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放射性廃棄物対策専門部会報告

高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の
重点項目とその進め方

1989年12月19日
原子力委員会
放射性廃棄物対策専門部会



1.本報告書の位置づけ

(1)使用済燃料の再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物の地層処分については、現在、昭和62年6月の原子力委員会の「原子力開発利用長期計画」に基づき、地層処分技術の確立を目指した研究開発と地質環境等の適性を評価するための調査が行われているところである。

(2)地層処分の研究開発については、昭和55年12月の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会の「高レベル放射性廃棄物処理処分に関する研究開発の推進について」において、研究開発のあり方が示され、昭和59年8月の原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会の「放射性廃棄物処理処分方策について(中間報告)」においては、「有効な地層の選定」についての成果が示された。

(3)その後も原子力開発利用の最も重要な課題の一つとして地層処分の研究開発が進められて来ているが、その推進に当たっては国民的理解を得つつ進めることの重要性がますます認識されて来ており、このような観点から、今後の地層処分の研究開発の一層の進展を図るために、本専門部会において所要の検討が行われた。

(4)本報告においては、地層処分による安全確保の基本的考え方を示すとともに、現在までの研究開発成果を踏まえ、地層処分の技術的可能性の見通しについて検討した。また、国民的理解のためには技術的信頼性がその基礎であり、地層処分技術の一層の信頼性の向上に向けて、当面の期間において特に重点的に進めるべき研究開発項目とその進め方についてとりまとめられた。


2.本報告書の内容

(1)高レベル放射性廃棄物の地層処分による安全確保の基本的考え方については、次のようにまとめられる。

(イ)高レベル放射性廃棄物は発生時点では放射能のレベルが高いものであるが、その放射能のほとんどが発生後数百年の間に急速に減少する。
この放射能レベルの高い期間においては、安全確保のために、放射性核種を廃棄物中に閉じ込めておき廃棄物中の放射能を確実に減衰させることが重要である。このためには、廃棄物が地下水と接触する可能性を十分低く抑えて、廃棄物中の放射性核種が地下水中に溶出しにくいようにし、かつ埋設場所から移動しにくいようにする。

(ロ)高レベルの放射能が減衰してからも長期にわたって残留する放射能がある。この長期間においては、安全確保のために、放射性核種を埋設場所とその近傍に留めておくことが重要である。このためには、廃棄物が地下水と接触したとしても、廃棄物中の放射性核種が溶け出しにくいようにし、かつ埋設場所から移動しにくいようにしておく。

(ハ)更に一層の安全確保のためには、たとえ、放射性核種が埋設場所から移動したとしても、それが非常に長い時間をかけて地層を通って人間の生活圏に到達して有意な環境影響を及ぼすことのないことを確認する。

(2)地層処分のこのような安全確保のためには、人工的に設けられる多層の安全防護系(「人工バリア」という)と地層(「天然バリア」という)を組み合わせた多重バリアシステムを採用することが適切であると考えられる。

(3)現在までの地層処分の研究開発成果をみれば、基本的な部分は次第に明らかになりつつあり、地層処分の技術的可能性の見通しが得られつつある。

(4)今後の地層処分研究開発は、多重バリアシステムの全体としての長期的な安全確保上の性能評価に重点をおいて推進していくべきである。

(5)研究開発は次の諸点に留意して進めることが必要である。

(イ)地層処分の研究開発は長期的、総合的なものであり、計画性と柔軟性をもって着実に進める。

(ロ)地層処分研究開発の対象となる地質環境条件は多岐にわたるので、これに対応する多重バリアシステムを幅広く考えて研究開発を進める。

(ハ)地層処分の安全性を決定づける重要な要素は人工バリアとその近傍の地層(「ニアフィールド」という。)における安全性能であり、その外の広い地層(「ファーフィールド」という。)における性能はその安全性をさらに確かなものとするという役割を担う。このため、今後は、ファーフィールドの地層に関する研究を着実に推進しつつ、ニアフィールドの人工バリアとその近傍の地層の研究に重点的に取り組んでいく。

(6)地層処分の研究開発を進めていくに当たっては、地層処分についての国民の理解を得ることが重要である。このため、今後の研究開発は研究開発の中核的推進機関である動力炉・核燃料開発事業団が、研究開発成果を適切な時期に報告書として取りまとめ、情報提供を積極的に行うとともに、さらにこれを国が評価することなどを通じて、地層処分についての国民的理解を得つつ進め、地層処分の円滑な実施を目指していく。



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