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高速増殖炉開発計画専門部会報告書

高速増殖炉研究開発の進め方

昭和63年8月
原子力委員会
高速増殖炉開発計画専門部会




1.はじめに

(1)原子力開発利用長期計画においては、高速増殖炉を我が国の将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発することとしており、その開発を進めるにあたっては、軽水炉によるウラン利用体系に勝るものとして高速増殖炉によるプルトニウム利用体系を構築していくことを積極的に目指すこととしている。

 また、「高速増殖炉の開発は相当の長期にわたって、官民の適切な協力体制の下に、不断の努力を傾注する必要があり、その具体的展開については、今後、原子力委員会の高速増殖炉開発計画専門部会において引き続き審議を進めることとする」旨が定められている。

 高速増殖炉開発計画専門部会は、1984年に高速増殖炉開発懇談会の報告書がとりまとめられた後の高速増殖炉の実用化に向けた内外の情勢の変化も考慮して、
① 高速増殖炉の開発に関する長期的推進方策
② 研究開発に関する推進方策
③ 実証炉の基本仕様等の評価検討
④ 国際協力に関する推進方策
⑤ その他高速増殖炉の開発に関する重要事項
の審議を行うべく、1986年5月に設置された。

 本専門部会においては、原子力開発利用長期計画に基づいて、原型炉「もんじゅ」の建設が1992年の臨界を目途に進められるとともに、実証炉の開発が基本仕様選定を1990年頃、その着工を1990年代後半に行うことを目標として進められていることを踏まえて、関係機関における研究開発の的確かつ効率的な推進を図る必要があることに鑑み、昨年4月より基礎調査分科会において、関係機関の研究開発の状況等をレビューするとともに、炉の開発を中心に、研究開発推進に当たっての基本的事項及び研究開発課題について調査検討を進めてきた。

 本検討のとりまとめに当たっては、次の3点を基本とした。
① 原子力開発利用長期計画に示された基本計画を踏まえ、国内関係機関における研究開発等の状況及び海外の動向のレビューを行うとともに、現状における課題等を整理・検討し、また、今後の研究開発の進めかたについて具体的な検討等を行い、研究開発の方向あるいは実施にあたっての重要事項等を明らかにする。

② 研究開発課題、目標等については高速増殖炉の実用化までを見通しつつも、向こう10年程度の間に実施すべきものを対象として、具体的に展開する。

③ 研究開発を官民あげて重点的、効率的かつ柔軟性を持って推進するため、研究開発の進展状況を踏まえつつ、実証炉の基本仕様の選定等、今後の研究開発の節目となる時期において見直しを行う。
 なお、今後の研究開発の進展に対応して、核燃料サイクルの研究開発についても調和のとれた推進が図られるよう配慮する必要がある。

2.高速増殖炉開発を巡る状況

(1)高速増殖炉開発の意義
 高速増殖炉は、発電しながら消費する以上の核燃料を生成する画期的な原子炉であり、この高速増殖炉によるプルトニウム利用が本格化すれば、将来的には天然ウランの所要量を大きく低減させ、原子力利用における核燃料資源の制約に関する問題を基本的に解決し得るものと考えられる。

 したがって、高速増殖炉を我が国の将来の原子力発電の主流にすべきものとして開発を進める必要があり、その推進にあたっては安全性、経済性等の観点から、軽水炉によるウラン利用体系に勝る高速増殖炉によるプルトニウム利用体系を積極的に構築していくことが極めて重要である。

 我が国がかかる観点から、その研究開発を積極的に推進していくことは、国内のエネルギー供給基盤の強化のみならず、国際社会のエネルギー安定確保にも長期的に貢献していくという政策的意義をもつものである。

 また、高速増殖炉の技術は極めて広範な科学技術領域に立脚した総合システム技術であり、その研究開発の推進は広範な科学技術の水準の向上にも資するものである。

(2)我が国の研究開発の状況
 我が国の高速増殖炉の開発は、1956年の原子力委員会「原子力開発利用長期計画」に基づいて開始され、初期には日本原子力研究所(以下、原研)を中心に基礎的な研究が実施された。続いて原子力委員会は1966年、「動力炉開発の基本方針について」を定め、高速増殖炉開発をナショナルプロジェクトとして、各界の協力のもと、総力を結集して進めることとし、その推進機関として動力炉・核燃料開発事業団(以下、動燃)が翌年設立された。

