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資料

原子力委員会ウラン濃縮懇談会報告書

1989年5月16日


 ウラン濃縮懇談会は、1988年4月、新素材高性能遠心機の研究開発の現状を評価するとともに、今後の研究開発の進め方について検討するため、「新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループ」を設置した。
 当懇談会は、同ワーキング・グループより、1988年8月1日及び1989年4月28日の2回にわたり、別添の報告書の提出を受けた。
 当懇談会としては、これらの報告書に基づき、以下の考え方に立って、今後の新素材高性能遠心機の開発・実用化を進めていくことが適当であると考える。

1.新素材高性能遠心機の研究開発は、ほぼ順調に進展してきているが、今後、その実用化を図っていくため、遠心機1,000台程度からなる実用規模カスケード試験装置の建設・運転を行うこととする。
 この試験装置の設置場所としては、動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所とし、その建設・運転のスケジュールとしては、1989年度に建設に着手し、1991年度の運転を開発することを目途とすることが適当である。

2.実用規模カスケード試験装置の建設・運転は、関連メーカーの協力の下に、動力炉・核燃料開発事業団、日本原燃産業(株)及び電気事業者が共同して実施するものとする。

3.実用規模カスケード試験装置の建設・運転と並行して、引き続き、新素材高性能遠心機に関する所要の研究開発を進めていくことが重要であるが、1991年度以降については、民間がその研究開発の主導的な役割を担うこととし、一方、動力炉・核燃料開発事業団は、基礎的・基盤的な研究開発、先導的な研究開発、国として必要な安全性の研究等を実施するとともに、必要に応じ、民間の行う研究開発を支援するものとする。


ウラン濃縮懇談会の構成員(◎は座長)
向坊隆 原子力委員会委員長代理
門田正三 原子力委員会委員(第9回まで)
中江要介 原子力委員会委員
大山彰 原子力委員会委員(第9回から)
林政義 原子力委員会委員(第10回から)
飯田孝三 電気事業連合会原子力開発対策会議委員長
池亀亮 東京電力(株)常務取締役
石渡鷹雄 動力炉・核燃料開発事業団副理事長
大垣忠雄 日本原燃産業(株)社長
大島恵一 東京大学名誉教授(第9回まで)
金井務 (社)日本電機工業会原子力政策委員会委員長
後藤正記 ウラン濃縮機器(株)会長
高橋達直 通商産業省資源エネルギー庁次長(第8回まで)
植松敏 通商産業省資源エネルギー庁次長(第9回から)
高島洋一 東京工業大学名誉教授
松井隆 科学技術庁原子力局長(第8回まで)
平野拓也 科学技術庁原子力局長(第9回から)
松田泰 (財)日本エネルギー経済研究所研究顧問
森一久 (社)日本原子力産業会議専務理事


  審議経緯
   第8回 1988年4月26日
第9回 1988年8月1日
第10回 1989年4月28日



(別添1)

 原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機
技術開発検討ワーキング・グループ中間報告書

昭和63年8月1日



1.はじめに

(1)我が国におけるウラン濃縮の事業化は、動力炉・核燃料開発事業団が中心となって開発を進めてきた遠心分離法の技術により進められている。
 本年4月には、岡山県人形峠において、遠心分離法のウラン濃縮原型プラント(200トンSWU/年)の部分操業が開始され、この原型プラントは、来年1月頃には、全面運転に入る予定である。
 この成果を踏まえ、日本原燃産業(株)は、青森県六ヶ所村において、昭和66年頃の操業開始を目途に、商業用ウラン濃縮工場の建設計画を推進している。

(2)一方、我が国のウラン濃縮事業を取りまく環境は、現在、極めて厳しく、世界的なウラン濃縮役務の供給能力の過剰及び最近の急激な円高の進行により、国内におけるウラン濃縮事業の一層の経済性の向上が強く求められている。
 このような状況の下、我が国において国際競争力のあるウラン濃縮事業を確立していくためには、今後、経済性の一層の向上を図り得るウラン濃縮新技術の開発・実用化が極めて重要な課題である。

