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核融合をとりまく新技術

(社)日本原子力産業会議



1.核融合の概観

 核融合の実現には物理の研究とともに全く新しい技術の開発が必須である。両者が車の両輪のようになって

 今日まで研究開発が進められてきた。ここではその諸技術について紹介したい。
T−nτ
(スライド1)
核融合の正味出力を得るには、重水素−三重水素混合燃料気体について、密度(n)・閉込め時間(τ)の積と温度(T)とがある限界を越えなければならない。その限界は臨界条件といわれる。例えば10万〜100万分の1気圧の密度をとればτ〜1秒、T〜1億度程度となる。さらに自己点火のおこる炉の条件はより高い値が必要となる。
実現の方法には2つの方式がある。磁気閉込め方式にはトカマク型、ステラレータ型、ミラー型などがあり、その中トカマクが最も優れた性能を示している。技術開発は主としてこの型に関連して行われている。他の方式は強力なレーザービームなどを使う慣性閉込方式であるが、ここでは触れないことにする。
研究実験装置
(スライド2)
核融合研究は、これまで各国とも主として中規模実験装置を建設して行われてきた。JFT−2Mはその一例で、プラズマ断面は楕円形(70cm×106cm)で、トーラス大半径R=131cmという大きさである。
トカマクプラズマの比例則
(スライド3)
トカマクにおける(炉心)プラズマについての物理量の関係として、
i)τ∝n・a(プラズマ半径)・R2であって、臨界条件のτ〜1秒となるにはa〜1m、R〜3m程度でよく、核融合が現技術で手の届くものであることがわかった。
(ii)臨界(B)による閉込め効率β=プラズマ圧力/磁気圧∝プラズマ電流Ip/a・Bであって、β=5〜10%が実用・経済上望ましい。なお、B=5Tで磁気圧は100気圧となる。
(iii)核融合出力密度P∝β2B4。出力を増すには物理の研究によるβの向上と技術の研究によるBの向上とがある。
臨界プラズマ試験装置JT−60 臨界条件を満たすよう設計されたJT−60は昭和60年に建設され目下実験中である。同種の米国TFTR、EC、JETも同じく稼動中である。
以下で述べられる技術開発はJT−60建設に関連して行われたものが多い。

2.JT−60用電源
 閉込め用磁界発生とプラズマ加熱のために、制御のできるかつてない大電力システムが開発された。

電源システム
(スライド5)
275kV送電線より変電所、電動発電機、整流器を経てJT−60装置に電力が供給される。全電力は1,300MWという巨大なものである。その中送電線からの直接受電は198MVAで、他はフライホイール付電動発電機3台(全貯蔵エネルギー8GJ)により10分間隔で10秒間放出されるパルス電力である。
中央制御室
(スライド6)
このような大電力が、実験の手順にしたがい、計算機による高速制御を行いつつ、実験装置に供給される。それに応じて計測される実験諸量に対する実時間データ処理が行われる。これらは全て中央制御室にて統括される。
フライホイール付電動発電機
(スライド7)
貯蔵エネルギー4GJ(1,000kWh)という前例のない容量の電動発電機がつくられた。
フライホイール
(スライド8)
それにつけられるフライホイールは1枚、107t、直径6.6mの円板で、これが6枚重ねられる。
真空バルブ型直流遮断器(VCB)
(スライド9)
直流遮断用に真空バルブ型のものが開発された。定格は25kV92kAという高いもので、これによる直流遮断でおこる誘導起電力でプラズマ電流2.7MAを発生させる。この高性能は世界で高い評価をうけ、米国の核融合施設でも重用されている。直流送電技術としても有用な要素となろう。
大容量サイリスター
(スライド10)
外径15cm(ウェーハー10cm)、4kV、3kAという世界最大容量のサイリスターが開発された。これを全数2,200個使用、設備総容量1,110MWという前例のない容量のサイリスターAC−DC変換装置がつくられた。直流送電技術として有用であろう。

3.加熱技術
 プラズマ加熱のやり方に中性粒子入射(NBI)方式と高周波(RF)方式とがあって、何れも有効な方式として開発されている。

NBI
(スライド11)
JT−60用にイオン源として35Aという大電流のものが開発され、それに基づいて35A×2、75kV加速のイオンビームをつくり、中性化し、その中性粒子ビームをプラズマに打込んで加熱する。その際余剰の中性ガスを吸収するため大容量のクライオポンプが使われる。JT−60ではこの加熱装置が14基装着されている。
イオン源
(スライド12)
このためイオン引き出し口径30cmという巨大なバケット型イオン源が開発された。これは工業用として目下材料や半導体の表面処理、改質、加工などを各種応用に進展している。
IVD
(スライド13)
イオンビームミリング
(スライド14)
大電流イオンビーム利用の一例として基板上にTiの蒸着とNイオン注入を併用して表面に薄膜をつくる(IVD、イオンミキシング)。これによって磨耗に強い表面となる。このほかにスパッタリングによる膜形成、半導体ウエーハーへのイオン注入、イオンビームミリングなど工業化している。
大電力クライストロン増幅管
(スライド15)
RF加熱およびプラズマ電流駆動(current drive)として低域混成後(lower hybrid wave)が有効なことがわかり、2GHzで出力1MW(10秒)という大出力増幅管が開発された。電流駆動というのはトカマクのように定常電流の流れぬプラズマに電磁波を加えて直流を発生させることをいう。
ジャイロトロン(56GHz)
(スライド16)
超電導マグネット付ジャイロトロン
(スライド17)
別のRF方式は、ミリ波領域の利用で、そのための発振管Gyrotron近年盛んに開発されている。いま56GHz(波長約5mm)出力200kWが完成されており、また120GHz(2.5mm)、200kWが開発中である。この球に強いソレノイド磁界が必要であって、超電導マグネットが役立っている。
以上のようなUHF、ミリ波領域で100kW〜1MWという大電力管が研究用につくられるようになったので、今後諸応用が見出されることになろう。

