としては、石油価格は上昇すると認識すべき。

・世界のエネルギー需要は、急速な経済発展を遂げつつある途上国を中心に、今後とも構造的に増大傾向が継続。・他方、石油供給については、
 ⅰ)北海、北米等OECD地域
 ⅱ)多くの産油国
 での供給余力の縮小により、世界的に供給力減退。同時に、一部の中東諸国等への依存度が漸増。

・ソ連、東欧諸国におけるエネルギー需給の変動が国際エネルギー需給に及ぼす影響にも注視が必要。


表5 IEAの世界エネルギー需要の展望





表6 IEAの世界石油供給の展望





②環境問題の高まり
 地球環境問題、中でも、地球温暖化問題は、エネルギー政策と密接に関係。また、世界の人間活動と地球環境保全との両立を如何に確保するかという点において極めて重大な問題。

・温室効果の約5割がCO2による。その約8割が、石炭、石油、天然ガスという化石燃料の燃焼が原因。



表7




・科学的に未解明な部分が多いものの、想定される影響が甚大のため、対応の遅れは不可。同時に、CO2の発生が世界のエネルギー消費の大宗(約9割)を占める化石エネルギーの消費等によることから、世界全体の生活や経済活動の根幹にも関わる問題。
・CO2固定化等問題を直接解決し得る技術がまだ研究開発段階にある現在においては、原因物質の排出規制等従来型手法が適用すれば、国民生活全般にわたって極めて大きな影響あり。
・本問題への対策の態様如何によっては、先進国経済の停滞を通して、世界全体の活動の縮小可能性あり。


  ③我が国のエネルギー供給構造と国際的ウエイトの高まり
 我が国エネルギー需要の動向は世界のエネルギー需給に大きな影響を与えるとともに、逆に、世界のエネルギー帯給が我が国エネルギー需給に与える影響も甚大。

・エネルギー分野において、世界の中での我が国のウエイトは増大。
 世界第4位のエネルギー消費国。輸出入のネット・ベースでは、世界最大のエネルギー輸入大国。また、CO2の面においても、第4位の排出国。
・我が国エネルギー供給の対外依存度は約80%と非常に高く、極めて脆弱。


表8 我が国の国際的なウエイト(1987年)





表9 主要先進国におけるエネルギー
   供給構造比較(1987年)





 Ⅱ.状況変化への対応
Ⅰ.今後、増大の見込まれる需要に対し、エネルギーの安定供給、即ち、セキュリティの確保を図ることが最大の課題。
 その際、我が国エネルギーセキュリティの確保は世界のエネルギーセキュリティの確保と密接不可分であるとの認識が必要。

Ⅱ.地球温暖化問題に対しては、持続的な経済発展を確保しつつ、人間活動と地球環境保全の両立を図るため、エネルギー政策においても、最大限の対応が必要。

Ⅲ.我が国の国際的責務として、世界のエネルギーセキュリティの確保と地球環境問題への対応のため、積極的な国際貢献を行うことが必要。
 以上の基本的考え方に基づき、
「エネルギー需要増大を最大限抑制し、石油依存度の低減及び非化石エネルギーへの依存度の向上を図ったエネルギー供給構造を実現する一方、エネルギー分野における国際協力を積極的に推進。」
 という基本的方向に則り、総合的エネルギー政策を抜本的に強化。
 なお、今後のエネルギーを取り巻く状況及び我が国エネルギー政策についての国民及び各国の理解を増進するとともに、今後の人間活動の在り方そのもの等についての国民的規模での論議等を喚起。


①徹底的にエネルギー利用を効率化するために
(1)エネルギー利用効率化の対象を、供給段階から最終消費段階に至るエネルギー・システム全体、更には社会システムにまで拡大し、各部門、部門相互間において「システム化」による利用効率化を進める等ことにより、省エネルギー対策を抜本的に強化。