 動燃の設立に際しては、実験炉「常陽」の概念設計書を始めようとする原研の成果が移管され、以後、動燃を中心として、基盤となる技術の研究開発が体系的に実施されるとともに、これらを集約して実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の開発が進められてきた。このナショナルプロジェクトには我が国の電力、メーカー等も動燃への人材派遣あるいは機器の製作等を通して参画し、技術的蓄積が着実に行われてきている。

 電気事業者は1966年から1972年にかけてアメリカのフェルミ炉計画にメーカー等とともに参加したのを手始めに、軽水炉で培ってきた技術を背景に実証炉設計に向けての合理化設計研究等を実施し、また種々の要素研究を(財)電力中央研究所(以下、電中研)を含めて行い、自己の技術蓄積を図ってきた。さらに、原型炉「もんじゅ」の建設に協力して技術協力と工事施工管理を行い、実務の習得をも図ってきた。1987年の原子力開発利用長期計画においては、原型炉に続く実証炉の設計、建設、運転は電気事業者が主体となって進めることが明確にされた。電気事業者は実証炉の業務を日本原子力発電(株)(以下、原電)に委託している。

 実証炉の開発に関する研究開発の実施にあたって、原電、動燃、原研、電中研は4機関で構成する高速増殖炉研究開発運営委員会を設け、所要の協議、調整を行い、円滑かつ効率的な推進を図っている。

 この他、高速増殖炉実用化に係るものとしては、国の支援を受けて行われている耐震試験等の技術確証試験、主要機器のフィージビリティスタディ等がある。

 一方、核燃料サイクル分野の研究開発の現状を見ると、高速増殖炉再処理技術については、動燃において研究開発が進められ、現在、工学規模の試験が可能な施設(リサイクル機器試験施設)の設計を行っている段階にある。

 なお、今後は、これらの成果を十分に踏まえ、2000年過ぎの運転開始を目途にパイロットプラントの建設計画の具体化を図ることとされている。

 また、MOX燃料加工技術についても動燃において研究開発が進められ、プルトニウム燃料製造施設(PFPF)FBRラインが1987年には完成し、1988年より運転を開始することになっている。

 以下に主要関連機関の研究開発状況を示す。
① 動力炉・核燃料開発事業団
 動燃は、1967年10月設立以来、自主技術により高速増殖炉を開発するとの国の基本方針に基づき、実験炉、次いで原型炉の開発を進めてきた。その開発に当たっては広い分野にわたる研究開発が必要なことから、大洗工学センターに大型試験施設を含む研究開発施設を整備し、まず実験炉「常陽」、次いで原型炉「もんじゅ」のための研究開発を実施してきた。実験炉「常陽」では1977年4月に初臨界を達成し、1978年10月から熱出力5万kWで増殖炉心による運転・試験を開始した。その後照射炉心への改造を行い、1983年3月よりは、熱出力10万kWで燃料・材料の照射をはじめ各種の試験を実施してきている。

 一方、原型炉「もんじゅ」(電気出力28万kW)については、1983年5月に設置許可を得て、1985年10月から本格的な建設工事を開始し、現在、1992年10月に臨界の予定で建設を進めている。

 動燃は、これら実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の建設、運転に係る研究開発に加えて、炉心・燃料設計、高温構造設計手法、事故時原子炉挙動解析手法の高度化等を進めるとともに、大型炉の基盤的要素技術の高度化、及びこれに関連する設計研究を実施するなど、実用化に向けた基盤技術の確立、向上を図っている。

 なお、これらの研究開発の実施に当たっては国際協力によって技術の相互補充、施設、データの有効利用を図るなどの効率的推進が図られ、多くの分野において成果が得られてきた。

② 日本原子力発電(株)
 電気事業者は、実用大型炉の予備的な設計研究を1970年代後半に開始し、1981~1983年度には「高速増殖実証炉概念に関する研究」において、原型炉「もんじゅ」を参考としたループ型炉のプラント全般とタンク型炉の主要部について安全性、成立性、運転・保守性及び経済性向上のための検討を行った。その結果、経済性については100万kW規模で軽水炉の3~4倍の建設費が推定されたため大幅なコスト低減の必要性が認識され、1984年よりこの方策を探る「合理化設計研究」が始められた。

 電気事業者の行う高速増殖炉開発の業務が原電に委託されたのに伴い、原電は、1986年度から実証炉設計研究の一環として、実用化段階に採用する可能性のある革新的技術の成立性とコスト低減効果を検討する「革新的技術の摘出・合理化効果の研究」、及び、実証炉の建設主体として基本仕様の選定、設計、建設、運転、保守等を円滑に進めるため必要な研究開発、並びに、実用化を目指した安全性・信頼性向上、経済性向上のための研究開発を進めている。

