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時の話題 理研、分子レーザー法ウラン濃縮の原理実証に成功 理化学研究所 理化学研究所(理事長 宮島龍興)では、昭和60年度より3カ年計画で動力炉・核燃料開発事業団の協力を得ながら、理研式分子レーザー法ウラン濃縮(RIMLIS)の原理実証研究を進めてきた。この度、原理実証研究の成果として、超音速ノズルで過冷却されたUF6(六フッ化ウラン)ガスに強力な16ミクロン赤外レーザーを照射する理研方式を更に改良し、レーザーの波長を精密に同調できるようにしたところ昨年4月に中間報告として報告した分離係数2.8を上回る4.7を達成し、商業用発電炉燃料に必要とされる濃縮度が得られることを実験的に示した。また、従来のギャップスイッチ、サイラトロンスイッチを使用しない新しい方式のレーザー用スイッチ方式即ち、全固体素子によるスイッチング方式(ASSE;All Solid-State Exciter)を用いたCO2レーザーの発振テストに成功した。これによって繰ク返しが低いとされていたCO2レーザーについて将来のラマンレーザーに必要な高繰り返し化、長寿命化が達成できる技術的見通しを得た。 2.研究の背景 1)ウラン濃縮法について 同じ元素で質量数の異なる同位体を分離するいわゆる同位体分離は、極めて難しく、ウラン濃縮について実用化されている方法としてはガス拡散法、遠心分離法などがある。 レーザー同位体分離法は、同位体間のわずかな質量の差によって生じる吸収波長の差を利用するものである。この方法ではレーザー光を利用して一方の同位体だけを選択的に励起し、その物理化学的性質を変換させ、他方の同位体と分離し、これを回収する。 レーザー法は選択性が高いことから、目的とする同位体割合が極めて低い場合にも(例えば低品位ウラン)、効率的に濃縮することが出来ると考えられている。 2)レーザー法ウラン濃縮について レーザー同位体分離法には、対象とする元素を原子の形のまま処理する原子法と、対象原子を含む分子化合物を作業物質とする分子法がある。 ウラン濃縮を目指したレーザー分離法は、現在、原子法に関する研究開発が先行している状況であるが、分子法は、①既存核燃料サイクルで使用されているUF6ガスを作業物質として用いていること、②材料面での制約が少ないことなど、工学的な観点からは“自然”なアプローチを採用しており、原子法とは異なる多くの特長を持っている。 しかしながら、分子法用レーザーの開発が遅れたことと、分離係数が小さく単段では必要な濃縮性能が得られず複数段のカスケードが必要とされていたことが重大な欠点とされていた。また数十Hz級の低いパルス繰り返し数のCO2レーザーしか現実には存在しなかったことも分子法発展の障害とされていた。このため、1980年代前半、米仏に於て分子法の研究開発計画は逐次縮小整理されてきた。 3)理研式分子法について 理研は、前述の米仏における分子法研究の結果は分子法の本質によるものではないと判断した。 即ち、①米国ロスアラモス研究所、仏国原子力庁サクレー研究所の研究においては、紫外レーザー光を解離プロセスに用いたため238Uと235Uの分離効率が低かったこと、②米国エクソン社の研究においては、UF6ガスを冷却しなかったため285Uの選択励起を効率よく行えなかったことが低い分離係数の原因と判断し、赤外レーザー光による選択励起及び赤外多光子解離を用いた分離法と超音速ノズルによる断熱冷却過程を組み合わせた理研独自の方式(理研分子法、RIMLIS)(表-1参照)を考案し、分子法用赤外レーザーを含む研究開発を進めてきた。 理研式分子法の要となる16ミクロンパラ水素ラマンレーザーの高出力化等の研究においては世界最高の性能を得たことをもとに、上記のRIMLIS研究を進めてきた。これまでにUF6赤外レーザーによる解離反応は副次的な反応が少なく制御しやすい反応であることを見いだし、また昨年4月には中間報告ながら、従来、分子法の限界と言われていた分離係数2を上回る2.3を報告している。 3.今回の成果の内容 1)分離係数、目標値を達成 今回の実験では、超音速ノズル型反応装置内でUF6を断熱膨張させ、約-200℃まで冷却し、選択励起用と解離用の赤外レーザー光を照射し、分離係数4.7を得た。昨年4月の中間報告の時点では、選択励起用のレーザーがまだ完全には235UF6に同調していなかったが、今回はUF6ガスを更に冷却する一方、TEMA型といわれるCO2レーザーを用いて完全な同調に成功した結果この値を得た。 なお、これまで、米国のロスアラモス研究所や仏国原子力庁サクレー研究所で研究された赤外レーザーと紫外レーザーを併用する方式の分子法においては、単段の分離係数は2を越えないといわれていた。 今回、、理研の方式によって分子法で初めて得られた分離係数4.7という値は、複雑な繰り返し操作を必要とせず、ほぼ一段の操作で発電用濃縮ウランが得られる値であることから、この結果が分子法の技術開発の今後の展開に与えるインパクトは大きいと考えている。 2)CO2レーザー高繰り返し化にめど プラント規模における分子法濃縮では、反応器中を高速で流れてくるUF6ガスにレーザーパルスを照射するために、レーザーパルスの繰り返しを上げる、即ち現在の数Hzの規模から3桁以上高い10kHzオーダーへ上げる必要がある。このためにはラマンレーザーのベースとなるCO2レーザーの発振繰り返し数を数kHzへ増加させなければならない。 しかしながら、現在CO2レーザーのパルス放電用に使用されているスパークギャップやサイラトロン素子によるスイッチング技術では、スイッチ素子内で気体放電現象を利用しているため電極などの消耗が避けられず106~108ショットが寿命限界となっている。従って、kHzで運転すると必然的に使用時間は30分から数十時間と短く実用性はない。 本研究で開発したASSEでは、このような放電スイッチの代わりに大型半導体スイッチを利用する。このためスイッチの寿命を半永久的にすることができる。しかしながら、半導体スイッチではレーザー放電に必要な高い電圧、電流が得られないため、電圧を数十kVレベルへ昇圧するパルストランスを利用し、更に数十kAレベルへ電流を高める磁気圧縮回路を開発したのが技術的なポイントである。磁気圧縮回路は当初は電流を流さないが、電圧と印加時間が所定の値となると電流が一気に流れ始める特殊な磁気コイルを利用する。 本研究は、このようなASSE装置を設計・試作し、実際のCO2レーザー管を用いて新型回路原理の実証試験を行った結果、600Hz、180Wの出力を得た(表-2参照)ものである。ASSE自体は更に高繰り返し化ができるが、現在レーザーの出力レベルは用いた入力電源やレーザーの冷却装置に制約されている。 なお、本レーザー開発は慶応大学小原研究室と共同して行ったものである。 4.今後の計画 今回の試験においては、実験に長時間を要するので、レーザー照射の最適条件を明らかにできる総合的データはまだ集積していない。今後は理研では原理実証研究に引続き分子法高効率化試験を進め、データ集積を迅速化するための実験システムを整備しつつ、RIMLISの開発を行う。 また、次期ステップに不可欠な高繰り返しガスレーザーの開発などにも積極的に対応していく計画である。今回、ASSE方式の設計法を確立し、高繰り返し化にめどをつけたことを踏まえて、今後は数百Hz、kW級のCO2レーザー装置の総合的な実証試作開発研究を行う。 (注) (表-1)分子法の励起方式とUF6の温度の組み合わせ。
(表-2) |
(図-2)分離濃縮装置概念図 ![]() |
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