(2)省エネルギーのイメージを、エネルギー創造、あるいは「地球に対するおもいやり」のある行動というポジティブなものへ転換し、国民意識の高揚を促進。


(システム等による対応)
・都市等における未利用エネルギー(河川水、下水、ゴミ処理場等に存するエネルギー等)の活用による地域熱供給の抜本的導入
・燃料電池等を活用した熱電併給システムの積極的導入・高性能ヒートポンプ等による建物内のエネルギー利用効率化の徹底


・古紙、再生紙の有効利用等資源・リサイクルの推進等
(個別分野における対応)
・生産工程における省エネ設備及び省エネプロセスの導入促進
・住宅の断熱化の一層の推進
・インバーター蛍光灯等省エネ型民生用機器の普及・開発を促進
・自動車の燃料消費効率の最大限の改善
・コンバインドサイクル発電の開発・導入等発電効率の向上等

②適切なエネルギー供給構造を構築するために
 エネルギー供給においては、引き続き石油依存度の低減を目指すと同時に、非化石エネルギー(原子力、新・再生可能エネルギー)への依存を高めた構造を実現。


<新エネルギー>
 賦存量が莫大、CO2等の環境負荷の点で優位であるため、最大限導入。一方、希薄なエネルギー密度、自然条件に左右される供給量の変動性、経済性における劣位等により、2010年度までの導入量(以下同じ。)には一定の制約。
・技術開発等による経済性の改善等。

<水力・地熱>
 供給安定性にほとんど問題なく、CO2等の環境負荷の点で優位であるため、最大限導入。一方、自然環境の調和、立地地点の小規模化により導入量には一定の制約。
・立地可能地点の拡大努力等。

<原子力>
 供給安定性及び経済性に優れ、CO2等の環境負荷の点で優位であるため、高い技術力を有する先進国として、最大限の導入努力が重要。一方、その導入は住民の理解を図りつつ進めることが大前提であり、最近の反原発運動の高まり、原発立地のリードタイムの長さに鑑みれば、導入量には一定の制約。
・安全確保対策、立地促進策、バックエンド対策、広報対策の強化。

<天然ガス>
 供給安定性は相対的に高く、CO2排出においては、化石エネルギー資源の中で優位にあることから、導入推進が適当。一方、価格上昇の懸念、液化に伴う高コスト等から、急速または、大幅な導入量の増大には制約。
・経済性の改善、LNG導入環境の整備、天然ガス開発の推進等。

<石炭>
 供給安定性は非常に高く、経済性も優位にあるものの、CO2排出において最も劣位にあることから、中長期的には、その導入量の増大は困難。
・熱効率の高い複合サイクル発電技術等の開発推進及び早期実用化等。

<石油>
 我が国エネルギーセキュリティの確保、世界石油需給の安定化等のため、引き続き依存度低減の努力が必要。一方、代替性のない用途が大きいこともあり、相当程度の依存が見込まれ、安定供給確保のための一層の努力が必要。
・我が国と産油国との友好・協力関係の強化等。

<転換部門>
・電力負荷平準化に資する技術開発、消費機器の開発・普及、料金メニューの多様化等。
・系統連系の強化等による広域運営の拡大及び電力信頼性の向上。

③エネルギー分野における国際協力の積極的な推進を目指して
(1)世界の石油需給の安定が産油国、消費国双方の利益になるとの共通認識の形成に努め、長期的視点に立った友好・協力関係を強化。

(2)資源及び環境制約という世界共通の課題に対し、世界的なアクションプログラムの提唱及び実施、共同研究開発、人材交流等先進国間のエネルギー政策協調において、主導的な役割を展開。

(3)途上国等に対し、省エネルギー、よりクリーンなエネルギー利用の推進等、エネルギー政策の必要性に関する共通の認識の形成に努めるとともに、相手国の政治、社会、自然等の状況に従い、人材養成、技術移転資金面等での協力を体系的に推進。特に、アジア太平洋地域において、重点的に取組み。