③ 日本原子力研究所
 原研は、その幅広い原子力研究のポテンシャルを活かし、主として基礎的研究を実施している。燃料・材料に関しては、炭化物燃料の調製、JRR-2、JMTRを用いた照射試験、照射後試験を実施している。また、FCAを用いて炉物理、遮蔽等の中性子工学的研究、核データの評価研究を実施してきており、NSRRを用いた燃料破損実験等の安全性研究についても検討を進めている。

④ (財)電力中央研究所
 電中研は、電気事業者の中央研究所としてつちかってきた技術を生かして、1984年より高速増殖炉のコストダウンを目的として耐震構造の設計法の高度化及び機器の設計合理化、構造信頼性に関連した高温構造設計法の高度化、熱流動設計の合理化に関する研究、さらに実用化に資する革新的技術の検討等を実施している。
(3)海外における高速増殖炉開発の動向
① 欧州
 欧州の先進各国は原子力エネルギーの有効利用のために、核燃料サイクルの確立とプルトニウムの有効利用が長期的観点から重要であると確認しており、このため高速増殖炉の開発を重視する政策をとってきている。

(i)各国の動向
a.フランス
 フランスでは実験炉ラプソディ(熱出力40MW、1967年臨界)に始まり、原型炉フェニックス(電気出力25万kW、1973年臨界)を建設し、さらに、西ドイツ、イタリア他と共同で、実証炉スーパーフェニックス(電気出力124万kW、1985年臨界)を建設するまでほぼ順調に進められてきた。

 スーパーフェニックスは、1986年12月に全出力運転を達成したが、1987年3月に使用済燃料貯蔵槽からナトリウム漏洩が発生し、運転が停止されている。現在、この使用済燃料貯蔵槽を貯蔵には用いない方式での運転再開等が検討されている。

b.イギリス
 イギリスでは、実験炉DFR(電気出力1.5万kW、1959年臨界)に始まり、原型炉PFR(電気出力27万kW、1974年臨界)を建設しており、現在、PFRは運転中である。

 なお、英国政府は1988年7月高速増殖炉の研究開発について政府投資を縮減し、重点化を行う方針を打ち出している。

c.西ドイツ
 西ドイツでは、実験炉KNK-Ⅱ(電気出力2万kW、1977年臨界)が運転中である。ベルギー、オランダとの共同による原型炉SNR300(電気出力83万kW)については、建設はほぼ終了しているが、燃料装荷についての州政府の許認可が未だ得られず、運転開始には至っていない。
(ii)今後の欧州高速増殖炉開発
 スーパーフェニックスに続く次期欧州高速増殖炉の建設については、全欧州で協力して行う方向で話しあいが進められている。

 具体的には、ヨーロッパ高速炉電力会社グループ(EFRUG)が、1987年7月に、従来個別に進められてきたSNR-2、SPX-2、CDFRの設計を統合し、これらの技術をベースにして今後5年間で、経済性の一層の向上を図りつつ、かつ、関係各国において将来許認可が得られるような欧州統合実証炉(EFR)の共同設計を行う方針の協議に入った。発表されている予定によると、設計作業は2段階に分かれ、最初の2年間で概念設計、コスト見積り、研究開発項目の摘出等を行い、それをもとに次の3年間で詳細設計を行うこととしている。

 このEFRの建設に必要な研究開発については、1984年1月に調印された5ケ国(フランス、イギリス、西ドイツ、イタリア、ベルギー)の政府間覚書の下に、各国の電力会社間、設計会社間、及び研究開発機関間でそれぞれ協力協定を結び、密接に分担、協力、調整を行いつつ研究開発等を実施する予定とされている。

② アメリカ
 アメリカは早くから高速増殖炉開発を開始し、実験炉クレメンタイン(熱出力25kW、1946年臨界)、EBR-Ⅰ(電気出力200kW、1951年臨界)、EFFBR(電気出力6.6万kW、1963年臨界)、EBR-Ⅱ(電気出力2万kW、1963年臨界)、SEFOR(熱出力20MW、1969年臨界)、FFTF(熱出力400MW、1980年臨界)等が建設され多くの研究開発データを蓄積してきたが、このうちEBR-Ⅱ、FFTFは今も順調に運転されている。

