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国立機関における原子力試験研究の現況 工業技術院における原子力試験研究の現況(Ⅱ) 通商産業省 工業技術院
前号に引き続いて、工業技術院における原子力試験研究の進展状況を述べる。 1 核融合反応に関する研究
電子技術総合研究所
原子力委員会の定めた第二段階核融合研究開発基本計画に基づいて高べータトロイダルプラズマの閉じ込めに関する研究を進めている。現在軸対称性トロイダルプラズマ閉じ込め形式にはスクリューピンチ型、逆磁場ピンチ型及びトカマク型がある。これらの様式について赤道面上での磁場、トロイダル電流及びプラズマ圧力の分布を図1に示す。トカマク型は最も良く知られた閉じ込め形式であるが、他の二形式に比べてベータ値が低い。スクリューピンチ型はトカマク型に類似しているが、プラズマの周辺部にトロイダル電流を流すのが特徴でトカマク型よりも高ベータを得ようとする閉じ込め形式である。これに対し同じ高ベータ閉じ込め形式でも逆磁場ピンチ型ではトロイダル磁場の方向がプラズマの外部で逆転しており、トロイダル磁場強度も他の二形式に比べて低いのが特徴である。電総研においてはスクリューピンチ型装置TPE-2及びTPE-1aと逆磁場ピンチ型装置TPE-1R(M)によって高ベータプラズマの閉じ込めの研究を行なっている。これらの装置の基本パラメータを表1に示す。 図1(a)スクリューピンチ型、(b)逆磁場ピンチ型及び(c)トカマク型のトロイダル磁場Bz、ポロイダル磁場Bθ、トロイダル電流j及びプラズマ圧力Pの各分布を示す。Rはトーラスの半径方向でRoは放電管の中心である。 ![]() 表1 装置の主要(目標)パラメータ ![]() (1) 圧縮加熱型核融合実験装置TPE-2
TPE-2は高温(300eV)、高密度(1015/cm3)、高ベータ(10%以上)のプラズマの発生及び長時間(400μsec)の閉じ込めを目標とした縦長楕円断面を有するトロイダルスクリューピンチである。TPE-2は昭和51年度より建設が始められ、低磁場実験に要する機器類は昭和58年度末迄に整備される予定である。TPE-2の特徴はプラズマ閉じ込めの特性を改善するため垂直磁場コイル及び金属壁の継目に生じる乱れ磁場の補償用磁場コイルを有する事である。またプラズマを圧縮加熱により効率良く高温に加熱するため80kVのダブルフィード方式を採用している。放電管としてTiコーティングをほどこしたセラミックを使用する事により不純物イオンによる悪影響を防いでいる。現在迄の実験で電流を400μsec以上持続させ、最高ベータ値30%、平均ベータ値15%の高ベータプラズマの閉じ込めを達成している。装置全体が完成すると、更に長時間の閉じ込めが可能になる見込みである。また高ベータ領域で理論的に予想されている第二安定化領域でのプラズマ閉じ込めの実現等が期待される。 (2) 非円形断面スクリューピンチ装置TPE-1a
TPE-1aはD型断面を有するトロイダルスクリューピンチ型であり、プラズマのMHD安定性、プラズマの電流制御の研究等基礎的研究が行なわれている。これ迄に40eVのMHD安定なプラズマを約80μsec閉じ込める事ができた。今後はスフェロマク磁場配位形成法及び高周波加熱による電流分布制御の研究を進める予定である。 (3) 逆磁場ピンチ装置TPE-1R(M)
TPE-1R(M)は逆磁場ピンチ型装置でステラレータ型、ミラー型等と共に非トカマク装置の一つである。放電管はリミッターを有する金属ライナーでできており不純物の低減化を図っている。装置の規模としては比較的小型に属するが他に比べ高い電流密度を有している。0.5kA/cm2のプラズマ電流密度において電子温度600eV、プラズマ密度6×1013/cm3、ベータ値8%、エネルギー閉じ込め時間180μsecのプラズマを閉じ込めることに成功した。この電子温度は逆磁場ピンチ方式の値としては現在世界最高である。 2 核融合用超電導マグネットに関する研究
電子技術総合研究所
現在想定されているトカマク型核融合炉において、トロイダル・ポロイダル両方向磁場を常電導コイルにより発生させた場合には、消費電力は核融合により得られる電力より大きくなり、核融合発電の利点はなくなってしまう。従って超電導技術の開発は核融合炉にとって不可欠である。電総研では昭和53年度より高磁場トロイダルマグネット及びポロイダルパルスマグネットに関する研究を進めている。高磁場トロイダルマグネットの研究においては、臨界磁場の大きい化合物Nb3Snを用いて研究を進めており固液拡散法により3kA級導体を開発し、現在は10kA級導体の開発を進めている。パルスマグネットの研究においては昭和56年度迄に400kJ級のパルスマグネットシステムを開発した。現在世界最大の3MJ級のパルスマグネットシステムの開発を進めている。パルスマグネットの導体として図2に示すような超電導線を開発した。超電導線は素線、子撚線、中撚線と撚線され最後に中撚線を15本ステンレス鋼体の回りに撚りつけ機械的に強い親撚線となっている。