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放射性廃棄物対策専門部会報告書
放射性廃棄物処理処分方策について



昭和60年10月8日
原子力委員会
放射性廃棄物対策専門部会

はじめに

 当専門部会は、昭和59年8月、「放射性廃棄物処理処分方策について」と題する中間報告をとりまとめ、低レベル放射性廃棄物及び極低レベル放射性廃棄物の陸地処分方策、高レベル放射性廃棄物の処理処分方策等について、原子力委員会に報告したところである。この中間報告のとりまとめの際に今後の検討課題とされた放射性廃棄物処理処分の実施主体及びその責任のあり方等については、当専門部会の下に、「基本問題小委員会」及び「低レベル及び高レベル放射性廃棄物対策小委員会合同分科会」を設け、検討を行った。

 これらの検討結果を受けて、当専門部会において更に検討を行い、今般、以下のとおりとりまとめたので報告する。

 当専門部分としては、先の中間報告及び今回の報告に基づき、放射性廃棄物の処理処分方策が着実かつ積極的に推進されることを希望する。

第1章

放射性廃棄物処理処分の実施体制及び責任分担のあり方について

1. 序

 放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは、原子力の開発及び利用を進めていく上での重要な課題である。

 原子力発電所等で発生する低レベル放射性廃棄物については、電気事業者が中心となって、青森県六ケ所村において集中的に最終貯蔵する計画を進めており、立地のための調査も開始されたところである。このような計画の具体化を踏まえ、事業主体の責任のあり方等について検討を加える必要がある。

 一方、高レベル放射性廃棄物の処分については、昭和60年度より、先の中間報告で示した4段階の開発手順のうちの第2段階が開始され、動力炉・核燃料開発事業団を中心に、所要の研究開発が進められているところである。原子力開発利用長期計画においては、高レベル放射性廃棄物の処分については国が責任を負うこととし、必要な経費については発生者負担の原則によるとされており、処分のための今後の施策を推進していくためにも、国の責任の内容、処分経費の負担の考え方等につき検討する必要がある。

 また、海外への再処理委託に伴い、1990年以降に我が国に返還される可能性のある放射性廃棄物の受け入れ体制及び責任のあり方、並びに再処理工場等で発生するTRU廃棄物の処理処分の実施体制等についても検討する必要がある。

 当専門部会においては、上に述べたような放射性廃棄物を対象にして、その処理処分の実施体制及び責任分担のあり方等について検討した。

 この検討の結果は、以下のとおりである。

2. 基本的考え方

(1) 発生者と国との責任分担

 放射性廃棄物は、原子力事業者の事業活動に伴って発生するものであることから、その処理処分が適切かつ確実に行われることに関しては、原則的には、発生者たる原子力事業者(以下「発生者」という。)の責任と考えられる。

 一方、国は、放射性廃棄物の処理処分の研究開発、安全規制等を行うとともに、放射性廃棄物の処分の安全を長期にわたって確保し、原子力の開発及び利用を計画的かつ円滑に推進していくとの観点から、処分の実施面においても適切な役割を果たしていく必要がある。特に、高レベル放射性廃棄物の処分が適切かつ確実に行われることに関しては、国が責任を負う必要がある。

(2) 発生者と廃棄事業者との関係

 発生者が自ら放射性廃棄物を処理処分する場合には、当該発生者が、処理処分の安全確保に関する法律上の責任を負うこととなる。

 他方、経済的、技術的に十分な能力のある専門の事業者(以下「廃棄事業者」という。)が放射性廃棄物を集中的に処理処分した方がより効率的かつ合理的な場合もあり、このような場合には、処理処分の安全確保に関する法律上の責任は、廃棄事業者が負うこととすることが、安全確保の責任を集中し、効率的な処理処分を行うなどの観点からは、より適当である。その際、発生者は、処理処分に必要な費用を負担するほか、処理処分が円滑に実施されるよう、廃棄事業者に対し適切な支援を与えていくことが重要である。

3. 低レベル放射性廃棄物

(1) 処理処分の責任

 低レベル放射性廃棄物の処理処分が適切かつ確実に行われることに関しては、原則として、発生者の責任とすることが適当である。

 なお、国は、安全性に関する試験研究の実施等の施策を講ずるとともに、安全基準・指針の整備も含め、所要の安全規制を行う。

(2) 廃棄事業者の法律上の責任

 青森県六ケ所村における最終貯蔵の計画のように、廃棄事業者が低レベル放射性廃棄物を集中的に処分する場合には、廃棄事業者が安全確保に関する法律上の責任を負うこととすることが、安全確保の責任を集中し、効率的な処分を行うなどの観点からは、より適当である。なお、この場合において、原子力損害賠償責任も廃棄事業者に負わせることが適当である。