 原型炉CRBR(電気出力38万kW)の建設は1983年に中止されたが、その後DOEは、基盤的研究を進めつつ、新しい取組みとして新型LMR計画を推進してきている。この計画においては、固有の安全性をより一層活用し、コスト面でも軽水炉と対抗できる設計を求め、金属燃料を使用する小型モジュラータイプのPRISM(電気出力15.5万kW:GE社)及びSAFR(電気出力45万kW:RI社)を研究対象として採用し、設計研究を行ってきている。これと併行してアルゴンヌ国立研究所(ANL)において研究が進められてきた金属燃料を用いる燃料サイクル施設併設炉(「一体高速炉」(IFR)に係わる技術開発も精力的に進められてきている。これらの研究を踏まえてDOEは、本年7月新型LMRとしてPRISMを選定し、今後3年間概念設計を行ない、この後、2年間の予備設計、さらに引き続き詳細設計を行なう方針を決定した。

③ ソ連
 ソ連では、実験炉BOR-60(電気出力1.2万kW、1969年臨界)、原型炉BN-350(電気出力換算約35万kW、1972年臨界)、原型炉BN-600(電気出力60万kW、1980年臨界)が運転されている他、1986年からの5ケ年計画で、実証炉BN-800(電気出力80万kW)を2基建設する予定で、すでにサイトの準備工事、プラント機器の製造を開始している。

 また、BN-1600(電気出力160万kW)の概念設計が進められている。
3.研究開発推進に当たっての基本的事項

(1)高速増殖炉開発のシナリオ
 研究開発の推進方策の検討に当たっては、研究開発成果の反映・活用される場である実証炉から実用炉に至る開発のシナリオを踏えて、各技術分野毎の重点的な課題および研究開発目標の明確化等を図ることが重要である。実用化に至る開発シナリオとしては、原子力開発利用長期計画に基づいて、次の通りとした。
① 2020年代から2030年頃の実用化を目標として原型炉「もんじゅ」に続く実証炉をはじめとする複数の炉を適切な期間をおいて継続的に建設する機会を設定する。研究開発はこれらの建設段階毎に収れんさせつつ実用化を見通した形で長期的観点から総合的に実施していく。

② 実証炉については官民の適切な協力を図りつつ、設計、建設、運転には電気事業者(原電)が主体的役割を果たすこととし、1990年代後半に着工することを目標として、1990年頃を目途に基本仕様の選定を行い、これに引き続いて、基本設計、詳細設計を実施する。炉型はこれまでの開発経験の蓄積に鑑み、MOX燃料を用いるナトリウム冷却型炉を中心に開発を進める。

③ 実用化に向けた高速増殖炉の経済性については、安全性、信頼性、運転・保守性について軽水炉と同等以上の水準を保ちつつ、経済的に軽水炉と十分競合し得るものとすることを目標にプラント機器、設備等の高性能化、コンパクト化等を図るための研究開発を進める。原型炉「もんじゅ」に続く実証炉については、実用化までの長期的な展望のもとにおける1段階として位置付け、実用化への見通しを得ることができる炉として開発を進める。
(2)研究開発推進の体制
 高速増殖炉の研究開発における官民の役割分担については、現在、民間における実証炉関連研究が立ち上がりつつあり、今後、民間の研究開発が本格化していく状況にあることから固定的なものとして設定することは適当ではないが、当面はそれぞれが以下の考え方にそって研究開発を推進することが妥当と考えられる。

(国)
・高速増殖炉実用化に向けた先導的、基盤的な研究開発、データベースの整備等の基礎研究、開発リスクの大きい研究開発等、民間のみでは十分な実施を期待しがたいもの。

・安全規制等、国自らの責務遂行のために必要なもの。

(民間)
・実証段階以降のプラントの設計、建設、運転に必要な研究開発

・実用化を目指した安全性、信頼性及び経済性向上のための研究開発
 実証炉の開発に当たっては、設計、建設、運転に主体的役割を果たす原電と、これまでの高速増殖炉研究開発の中核的役割を果たし、かつ、今後の関連研究開発においても重要な役割が期待されている動燃が密接に連携し、また、原研、電中研、メーカー等関係する研究開発機関も含めた協調体制の下で、整合性をとりつつ、それぞれの機関がその役割に即して、責任を持って進めていくことが重要である。

 高速増殖炉の研究開発関係機関の協力体制として、原電、動燃、原研及び電中研の4機関で構成する高速増殖炉研究開発運営委員会が1986年に発足している。本委員会は、国の高速増殖炉の開発方針に基づき、国内関係機関が実施する高速増殖炉の研究開発業務の効率的な分担、運用及び関達する国際協力について協議、調整を行うことを目的として設置されたものである。現在、その活動も軌道に乗ってきており、今後もかかる体制の下で具体的協力を進めていくことが適当である。

