前頁 | 目次 | 次頁

昭和58年原子力年報


原子力委員会

(解説)

 「昭和58年原子力年報」は、昭和58年10月18日の原子力委員会において決定され、昭和58年10月25日の閣議に報告された。

 本年報は第1章総論、第2章以降各論及び資料編から構成されており、以下に第1章総論を掲載する。

第1章 原子力開発利用の動向

1 新しいエネルギー情勢と原子力開発利用

 二度にわたる石油危機を経て、石油価格は大幅に高騰し、世界経済は大きな影響を被った。しかしながら、最近では、世界経済の回復の遅れ、石油代替エネルギーの開発・導入及び省エネルギーの進展等を反映して世界的な石油需要は昭和54年をピークに年々低下し、国際的な石油需給は大幅に緩和してきている。これに伴い、世界の原油生産は、ここ3年連続して減少しており、非OPEC諸国の石油増産と相まって、OPEC諸国の原油生産は大きく減少し、自由世界における供給シェアは5割を下回るに至った。

 こうした状況を背景として、昭和58年3月、ロンドンで開かれたOPEC臨時総会において基準原油価格の5ドル/バーレル引下げ等の決定が行われた。今回の値下げによっても石油価格は依然として高い水準にあるが、この値下げはここ10年間の石油価格高騰の流れを変える大きなでき事と考えられる。

 我が国は、エネルギー供給の石油依存度が高く、過去2回の石油危機により経済的に大きな打撃を被ったため、石油依存度の低減を目指して、石油代替エネルギーの開発・導入及び省エネルギーを推進してきた。一方、我が国のエネルギー需要は、景気回復の遅れ、省エネルギーの着実な進展等を反映して、昭和54年度をピークとして3年連続の減少を示しており、特に、石油需要は大きく減少している。その結果、我が国の一次エネルギー供給に占める石油の割合は、第一次石油危機当時の78%から着実に低下してきており、昭和57年度には62%までになっている。

 以上のように、内外のエネルギー情勢は大きく変化をみせているが、石油価格は依然として高い水準にあり、また、我が国のエネルギー供給の石油依存度が主要先進国の中でも依然として高いことに加えて、石油輸入の多くを依存している中東地域の政治情勢が極めて流動的であるため、我が国のエネルギー供給構造は未だ脆弱である。国際的な石油情勢は、当面は安定して推移するとの見方もあるものの、多くの不確定要因を伴い、その見通しは必ずしも楽観できない。そして、長期的には、世界経済の回復、開発途上国における石油需要の増大等により、現在は緩和している石油需給も逼迫し、それに伴い、価格も上昇していくことが十分考えられる。加えて、最近の石油価格の引下げは、国際的な石油需給のバランスがくずれ、市場メカニズムが働いたことによるが、これは石油代替エネルギーの開発・導入及び省エネルギー努力の成果のあらわれであるとともに、世界的な経済の停滞のためにエネルギー消費が伸びなかったことによるところも大きいと考えられる。

 したがって、将来にわたって低廉なエネルギーを安定的に確保していくためには、今後とも我が国としては、エネルギー源の多様化及び省エネルギーによりエネルギーの石油依存度の低減を目指すことが必要であり、原子力をはじめとする石油代替エネルギーの開発・導入努力は、引き続き、我が国の重要な課題であると考えられる。

 原子力委員会は、昭和57年6月、原子力開発利用長期計画を改訂したが、その中で原子力発電の開発目標は昭和57年4月の閣議決定に従い、昭和65年度における供給目標を原油換算で6,700万キロリットル、これに必要な原子力発電設備容量を約4,600万キロワットと定めている。その後、最近のエネルギー情勢を踏まえて、昭和58年8月、総合エネルギー調査会でとりまとめられた長期エネルギー需給見通しに係る報告書では、昭和65年度における一次エネルギー需要の見通しが前述の供給目標に係るものに比べ8割程度であること、現実の原子力発電所の建設計画等を勘案し、暫定的な試算として昭和65年度における原子力の供給エネルギー量を原油換算で4,800~5,100万キロリットルに下方修正している。

 しかしながら、原子力は経済性に優れた大量かつ安定的な電力供給源として最も有望なものであるので、たとえ、長期エネルギー需給見通しの見直しから、原子力発電の開発目標が見直されることがあっても、同長期計画に織り込まれている開発利用の考え方及び進め方の基本を変える必要はない。すなわち、原子力発電は、上述の意義及び立地から運開までに長期間を要することに鑑み、その推進には引き続き積極的な努力が払われるべきであり、また、新型動力炉の開発、核燃料サイクルの確立等を目指した研究開発は、長期にわたるリード・タイムを必要とするばかりでなく、克服すべき技術的課題も少なくないので、これらの研究開発計画は緩めることなく推進していくことが必要である。

 このほか、放射線利用も、原子力発電と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として、医療、工業、農業等の分野で幅広く進められており、国民生活の向上に大きく貢献している。更に、原子力技術は高度な先端技術であり、原子力産業の発展は我が国の産業構造の高度化に大いに寄与するものである。

 以上のように、我が国の原子力開発利用を取り巻く内外の状況は大きく変化しているが、原子力開発利用が我が国の経済社会の発展の基礎の一つであることに鑑み、原子力委員会としては、長期的視点に立って、国民の理解と関係者の協力を得て、原子力開発利用の推進に努力を傾注していくことにしている。

2 原子力利用の状況

(1) 原子力発電

イ) 原子力発電の状況

 我が国の原子力発電は、昭和38年に日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)において、我が国初めての発電に成功して以来、20年の実績を積み、技術的にも経済的にも電力供給の中核をなすのに十分なものとなっている。

 現在、運転中の商業用原子力発電設備は24基、総電気出力1,717万7千キロワットの発電設備容量を有し、昭和57年度末において総発電設備容量の12.3%を占めるに至っている。

 原子力発電所の設備利用率は、昭和55年度に60%を越えた後も着実に向上し、昭和57年度には67.6%に達している。最近の原子力発電所の定期検査が平均約4ケ月であることを考慮すると、これはフル稼働に近い良好なものである。その結果、電気事業者による発電実績では、昭和57年度における原子力発電による発電電力量は1,018億キロワット時で、総発電電力量の19.5%を供給し、石油代替電源の中で最も大きい割合を占めている。

 また、建設中のものは、合計13基、総発電設備容量1,290万4千キロワット、電源開発基本計画に組み込まれている建設準備中のものは、合計7基、総発電設備容量605万3千キロワットである。

 以上、運転中、建設中及び建設準備中のものの合計は、44基、総発電設備容量3,613万4千キロワットである。

 このほか、動力炉・核燃料開発事業団が開発中の発電炉については、新型転換炉原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が運転中であり、また、高速増殖原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)が建設準備中である。

 一方、世界の原子力発電については、昭和58年6月末において、原子力発電国は24カ国、運転中の原子力発電設備の容量は1億8,850万キロワットであり、我が国は米国、フランス、ソ連に次いで第4位である。また、昭和57年の総発電電力量に占める原子力発電の割合が我が国より高い国としては、フランス(38.7%)、スウェーデン(38.7%)、ベルギー(30.2%)等がある。