(3)岡山県人形峠における原型プラントに採用された遠心機は、技術的にみて、ほぼ完成の域に達したものであり、その遠心機が青森県六ヶ所村における商業プラントの第1期分(600トンSWU/年)に採用されることとなっている。この遠心機については、今後これ以上の飛躍的な技術的進歩は期待し難く、また、回転胴に高価な素材を用いていることから、今後のコスト・ダウンにも限界があるものと考えられる。
 一方、新素材回転胴を用いた高性能遠心機は、これまでの研究開発の成果からみても、在来の遠心機に比べ大幅な性能の向上が見込まれ、また、遠心機の製造コストも、今後、低減化が期待されている、さらに、ウラン濃縮新技術のなかでは、最も開発が進んでいる技術であり、また、既存の技術あるいは設備との整合性もよいため、比較的容易かつ早期に実用化が可能な技術と考えられる。
 このため、日本原燃産業(株)は、青森県六ヶ所村において昭和70年頃から操業を開始する予定の商業プラントの第2期分(900トンSWU/年)においては、新素材高性能遠心機を導入することを計画している。

(4)当ワーキング・グループは、昭和63年5月以来、これまで4回の会合を開催し、新素材高性能遠心機の研究開発の現状を評価するとともに、今後の研究開発の進め方について調査審議を行った。
 ここに、これまでの調査審議の結果を中間的に取りまとめたので報告する。



2.新素材高性能遠心機開発の成果と今後の課題

(1)開発の成果
 新素材高性能遠心機の開発については、昭和61年10月28日の原子力委員会ウラン濃縮懇談会報告書の中で、「官民の有機的連携の下に、関係者の人的交流も含めた積極的な対応により、新素材高性能遠心機についてできるだけすみやかに実用化への見通しを得るよう開発を進める」とされている。この方針に沿って、動力炉・核燃料開発事業団、日本原燃産業(株)及び電気事業者は、昭和61年12月、研究協力協定を締結し、新素材高性能遠心機の開発及びその製造技術の開発を進めてきた。動力炉・核燃料開発事業団において進めてきた遠心分離機の開発については、これまで、単機開発、集合機開発、システム試験等を実施し、所期の成果を収め、現在ブロック試験の試運転を開始したところである。また、メーカーにおいて行われてきた遠心機の製造技術の開発については、ほぼ見通しが得られつつあり、今後、国の支援を受けて、さらに製造技術の改良を行う予定である。
 これらの技術開発の成果を取りまとめれば、以下のとおりである。

 ① 新素材高性能遠心機の開発

(イ)単機開発
 低コスト指向の回転胴、軸受等の試作を行い、実機採用の見通しを得た。また、各種の運転条件下における遠心機の分離特性を確認した。

(ロ)集合機開発
 実規模集合機により、構造設計が妥当であることを確認するとともに、コスト評価としては、単機当たりのコストが在来の遠心機より低くなり得るとの見通しを得た。

(ハ)システム試験
 操作条件をパラメーターとしたカスケード特性試験を行い、在来の遠心機によるカスケードと変わらない制御性を有することを把握するとともに、設計値に近い分離パワーを得た。

(ニ)ブロック試験
 カスケードの基本特性を把握するための数十台からなるブロック試験装置の据付工事を完了し、その試運転を開始したところである。


 ② 遠心機製造技術の開発

(イ)回転胴製造技術の開発
 製造法の湿式法への統一、高速加工試験、連続硬化法の実証等を行い、生産性向上の見通しを得た。

(ロ)回転胴品質管理技術の開発
 寸法検査及び非破壊検査のための基本装置を試作し、検査時間の短縮等の見通しを得た。


(2)今後の課題
 新素材高性能遠心機の開発は、前述のとおり、ほぼ順調に進められているところであるが、これを商業プラントに導入するためには、今後、ブロック試験の成果を見極めるとともに、以下の研究開発を進める必要があると考えられる。