(3) 廃棄事業者の事業の継続性の確保

 低レベル放射性廃棄物の処分に当たっては、事業期間が相当長期間になる場合も考えられるので、廃棄事業者の事業の継続性を確保するための措置を講ずることが必要である。

 例えば、廃棄事業者の事業開始に当たっては、十分な経理的基礎等を確保すること、事業者の地位の承継により事業の継続性を確保していく方策を講ずることなどが考えられる。

 また、発生者も、廃棄事業者の事業が円滑に推進されるよう、適切な支援を与えることが重要である。

 なお、時間の経過に伴う放射能の減衰に対応して、段階的に管理が軽減され、例えば、処分場の使用目的を制限するなどの土地管理を行うことによって十分に安全が確保される段階以降においては、廃棄事業者から第三者に土地管理の責任等を移転する途を開くことも検討する必要がある。

(4) 原子力損害賠償措置

 低レベル放射性廃棄物の陸地処分についても原子力損害賠償措置が講じられるが、管理期間が長期にわたる場合に対応して、原子力損害賠償責任保険は、処分場全体を保険対象とする一定の保険期間のものを継続して更新していく方法も考えられる。また、放射能が十分に減衰した後には、原子力損害賠償措置の適用を免除することなどについても検討する必要がある。

4. 高レベル放射性廃棄物

(1) 処理・貯蔵・処分の責任

 高レベル放射性廃棄物は、本来的には原子炉の運転に伴って発生し、使用済燃料を再処理することにより分離されるものである。高レベル放射性廃棄物の処理及び貯蔵が適切かつ確実に行われることに関しては、原子炉を運転する電気事業者等(以下単に「電気事業者等」という。)及び再処理事業者が責任を負うことが適当である。

 また、その処分が適切かつ確実に行われることに関しては、実施までに長期間の研究開発を必要とすること、長期にわたる安全の確保が必要であることなどから、国が責任を負う必要がある。この一環として、国は、処分の実施を担当する主体を決める必要がある。

 電気事業者等は、高レベル放射性廃棄物の処理・貯蔵・処分の費用を負担するほか、処理・貯蔵・処分の実施主体に対し、適切な支援を与えることが重要である。

(2) 処理

 再処理事業者が高レベル放射性廃棄物の処理(ガラス固化)を行い、その安全確保に関する法律上の責任を負うことが適当である。

(3) 貯蔵

 ガラス固化体は、処分に先立って、冷却のため数十年間貯蔵されるが、この貯蔵は、再処理事業者が実施主体となって行うことが現実的と考えられ、その安全確保に関する法律上の責任は、貯蔵の実施主体が負うことが適当である。

(4) 処分

① 高レベル放射性廃棄物の処分の実施に向けての今後の進め方は、先の中間報告を踏まえ、処分予定地の選定(第2段階)→処分予定地における処分技術の実証(第3段階)→処分場の建設・操業(第4段階)という段階を踏むこととしている。

 第4段階で建設される処分場においては、動力炉・核燃料開発事業団の再処理工場及び民間再処理工場で分離された高レベル放射性廃棄物並びに海外再処理委託に基づく返還高レベル放射性廃棄物が処分されることになるものと考えられる。

② 処分のための研究開発は、長期間を要するものであり、かつ、原子力政策上の重要課題である。

 このため、第2段階及び第3段階の研究開発を国の重要プロジェクトとして計画的に推進することとし、国による総合調整の下に、動力炉・核燃料開発事業団は、開発プロジェクトを推進し、あわせてこれに必要な研究も進めるとともに、日本原子力研究所は、安全性の評価に必要な研究等を実施するものとする。また、地質調査所等の国立試験研究機関、大学等は、それぞれの専門的知見を生かした研究を行うものとする。

 動力炉・核燃料開発事業団は、この開発プロジェクトの中核推進機関として、体制を整備するとともに、電気事業者、民間研究機関等との間の有機的連携を確保するものとする。

③ 第2段階の目標とされている処分予定地の選定に当たっては、研究開発の成果を踏まえた技術的検討の他、社会的、経済的諸条件等に対する配慮も不可欠である。

 処分予定地の選定は、動力炉・核燃料開発事業団が電気事業者など関係者の協力も得て行うものとし、選定の結果については、国が所要の評価等を行って、その妥当性を確認するものとする。

 国の責任の下に処分の実施を担当していく主体については、開発プロジェクトとの連続性の確保にも配慮しつつ、開発プロジェクトの今後の進展状況を見極めた上で、適切な時期に具体的に決定するものとする。