ロ) 原子力発電推進に当たっての課題

 原子力発電は、有望なエネルギー源として開発がなされてきたが、特に昭和40年代後半から昭和50年代にかけては、折から発生した石油危機による国際的なエネルギー需給の逼迫を背景として石油代替エネルギーの一つとして強力に開発が推進されてきた。その結果、近年の高い設備利用率に示されるように、原子力発電は我が国に定着したといえる。

 今後、原子力発電は電力の大量かつ安定的な供給源として、ますます我が国の電力供給に占めるウェイトが増大し、電力供給の主流となっていくものと考えられる。それに伴い、電気料金への影響、電力供給停止の場合の国民生活への影響等原子力発電が国民経済に与える影響も大きくなっていくことを考えると、国民経済向上の観点から、より低廉な電力を安定的に供給していくことが原子力発電に対する社会的要請であり、その要請に応じられるよう原子力発電の基盤を整備していくことが今後の重要な課題であると考えられる。

 原子力発電を円滑に推進していくうえで、大前提である安全確保をはじめとして以下に述べるようないくつかの課題がある。特に、最近は石油をはじめとする内外のエネルギー情勢が落ちつきをみせていることもあり、エネルギー価格に対する社会的な関心が高まっており、エネルギーコストの低減を図ることが時代の要請となってきている。このため供給安定性、経済性等のバランスを勘案した選択的なエネルギーの開発・導入が必要な状況になりつつある。このような状況においては、今後原子力発電のより一層の信頼性及び経済性の向上等を図り、その開発のインセンティブを確保していくことが重要である。

(ⅰ) 安全確保の徹底

 我が国においては、安全の確保なくしては原子力開発利用の進展はあり得ないとの観点から、従来から安全の確保に万全を期して原子力開発利用を進めてきている。昭和41年に我が国で初めて商業用発電炉が運転を開始して以来、今日まで従業員に放射線障害を与えたり、周辺公衆に放射線の影響を及ぼしたりするような事故・故障は皆無であり、その実績からも、今日、原子力発電所の安全性は基本的に確立しているといえる。

 今後とも、安全確保を大前提として、その努力を不断に行い、原子力発電の拡大に対応して安全確保対策を一層充実させ、安全運転の実績を積み上げていくことが重要である。

 なお、原子炉等規制法及び電気事業法の規定に基づき報告された原子力発電所の事故・故障等は、昭和56年度においては36件であるのに対し、57年度は26件であり、58年度は8月末までで12件であった。いずれの場合も放射線及び放射性物質による従業員及び周辺公衆への影響はなかった。

 また、安全確保のより一層の徹底を図るため、原子力施設等の安全研究が、原子力安全委員会の下で定められた安全研究年次計画に沿って日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団を中心として進められるとともに、実規模または実物に近い形で行う原子力発電施設等の安全性実証試験が日本原子力研究所、(財)原子力工学試験センター等において実施されている。

(ⅱ) 立地の推進

 最近の電力需要の低迷等を踏まえ、新規電源の開発テンポはスローダウンされつつあるものの、石油代替電源の中心である原子力発電の立地推進は、我が国のエネルギー源の多様化を促進するうえで基本的に重要な課題である。

 原子力発電所の立地動向としては、昭和57年度には、2地点、3基が電源開発基本計画に組み込まれたが、いずれも既設地点における増設である。原子力発電所の立地に要するリード・タイムは長く、特に、新規立地の場合は、相当長期間を要する。したがって、原子力発電の計画的推進のためには長期的展望に立った継続的な立地推進努力が必要である。

 立地の円滑化を図るためには、地元住民をはじめとする国民の理解と協力を得ることが最も重要である。このため、原子力発電の安全確保に万全が期されるとともに、安全性、必要性等に関して広報活動が積極的に実施されている。広報活動に際しては、前述の各種安全研究及び各種実証試験の成果を積極的に活用して、国民の不安の解消に努めている。

 また、原子力発電所は立地地域の人口をはじめ雇用、産業、財政等の幅広い分野にわたって多大な影響をもたらし、地域社会の発展に大いに役立つものである。例えば、原子力発電所の固定資産税等が市町村の財政に寄与しているほか、発電所の建設、運転等に関連して雇用の機会も増加している。国は、電源立地の円滑化に資するとの観点から、いわゆる電源三法を活用して、地域の生活基盤、産業基盤等の整備を通じて地元住民の福祉向上と地元経済の発展に寄与するよう努めてきている。電源三法による施策は、当初は、公共用施設の整備による地元住民の福祉向上が中心であったが、地域の社会発展の方向が産業振興などを通じた地域社会の経済的基盤の強化へと広がるようになっていることを踏まえ、昭和56年度以来、電源三法に基づく制度を拡充強化し、地元住民の雇用促進、産業振興等地域振興の推進を図ってきている。

(ⅲ) 軽水炉技術の向上

 軽水炉は、発電用原子炉として世界で最も広く利用され、また、我が国においても既にかなりの実績をもった炉型であり、今後とも長期にわたり、我が国の原子力発電の主流となる炉型である。

 軽水炉は、当初は米国からの技術導入により建設されてきたが、その後20余基の建設・運転経験を通して、導入技術の消化・吸収に努めてきた。その結果、現在では、我が国の原子炉メーカーが製造した軽水炉が近年高い設備利用率を維持していることに示されるように、軽水炉技術は我が国自身の技術となりつつある。

 軽水炉技術の向上を目的として、軽水炉改良標準化計画が進められており、現在、昭和56年度から昭和60年度を目途に第三次改良標準化計画が推進されている。第一次及び第二次計画においては、従業員の作業放射線量の低減、稼働率の向上等の成果をあげ軽水炉の定着化に大きく貢献してきたが、第三次計画においては、我が国の軽水炉技術の向上を背景として、在来型の軽水炉について信頼性・運転性の向上、被曝の低減化と並んで経済性向上にも重点を置き一層の改良標準化を図るとともに、改良型軽水炉(APWR及びABWR)の開発を通して炉心を含むシステム全体としての改良及び標準化を行い、日本型軽水炉の確立を図ることとしている。

 また、機器類の品質保証については、その一層の充実を図るため、国としても指針類の策定をはじめとする品質保証の基盤の整備等積極的な方策を実施している。

(ⅳ) 信頼性及び経済性の向上

 原子力発電の着実な進展に伴い、我が国の電力供給に占める原子力発電のウェイトが増大し国民経済に与える影響も大きくなること、軽水炉が長期間にわたり我が国の原子力発電の主流となる炉型であることを考えると、軽水炉の信頼性及び経済性の一層の向上は原子力発電の推進上のみならず、低廉な電力の安定供給という観点からも重要な課題である。