 ① 実規模カスケードの特性評価

 ② 商業プラントへ向けての遠心機製造技術の検証

 ③ 新素材高性能遠心機の性能確認

 ④ 新素材高性能遠心機の実証的経済性評価

 ⑤ 新素材高性能遠心機の故障率及び長期耐久性の把握

 ⑥ 実規模カスケードの運転技術の確立

 ⑦ 新素材高性能遠心機の信頼性の実証



3.今後の新素材高性能遠心機の技術開発の進め方

(1)新素材高性能遠心機によりウラン濃縮の事業化を進めていくためには、前述したような技術的課題を解決するため、今後できるだけ早期に、パイロット規模試験装置(以下「パイロット・プラント」という。)の建設・運転を行う必要がある。
 新素材高性能遠心機のパイロット・プラントは、商業プラントの設計・建設に必要なデータを取得するためのパイロット的役割を果たすとともに、商業プラントへの新素材高性能遠心機の導入を最終的に決断するための実証的役割をも果たすことが期待される。

(2)パイロット・プラントの遠心機の台数としては、①このプラントの設計・建設を通して取得できるデータは、実規模カスケードになるべく近い規模のもので実施すればするほど、商業プラントの設計を合理的なものとし、商業プラントの経済性・信頼性を向上させるものとなること、②遠心機製造の観点から重要なのは、商業プラントへの導入に向けての製造技術の検証であり、パイロット・プラントにおける遠心機の製造本数がその大きな要因となることなどを考慮すれば1000台程度とすることが適切と考えられる。
 また、パイロット・プラントの設置場所としては、既設施設を活用することにより、その建設を短期間に行うことが可能であり、かつ、建設費の大幅な低減化が可能であることから、動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所が適切と考えられる。

(3)以上の考え方に基づき、動力炉・核燃料開発事業団、日本原燃産業(株)及び電気事業者は、共同して、パイロット・プラントの詳細設計を速やかに進めるものとする。
 なお、このパイロット・プラントの建設・運転体制等については、引き続き、当ワーキング・グループにおいて調査審議を進めるものとする。



新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループの構成員(◎は主査)

氏名 現職
池田邦三 日本開発銀行営業第一部電力室長
伊地知幸文 ウラン濃縮機器(株)常務取締役
金川昭 名古屋大学教授
菊地義貞 日本複合材料(株)取締役
鮫島薫 東京電力(株)原子燃料部長
鈴木康夫 電気事業連合会原子力部長
高島洋一 東京工業大学名誉教授
玉井浄 動力炉・核燃料開発事業団ウラン濃縮部長
錦戸義一 日本原燃産業(株)取締役
東邦夫 京都大学教授
山崎吉秀 関西電力(株)原子燃料部長
(五十音順)


  審議経過
   第1回 昭和63年5月10日
第2回 昭和63年6月6日
第3回 昭和63年6月29日
第4回 昭和63年7月14日




(別添2)

原子力委員会ウラン濃縮懇談会新素材高性能遠心機
技術開発検討ワーキング・グループ報告書

平成元年4月28日


1 はじめに

 新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループは、昨年8月1日、新素材高性能遠心機の開発状況及び実用規模カスケード試験装置(以下「パイロット・プラント」という。)の遠心機台数、設置場所、詳細設計の進め方等についての検討結果を中間報告書としてとりまとめ、原子力委員会ウラン濃縮懇談会に報告した。
 その後、当ワーキング・グループは、合計7回の会合(動力炉・核燃料開発事業団の東海事業所の視察を含む。)を開催し、中間報告以降の研究開発の進捗状況を評価するとともに、パイロット・プラントの建設・運転体制等について検討した。
 ここに、中間報告以降の当ワーキング・グループの調査審議の結果をとりまとめ、報告する。


2 中間報告以降の研究開発の進捗状況

(1)遠心機の開発
 新素材高性能遠心機の長期的な回転安定性を向上させるための技術開発を進めた結果、技術的課題の解決の見通しが得られ、パイロット・プラントに採用する遠心機の基本仕様が決定された。