④ 処分のための費用は、電気事業者等が負担することとなるが、高レベル放射性廃棄物の発生と実際の処分との間には長い期間が存することから、世代間の負担の公平等を考慮し、処分の費用に充てる資金を高レベル放射性廃棄物の発生の時点、すなわち発電の時点において確保するための手当が必要であり、今後、その具体策について、諸外国の例も見ながら、適切な場において検討される必要がある。その場合、処分の費用の見積り、処分の費用に含めるべき費用の範囲等について検討される必要がある。

5. 返還廃棄物

 返還廃棄物は、基本的には国内再処理工場からの放射性廃棄物と同様なものであることから、青森県六ケ所村の民間再処理工場の敷地内で受け入れ、貯蔵することが計画されており、これが現実的と考えられる。

 返還廃棄物の貯蔵の安全確保に関する法律上の責任は、貯蔵の実施主体が再処理事業者として負うことも可能と考えられるが、当該貯蔵を再処理事業から独立した業務とすることができる場合には、実施主体が廃棄事業者としてこれを負うことがより適当である。

 また、その処分については、国内再処理工場からの放射性廃棄物と同様な扱いとすることが適当である。

6. TRU廃棄物

 TRU廃棄物については、当面は発生量も比較的少ないことから、発生者が処理及び貯蔵を行うことが適当である。処分については、その実施体制及び責任のあり方について、今後検討する必要がある。

 なお、処理処分のための研究開発は、動力炉・核燃料開発事業団、日本原子力研究所等において推進する。

第2章

TRU廃棄物等の処分の基本的考え方について

1. 序

 先の中間報告においては、原子力発電所等で発生するベータ・ガンマ核種を専ら含む放射性廃棄物に関し、放射能レベルに応じた陸地処分のあり方、極低レベル放射性廃棄物の合理的な処分のあり方等を示したところである。

 当専門部会においては、引き続き、再処理工場、プルトニウム燃料加工工場等で発生するTRU核種を含む放射性廃棄物、ウラン燃料加工工場等で発生するウラン等を含む放射性廃棄物及び今後の原子炉の解体等により生ずる低レベル放射性廃棄物であって、ベータ・ガンマ核種の濃度等がかなり高いものに関しても、処分の基本的な考え方について検討した。

 この検討の結果は、以下のとおりである。

2. TRU核種を含む放射性廃棄物

(1) TRU核種の特徴は、その多くが極めて長い半減期を有するということである。このため、TRU核種を多く含む放射性廃棄物の処分に当たっては、ベータ・ガンマ核種を専ら含む低レベル放射性廃棄物の処分の場合のように、比較的短い時間で放射能が減衰することを前提とした安全確保の考え方を適用することが困難である。しかしながら、TRU核種を含む放射性廃棄物についても、含まれる核種、その放射能レベル等を勘案して、適切な区分を行い、その区分に応じた合理的な処分方法を採用することが重要である。

(2) TRU核種の濃度等があるレベルを超える廃棄物の処分に当たっては、適切な天然バリアの層をとること、長期間にわたって堅固に存在する人工バリアを採用することなどの手段を講じた地層処分を行うことによって、後世代の人々が廃棄物に直接的かつ持続的な関与、接触を行う可能性が無視できるようにすることが考えられる。

 また、TRU核種の濃度等があるレベルを下回る廃棄物は、処分する固化体の性状、人工バリアの強固さなどが廃棄物と人間とを隔離する上でどのような効果を持つかにつき十分評価した上で、浅地中処分等の合理的な処分を行うことも可能と考えられる。

 他方、TRU核種と同様にアルファ線を放射するウラン等が天然にもある程度の濃度で存在しており、それらの影響との比較等から、TRU核種の濃度等が十分に低い廃棄物は、放射性物質としての特殊性を考慮に入れる必要がないと考えられる。

(3) 以上のような区分、処分方法等について、今後所要の研究開発及び評価を進め、国際的な動向も見極めながら、TRU核種を含む放射性廃棄物の具体的な処分方策を、実態に即して確立していく必要がある。

 また、TRU核種を含む放射性廃棄物の中のTRU核種を測定・評価するための技術の研究開発を一層推進する必要がある。

3. ウラン等を含む放射性廃棄物

 ウラン燃料加工工場等で発生する廃棄物に含まれるウラン等は、自然界に極めて広範に存在するものであり、比放射能も低いことなどから、このような廃棄物の処分の具体的なあり方、放射性物質としての特殊性を考慮に入れる必要がないものの範囲等については、TRU核種を含む廃棄物とは別に検討を進めていくことが適当と考えられる。