 信頼性については、近年の原子力発電所の高い設備利用率に示されるように、軽水炉技術の改良等の成果を反映して、かなりの改善がみられるが、今後、より一層の向上を図っていくには、軽水炉の技術的側面のほか、運転員及び保守員の資質の向上等の人的側面、あるいは、事故・故障情報の活用等の制度的側面からの改良も重要であり、関係者のより一層の努力が期待される。

 また、経済性については、二度にわたる石油危機を経て電気料金が高騰したことにより、最近、社会的に関心が高まっている。

 石油火力発電、石炭火力発電及びLNG火力発電は燃料費の占めるウェイトが大きく、かつ、LNG価格は石油価格に連動し、また、石炭価格も石油価格の動向に影響されるため、それらの発電原価は石油価格の変動の影響を受けやすい。一方、原子力発電は燃料費の占めるウェイトが小さいため、ウラン鉱石をはじめとする燃料費を構成する要素の価格変動の発電原価へ与える影響は小さい。したがって、原子力発電は、電力供給に占める割合が増大していくことを考えあわせると、将来の電気料金の安定化に大いに資するものである。

 発電原価(送電端)について比較した場合、試算によれば、昭和58年度運転開始のプラントの初年度の発電原価は、1キロワット時当たり石油火力発電及びLNG火力発電が約17円、石炭火力発電が約14円であるのに対して、原子力発電は約12.5円となっている。この原子力発電原価には原子炉の廃止措置に係る費用及び放射性廃棄物の最終処分に係る費用は含まれていないが、これらを考慮しても原子力発電は他の電源に比べて経済性において劣らないと考えられる。

 また、前年度における試算と比較した場合、火力発電の昭和58年度運転開始プラントの発電原価は、石油、石炭及びLNG価格の低下を反映して、昭和57年度運転開始プラントの発電原価に比べて低下している。一方、原子力発電のそれは上昇しており、原子力発電の火力発電に対する経済性における優位は縮小しているものの、現在、原子力発電は、石油火力発電はもちろん、石炭火力発電及びLNG火力発電といった開発・導入が進められている石油代替電源と比べても優れている。

 原子力発電の発電原価の上昇要因としては、発電原価中大きなウェイトを占める建設費の上昇によるところが大きいと考えられる。近年の動向をみても、原子力発電の建設費の上昇率は一般の物価上昇率を上回り、石油火力発電の建設費の上昇率に比べても大きい。

 原子力発電の経済性向上は、原子力発電が将来の電力供給の主流として、低廉な電力を安定的に供給していく上で重要な課題である。このためには、設備利用率の向上及び発電原価に占める割合が高い建設費の低減が経済性向上を図る上で重要であると考えられる。設備利用率の向上のためには、前述したように種々の側面から信頼性の向上を図り、長期サイクル運転の確立及び定期検査の短縮化に努めることが重要である。また、建設費の低減については昨年の年報においても指摘したところであるが、昭和58年6月、通商産業省においては、軽水炉の標準化の推進等、建設費低減のためのいくつかの方策についてとりまとめが行われた。その実施に当たっては、民間の自主的な努力に期待するところが大きいが、標準化については官民一体となって、その推進に努めることが重要である。

(ⅴ) 核燃料サイクルの確立

 原子力発電を円滑に推進するには、核燃料が安定的に供給されるとともに使用済燃料が円滑に再処理されるよう国内において自主的な核燃料サイクルを確立することが必要である。

 ウラン精鉱については、国内資源に乏しく、将来にわたって海外に依存せざるを得ないので、供給源の多様化に配慮するとともに、自主的な探鉱開発により、いわゆる開発輸入の割合を増大させるよう努めている。

 濃縮役務については、現在、ほとんど全量を米国及びフランスに依存しているが、濃縮ウランを安定的に確保するという見地ばかりでなく、核燃料サイクルに係る外的制約を避けるためにも濃縮ウランの国産化が必要であり、動力炉・核燃料開発事業団が推進している原型プラントの建設計画に引き続き早期の商業化を図っていくこととしている。

 使用済燃料については、現在、一部が東海再処理工場で再処理され、大部分は英国及びフランスに再処理が委託されているが、将来に備え、日本原燃サービス(株)が大型の再処理工場の建設計画を進めている。

 また、立地地点の確保の困難が核燃料サイクル確立の制約要因の一つとなりつつあるので、今後、立地地点確保のために一層の努力が必要である。

(ⅵ) 放射性廃棄物の処理処分

 放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは、原子力開発利用を進めていく上で重要な課題であり、国民の関心事でもある。

 放射性廃棄物には、主として原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物と再処理施設において発生する高レベル放射性廃棄物とがあるが、それぞれ処理処分の方法は大きく異なっている。

 以下、それぞれについて、処理処分の方針及び現状について述べる。

〔低レベル放射性廃棄物〕

 原子力発電所等の原子力施設において発生する低レベル放射性廃棄物のうち、気体状のもの及び液体状のものの一部については、法令の定める基準値を下回るようにして、それぞれ大気中または海洋に放出されている。

 それ以外の液体状及び固体状のものは、濃縮して固化され、または減容して容器に入れるなどして施設内に安全に貯蔵されており、昭和58年3月末現在の貯蔵量は約46万本(200lドラム缶換算)である。

 これらの放射性廃棄物の処分は、海洋処分と陸地処分とを併せて行う方針である。

 海洋処分については、環境安全評価、国内法令の整備、国際条約への加盟等所要の実施準備が進められてきた。現在は試験的処分の準備を行っているところであり、我が国の計画内容及び安全性について内外の関係者の理解を得るべく今後とも努力していくこととしている。なお、昭和58年2月に開催された「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)締約国会議では、海洋処分について科学的な検討を行い、その結論が出るまで海洋処分の一時停止を呼びかけることを内容とする決議が採決された。我が国としては、海洋処分の安全性に対する一層の信頼を確立するとの観点から、この科学的検討に積極的に参加することとしている。

 陸地処分については、できる限り早期に処分を開始することを目標に所要の準備が行われており、現在、(財)原子力環境整備センター、日本原子力研究所を中心に、陸地処分時における安全評価手法の整備等のための試験研究が行われている。

 また、低レベル放射性廃棄物を原子力発電所等の敷地外において長期的な管理が可能な施設に貯蔵することも現実的であると考えられるようになっている。なお、これに関する最近の動きとしては、昭和58年7月、科学技術庁において、上述の敷地外における貯蔵の具体像、推進方策等を内容とする報告書がとりまとめられた。原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は、その報告書について検討を行い、その内容は概ね評価できる旨の意見を原子力委員会に提出している。一方、民間においても、電気事業者を中心に具体化が進めなれている。

〔高レベル放射性廃棄物〕

 再処理施設から発生する高レベル放射性廃棄物は、施設内の貯蔵タンクに安全に貯蔵されている。

 これらはガラス固化により安定な形態に固化処理し、一時貯蔵した後処分することとしている。

 固化処理技術については、動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められており、現在、模擬廃液を用いたコールド試験と高レベル放射性物質研究施設(CPF)における実際の廃液を用いたホット試験とが行われている。