(2)ブロック試験
 新素材高性能遠心機の多台数生産の経験が得られるとともに、ブロック試験装置の運転試験を通じ、軽ガス発生特性、起動時間等のカスケードの起動に関する基礎的なデータ及び濃縮特性等のカスケード特性に関する基礎的なデータが得られ、ブロック試験の所期の目的を達成しつつある。


3 今後の進め方

(1)新素材高性能遠心機を商業用ウラン濃縮工場に導入していくためには、中間報告書でも述べたとおり、パイロット・プラント(遠心機1,000台程度、動力炉・核燃料開発事業団の人形峠事業所に設置)の建設・運転が必要である。
 一方、中間報告以降に本格的な運転を開始したブロック試験装置の運転試験の状況、遠心機の長期的な回転安定性を向上させるための技術開発の状況を含め、これまでの研究開発により得られた成果からみて、パイロット・プラントの建設・運転に進むために必要な技術的な見通しは得られたものと評価される。
 以上から、今後、パイロット・プラントの建設・運転を進めていくものとし、そのスケジュールとしては、1989年度にパイロット・プラントの建設に着手し、1991年度にその運転を開始することを目途とすることが適当である。

(2)このパイロット・プラントの建設・運転を通じ、これまでに動力炉・核燃料開発事業団に蓄積されてきた関連技術を民間に円滑に移転するとともに、将来の民間ウラン濃縮事業を担う技術者の育成を図ることが重要である。
 このため、パイロット・プラントの建設・運転は、関連メーカーの協力の下に、動力炉・核燃料開発事業団、日本原燃産業(株)及び電気事業者が共同して実施するものとする。特に、建設・運転のために人形峠事業所で必要となる要員は、動力炉・核燃料開発事業団と民間の適切な協力の下に確保するものとする。

(3)新素材高性能遠心機の実用化を確実なものとするためには、パイロット・プラントの建設・運転と並行して、引き続き、所要の研究開発を進めていくことが重要である。
 現在、動力炉・核燃料開発事業団、日本原燃産業(株)及び電気事業者が協力して、1990年度までの予定で、新素材高性能遠心機に関する共同研究が進められている。
 1991年度以降については、新素材高性能遠心機の改良・高度化のための研究開発は民間で行うなど、民間が新素材高性能遠心機に関する研究開発の主導的な役割を担う一方、動力炉・核燃料開発事業団は、基礎的・基盤的な研究開発、先導的な研究開発、国として必要な安全性の研究等を実施するとともに、必要に応じ、民間の行う研究開発を支援するものとする。このような基本的な考え方に立って、官民の適切な役割分担及び協力の下に、1991年度以降の新素材高性能遠心機の研究開発を実施していくものとする。



新素材高性能遠心機技術開発検討ワーキング・グループの構成員(◎は主査)

池田邦三 日本開発銀行営業第一部電力室長
伊地知幸文 ウラン濃縮機器(株)常務取締役
金川昭 名古屋大学教授
菊地義貞 日本複合材料(株)取締役
鮫島薫 東京電力(株)原子燃料部長
鈴木康夫 電気事業連合会原子力部長
高島洋一 東京工業大学名誉教授
玉井浄 動力炉・核燃料開発事業団ウラン濃縮部長
錦戸義一 日本原燃産業(株)取締役
東邦夫 京都大学教授
山崎吉秀 関西電力(株)原子燃料部長


審議経過
   第1回 1988年5月10日
第2回 1988年6月6日
第3回 1988年6月29日
第4回 1988年7月14日
第5回 1988年9月14日
第6回 1988年10月12日
第7回 1988年11月2日
第8回 1988年12月12日
第9回 1989年2月16日
第10回 1989年3月31日
現地調査1988年5月23日
(日本複合材料(株)横浜研究所)
現地調査1988年9月28日
(動力炉・核燃料開発事業団東海事業所)




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