 特に、動燃と原電との間においては、動燃が蓄積してきている技術の移転及び今後の実証炉の開発のための技術協力が進められており、その推進にあたっては情報の移転、人材の交流、施設の有効活用等、今後とも、幅広い対応を行っていくことが重要である。

(3)大型施設を必要とする研究開発
① 我が国においては、動燃大洗工学センターに実験炉「常陽」、燃料・材料照射後試験施設、ナトリウム関係試験施設等が整備され、燃料の照射試験、主要コンポーネント機器の開発等が実施されてきており、また、電中研等においても大型施設による耐震等の研究が実施されて来ている。さらに、国際協力のもとに、アメリカ、フランスの所有する施設を利用した種々の研究開発等が行なわれて来ている。

 今後、高速増殖炉の実用化に向けた長期的な研究開発を効率的に実施していく上で、大型施設を必要とする研究開発は、資金計画の面からも重要であり、これについて的確かつ効率的に実施していくことが重要である。

② このためには、まず、どのような研究開発課題にどのような大型施設を必要とするか、これを具体的にどのように実施していくか等について、実証炉の基本仕様の選定等、今後の開発の進展に対応しつつ、また、所要の時点に成果が得られるように、順次検討していくことが必要である。その際には、動燃がこれまでに整備している、あるいは整備を進めている大洗工学センターの有効活用を図る必要があり、また、これまで実施してきているような国際協力の活用にも留意していくことが重要である。
 このため、動燃施設の活用に関しては、動燃、原電、メーカ等を含めた協力体制、役割分担等についての考え方を検討していくことが重要である。

③ 特に、現在建設の進められている原型炉「もんじゅ」については、その設計、建設、運転の経験を通じて基準、解析コード等の妥当性の確認及び高度化、燃料の長寿命化、大型機器の健全性の実証、運転・保守経験の蓄積等を図り、得られた成果を実証炉以降の開発に的確に生かしていくことが重要である。
(4)国際協力
① 国際的な高速増殖炉の研究開発の状況を概観すると、欧州においては主要国間の国際協力による実証炉開発が実施されており、一方、アメリカにおいては、エネルギー省が中心となって進めている新しいタイプの高速増殖炉概念の構築について、我が国との協力を希望して来ている状況にある。

② 高速増殖炉の研究開発については、我が国はその着手が欧米に比べて遅れたこともあり、先行した欧米諸国の経験に学びつつ、いかに効率的に国内に高速増殖炉開発の技術基盤を整備するかという点に重点を置いて研究開発を進めてきた。また、高速増殖炉を構成する主要技術のいくつかのものについて、日米の2国間協力あるいは日米欧、日欧の多国間協力を実施し、情報交換、研究者交流から、海外の大型施設を用いた試験研究に至る多様なレベルの協力を実施し、所期の成果をあげて来ている。これら欧米諸国との技術交流は、今後の我が国にとっても継続していく必要がある。

③ さらに、実証炉の開発を積極的に推進しようとしている今日においては、高速増殖炉の実用化に向けて、長期的な研究開発を推進していくための基盤形成等を国際的なスケールでも考えていくことが必要となってきており、我が国が開発した技術と諸外国の技術との相互補完を図ることにより国際社会へ貢献していくという視点も重要である。

 なお、国際協力の具体的展開については、時宜を得た十分な検討が必要である。
(5)その他の重要事項
 高速増殖炉の実用化に向けた研究開発は、かなりの長期的に及ぶものであり、かつ、実用化までの間における炉の建設は少数基に限られること等から、高速増殖炉技術を担う人材の確保、育成、特に、技術者の世代間の技術、経験の継承を的確に行っていくことに十分配慮していくことが必要となる。
 我が国における高速増殖炉の研究開発は、これまで、動燃を中心に進められてきたが、今後は、発電プラント技術としての実証、習熟及び性能向上並びに経済性の確立を図っていく実用化移行段階を迎え、特にメーカーの技術力、ノウハウ等がより一層必要となっている。
 これまでメーカーは、高速増殖炉開発に関し、
① 動燃が必要とする専門的人材の派遣
② 研究開発試験装置の建設、計算コードの開発・試験解析の受託
③ 実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」の製作設計、製作、建設の受注
④ 電気事業者の設計研究等の受託
⑤ 海外のメーカーとの技術協力
等を通じ、技術の開発、蓄積及び人材の育成を図ってきている。
 今後は、プラントの建設を適切な期間をおいて継続的に行い、設計及び関連した研究開発を実施することにより、これらのメーカーの技術力の継続的な維持・向上をも図り得るよう配慮する必要がある。特に、原型炉「もんじゅ」の建設の進捗に伴い、これらのプロジェクトの経験を有する人材を実証炉以降の開発に十分活用できるような対策について、検討を行うことが必要である。