 処分技術については、2000年以降できる限り早い時期に確立することを目標に、地層処分及びこれに関する研究開発が動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められている。

 また、以上のほか、日本原子力研究所においては、安全評価手法の開発、高レベル放射性廃液からストロンチウム、セシウム及び超ウラン元素を分離する群分離に関する研究等が行われている。

(ⅶ) 原子炉の廃止措置

 恒久的に運転を終了した原子炉の廃止措置が適切に実施されることは、原子力開発利用を円滑に推進する上で重要な課題である。

 原子力発電所の稼動年数は一般に30~40年と考えられており、1990年代後半には商業用発電炉の中に廃止措置が必要となるものがでてくると考えられる。それまでの間に所要の技術開発、諸制度の整備等を図っておく必要がある。廃止措置には種々の方式があるが、狭隘な国土状況の下で原子力開発利用を進めざるを得ない我が国としては、敷地を原子力発電所用地として引き続き有効に利用することが重要であるので、原子炉の運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則としている。

 原子炉の廃止作業は現在の技術あるいはその改良により対応できると考えられるが、作業者の被曝低減等の安全性の向上及び費用の低減を図る観点から技術開発を進めている。この技術開発については、日本原子力研究所において昭和56年度以来、動力試験炉(JPDR)をモデルとして除染、解体、遠隔操作等の技術開発を行っており、その成果を踏まえ、JPDRを対象に解体の実施試験を行うこととしている。

 また、通商産業省においては、発電用原子炉の廃止措置に使用される設備について確証試験が実施されている。

(2) 放射線利用

 放射線利用は、工業、農業、医療等の分野への幅広い利用を通じて国民生活の向上に大きく貢献するものであり、原子力発電とともに原子力平和利用の重要な柱となるものである。

 工業分野においては、非破壊検査等放射線の透過性を利用した測定・分析方法として、あるいは、放射線照射工業における線源として広く利用されている。

 農業分野においては、食品照射、品種改良、害虫防除等に利用されている。食品照射については、じゃがいもについて既に実用化がなされ、玉ねぎについては、現在、実用化の検討が行われており、また、米、小麦等その他の品目についても研究成果がとりまとめられているところである。品種改良については、これまでガンマ線照射等により多くの優良品種の育成がなされている。また、害虫防除については、ガンマ線照射による不妊虫を大量に放飼することにより繁殖を抑制する方法であって人体及び環境への影響のない不妊虫放飼法により、沖縄諸島、奄美諸島等においてウリミバエ等の害虫の根絶を図っているところである。

 医療分野においては、特に加速器の利用により、診断及び治療面で目覚しい進展がみられる。診断の面ではエックス線診断が臨床医学の全ての領域で広く利用されている。最近では、エックス線装置とコンピュータを結びつけて臓器の断層像を撮影するエックス線コンピュータ断層撮影装置(X線CT)が既に広く利用されているほか、陽電子(ポジトロン)放出核種を用いることにより体内の代謝及び機能診断も可能とするポジトロンCTも実用化に向けて開発が進められている。

 また、治療面でも放射線は相当大きな効果をあげている。がんの放射線治療は電子線、エックス線及びガンマ線による治療が広く利用されているが、最近では放射線医学総合研究所等においてサイクロトロンを用いた速中性子線あるいは陽子線による治療法の開発が行われており、これまで速中性子線による治療症例数は約1,400に達している。

 がん制圧の実現には国民の大きな期待が寄せられている。昭和58年3月には、がん対策関係閣僚会議が設置され、同年6月には同会議において「対がん10カ年総合戦略」が決定され、この戦略の中で、放射線治療に関する研究についても重点研究課題として選定されている。一方、科学技術会議においても、昭和58年7月に「がん研究推進の基本方策に関する意見」がとりまとめられ、その中で、特に重点を置いて推進すべき研究の一つとして放射線治療を位置付けている。

 一方、放射線の利用範囲の拡大に伴い、放射性同位元素や放射線機器に対する需要も増加している。放射線機器のうち直線加速装置、サイクロトロン等の放射線障害防止法に定める放射線発生装置は昭和58年3月末において国内に519台あり、その半数は医療用である。数は少ないが輸出実績もある。また、このほかの放射線機器についても、X線診断装置、X線CT装置等の医用放射線機器の保有台数は急速に伸びてきており、特にCT装置については我が国の保有台数は米国に次いで第2位となっている。これら医用放射線機器については我が国の技術水準は国際的にみても高く、輸出も順調に伸びてきており、我が国の医用機器の輸出の約半数を占めている。

(3) 原子力産業

 原子力開発利用の着実な進展を図るためには、信頼性の高い機器、核燃料等が効率的かつ経済的に生産されることが不可欠である。

 原子力産業は、原子力関連機器の製造、核燃料サイクル関連事業、原子力関連の建設、輸送、各種サービス等の業を行うものの総称であり、多種多様な業種により構成されている。

 (社)日本原子力産業会議の調査によれば、昭和56年度において原子力関係の売上実績を有する企業は約300社であり、10年前の約3倍となっている。また、売上高及び従業者数も昭和40年代後半以降急速に増大しており、昭和56年度には、売上高は最終需要相当分で約8,750億円、従事者数は約58,000人に達している。他の産業と比較した場合、売上高については、エアコンあるいはテレビの売上高はほぼ匹敵している。

 研究投資額については、これまで着実な伸びを示しており、昭和56年度には約600億円となっている。その売上高に対する比率は昭和56年度において6%弱である。これは、一般産業の2%弱に比べて高い水準にあり、原子力産業において研究開発が活発に行われていることが示されている。

 輸出入についてみると、昭和56年度において輸出は約180億円、輸入は商社取扱高で約4,700億円である。輸出入バランスは圧倒的に輸入が多いが、輸入の大部分は核燃料関係である。また、技術関係つにいてみると、昭和56年度においては約75億円となっているが、このうち、我が国の軽水炉の建設が技術導入により進められたため技術導入に伴う定常的な支出が大きな割合を占めている。

 原子力産業は高度な技術複合産業であり、産業規模でみた場合、我が国産業全体の中で占めるウェイトは小さいが、その発展は我が国の産業構造の高度化に大きく寄与するものと考えられる。

 原子力関連機器の製造業は、原子力開発当初は他の先進諸国が大きく先行していたため、軽水炉をはじめ多くを導入技術に依存してきたが、その後の着実な研究開発の進展を経て、その技術力は着実に向上してきている。

 軽水炉については、国産軽水炉が、設備利用率に関し西独を除く他の先進国を凌ぐ稼動をしていることに示されるように、機器製造面では相当高い技術を有しているが、プラント設計面では基本的には、なお海外依存であり、また、プラント建設経験も海外大手企業に比べれば少ない。現在、海外原子炉メーカーと協力して改良型軽水炉(APWR,ABWR)を開発する計画も推進されており、これらの経験を十分に活用して、我が国の原子炉メーカーが、その技術基盤を強化することが期待される。

