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時の話題

理研、分子レーザー法ウラン濃縮で
理研方式の有効性を実証

原子力局核燃料課



 理化学研究所(理事長 宮島龍興)では、昭和60年度より3カ年計画で動力炉・核燃料開発事業団の協力を得ながら、分子レーザー法の原理実証試験を進めてきたが、このたび、中間的成果ではあるが、超音速ノズルで100K(-173℃)に冷却されたUF6(六フッ化ウラン)ガスに強力な16ミクロン赤外レーザー光を照射し、これまで分子法の障害とされていた分離係数が低いという壁を突破できることを実験的に示した。

1.同位体分離(濃縮)について

 同じ元素で質量数の異なる同位体を分離するいわゆる同位体分離は、極めて難しく、実用化されているものとしてはガス拡散法、遠心分離法等がある。

 レーザー同位体分離法は、同位体間のわずかな質量の差によって生じる吸収波長の差を利用するものであり、レーザー光を利用して一方の同位体だけを選択的に励起し、その物理化学的性質を変換させ、他方の同位体と分離し、これを回収する方法である。

 レーザー法は、選択性が高いことから、目的とする同位体割合が極めて低い場合にも(例えば低品位ウラン)、効率的に濃縮することができると考えられている。

2.研究の背景

 レーザー同位体分離法には、対象とする元素を原子の形のまま処理する原子法と対象原子をふくむ分子化合物を操作物質とする分子法がある。

 ウラン濃縮を目指したレーザー分離法は、現在原子法に関する研究開発が先行している状況であるが、分子法は、①既存核燃料サイクルで使用されているUF6ガスを作業物質として用いていること、②材料面での制約が少ないこと等、工学的な観点からは“自然”なアプローチを採用しており、原子法とは異なる多くの特長を持っている。

 しかしながら、分子法用レーザーの開発が遅れたことと、分離係数が小さく単段では必要な濃縮性能が得られず複数段のカスケードが必要とされていたことが重大な欠点とされていた。このため、1980年代前半、米仏において分子法の研究開発計画は逐次縮小整理されてきた。

 一方、理研は、この米仏における分子法研究の結果は分子法の本質によるものではなく、①米国ロスアラモス研究所、仏国原子力庁サクレー研究所の研究においては、紫外レーザー光を解離プロセスに用いたため238Uと235Uの分離効率が低かったこと、②米国エクソン社の研究においては、UF6ガスを冷却しなかったため285Uの選択励起を効率よく行えなかったためと判断し、赤外レーザー光による選択励起および赤外多光子解離を用いた分離法と超音速ノズルによる断熱冷却過程を組み合わせた理研独自の方式を考案し、分子法用赤外レーザーを含む研究開発を進めてきた。
 これまでにUF6の赤外レーザーによる解離反応は副次的な反応が少なく制御しやすい反応であることを見い出し、また理研式分子法の要となる16μmパラ水素ラマンレーザーの高出力化等の研究においては世界最先端の成果を得て研究を進めている。

3.今回の成果の内容

 今回の実験では、超音速ノズル型反応装置内でUF6を断熱膨張させ、絶対温度100Kまで冷却し、

 16μm付近でわずかに波長が異なる2つの赤外レーザー光を照射し、従来分子法の限界と言われていた分離係数2を上回る値を得た。

 なお、これまで、米国のロスアラモス研究所や仏国原子力庁サクレー研究所で研究された赤外レーザーと紫外レーザーを併用する方式の分子法においては、単段の分離係数は2を越えないと言われていた。

4.今後の計画

 今回の試験において、選択励起用16μmレーザーの波長は235UF6の吸収の中心に完全には同調していないが、このような状態でも理研方式の分子法によって分離係数2の壁を越えたことから、今後、選択励起の波長に制御を加える等さらに実験条件を整備すれば、単段の反応器にて十分な濃縮性能を得られるとの見通しが得られた。このため、理研としては引き続き原理実証試験を進めるとともに、次期ステップに不可欠な高繰り返しCO2ガスレーザーの開発等にも積極的に対応していく計画である。


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