4.研究開発課題

 高速増殖炉の実用化に向けた研究開発は長期的な視点に立って継続的に実施すべきものであるので、実用化までに複数の炉を建設する機会を設定し、研究開発をこれらの場面で収れんさせつつ進めるとの基本的考え方をとっている。

 今後の実用化に向けた研究開発においては、プラントの安全設計方針等、プラント構成を検討する上で基本となる「システム」、「安全」及び「耐震」の研究開発が重要であり、また、プラントの大型化、コスト低減、信頼性向上を目指して「炉心・燃料」、「プラント機器設備」、「構造・材料」及び「熱流動」の研究開発に重点的に取り組んでいく必要がある。さらに、プラントの運転・保守性の向上を目指した研究開発も必要である。

 ここでは、それぞれの分野について、研究開発の当面する重要なステップである実証炉の設計、建設等の段階に着目しつつ、重要な研究開発テーマを取り上げるとともに、これらについて、研究開発内容、目標、成果の反映時期及び主な研究開発実施機関を明らかにした。また、成果の反映は実証炉以降となるようなものでも早急に着手を要するものは、その旨を示し課題に含めた。

(1)システム
(2)炉心・燃料
(3)プラント機器・設備
(4)安 全
(5)構造・材料
(6)熱流動
(7)耐 震
(8)運転・保守


(1)システム
a.研究目的
 実証炉の基本仕様選定に向けてのプラントシステムの評価、検討を実施するとともに、二次系削除など革新技術を導入したプラントシステムの評価・検討等高速増殖炉実用化に向けた長期的なシステム研究開発を行う。

b.研究内容
(実証炉基本仕様の選定)
 実証炉は、高速増殖炉の実用化に向けた第一のステップであるとの位置付けを踏まえつつ、各種設計パラメータの最適化を行い、システム概念を構築し、その成立性、安全性、経済性の評価に基づいて基本仕様を選定すべく、次の事項について1990年頃を目標として研究開発を実施する。

○実証炉のシステム評価研究
(革新的技術等を導入した高速増殖炉システムの検討)
 実用化に向けて、有望な革新的技術やシステム概念の成立性の評価を行うため、次の事項について研究開発を実施する。
○将来炉のシステム評価研究

c.主な研究開発実施機関
 原電、動燃、電中研
(2)炉心・燃料
a.研究目的
 炉心設計、燃料設計に係る評価手法の高度化、データベースの拡充を通じて、炉心・燃料のコンパクト化、長寿命化及び高性能化を図る。

b.研究内容
(大型炉心の開発)
 核設計、遮蔽設計、炉心熱流力設計などの評価技術の高度化及びデータベースの拡充に係る次の事項について、実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。

○核設計手法の高度化
○遮蔽設計手法の高度化
○炉心熱流力設計手法の高度化
○炉心動特性評価手法の高度化
○炉心構成要素の長寿命化
○炉心事故解析に用いる核データの拡充

(長寿命燃料の開発)
 燃料サイクル費低減を目ざし、実証炉初期炉心では9万MWD/Tの燃焼度を想定し、また、これ以降さらに燃焼度の向上を図り、約20万MWD/Tの燃焼度を達成できるよう、次の事項について、研究開発を実施する。

○長寿命燃料・材料の開発
 ・改良オーステナイト銅燃料開発
 ・高強度フェライト銅燃料開発(長期的に実施)
○燃料設計手法の高度化
○燃料使用限界に係る評価研究

(新燃料の研究)
 高速増殖炉燃料の大巾な性能向上の可能性を持つ新燃料として、次の燃料についての研究を長期的に進める。

○炭化物・窒化物燃料の評価
○金属燃料の評価

c.主な研究開発実施機関
 動燃、原電、原研、電中研
(3)プラント機器・設備
a.研究目的
 実証炉規模への出力のスケールアップに伴い炉容器のみならず1次/2次系機器が大型となることを踏まえ、信頼性が高く合理的なプラントを実現するために、これを構成するプラント機器、設備について新概念の適用を含め、その高性能化、コンパクト化を図る。

b.研究内容
(原子炉構造の大型化に伴う合理化)
 出力のスケールアップに伴ない原子炉構造に新概念を適用することに関して、その構造健全性を含めた諸特性、機能を確認し、合理化を図るべく次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として、研究開発を実施する。