 一方、核燃料サイクル関連事業については、核燃料加工は事業として確立されているが、ウラン濃縮、再処理等は今後の早期の事業化に向けて努力がなされている。

 新型動力炉、核燃料サイクル関連の技術については、我が国の原子力産業は、国の研究開発プロジェクトヘの参加を通じて相当の技術を蓄積していると考えられるが、実用化に向けて、その技術基盤を一層強化することが望まれる。

 我が国の原子力産業は、現在、原子力発電プラントの部品の輸出は行っているが、今後の原子力産業の成長及び海外、特に開発途上国における原子力発電プラントに対する潜在的需要を考えると、プラントの輸出について検討すべき時期に達しつつあると思われる。このため、原子力産業は、技術基盤を強化するとともに、核燃料サイクル関連のサービス事業の整備、金融面の対応策の検討等により原子力発電プラント輸出の条件整備を図っていく必要がある。また、輸出に当たっては、核不拡散の担保が大前提であるので、核不拡散上の配慮を十分検討していくこととする。

3 原子力研究開発の進展状況

(1) 原子力研究開発の状況

 原子力技術は、高度な先端技術の一つとして、科学技術立国を目指す我が国において先導的役割を担うべきものである。

 我が国の原子力研究開発の現状をみるに、軽水炉技術は我が国自身の技術となりつつある。一方、核燃料サイクル、新型炉等に係る技術は、現在、実用化を目指して研究開発が推進されているところであり、これらの研究開発は、遅れはあるものの計画達成に向けて着実に進展している。このうち、新型転換炉、ウラン濃縮及び再処理は実用化移行段階に達しており、また、その他、主要な研究開発として高速増殖炉、多目的高温ガス炉、原子力船及び核融合に係る研究開発が推進されている。

 以下、実用化移行段階に達した研究開発プロジェクト及び主要な研究開発プロジェクトの進展状況について述べる。

イ) 実用化移行段階に入った研究開発プロジェクト
(ⅰ) 新型転換炉

 プルトニウムは、将来的には高速増殖炉において利用することを基本方針としているが、プルトニウムの早期利用を図るとの観点から、新型転換炉の開発が進められている。新型転換炉は、我が国独自の自主開発炉であり、中性子利用効率の高い重水減速炉であるため、プルトニウムはもちろん、減損ウラン及び劣化ウランも有効かつ容易に利用できるという特性を有している。

 これまで、新型転換炉の開発は動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められており、原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)は昭和53年3月臨界に達し、昭和54年3月に運転を開始して以来、概ね順調に運転されている。この原型炉の建設・運転により実用化に向けて技術的見通しが得られてきている。

 実証炉は、原型炉の経験を踏まえた上で商業炉への橋渡し役を担うという性格を有しており、昭和57年6月の原子力開発利用長期計画において、その建設を進める旨の方針が示された。また、原子力委員会は、昭和57年8月、次の点を内容とする「新型転換炉の実証計画の推進について」を決定した。

① 実証炉の建設・運転は、電気事業者及び動力炉・核燃料開発事業団の協力を得て電源開発株式会社が行う。

② 実証炉に必要な研究開発及びプルトニウム-ウラン混合酸化物燃料の加工は動力炉・核燃料開発事業団が行う。

 昭和58年2月には、この決定の趣旨に基づき、動力炉・核燃料開発事業団と電源開発株式会社との間で相互協力についての基本事項を定めた「新型転換炉実証炉開発に関する相互協力基本協定」が締結されており、また、電源開発株式会社と電気事業者との間で協力のための話合いが行われている。さらに、昭和58年8月から、建設予定地点である青森県大間町において立地環境調査が進められている。今後1990年代初め頃の運転開始を目標に実証炉の設計・建設を進めることとしている。

(ⅱ) ウラン濃縮

 現在、我が国は、ウラン濃縮役務のほぼ全量を海外に依存しているが、濃縮ウランの国産化は、濃縮ウランの安定確保のためばかりでなく、プルトニウム利用等を含む核燃料サイクルの自主性を確保するためにも必要な課題である。これまで、ウラン濃縮の研究開発は、動力炉・核燃料開発事業団が開発を進めてきた遠心分離法により推進されている。同事業団のパイロットプラントは、昭和54年9月に一部運開した後、順次規模を拡大し、昭和57年3月には全面運開している。このパイロットプラントの運転・建設を通して、遠心分離法ウラン濃縮技術は性能及び信頼性については確立されつつある。

 今後は、同プラントで得られた成果を基に、国際競争力を有するウラン濃縮事業の確立を図るとの観点から信頼性及び経済性の向上を図ることとしており、民間の積極的な協力を得て、動力炉・核燃料開発事業団が、原型プラントの建設及び運転を行うこととなっている。現在、同事業団は、建設のための諸手続きを進めている。また、商業プラントについては1980年代末までの運開を目途に民間が建設計画の具体化を進めることとしている。さらに、動力炉・核燃料開発事業団において高性能遠心分離機の開発、プラント設備の合理化等も引き続き進められている。

(ⅲ) 再処理

 使用済燃料の再処理は、核燃料サイクルの要ともいうべき重要な位置を占めるものである。現在、我が国では、一部を東海再処理工場で再処理を行い、大部分を英国及びフランスに委託して再処理を行っている。

 これまで、再処理技術の開発は、動力炉・核燃料開発事業団を中心として行われており、東海再処理工場が昭和52年9月に試験運転を開始し、昭和56年1月から本格運転に入った。同工場は、運転開始以来、種々のトラブルが発生し、逐次これらを克服しつつ運転が続けられてきたが、昭和58年2月に発生した溶解槽及び酸回収蒸発缶の故障により、現在は運転を停止しており、早期に運転再開を図るべく対策を講じているところである。同工場の運転は必ずしも順調ではないが、同工場の建設及び運転経験、種々のトラブルの経験は、我が国に再処理技術の定着を図る上で貴重なものであり、動力炉・核燃料開発事業団等における技術開発の成果等と合わせて、蓄積された技術は、我が国における今後の再処理計画に十分反映していかなければならない。

 東海再処理工場に続く大型の再処理工場については、日本原燃サービス(株)により建設されることとなっており、現在、立地選定等の諸準備が進められている。国も積極的な支援を行うこととしており、技術的支援として再処理施設の大型化に対応するために必要となる再処理主要機器の技術の実証、環境への放射能放出低減化、保障措置の信頼性向上に関する技術開発を行っている。

 また、東海再処理工場で得られた経験や技術開発の成果が、動力炉・核燃料開発事業団から日本原燃サービス(株)へ円滑に移転されるように、昭和57年6月、両者の間で技術協力の内容、方法等の枠組みを定めた「再処理施設の建設・運転等に関する技術協力基本協定」が締結されている。

ロ) 主要な研究開発プロジェクト
(ⅰ) 高速増殖炉

 高速増殖炉はプルトニウムの本格的利用を可能とするものであり、かつ、消費した以上の核燃料を生成するという画期的な特性を有し、我が国のエネルギーセキュリティの確保に大いに資するものであり、将来の原子力発電の主流となる炉型と考えられる。

