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理化学研究所における分子法レーザーウラン濃縮の可能性確認について



原子力局核燃料課

 理化学研究所(理事長富島龍興)のレーザー科学研究グループは、かねてより六フッ化ウラン(UF6)を用いたレーザー法ウラン濃縮(分子法)の研究用として世界最大級の水素ラマンレーザーを開発してきた。今回、この赤外線レーザーを用いてUF6の分解反応を起こし、わずかではあるが、ウランが濃縮されることをわが国で初めて実験的に確認したので、第12回国際光化学会議(8月4日〜9日上智大学にて開催)に発表する予定である。今回の実験は、分子法としてはきわめて分離が起こりにくい条件下で行われたにもかかわらず、水素ラマンレーザーの効果が確認できたことで、今後予定されている本格的実験での成果が期待できるものと思われる。

1. 同位体分離(濃縮)について

 同じ元素で質量数の異なる同位体を分離するいわゆる同位体分離は、極めてむずかしく、実用化されているものとしてはガス拡散法、遠心分離法等がある。

 レーザー同位体分離法は、同位体間のわずかな質量の差によって生じる吸収波長の差を利用するものであり、レーザー光を利用して一方の同位体だけを選択的に励起し、その物理化学的性質を変換させ、他方の同位体と分離し、これを回収する方法である。

 レーザー法は、選択性が高いことから、目的とする同位体割合が極めて低い場合にも(例えば低品位ウラン)、効率的に濃縮することができることも、大きな利点となる。

2. 研究の背景

 レーザー同位体分離法には、対象とする元素を原子の形のまま処理する原子法と、対象原子を含む分子化合物を操作物質とする分子法がある。

 ウラン濃縮を目指したレーザー分離法は、技術的には現在原子法が先行している状況であるが、分子法は、現に拡散法や遠心法によって使われている安定なウラン化合物UF6分子をそのまま使用することができるという利点がある。

 しかしながら、レーザー分子法のキーポイントである同位体シフトの励起波長帯は16μm辺にあり、従来、この波長帯に有力な高出力レーザー光源がなかったため、UF6のレーザー照射実験が行えず、分子法の有効性が実験的に示されていなかった。

3. 今回の成果の内容

 今回の実験では、0.2Torrの圧力(大気圧の約3,800分の1)のUF6ガス約60mgを−35℃に冷却した容器中に封入して、約3万パルスのレーザー照射でその1割を分解し、分離係数として1.04という値を得た。−35℃では同位体シフトが明確でなく、UF6分子の98.3%は無差別の分解を起こすので、残りの1.7%のUF6について起こった選択的な分離反応が見かけ上希釈されてしまう。仮に、UF6ガスを断熱膨張させて−200℃程度まで冷却すれば、理論的にはUF6の分解はほぼ100%有効に行われるので、分離係数が相当大きくなることが予想される。

4. 今後の計画

 分子法は昭和60年度から原理実証を行っているところであるが、今後、今回の成果を踏まえ−200℃の条件を得るためUF6ガスを断熱膨張させる反応装置を昭和61年度に完成させる予定である。さらに分離係数の向上をはかるため、2波長ラマンレーザーシステムを昭和62年度に完成させ、所要の実験を行う予定である。



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