○炉容器のコンパクト化
○ルーフスラブ、回転プラグ等の炉上部構造のコンパクト化
○プレナム隔壁構造、炉心下部構造物等炉内構造物の簡素化
○反応度制御設備の開発

(実証炉級冷却系機器の開発)
 主循環ポンプ、蒸気発生器、中間熱交換器を主体として、冷却系機器の合理化概念の成立性、実機への適用性を明らかにし、信頼性が高く、コスト削減を図ることができる冷却系を実現するため次の事項について実証炉の着工時期を目標に研究開発を実施する。


〇1次主循環ポンプの開発
〇中間熱交換器の開発
〇蒸気発生器の開発(一体貫流型蒸気発生器の開発、ナトリウム・水反応対策の検討)
 さらに、長期的課題として2重管蒸気発生器の研究開発を実施する。

(配管系の簡素化、合理化)
 ナトリウム配管は熱膨張対策上長大となりやすいため、その短縮化を追求し、合理化を図るべく次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。

〇トップエントリー配管システムの開発
〇配管ベローズ継手の開発

(燃料取扱い系の簡素化、合理化)
 機器設備の簡素化、合理化と廃棄物低減化を指向した燃料取扱い設備の開発を行うべく、次の事項について実証炉の工事認可開始時期を目標として研究開発を実施する。

〇コンパクト型燃料交換機及び出し入れ機の開発
〇燃料洗浄設備の合理化
〇燃料移送及び貯蔵設備の合理化

(計測・制御システムの簡素化、合理化)
 計装の高度化により異常事象の拡大防止機能を強化するとともに原子炉施設の信頼性、安全性の向上及び運転制御性の向上を計るべく次の事項について実証炉の安全審査開始時期及び着工時期を目標として研究開発を実施する。

〇原子炉計装、プロセス計装の高度化
〇監視、検査用計装の高度化
〇異常診断システムの開発

c.主な研究開発実施機関
 原電、動燃、電中研
(4)安   全
a.研究目的
 軽水炉と同等の水準の安全性を確保しつつ、合理的なプラント設計を行うため高速増殖炉の固有の安全特性、passive safetyをも考慮して、より合理的な安全設計・評価方針の策定、安全評価手法の高度化ならびにデータベースの整備を行う。

b.研究内容
(合理的な安全論理の構築)
 高速増殖炉の固有の安全特性、passive safetyの積極活用を考慮しつつ実用化を展望し得る実証炉を建設するために、その基本仕様選定時までに、より合理的な安全設計・評価に係る基本的考え方を明らかにするとともに、実証炉の安全審査開始時期を目指して次の事項について研究開発を実施する。

〇実証炉安全設計方針の検討
〇実証炉安全評価方針の検討

(設計基準内事故及び立地評価事故に関する安全評価手法の高度化)
 各種安全防護設備の合理化に資するため、より適切な裕度と精度をもつよう事故評価手法を高度化すべく実証炉の安全審査開始時期を目標に次の事項について研究開発を実施する。

〇炉心局所事故に関する研究
〇反応度挿入事故、流量減少事故、燃料取扱事故等各種事故に関する研究
〇事故時燃料挙動に関する研究
〇ナトリウム漏洩対策に関する研究
〇放射性物質の放出移行挙動に関する研究

(設計基準外事故に関する安全評価手法の高度化)
 高速増殖炉の安全裕度を合理的に評価する上で有効な知見を得るため、安全解析コードの改良・検証を進めるべく次の事項について、長期的に研究開発に取組むこととし、当面、実証炉の安全審査開始時期を目ざして、研究開発を実施する。

〇HCDA(仮想炉心崩壊事象)評価手法の信頼性向上(ATWS(異常な過渡変化時のスクラム不作動)事象、LOHS(除熱能力喪失)事象推移評価、放射性物質の放出、移行挙動)

(確率論的安全評価(PSA)手法の高度化)
 PSA手法の高度化を図り、高速増殖炉プラントの安全性を総合的かつ定量的に評価することにより、その安全性を一層向上させるとともに従来の決定論的アプローチを補完して、プラントの合理化検討に資するべく次の事項について、長期的に研究開発に取組むこととし、当面、実証炉の安全審査開始時期を目指して、研究開発を実施する。