 これまで高速増殖炉の開発は、動力炉・核燃料開発事業団を中心に自主技術開発により進められており、実験炉「常陽」の建設・運転により基礎的な技術経験は得られている。現在、これらの技術蓄積を踏まえ、原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設が進められている。同炉の建設については、昭和57年5月、閣議の了解が得られ、同年7月の原子力安全委員会による公開ヒアリング等を経て、昭和58年5月には設置許可がなされており、現在、建設準備が進められているところである。

 「もんじゅ」の建設推進と並行して、「もんじゅ」の次の段階の炉である実証炉の計画についても、すでに検討が始められている。これは、長期のリード・タイムを考えた場合、実証炉計画を遅滞なく進めるためには、早急にその開発体制の確立を図る必要があるからである。また、実証炉の建設・運転については電気事業者が積極的な役割を果たすことが期待されている。原子力委員会は、この実証炉計画の円滑な推進のため、昭和58年4月、高速増殖炉開発懇談会を設置し、現在、研究開発及び設計の進め方、国際協力のあり方等今後の実証炉開発の進め方について審議を行っている。

 なお、高速増殖炉の開発に関連して、プルトニウム-ウラン混合酸化物(MOX)燃料加工及び高速増殖炉燃料の再処理についても動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。MOX燃料加工については、「常陽」の燃料加工の経験を踏まえ、「もんじゅ」の燃料加工施設(年間5トン)の建設が進められている。また、高速増殖炉燃料の再処理については、東海再処理工場の経験を踏まえて、研究開発が進められており、高レベル放射性物質研究施設(CPF)での「常陽」の照射済燃料を用いたホット試験において、昭和58年6月には、初めてプルトニウムが回収されている。

(ⅱ) 多目的高温ガス炉

 我が国のエネルギー供給源としての原子力利用は、これまで電力分野のみに限られているが、原子力を我が国のエネルギー消費の約70%を占める非電力分野においても有効に活用していくことは、エネルギーの安定供給の確保等を図る上で極めて重要である。

 多目的高温ガス炉は、1,000℃程度の高温ガスが得られるので幅広い用途が期待され、原子力の非電力分野での利用を可能とする炉型である。

 多目的高温ガス炉の開発は、昭和44年以来、日本原子力研究所において進められており、現在、昭和65年頃の運開を目途に実験炉の詳細設計が進められている、また、実験炉とほぼ同じ条件の高温・高圧ヘリウムガスを供給でき、本格的な高温工学実証試験を実施することができる大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を進める(本体部は昭和57年3月完成)とともに、実験炉心の核的安全性を実証するための半均質臨界実験装置(SHE)の改造を進めている。この他、燃料、耐熱材料、機器、伝熱流動等について試験研究が進められている。

 一方、核熱の利用システムについては、工業技術院において、昭和55年度までに実験炉規模における直接製鉄に関する基礎技術が確立されている。また、日本原子力研究所において、実験炉に接続する利用系プラントについての技術的課題等の調査を行うとともに、水素製造に関する基礎的な研究を進めている。

(ⅲ) 原子力船

 海運分野におけるエネルギー供給の多様化及び造船分野における技術水準の向上を図る見地から、少量の核燃料で長期間の運行が可能であるなどの特長を有する原子力船の開発が進められている。現在、将来の実用化に必要な技術基盤を固めるため、日本原子力船研究開発事業団において原子力第1船「むつ」の開発を中心とした研究開発が行われている。原子力船の研究開発を進めるに当たっては、実際の運航状態における舶用炉内の挙動等原子力船を運航することによってのみ得られるデータ・経験の蓄積が不可欠であり、「むつ」の活用は、その意味で重要である。

 「むつ」は、佐世保港において全ての修理を終了し、昭和57年8月30日、青森県関係三者と科学技術庁、日本原子力船研究開発事業団との間に「原子力船『むつ』の新定係港及び大湊港への入港等に関する協定書」が締結されたのを受け、昭和57年8月31日に佐世保港を出港、同年9月6日大湊港に入港した。また、定係港の問題についても、上記協定において、むつ市関根浜地区に新定係港を速やかに建設することが合意されている。

 現在、「むつ」は大湊港に係留されており、一方、新定係港についても、昭和58年9月、日本原子力船研究開発事業団と地元漁協との間で漁業補償交渉が妥結し、新定係港建設に向けて諸作業が進められている。

 また、「むつ」の開発とともに、日本原子力船研究開発事業団は、「むつ」開発と連携して、経済性・信頼性に優れた小型高性能の舶用炉等の研究開発を行うこととしており、概念確立のための設計評価研究を行っている。

(ⅳ) 核融合

 核融合エネルギーの利用は、これが実用化された場合には極めて豊富なエネルギーの供給を可能とするものであり、人類の未来を担う有効なエネルギー源として、その実現に大きな期待が寄せられている。

 我が国の核融合研究は、日本原子力研究所、大学、国立試験研究機関等において多数の人材と多額の資金を投入して進められており、今日、世界的水準に達している。

 日本原子力研究所においては、世界的にみて、現在、最も研究が進んでいるトカマク方式により核融合炉開発を目指したプロジェクト研究が行われている。その中核的装置として臨界プラズマ条件の達成を目指した臨界プラズマ試験装置(JT-60)の建設が昭和61年度の加熱実験開始を目途に進められており、昭和58年2月には本体装置の搬入・据付が開始されるなど建設は順調に進んでいる。

 一方、大学、国立試験研究機関等においては、各種のプラズマ閉込め方式の研究や、炉心技術及び炉工学を含む広い関連分野における基礎的研究が行われている。

 原子力委員会では、これら大学、その他の関係機関とも緊密な連携を保ちつつ、核融合の研究開発を総合的かつ効果的に推進するため、原子力委員会の下に核融合会議を設置し、連携協力の促進を図るとともに、研究開発の方策の検討を行っている。

 昭和57年6月に決定した原子力開発利用長期計画においては、昭和60年代前半には、JT-60により臨界プラズマ条件を達成することにより核融合反応を制御し得ることを科学的に立証し、さらに、次の目標として昭和70年代前半には、次段階の装置により核融合が炉として実現し得ることを技術的に立証することとしている。その際、次段階の装置としては、当面、トカマク方式を想定して研究開発を進めることとしている。トカマク以外の方式についても長期的視野に立って研究開発を実施することとしている。

 核融合研究開発は、長期間の年月、巨額の資金及び多くの人材ばかりでなく、多くの高度な最先端技術を必要とするものであるので、自主技術開発を中核としつつも国際協力による推進も積極的に行うこととしている。我が国は、世界の4大トカマクといわれる大型の装置を開発しているリーダーグループの一員として、国際協力には積極的に取り組むこととしており、現在、日米協力等の二国間協力、国際原子力機関(IAEA)及び経済協力開発機構国際エネルギー機関(OECD/IEA)といった国際機関を中心とした協力等に積極的に取り組んでいる。