素線は機械的強度に優けた合金NbTiを使い、超電導体がフィラメント状に分散配位され、互いの磁気的結合を防ぐためキュプロニッケルで隔壁されている。また超電導状態がこわれた場合の安定性を保つため高純度アルミニウム線を同時に使用している。この導体はパルスマグネットに要求される安定性、高電流密度、低交流損失及び機械的強度の性能面で優れている。導体を強化プラスチックで補強しパンケーキ型コイルとし、パンケーキ型コイルを重ねて3MJ級パルスマグネットを製作した。マグネットは交流損失を考慮した冷却法を採用し、交流損失は全畜積エネルギーのわずか0.1%であった。現在迄の実験で最大250A/secの励磁速度が得られており、今後電源システムを整備し本マグネットの設計値5500A/secの高速励磁実験を行なう予定である。 図2 ポロイダルパルスマグネット用導体断面図 ![]() 3 放射線量計測並びに標準確立に関する研究
電子技術総合研究所
今日放射線の使用は物理学分野から原子炉・核融合の原子力分野及び診断・治療の医学分野等広範囲にわたっており、使用場所も多岐を極めている。従って放射線計測技術は原子力や放射線利用の有効性、安全性、信頼性及び経済性の確保・向上のために不可欠な技術であり、計測値の整合性を保つため高度の放射線標準の完備が必要とされる。電総研は我国の一次標準機関として放射線関連諸量の国家標準の設定や精密測定技術の研究開発に努め国内はもとより国際度量衡局等を通じて国際的整合性の確立にも協力している。 (1) 放射能
放射能の高精度絶対測定の研究・開発を行なっている。現在放射能核種の数は1,600もありそのうち実用に供されているものだけで300を数える。これら核種の壊変形式・放射線エネルギー・半減期等核種の性質は千差万別である。従って各々の核種に応じた測定法を使い分けねばならず多様性への対応が要求される。具体的には改良を加えて来た4πβ-γ同時計数法により今日ではほとんどあらゆる核種について0.1~1%
の高精度で絶対測定が可能となっている。電総研で得られた放射能一次標準は日本アイソトープ協会を通じて二次標準が一般利用者に提供されている。 (2) 中性子
中性子放出率の絶対測定法については循環式マンガンバス法を開発し、微弱中性子源放出率に対しても高精度測定を可能にしている。熱中性子フルエンスについては黒鉛パイル内でパルス中性子源を使い、熱化した中性子を測定し中性子フルエンス標準の研究を行なっている。また単色速中性子フルエンス標準に関してはH2、CH4封入比例計数管、陽子反跳型半導体検出器、カウンターテレスコープ、随伴粒子法等、中性子のエネルギー領域に応じた絶対測定法の研究、開発を行なっている。単色中性子源としてはコッククロフト型とファンデグラフ型の両加速器を用いて2keV~20MeVの広範囲の単色中性子を発生させることができる。また医学応用の面からは生体組織の吸収線量の標準化も重要な問題となるが、これに対しては窒素、炭酸ガス及びメタン等を混合した組織等価気体の荷電粒子に対する阻止能を測定し吸収線量の評価を行ない標準化へ向かって基礎データを得ている。 (3) 光子線・電子線
光子線については医学治療用写真や非破壊検査等の軟X線からγ線迄広範囲にわたって重要な分野となっている。軟X線(~10keV)、中硬X線(~100keV)、mR/hレベルのγ線(Cs137等による)及びkR/hレベルまでのCo60によるγ線について、照射線量標準が設定されている。電子直線加速器の利用により、R/hレ
ベルからMR/hレベル迄の高エネルギー(~10MeV)光子線の照射線量標準の研究も行なわれている。昭和55年電総研の筑波移転に際して、500MeVの電子直線加速器が建設された。図3にその構成図を示す。電子ビームは多段型加速管内で高周波電場によって光速近くまで加速される。また同時に高エネルギー・大線量の電子線のフルエンス及び吸収線量標準の研究が行なわれている。大線量の電子線に対しては小型の測定素子ツェナーダイオードが使用できるが、同時に小型であるために水や固体中の電子線の吸収線量の絶対測定をも可能としている。また高エネルギー電子線を利用して中間子を発生させることができ、新分野への応用が考えられている。中でもパイ中間子はガン治療にも役立つと期待されている。直線加速器と組合せて600MeV、100mAの能力を持つ放射光用電子蓄積リングが建設された。図4にリングの構成図を示す。はじめに電子ビームは直線加速器から入射される。電子ビームは偏向電磁石で曲げられ、四重極電磁石により収束させられ、高周波空胴により加速される。ビームを長時間維持するためには、超高真空が必要であり、図のような排気系を備えている。リング内の電子ビームは偏向磁場中でシンクロトロン放射光を発する。放射光利用によって今後は種々の物性研究、超LSI技術、真空紫外線から軟X線までの波長領域の標準に関する研究等が可能となって来ている。 図3 電子直線加速器構成図 ![]() 図4 電子蓄積リング構成図。SIPはスパッタイオンポンプ及びTGPはチタンゲッタポンプを示す。 ![]() |
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