前頁 | 目次 | 次頁 |
通省産業省工業技術院 工業技術院における原子力試験研究の現況(Ⅰ)
通商産業省工業技術院の試験研究機関では、各々の機関の特色を生かしつつ、昭和29年より、原子力平和利用技術に関する研究を行ってきている。昭和58年度には、全体で10課題を6機関で実施している。それらの中には、以前から継続している「高レベル放
射性廃液固化処理と貯蔵技術に関する研究」(大阪工業技術試験所)などの他に、本年度より始められた「核融合用高効率紫外ガスレーザドライバーに関する研究」、「核燃料輸送容器の耐衝撃性に関する研究」(機械技術研究所)、「原子炉用圧力容器及び部品の解体に関する研究」(四国工業技術試験所)などがある。本号及び次号の二回にわたって、工業技術院での研究課題の進展状況をいくつかのテーマについて紹介してみたい。 1. 有機材料の極低温放射線損傷に関する研究
名古屋工業技術試験所
核融合炉用超電導マグネットは極低温で長期間放射線被曝環境下で使用される。このため、従来からの核分裂炉では経験のない極低温下での材料の放射線損傷が、マグネットの遮蔽設計及び長期安定性の見地から深刻な問題となると予想される。マグネット構成材料の中で最も放射線に弱いのは、超電導コイルの有機絶縁材料であり、この耐放射線性がマグネット、引いては炉の寿命を支配すると考えられている。また、優れた材料の開発により、マグネットの遮蔽壁を薄くすることができれば、マグネットも小型となり、炉の建設費も大幅に低減する。この様な事情により、短期的には、既存材料の極低温耐放射線性を多角的に検討評価すること、中、長期的には、新材料開発の指針となる基礎データを蓄積することが要望されている。 常磁性共鳴法が放射線損傷検出手段として極めて高感度であり、得られる情報量も豊かである点に着目し、本研究では、マクロ物性の劣化が顕在化する前に、その原因となる化学結合切断などの分子レベルでの損傷を、低線量でしかも非破壌的に早期検出することを試みている。このために、先ず、極低温照射に引き続いて、極低温で定量性のある測定を行いうるクライオスタットを試作した(図1の写真参照)。次いで、極低温照射及び極低温測定に伴う種々の困難を解決し、従来、液体窒素温度(77K)でも難点のあった常磁性共鳴法の定量精度を大幅に改善し、液体ヘリウム温度(4K)まで定量性のある測定技術を確立した。 図1. 極低温照射・測定用クライオスタットと常磁性共鳴測定装置の一部 ![]() 図2. 常磁性放射線損傷生成率の照射温度依存性(100eVの放射線エネルギー吸収あたり、1g中に生成する損傷数)。828:芳香族系エポキシ;21:脂環式エポキシ;DDM:芳香族系硬 化剤;MD:脂環式硬化剤;PI:ポリイミド;PE:ポリエチレン。 ![]() この方法により、核融合実験炉に使用が想定されているエポキシ樹脂やポリイミド、さらには、汎用性絶縁材料であり、かつ、有機材料の基本であるポリエチレン及び関連炭化水素などに発生する極低温放射線損傷の評価を行った。本法によれば、化学結合切断などの分子損傷の絶対量のみならず、発生した損傷の空間分布や局所的な濃度、さらには、結合の切断部位なども知ることができる。一例として、図2に、100eVの放射線エネルギー吸収あたり、1g中に発生する損傷数の照射温度依存性を種々の材料について測定した結果を示す。 本研究により、極低温では損傷生成率が高くなるばかりでなく、損傷が局所的に集中して発生する傾向が強くなることが見出された。また、材料の分子設計的見地からは、ベンゼン環の放射線保護効果が極低温でもかなり維持されることや、極低温領域でも進行する化学反応が存在することなどが判った。 この様な成果を踏まえて、昭和58年度から第二期の研究段階へ入っている。マグネットのコイル絶縁材料は、極低温のみならず、さらに、高磁場下と云う特異な環境で放射線損傷を受ける。また、超電導線材の損傷の熱焼鈍のため、マグネットを定期的に昇温することも想定されている。しかし、損傷発生に対する磁場の影響や、熱履歴を伴う再照射効果などに関するデータは殆ど見あたらない。そこで、第二期には、この様な複合的効果を重点的に研究する他、材料の分子設計に必要な基礎データの蓄積も図る予定である。 2. 海水中のウラン及びリチウムの採取技術に関する研究
四国工業技術試験所
(1) 海水中のウラン採取研究