(2) 原子力研究開発の推進

 我が国の原子力研究開発は前述したように、新型転換炉、ウラン濃縮及び再処理が実用化移行段階に達しているほか、高速増殖炉が実用化移行の一歩手前の原型炉段階に達しており、これらの早期実用化に向けて一層の努力が必要となる時期に至っている。これらのプロジェクトは、これまで主として国の資金負担の下に動力炉・核燃料開発事業団が中心となり、研究開発が進められてきている。一方、我が国の電気事業者、原子力関連機器メーカー等の民間企業は、20余基の軽水炉プラントの建設・運転、国の研究開発プロジェクトヘの参加等を通じて相当の技術を蓄積してきている。今後の実用化に向けては、これまで蓄積された技術を基に、民間が主体的かつ積極的な役割を果たすことが期待されるところである。その際、技術が実用化移行段階に達しているといっても、依然として技術的、経済的リスクは少なくないので、国は適切な支援を行うこととしている。

 他方、民間に技術が蓄積されたといっても、安全性に関する研究、放射性廃棄物処分等核燃料サイクル確立に必要な研究開発、核融合・新型炉等に係る先導的な技術の研究開発、あるいは基礎的な研究において国の果たす役割は依然として重要である。原子力研究開発は、その進展に伴い、大規模化するとともに関連分野も広範となり、所要資金は増大していくものである。昨今の我が国の厳しい財政事情に鑑み、、研究開発を進めるに当たっては、資金の効率的な活用に留意することは当然であるが、長期的視点に立って、計画的に進めていくことが重要である。

4 国際協力と核不拡散

(1) 国際協力

 近年、原子力分野における国際協力の機運が先進国、開発途上国を問わず大いに高まっている。我が国としても、今後の我が国の原子力開発利用を円滑に、かつ、効率的に進めていくという観点だけでなく、これまでの原子力開発利用の実績を生かし、原子力先進国としての責務を果たすという観点からも進んで国際協力に努めることが重要である。

 原子力分野における先進国間の国際的な研究協力は、安全研究協力、規制情報交換、高速増殖炉、核融合等多岐にわたる分野で、二国間、多国間、あるいは国際機関の場を通じた協力により活発に行われている。特に大規模化する高速増殖炉、核融合等の原子力研究開発については、膨大な開発資金と多分野の人材を要するので、一国で全てを行うよりも、研究開発の効率化及び資金分担の観点から、国際協力のメリットを十分生かして開発を進める方が得策の場合もある。このため、昭和58年4月に発足した高速増殖炉開発懇談会においても、実証炉開発促進のための国際協力のあり方について審議を行うこととしており、また、核融合会議においても二国間及び多国間の国際協力について関係者間で連絡・協議を行い、その推進に努めている。

 昭和57年6月に開催された先進諸国首脳会議(ヴェルサイユ・サミット)において提唱された科学技術協力については、昭和58年6月のウィリアムズバーグ・サミットにおいて、より具体的に議論がなされている。原子力分野では、軽水炉の安全研究、核融合、高速増殖炉の3分野がとりあげられている。我が国は、軽水炉の安全研究についてはリード国として協力の推進を図っていくこととしている。

 原子力に係る国際機関は次々と設立25周年を迎えている。国際原子力機関(IAEA)は昭和57年には設立25周年を迎え、同年9月には、IAEA設立25周年の総会に先立ち、原子力平和利用の歴史を振り返るとともに今後の方向を探ることを目的に原子力発電経験国際会議が開催された。同会議では、世界各国の原子力開発に関する経験、現在かかえる諸問題、今後の開発展望等について活発な意見交換が行われた。また、昭和58年4月には、経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)も設立25周年を迎え、「新型炉の将来」というテーマで記念会合が開かれた。また、米国は、より多国間の場で実施することを目標として、従来同国の原子力規制委員会が行ってきた冷却材喪失事故等の研究計画(LOFT)をNEAに移管するなど、NEAも今後多国間協力の場としてますます活用されることが期待される。

 一方、開発途上国との協力活動として、IAEAの「原子力科学技術に関する研究、開発及び訓練のための地域協力協定(RCA)」の下で、我が国は、その中心的存在として、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とする農業及び工業分野への放射線・アイソトープの利用をはじめとして積極的に協力活動を行っている。具体的には、食品照射計画及び工業利用計画について資金の拠出、研修員の受入れ、専門家の派遣、各種ワークショップの開催等を行っている。本RCA計画は昭和57年には発足10周年を迎えており、さらに、昭和57年度から、医学・生物学利用の分野が新しく取り上げられている。我が国としては特に核医学及び放射線治療分野を中心として可能な限り協力を行うこととしている。

 近年、開発途上国の原子力開発意欲はとみに高まり、放射線利用からエネルギー利用まで幅広い分野において我が国の協力に対する開発途上国の期待も次第に明らかになってきている。

 我が国としては、原子力先進国としての国際的責務を果たすという観点から、このような期待に積極的にこたえていくこととしている。加えて、原子力発電が近隣諸国において広範囲に利用されていくにつれて、原子炉事故等があった場合には我が国が大きな社会的影響を受けること、あるいは、これら開発途上国の国際場裡での発言等が強くなっていく中で我が国との相互依存関係が重要視されることが予想されるので、これらの国々と協力を通じて関係強化を図ることは、我が国の原子力開発利用を円滑に進めていく上で重要であると考えられる。特に、人的交流については、その重要性に鑑み、推進していくことが必要である。

 このような状況に鑑み、原子力委員会は、開発途上国との協力促進に資するため、昭和58年8月、開発途上国協力問題懇談会を設置し、協力の進め方、協力円滑化のための方策等について調査審議を行っている。

 また、隣国である中国は、昨年来、原子力発電所の建設を諸外国の協力を得つつ、進めていく計画を明らかにしており、昭和58年9月、国際協力の前提ともいえるIAEAへの加盟の手続を開始した。最近、中国の二国間協力及びIAEA加盟をめぐる動きは活発化しており、我が国としても適切に対応していく必要がある。

(2) 核不拡散

 我が国は、現在、ウラン資源及び濃縮・再処理の役務のほとんど全量を海外に依存しており、ウラン資源等の長期的な安定確保を図る必要がある。同時に、我が国の原子力開発利用に支障を来たさないように、核不拡散に関して国際的信頼を高めるためには、引き続き核不拡散努力を行っていくことが必要である。

 我が国は、原子力基本法制定以来、原子力開発利用を平和目的に限って推進してきており、国際的にも「核兵器の不拡散に関する条約」(NPT)を批准するとともにIAEAの保障措置を積極的に受け入れることにより、原子力開発利用に関し平和利用に徹していることを世界に明らかにしてきている。

 一方、国際的な動向をみても、既に終了した国際核燃料サイクル評価(INFCE)の結果として得られた「原子力平和利用と核不拡散は両立しうる」との基本認識の下に、IAEAの場を中心として新しい国際秩序を形成するための検討・協議が引き続き行われている。