4.材料と加工
 一般に核融合装置における材料は高熱負荷、強電磁力、14MeV中性子照射に耐え、また低誘導放射能のものであることが望まれ、それらの研究・開発は今後いよいよ本格的に行われる。

低Zコーティング
(スライド18)
当面の問題としては、高温プラズマでは不純物が混入すると、その原子番号Zの3乗に比例する放射損失がおこるので、プラズマ容器内面用として、例えば表面を低ZセラミックTiC(またはSiC、Cなど)で覆被したMo板ライナーをつかう。このコーティングは新たに開発されたプラズマCVD法によるもので、表面は極めて優れた耐熱性、耐食性、耐摩耗性をもつので、今後の工業上の応用が期待される。
JT−60真空容器内面
(スライド19)
JT−60の内面は上記でつくられた板が内張りされている。その他SiCと金属との大面積の接合技術に成功し、これはMHD発電用電極として極めて良好な性能を発揮している。また電磁力下用にすぐれた性能の非磁性鋼が開発された。これは磁気浮上列車などに有用である。
一方加工として、JT−60本体や架台のような厚物(150mm級)の精密加工溶接のため110kWという大容量の電子ビーム溶接機がつくられ商用化された。

5.真空
 核融合装置は大容量且つ超高真空が一つの特徴である。

ヘリウム・スニファ漏洩検出
(スライド20)
その場合重要な技術として極めて微少な漏洩の検出を可能とするHe−Sniffer法が考案された。これはフレキシブルなSUS細管、モレキュラーシーブ封入のソープションポンプを経てHe-leak detectorを働かせるもので、検出感度は10-10atm、cc/s程度で在来の103〜104倍向上した。
セラミックポンプ
(スライド21、22)
真空ポンプとして大型クライオポンプ(106l/s)がNBIで多用され、技術経験を豊富にした。また磁界中で使用可能なセラミック回転体のターボ分子ポンプ(100l/s)が試作され成功した。これは磁界中、耐熱、耐腐食、耐放射線などの長所があるので、今後応用が拓かれよう。

6.超電導

LCT計画
(スライド23)
JT−60につぐ次期装置(実験炉)では通常導体に代って超電動マグネット使用となる。その準備として国際協力のLCT計画が進められている。寸法3.5m×4.5mという大型コイル6ケを参加国で夫々自作し持寄り、トーラス状に組み上げて各種試験を実施中である。
Bτコイル、Bpコイル、パルスコイルの進歩
(スライド24、25、26)
核融合用超電導コイルは大型且つ強磁界が必要であり、その方向に段階的に開発が進められている。また時間的に電流の変化するポロイダルコイル、パルスコイルについても同様に計画的に性能向上が計られている。その延長として商用周波数に耐える交流用導体も近い将来実現することになろう。
小型超電導トカマク
(スライド27)
最新の超電導体であるNb3Snコイルのトーラス装置TRIAM−IMが世界ではじめてつくられ、運転中である。
Nb3AlGeの特性と同テープ
(スライド28、29)
次世代の超電導体としてはNb3Snより一段高いHc〜30T、Jc〜104A/cm2をもつNb3(AlGe)が有望視されるに至り、最近線材化(テープ状)に成功したので実用に近づいた。
この他極低温構造材として世界最高の性能をもつ高マンガン鋼が開発された。
このような超電導技術の進歩は核融合だけでなく、磁気浮上列車、超電導発電機、電力貯蔵(SMES)など広い応用分野に活かされるものである。

 その他重要な技術として核融合炉用ロボット、遠隔操作技術、プラズマ解析用スーパーコンピューター、国際間コンピュータネットワークなど先行的開発課題にとりくんでいる。

7.むすび
 日本の核融合技術は産・学・官の協力により非常によく進展し、とくにこの協力における産業界の役目・特 徴は世界で高く評価されるほどに発揮されている。また産業界の中での分担体制、協同作業も円滑に行われている。

 以上の諸技術は核融合として固有に開発されたもののほか、他分野からの知識や協力により開発されたもの  も多いが、一方得られた成果はひろく核融合以外の分野に使われることになろう。その点で核融合はわが国の科学・技術一般の振興に役立ち、推進役をつとめるプロジェクトとみてよいと思う。


           (スライド1)                     (スライド2)

トカマクの比例則

閉込め時間(γ)∝密度(n)・小半径(a)・大半径2(R2)・安全係数(q)
ベータ値(βc)∝プラズマ電流(Ip)/小半径(a)・閉込め磁界(B)
核融合出力(P)∝ベータ値22)・閉込め磁界4(B4)/安全係数4(q4

但しβ=  プラズマ圧力    nkT  
閉込め磁気圧 B2/2μ0

(スライド3)


(スライド4)


(スライド5)


(スライド6)


 (スライド7)                     (スライド8)


(スライド9)


(スライド10)


 (スライド11)                   (スライド12)


 (スライド13)                   (スライド15)


(スライド14)


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