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資料

第33回IAEA総会政府代表演説

平成元年9月25日
科学技術庁長官・原子力委員会委員長
斎藤栄三郎


(冒頭挨拶)
 私は、貴下が第33回国際原子力機関総会の議長に選出されたことに対し、心から祝意を表するものであります。貴下の豊富な経験と卓抜した指導力により、本総会が実り多きものとなり、原子力の平和利用に関する国際協力の促進に資するものとなることを強く確信するものであります。
 また、今般、ブリックス事務局長が再選されましたことは、国際原子力機関の一層の発展と充実にとり極めて喜ばしいことであり、心から祝意を表するものであります。


(我が国の原子力開発と国際協力)
 我が国の原子力開発利用は、御承知のとおり、ひたすら平和利用と安全確保を旨としてきており、30年以上の実績を有しております。たとえば、現在、我が国においては37基の原子力発電所、約3千万kWの設備容量を有し、総発電電力量の約3割を供給するまでに成長しておりますが、安全確保のための不断の努力により今日まで人命にかかわるような事故はもちろんのこと、周辺公衆に影響を与えるような事故は一件も発生しておりません。
 また、我が国は、「原子力開発利用長期計画」を指針とし、自主的な核燃料サイクルの確立を目指しております。
 とくにこの1年の主な進展について申し上げれば、先ずウラン濃縮原型プラントの全面操業が開始され、民間再処理事業や放射性廃棄物管理事業の安全審査を開始しました。また、1992年の臨界を目指して建設が進められている高速増殖炉「もんじゅ」もすでに進捗率70%を越えております。さらに原子力損害賠償の分野においても賠償措置額の引き上げ等を行なっております。
 他方、我が国は、原子力開発利用の円滑な推進をはかる上で必要な国際協力においては、途上国のニーズにも慎重に考慮しつつ、積極的に努力しております。昨年7月には新日米原子力協定が発効し、11月には、核物質の防護に関する条約に加入し、これと合わせて国内における核物質防護体制を整備いたしました。この条約にさらに多くの国が加入し、核物質防護に関する国際協力体制の整備が一層進展することを強く願うものであります。
 また、核融合に関する研究についても、我が国は実用化に向けて積極的に研究開発を推進しており、国際熱核融合実験炉(ITER)共同概念設計作業にも、引続き積極的に協力してまいる所存であります。


(地球環境問題と原子力)
 近年大きな問題となってきている地球規模での環境問題については、本年5月の国際エネルギー機関閣僚理事会、7月の先進国首脳会議等の場でも大きく取り上げられました。原子力に関しては、特に地球温暖化との関連で、炭酸ガスを放出しないエネルギー源として、その重要性が再確認されました。我が国といたしましては、かかる地球環境保全の観点からも、今後とも原子力開発利用を積極的に推進して行く所存であります。


(原子力安全の確保)
 原子力開発利用の推進に際し、安全の確保が大前提であることは論を俟たないところであります。
 先般の先進国首脳会議(アルシュ・サミット)においても、原子力発電所における最も高い安全基準の維持等に関する国際協力の強化の重要性が指摘されました。我が国としては、安全分野での国際原子力機関の活動、例えば原子力安全基準の整備、原子力発電所安全運転評価チーム(OSART)等の活動が一層充実されることを強く希望するとともに、これに積極的に貢献して行く所存であります。


(核不拡散体制の強化と保障措置の重要性)
 我が国は、従来より一貫して原子力の開発利用は厳に平和利用に限って進められるべきであるとの確固たる立場を取っております。また、我が国は、国際的な核不拡散体制の普遍性が更に拡大し、保障措置が確実に行われることを強く希望しており、明年の第4回核不拡散条約(NTP)再検討会議の成功のため尽力する所存であります。かかる観点より、我が国は、非核兵器国と原子力関連協力を行うに当っては、核不拡散条約(NPT)加盟及び核不拡散条約(NPT)に基づく保障措置の適用を前提条件としております。
 また、核兵器保有国における保障措置適用の範囲拡大は核不拡散体制の普遍性を高める上で大きく寄与するものと考えます。このような観点より、中国がボランタリー・サブミッション協定を署名し、すべての核兵器保有国が保障措置を受諾したことは、大きな意義を有すものと考えられます。
 保障措置制度は現在に至るまで、有効に機能してまいりましたが、厳しい財政状況の中、対象施設の増加や多様化に伴い、一層効果的、効率的な保障措置の実施等が求められております。このため、効率的かつ実効性のある保障措置に関する議論がさらに進展し、具体的な成果がもたらされることを強く望み、我が国としても、国際原子力機関に対する保障措置技術支援計画(JASPAS)などを通じ引き続き積極的な協力を行う所存であります。


(技術協力)
 国際原子力機関の技術協力活動は、途上国における原子力の平和利用の普及に大きく貢献してまいりました。
 我が国は技術協力活動の重要性に鑑み、技術協力基金に対する拠出に加え、人的資源の提供、トレーニング・コースの開催等についても、積極的に協力してまいった次第であり、今後ともその方針を維持して行く所存であります。
 技術協力基金については、向こう3年間の拡充目標が設定されましたが、今後は長期的な目標乃至方策について十分な検討が行われて行くことを期待するものであります。
 アジアに関する国際原子力機関の地域協力(RCA)は、地域的な原子力協力の代表的成功例として評価されておりますが、かかる地域協力に積極的に貢献してきた我が国としては、今後とも核不拡散に留意しつつ地域のニーズに応じた可能な限りの協力を行う所存であります。


(原子力に関するパブリックアクセプタンスの重要性)
 原子力の開発を円滑に推進していくためには、原子力に対する公衆の正しい理解と協力を得ることが必要不可欠となっております。このためには、各国関係者の積極的な対応が強く期待されるところでありますが、同時に、各国間の密接な情報交換等の協力を推進することにより、国際的な連携を強化していくことが重要であります。
 我が国は、このような認識を踏まえ、国際原子力機関の場で、原子力に対する公衆の理解促進に資する総合的な活動が行なわれることを希望して、本年特別拠出を行うことを決定した次第であります。


(行財政問題)
 国際原子力機関は、その運営の効率性において卓越した国際機関の一つであることは、広く認められております。これはブリックス事務局長以下事務局関係者が加盟国の財政事情に理解を示し、過去数年間実質ゼロ成長予算の維持に最大限の努力を払ってこられた賜であると存じます。
 国際原子力機関が、今後ともより現実的かつ効率的な運営に心がけていくことを強く期待するものであります。


(結び)
 国際原子力機関は、今日まで、国際社会において核不拡散に貢献しつつ、原子力の平和利用を推進する技術的かつ普遍性のある国際機関として遺憾なくその重大な使命を果たしてまいりました。
 このような国際原子力機関の重要な役割に鑑み、我が国としても国際原子力機関に対して引き続き積極的な貢献を行う決意であります。
 ご清聴ありがとうございました。


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