 しかしながら、核不拡散問題は国際的な政治問題でもある。本年開催が予定されていた「原子力平和利用における国際協力の促進のための国連会議」が主として議題中の核不拡散の考え方、会議の手続等についての合意が得られず延期されている。その背景には、一部の開発途上国側に、核軍縮が進まぬ一方、原子力供給国側の規制のみが強化され、平和利用の権利が抑制されようとしていることに対する反発があったためである。このことに示されるように核不拡散問題に関する国際的なコンセンサス作りは容易なものではない。

イ) 二国間協議
(ⅰ) 日米再処理問題

 東海再処理工場の運転継続、民間再処理工場の建設等をめぐる日米間の再処理問題については、昭和56年10月、両国政府は再処理に関する長期的取決めを昭和59年12月末までに作成する意図を有すること、また、それまでの間東海再処理工場はその能力(210トン/年)の範囲内で運転することを骨子とする日米共同決定の署名、日米共同声明の発表が行われた。その後、昭和57年6月に至り、米国政府内で長期的取決めに関する協議を行う前提となる米国のプルトニウム利用政策が決定され、その機会をとらえ、同月中川前科学技術庁長官が訪米し、米国産核物質の再処理ばかりでなく管轄外移転も含め、IAEAの保障措置の適用等の一定の条件の下で自由に行い得る包括同意方式による解決を早期に図るため話合いに入ることとなった。

 これを受けて、同年8月の東京における協議以来、事務レベル協議が精力的に行われているが、米国が長期的取決めの前提として、依然として1978年核不拡散法に基づく措置を採る必要があるとしていること等から、長期的取決めの早期決着の見通しは必ずしも楽観を許さない状況にある。

(ⅱ) 日豪原子力協定の改正

 昭和57年8月に改正された日豪原子力協定は、豪州の核不拡散強化のための保障措置政策を受けてできたものである。主な改正点は、豪州産核物質に関し、規制の対象となる行為として「管轄外移転」の他に、新たに「再処理」及び「20%を超える濃縮」が加えられたことであるが、さらに、このうち「管轄外移転」及び「再処理」の規制については、IAEAの保障措置の適用等の一定の条件下で自由に行い得るとの長期的包括的事前承認方式となったことである。

(ⅲ) 日加原子力協定に係る動き

 豪州との間に初めて長期的包括的事前承認制度が導入されたのに続いて、カナダとの間にも、改正後の日加原子力協定上の再処理及び管轄外移転等に関するカナダ政府の事前同意権を長期的・包括的な形で運用することを定めた書簡の交換が昭和58年4月に行われた。

ロ) 多国間協議

 INFCEの成果を受け核不拡散に関する新しい国際的制度として、国際プルトニウム貯蔵(IPS)、核燃料等供給保証(CAS)及び国際使用済燃料管理(ISFM)が提唱され、現在までIAEAにおいて多くの国が参加して検討が進められた。このうち、一部については最終報告書がとりまとめられ、IAEAの理事会において、その取扱いが検討されている。

(ⅰ) 国際プルトニウム貯蔵(IPS)

 IPSは、再処理により抽出されたプルトニウムのうち余剰プルトニウムをIAEAに預託し、国際的管理の下で貯蔵することにより軍事利用への転用を防ごうとするものである。

 プルトニウム管理に関して何らかの国際的コンセンサスが得られることは、プルトニウムの有効利用を図ることとしている我が国にとって極めて有意義であるとの基本的認識の下に、我が国は、現行の保障措置制度との整合性が失われず、かつ、円滑なプルトニウム利用が阻害されることのないようにするとの基本的立場に立ち専門家会合に参加してきた。

 しかしながら、これまで我が国を含む西側諸国、開発途上国、資源国の間で調整が整わず、昭和57年10月には三論併記の報告書がとりまとめられ、その取扱いについては、IAEA理事会の場で引き続き検討が行われることとなっている。

(ⅱ) 核燃料等供給保証(CAS)

 核不拡散を確保しつつ、原子力資材、技術および核燃料サービスの供給をいかにして保証するかを検討する供給保証委員会(CAS)がIAEA理事会の下におかれ、供給保証に関する今後の国際協力のあり方、特に、国際協力の原則、原子力協力協定改訂のあり方、緊急時バックアップメカニズム、さらには、IAEAの責任と役割等について国際的コンセンサスを築く努力が重ねられている。我が国は受領国としてだけでなく、将来、供給国の立場となる可能性もあることから、双方の立場を十分勘案し、新しい国際的な秩序作りに関する検討に積極的に参加していくこととしている。

(ⅲ) 国際使用済燃料管理(ISFM)

 ISFMは、世界的に見た場合、将来、使用済燃料の発生量が再処理能力を上回ることが予想されているため、核不拡散の観点から使用済燃料を国際管理下におこうとするものである。我が国は、国際的な核不拡散体制に積極的に貢献するため本検討に参加してきたが、昭和57年7月には最終報告書がとりまとめられ、その中で貯蔵技術、本構想に関連するIAEAの役割等が明らかにされている。本報告書は昭和58年2月のIAEA理事会に報告され、作業は終了した。

ハ) 保障措置及び核物質防護

 保障措置については、核不拡散を担保するため、IAEA保障措置をより一層有効なものとすることを目的として、内外において積極的な検討が進められている。

 国内においては、昭和57年6月に決定した原子力開発利用長期計画の中で、合理的な保障措置の方策が示されるなど国内保障措置体制の整備・充実に努める一方、国際的には、IAEAと密接な連携を図りつつIAEAの保障措置体制の改善・合理化にも積極的に協力している。

 また、保障措置技術については、国内で自主的に研究開発を行うとともに国際的にはIAEAの保障措置技術研究開発を我が国として支援するため、対IAEA保障措置技術開発支援協力計画(JASPAS)を昭和56年11月から発足させるなど、我が国の保障措置技術に対する国際的な信頼を高める努力を行っているところである。

 なお、遠心分離法濃縮施設の保障措置のあり方については、昭和55年11月から関係6者(日本、米国、豪州、トロイカ三国(英国、西独、オランダ)、ユーラトム、IAEA)が遠心分離法ウラン濃縮保障措置技術国際協力(Hexapartite Safeguards Project)として検討を進めてきたが、昭和58年2月、合意に達し、同年6月のIAEA理事会に報告されている。今後、我が国の動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮パイロットプラントについても、この結果に基づいた査察を受けることとなっている。

 一方、核物質防護については、近年、核不拡散上重要な課題の一つであることが認識され、昭和57年6月に決定された原子力開発利用長期計画の中で示された指針に沿って、所要の施策が講じられてきている。また、国際的には、昭和55年3月、核物質防護条約が署名のため開放されている。同条約は21カ国の批准により発効することとなっているが、昭和58年8月現在、35カ国及びヨーロッパ共同体(EC)が署名し、このうち、7カ国が批准している。我が国も署名、批准に備え、諸般の準備を進めることとしている。

前頁 | 目次 | 次頁