 Ⅲ.我が国の長期エネルギー需給展望
 セキュリティの確保及び地球環境問題への最大限の対応を図るため、2010年度において、需要面において省エネ目標11%の実現、供給構成において非化石エネルギーの最大限の導入を目指す。


(見通しの性格)
・本長期エネルギー需給見通しは、今後の長期に亘り我が国が一定の経済発展を維持していく上で、エネルギー面から重大な制約を生じさせないこと及びエネルギー消費に関し規制的措置を導入しないという2つの前提条件の下で、その達成は決して容易なものではないが、政府・民間がエネルギー面で最大限の努力を傾注することにより達成されるべき目標としてのエネルギー需給のあり方を示したもの。

(2010年度の見通し別添)
・現在、地球温暖化問題に関する関心が著しく高まっており、本問題への取組みが内外における最重要課題の一つになって来ているが、本問題に我が国が取り組むに当たって本見通しにおける需給の展望を十分に考慮し適切に対応する必要あり。
・今後、急激な内外情勢の変化が生じた場合、本見通しの需給の内容について見直す必要が生じる場合があり得る。例えば、地球環境問題についてCO2の短期間での安定化等国際的に極めて厳しい事態に立ち至ることにより、我が国の経済活動水準及びその内容の見直し、それに伴うエネルギー面での施策の抜本的洗い直し等大きな国民的選択が迫られる場合もあり得ると考えられ、今後のエネルギーを巡る内外の動向について引き続き十分注視していく必要あり。

(省エネルギー目標値)
・国民生活における今後のゆとりと豊かさの追求、製造業部門を中心とするこれまでの相当程度の省エネルギー努力の結果としての省エネ余地の減少等から、今後増大傾向が続くと見込まざるを得ないエネルギー需要については、徹底したエネルギー利用効率化の追求により、11%の省エネ(原油換算84百万kl、CO2削減量62百万T-C(1988年度CO2総排出実績の約2割に相当。))の実現が目標。
 なお、エネルギー消費のGNP原単位は、年平均2.0%の改善を示し、2010年度においては1988年度実績に対して36%の改善。これは、1973~88年度の改善実績36%と同等の水準。

(非化石エネルギーの導入)
・供給構造においては、非化石エネルギーへの依存を高める。(15%(1988)→27%(2010))。(原油換算で78百万kl、そのCO2削減量52百万T-C(1988年度CO2総排出実績の約2割に相当))また、これにより、エネルギー供給の対外依存度も約1割減。

(CO2排出量)
・以上のエネルギー政策における最大限の対応により、CO2総排出量は、人口が2000年度までに7%、2010年度までに更に4%増加すること、2000年度までは各種対策のリードタイムがあること等により、2000年度までは16%増加するものの、それ以降はほぼ安定化。(10年間の前半は若干増加するものの、後半は減少傾向に転じる)
・また、我が国1人当たりのCO2排出量は、1988年度実績の2.4トンから2000年度には8%増加し、2.6トン(年率平均0.7%、83~88年度の年率平均1.4%)程度となるものの、それ以降減少し2010年度には2.5トン(2000年度比▲2%)となる。主要先進国のCO2排出量が仮に現在量を維持するとしても、一部(フランス)を除き、なお我が国の1人当たりCO2排出量はそれらを下回る。
 なお、各国毎にそれぞれ一人当たり、GDP当たりCO2排出量に差があるのは、人口規模、経済規模等の国情の違いに加えて、これまでの省エネルギーの実績、原子力等非化石エネルギーの導入状況等に格差が存在することによるものである。


表10 CO2排出量比較(1987年)





表11 主要国のエネルギー消費原単位(1987年)





表12 主要国の一次エネルギー供給構成(1987年)





・更に、CO2固定化・有効利用技術等の実用化及び導入により、2000年以降、総排出量が一層減少するものと期待。
・なお、温室効果を持つ特定フロンが2000年までに全廃されると見込まれることから、CO2と総合すれば、温室効果ガスは2000年時点で現状より低いレベルでほぼ安定化する見込み。



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