海水ウランの吸着採取工程は吸着-脱着-分離濃縮の各プロセスによって構成されている。海水中のウラン濃度が非常に低濃度(3.3μg/l)であるため、吸着工程ではウランに対する選択性の高い吸着剤の開発及び海水との接触システムの確立が重要である。当所では高性能吸着剤の開発を中心課題として研究を進めてきている。これまでに、ウランに対して吸着性を示す各種金属含水酸化物と多孔体である活性炭とを組み合せた複合吸着剤、特に含水酸化チタン-活性炭系複合吸着剤が優れたウラン吸着性を示すことを見出した。造粒した含水酸化チタン-活性炭系複合吸着剤を用い、固定床カラム法で長期連続実験し海水からウランを吸着採取し(採取率15%)、脱着、濃縮を行いイエロー・ケーキを0.7g採取した。 図3は得られたイエロー・ケーキのけい光X線分析、及びX線回折結果であり、不純物は認められず、良質のイエロー・ケーキ(2UO3・NH3・3H2O)であることがわかった。 図3. 海水から採取したイエロー・ケーキの蛍光X線分析(A)及びX線図折図(B) ![]() さらに、アミドキシム型キレート吸着剤が海水中のウランに対して優れた選択吸着性を示すことを確かめた。吸着剤の親水性や多孔性等の物理化学的性質を改良した結果、単位容積当りの吸着速度の大きい粒状吸着剤が得られた。この樹脂を用いて大型の流動床吸着装置で、流速(空塔速度)SV=100h-1で天然海水を通水し、長期連続実験を行った。海水からのウランの採取率は夏季77%、冬季41%であった。 また、市販のアクリル繊維を原料としてアミドキシム型の繊維状吸着剤を合成した結果、吸着速度の著しく大きい吸着剤が得られた(4.3mg・g-1・d-1)。 アミドキシム型吸着剤に吸着されたウランは鉱酸で容易に脱着されることを確かめた。また、ホスホン酸型キレート樹脂を用いる脱着液からのウランの分離濃縮法を検討し、良好な結果を得、ウランをイエロー・ケーキとして採取した。 今後、アミドキシム型の粒状吸着剤については容積当りの吸着速度の改善を、繊維状吸着剤については繊維強度の改善を図るとともに、海水からのウラン採取システムの確立のための研究を行う。 (2) リチウムの採取
リチウムは海水中にウランの50倍の170μg/l含まれているが、よく似た性質を持つナトリウムやマグネシウムが多量共存するため、ウランに比べ採取は困雑である。 当所ではリチウム選択吸着性を有する吸着剤の探索などの基礎研究の結果、無定形含水酸化アルミニウムなどがリチウムを選択的に吸着することを見出し、吸着剤の製造条件、吸着性の解明など基礎的検討を進めている。 他方、リチウム採取上の問題点を明らかにすることを目的として、無定形含水酸化アルミニウムを用い、リチウム濃度の高い製塩かん水、創産苦汁からの採取を試み、リチウムをリン酸リチウムとして採取した。 今後は、リチウムイオンの性質を明確にするとともに、高性能吸着剤の開発を進める。 3. 断層の活動性調査法の標準化に関する研究
地質調査所
原子力施設の耐震安全性確保のためには、敷地周辺で起る事が予想される地震の規模、頻度の適切な見積りが不可欠である。地震は断層が動くことにより生じる現象であるので、地震の規模、頻度の見積りのためには、敷地周辺の断層の詳細な調査が必要である。 このため地質調査所は、昭和57年度より、「断層の活動性調査法の標準化に関する研究」を行うこととし、当面(昭和60年度まで)は、陸上の断層調査法の標準化の研究を実施している。 本研究においては、地形・地質条件や断層の性状が互に異なる2つのテストフィールドにおいて、従来から用いられている各種の調査方法を試験的に適用し、それぞれの調査方法の適用限界を明らかにするとともに、新しく開発された、あるいは開発されつつある手法による調査を行い、従来の手法による調査結果と比較検討を行う。さらに、これらの調査結果をもとに、調査方法、手順及び適正調査規模の標準化を図る。 テストフィールドは、ⅰ)盛岡・花巻地域及びⅱ)丹後半島地域とした。前者では、断層は縦ずれ型であり、地質は新第三系及び第四紀の段丘堆積物や沖積層から構成されている。後者の地質は、主に花崗岩と新第三系で構成され、第四紀の地層は極めて薄い。断層は横ずれ型で、その一部は、1927年の北丹後地震(マグニチュード7.5)の時に活動したことが明らかになっている。 これらの地域において、以下の項目の調査を予定している(一部は57年度に実施)。 ⅰ) 地質構造の大要を把握し、以後の調査の指針を得るための文献調査、予察調査。 ⅱ) 活断層地形抽出のための大縮尺地形図の作成。 ⅲ) 活断層分布の大要把握のための航空写真による活断層地形の判読。 ⅳ) 活断層の生存の確認及びその活動度の概要把握のための地質調査。 ⅴ) 潜在活断層の分布・位置確認のための電・磁気探査(第4図)、反射法弾性波探査、重力探査及び地下探査レーダーによる探査。 ⅵ) 活断層の詳細性状確認のためのボーリング調査、トレンチ調査及びピット掘り調査。 これらの調査結果は、“断層の活動性に関する標準的調査法”としてまとめられる予定である。 第4図は盛岡・花巻地域の断層を東西に横切る測線で行った電磁気探査の結果の一例である。 図の横軸は水平距離(位置)を示し、縦軸には見掛比抵抗値を示す。また、図中の縦破線は地質調査により推定された断層の位置である。 第4図 電磁気的方法による断層探査 ![]() 図中の実線及び破線はそれぞれVLF法(EM16R)及び電磁法水平探査(EM31)によって得られた見掛比抵抗値を示す。 これらの手法によれば、地下20~30mまでの地層の比抵抗値を求める事が出来、その分布から地層の境界、すなわち断層の存在位置を明らかにすることが出来る。 |
前頁 | 目次 | 次頁 |