4. ベータ・ガンマ核種の濃度がかなり高い低レベル放射性廃棄物

 原子炉の解体等により今後発生する低レベル放射性廃棄物の中には、原子炉の運転に伴って通常発生するものに比べ、ベータ・ガンマ核種の濃度がかなり高いものも含まれるものと予想される。

 このような低レベル放射性廃棄物の具体的な処分方策については、先の中間報告で報告した低レベル放射性廃棄物の陸地処分の方策と類似の方法で対応することも可能とは考えられるが、廃棄物の具体的な性状、放射能レベル等に応じ、場合によっては別途の対応策を検討することも必要と考えられるので、今後更に調査検討を進めていく必要がある。


放射性廃棄物対策専門部会構成員
氏名 現職
逢坂 国一 通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官(昭和60年7月から)
天沼 倞 前名古屋大学教授
雨村 博光 科学技術庁長官官房審議官(昭和60年7月まで)
石原 健彦 (財)原子力環境整備センター理事
市川 龍資 放射線医学総合研究所環境衛生研究部長
植松 邦彦 動力炉・核燃料開発事業団理事
川上 幸一 神奈川大学教授
木村 敏雄 東京大学名誉教授
笹生 仁 日本大学教授
関 義辰 三菱原子燃料㈱副社長
谷川 久 成蹊大学教授
筒井 天尊 京都大学教授
豊田 正敏 東京電力㈱副社長
長岡 昌 NHK解説委員
野村 顯雄 日本原燃サービス㈱副社長
浜口 俊一 関西電力㈱専務取締役
藤咲 浩二 科学技術庁原子力安全局次長(昭和60年2月から)
本郷 英一 科学技術庁原子力安全局次長(昭和60年2月まで)
松井 隆 科学技術庁長官官房審議官(昭和60年7月から)
松田 泰 通商産業省資源エネルギー庁長官官房審議官(昭和60年7月まで)
宮永 一郎 日本原子力研究所理事
山内 喜明 弁護士
山崎 魏 中部電力㈱常務取締役
  ◎印=部会長

基本問題小委員会構成員
氏名 現職
天沼 倞 前名古屋大学教授
石原 健彦 (財)原子力環境整備センター理事
植松 邦彦 動力炉・核燃料開発事業団理事
宇佐美 武 電気事業連合会原子力部長
川上幸一 神奈川大学教授
下田 秀雄 日本原燃産業㈱取締役
鈴木 篤之 東京大学助教授
田中 靖政 学習院大学教授
谷川 久 成蹊大学教授
露木 孝 東京電力㈱原子力管理部副部長
松原 望 筑波大学助教授
山内 喜明 弁護士 
  ◎印=主査

低レベル及び高レベル放射性廃棄物対策小委員会合同分科会構成員
氏名 現職
天沼 倞 前名古屋大学教授
天野 恕 名古屋大学教授
荒木 邦夫 日本原子力研究所環境安全研究部次長
石原 健彦 (財)原子力環境整備センター理事
市川 龍資 放射線医学総合研究所環境衛生研究部長
金田 久 日本原燃産業㈱理事
阪田 貞弘 日揮㈱原子力事業本部技術顧問
鈴木 篤之 東京大学助教授
田坂 広志 三菱金属㈱原子力事業部
田中隆太郎 中部電力㈱原子力管理部次長
露木 孝 束京電力㈱原子力管理部副部長
土井 和巳 動力炉・核燃料開発事業団核燃料部主任研究員
宮永 一郎 日本原子力研究所理事
  ◎印=主査

審議経過
① 放射性廃棄物対策専門部会
第29回 昭和59年10月4日(木)
第30回 昭和59年10月29日(月)
第31回 昭和59年11月28日(水)
第32回 昭和60年1月23日(水)
第33回 昭和60年4月3日(水)
第34回 昭和60年7月4日(木)
第35回 昭和60年7月31日(水)
第36回 昭和60年9月9日(月)

② 基本問題小委員会
第1回 昭和59年12月17日(月)
第2回 昭和60年1月16日(水)
第3回 昭和60年2月26日(火)
第4回 昭和60年3月11日(月)
第5回 昭和60年4月8日(月)
第6回 昭和60年4月26日(金)
第7回 昭和60年5月15日(水)

③ 低レベル及び高レベル放射性廃棄物対策小委員会合同分科会
第1回 昭和59年11月8日(木)
第2回 昭和59年11月26日(月)
第3回 昭和59年12月13日(木)
第4回 昭和60年1月17日(木)
第5回 昭和60年3月7日(木)
第6回 昭和60年3月28日(木)
第7回 昭和60年4月17日(水)
第8回 昭和60年5月10日(金)
第9回 昭和60年5月16日(木)


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