〇データベースの整備拡充
〇高速増殖炉PSA解析手法の高度化
〇PSA手法の適用性評価

c.主な研究開発実施機関
 動燃、原電、原研
(5)構造・材料
a.研究目的
 非弾性解析の一層の導入、新構造材料の適用性を含めて高温構造設計指針の高度化を図るとともに、高温破壊力学の適用のための研究開発を行い、LBB(漏洩先行型破損)基準の高度化等を図る。

b.研究内容
(高温構造設計指針の高度化)
 弾性解析をベースとした原型炉用高温構造設計指針の高度化を図ることによって、一層合理的な構造設計ができるよう、次の事項について、長期的に研究開発に取組むこととし、当面、実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。

○高温構造設計指針の高度化
○構造材料データの拡充(9Cr系鋼等)

(非弾性解析法の高度化)
 構造物の非弾性挙動を的確に評価できる非弾性解析法を高度化することにより、より合理的な構造設計ができるよう、次の事項について、長期的に研究開発に取組むこととし、当面、実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。

○非弾性解析手法の高度化

(LBB基準及び炉内機器健全性評価への破壊力学手法の適用)
 高温破壊力学手法の活用によって高速増殖炉の特徴を活かした合理的な安全設計方針及び供用期間中検査基準を高度化すべく、次の事項について、長期的に研究開発に取組むこととし、当面、実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。

○破壊力学を用いた評価手法の高度化
○供用期間中検査基準の高度化

c.主な研究開発実施機関
 動燃、電中研、原電
(6)熱流動
a.研究目的
 熱流動解析の精度を向上させ、熱流動設計手法の高度化を図る。また、自然循環を活用して崩壊熱除去システムの合理化を図る。

b.研究内容
(定常及び過渡時の熱流動評価手法の高度化と検証)
 定常時及び過渡時の熱流動評価手法を高度化・検証し、大型機器における熱過渡条件の緩和など設計の合理化を図るべく、次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標に研究開発を実施する。

○プラントシステム熱流動解析手法の高度化
○炉容器内熱流動評価手法の高度化
○炉心内熱流動評価手法の高度化

(自然循環による崩壊熱除去システムの開発、評価)
 自然循環を積極的に利用し、信頼性の高い崩壊除去システムを開発すべく、次の事項について、実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。

○自然循環時プラントシステム熱流動評価手法の高度化
○自然循環時炉容器内熱流動評価手法の高度化

c.主な研究実施機関
 動燃、電中研、原電
(7)耐震
a.研究目的
 高温、低内圧、ナトリウムの使用等の高速増殖炉の特質を踏まえ、熱応力と地震力に対して整合性のとれた合理的な設計を行い、耐震上の安全性及び信頼性が高くかつ経済性に優れた高速増殖炉を開発するため、耐震設計手法等の高度化を図る。

b.研究内容
(低床応答建屋耐震設計手法の確証)
 高速増殖炉の特徴を考慮した耐震設計手法を高度化すべく、基本仕様選定時期を目標に建屋耐震解析法の信頼性向上の研究開発を実施する。

(機器構造耐震設計法の高度化と検証)
 大型化及び合理化を図るために開発された機器構造の耐震安全性と設計の妥当性を確認すべく、次の事項について実証炉の安全審査開始時期を目標として研究開発を実施する。

○炉内流体関連振動評価手法の開発
○炉心耐震設計手法の整備
○機器配管耐震解析法、耐震限界評価法の開発
○機器配管用新型支持装置の開発

(原子炉構造の座屈評価法の高度化)
 大型モデルの座屈確証試験により、地震時座屈評価法を確立し座屈評価基準の高度化を行うべく、次の事項について、実証炉の安全審査開始時期を目標に研究開発を実施する。

○薄肉構造物の地震時座屈評価手法の開発


(免震構造の開発)
 大型免震構造の開発を図るべく次の事項について、長期的に研究開発に取組むこととし、当面、実証炉の安全審査開始時期を目指して研究開発を実施する。
○免震構造の開発
○免震設計用地震動の検討

c.主な研究開発実施機関
 電中研、原電、動熱
(8)運転・保守
a.研究目的
 実証炉の運転・保守を効率的に実施するための技術を確立するため実験炉、原型炉の運転・保守等を通じて関連技術の高度化、支援システムの向上、被曝低減化などの運転保守性の向上を図る。

b.研究内容
(運転保守技術の高度化による予防保全技術の向上と被曝量低減)
 高速増殖炉固有の環境下における保守・補修技術の高度化により、設備の信頼性の向上および被曝の低減化、作業の効率化、プラント稼動率の向上を図り、運転費の低減に資するべく、次の事項について、当面、実証炉の着工時期を目指して研究開発を実施する。

○保守・補修技術の高度化
○供用期間中検査技術の高度化
○運転支援技術の高度化

c.主な研究開発実施機関
 動燃、原電


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