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日本原子力研究所ROSA-Ⅳ計画大型非定常試験装置の完成について


原子力局技術振興課

1. 試験装置の完成にいたる経緯

 日本原子力研究所では、昭和57年度以来、加圧水型炉(PWR)の小口径破断冷却材喪失事故(SBLOCA)ならびに関連する異常な過渡変化に関する実験研究である、ROSA-Ⅳ計画を実施してきたが、この程その主力をなす大型非定常試験装置(LSTF)が東海研究所において完成し、計画は新たな展開にむけて第一歩を踏み出した。

 ROSA-Ⅳ計画は、SBLOCAに関する知見が大口径破断冷却材喪失事故に関する知見に較べて少い所から、SBLOCA等を模擬した実験を数多く行い、PWRによる原子力発電所の安全評価や実験解析に貢献する事を目ざしている。SBLOCAを拡大させる事なく速やかに収束させる事はPWRの安全を確保する上で優先度の高い課題である。

 ROSA-Ⅳ計画は昭和55年度に、TMI-2原子力発電所事故の教訓事項を受けて安全研究年次計画に組みこまれ、以降逐次具体化されて今回のLSTFの完成に至った。

2. ROSA-Ⅳ計画の目的と構成

 ROSA-Ⅳ計画の目的を一と言で云えば、SBLOCAならびに関連する異常な過渡変化が生じたときの、PWRの振舞を予測する計算の妥当性を検証する事である。ROSA-Ⅳ計画では、この程完成したLSTFによるSBLOCA等を模擬する実験(システム効果実験)、小型定常試験装置(TPTF)による個別効果実験、計算コードによる実験解析を平行して進めて行く方針である。ここで云う計算コードによる実験解析とは、LSTFによる実験の実施に先立ち実験の結果を予測する計算を行っておき、実験の実施後計算と実験の結果を比較し、両者の一致、不一致を吟味し、漸次よい一致が得られるよう、コードを改良して行く事である。LSTFによる実験の結果との比較による改良に加えて、TPTFによる個別効果実験の結果の計算コードヘの組みこみも行われる。

 このようにして、妥当性を検証した計算コードはPWRの振舞を予測する計算に用られ、計算を通じて設計の適否についての評価、運転員の事故時対応の訓練等に貢献する事ができる。

3. LSTFの概要

 LSTFはPWRの振舞を可能な限り正確に模擬するための試験装置であるので、試験装置としては非常に大規模なものになった。LSTFの設計上の特徴を記すと次のようになる。(1)模擬燃料棒の本数と模擬1次冷却系の容積は実際のPWRの48分の1。(2)1次冷却系の主要な機器(模擬圧力容器、蒸気発生器等)それ自身の高さ、設置場所の高さは実際のPWRと同じ。(3)1次冷却設備の配管には大口径のものを使用。(4)最高使用圧力と温度は実際のPWRの運転条件と同じ16MPa、600°K。

 図1はLSTFの1次系、2次系の概念図である。LSTFは内部に模擬炉心①を格納した圧力容器②を中心に、1次主冷却ポンプ⑥、蒸気発生器⑧を備えた2系統の1次冷却系を模擬した循環ループを備えている。蒸気発生器で発生した蒸気は外部に放出するか、ジェット・コンデンサーにより凝縮させ、蒸気タービンを模擬する。LSTFにはまた、加圧器、ECCS関連機器、逃がし安全弁等が装着されている他、配管の小口径破断を模擬する急速開放弁がついている。

 模擬炉心は通電により最大10,000kWの発熱をする。図1には示していないが、LSTFには2,500点の計測器がとりつけられており、圧力、温度、流速等の時間的変化を追う事ができるようになっている。LSTFと同様の目的をもって製作された試験装置は、フランスや米国、西独にもあるが、LSTFよりも小規模なものばかりである。

4. LSTFによる実験

 LSTFによる実験は、当面昭和60年度から64年度までに実施する予定のものについて、実験項目を決めている。実験項目としては、(1)SBLOCA(破断条件を変えた約30回の実験を予定、(2)異常な過渡変化(過冷却事象、熱の逃がし場の喪失等)、(3)蒸気発生器の伝熱実験(リフラックス・コンデンセーション、2次側の水位の変化)、(4)自然循環実験、(5)1次系の冷却効果(破断流による冷却、蒸気発生器による冷却)、(6)TMI-2事故模擬実験、(7)代替案によるECCS実験(上部プレナム注入出口側配管注入等)を予定している。これらの各項日ごとにそれぞれ数回の実験を行い、合計60~70回程度の実験を実施する予定である。

5. ROSA-Ⅳ計画に係わる国際研究協力

 ROSA-Ⅳ計画のなかでもLSTFによる実験には諸外国の注目が集まり、現在までに日本原子力研究所と米国原子力規制委員会(USNRC)およびフランス原子力庁(CEA)との間に研究協力に関する2国間の取極が締結された。こうした研究協力は今後本実験に関心を有する他の国々とも締結される見通しである。

図1 大型非定試験装置(LSTF)1次系・2次系の概念図

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