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高速実験炉「常陽」の照射用炉心(MK-Ⅱ炉心)移行について



動力炉・核燃料開発事業団

 1. まえがき

 動力炉・核燃料開発事業団の高速実験炉「常陽」は、昭和45年2月に原子炉の設置の許可を得て建設に着手し、昭和52年4月に初臨界に達した。その後、昭和53年度末まで第1期の熱出力(50MW)、昭和56年12月末まで第2期の熱出力(75MW)での順調な運転が継続され、その積算運転時間は約1万3千時間、積算熱出力は約67万MWhに達した。昭和57年1月からは照射用炉心(MK-Ⅱ炉心、熱出力100MW)への移行作業を開始し、昭和57年11月に初臨界に達した後、出力上昇試験を行い、昭和58年3月にMK-Ⅱ炉心での定格熱出力100MWに到達した。

 「常陽」が有している使命は、高速増殖炉の原型炉及びそれ以降の開発に必要な技術的経験を得るとともに、燃料・材料等の照射施設として利用されることである。MK-Ⅱ炉心への移行は、使命の第2段階へ入ることであり、この機会にMK-Ⅱ炉心計画の概要を紹介する。

 2. MK-Ⅱ炉心計画の開発経緯

 まえがきで述べたように、「常陽」は、高速増殖原型炉の開発に必要な技術的経験をできるだけ早期に取得するという第1の目的達成を優先させて設計・建設することとし、第2の目的である照射施設としての活用は、第2段階として考慮するという基本的な考え方をとった。この結果、「常陽」の最初の炉心(MK-Ⅰ炉心)は、高速増殖原型炉の炉心体系を模擬したブランケットゾーンを有する標準型高速増殖炉心の小型のものとして設計され、照射施設としての炉心は、第2段階においてMK-Ⅰ炉心を改造して炉心における高速中性子束を高めることとなった。

 このMK-Ⅱ炉心への改造は、「常陽」を大規模なプラントの改造を伴わない範囲で、できるだけ高性能の照射施設とするという考え方のもとに、主として燃料集合体等の消耗品や交換可能な炉心構成要素の変更によって実現することを条件とすることとした。

 MK-Ⅱ炉心についての検討は、「常陽」の建設と並行して始められ、種々検討の結果、基本的には、MK-Ⅰ炉心を構成するものよりも若干細い燃料ピンを使用し、ブランケット燃料集合体を反射体で置換することによって照射施設として活用できる見通しが得られた。MK-Ⅱ炉心の内容については、昭和52年9月に原子炉設置変更の申請を行い、昭和53年9月にその許可を取得している。

 表1に、「常陽」のMK-Ⅰ、MK-Ⅱ炉心を含む各国の高速炉の炉心特性比較を示す。

表1 各国高速炉の炉心特性比較

 3. MK-Ⅱ炉心の概要

MK-Ⅱ炉心は、

(1) 設計上必要な燃料・材料の照射データの取得
(2) 燃料の性能限界の実証
(3) 新しい燃料材料の開発

等を目的として、前述の条件のもとに以下のように設定された。

(1) 燃料ピン経を細くし燃料集合体1体当りの燃料ピン数を増加させるとともに、燃料のプルトニウム富化度を増大させて出力密度を高める。

(2) ブランケット燃料集合体を反射体で置換し、高中性子束領域を拡大する。ブランケット領域の冷却材流量の大部分を炉心部冷却に追加する。

(3) 炉心体積をできるだけ小さくして、高速中性子束レベルをMK-Ⅰ炉心の約2倍とする。以上の考え方にもとづく、MK-Ⅱ炉心の性能上の特徴は次のとおりである。

(1) 燃料・材料の照射試験に必要な中性子照射量としての約2×1023nut(0.1MeV以上)を達成するためには、MK-Ⅰ(75MW)炉心では約6年強を必要とするのに対し、MK-Ⅱ炉心では約3年半で十分となる。

図1 炉心比較図

表2 「常陽」MK-Ⅰ炉心とMK-Ⅱ炉心の主要目

(2) 半径方向ブランケット燃料集合体を反射体に置換することによって、炉心部の高中性子束領域がより広くとれる。

(3) 燃料ピン径を細くし燃料集合体1体当りの燃料ピン数を127本としたこと、及びプルトニウム富化度を30%と増加させたことで、炉心出力密度が約2倍となる。

 なお、MK-Ⅰ及びⅡ炉心の構成比較を図1に、主要目比較を表2に示す。

 4. MK-Ⅱ炉心の構成作業等

 MK-Ⅱ炉心構成作業は、炉心を十分に未臨界(制御棒が全数取除かれた状態でも3%Δk/k以上の未臨界状態をいう)になるまで、MK-Ⅰ炉心燃料集合体をMK-Ⅱ炉心用反射体及びダミー燃料と置換したあと、半径方向ブランケット燃料集合体及びダミー燃料集合体をMK-Ⅱ炉心用の反射体及び炉心燃料集合体と交換することで行われた。

 MK-Ⅱ炉心としての初臨界達成時の炉心構成は、次のとおりである。

炉心燃料集合体 51体
内側反射体 63体
外側反射体 192体
制御棒 6体
中性子源 1体

 昭和57年11月22日に初臨界を達成した後は、MK-Ⅱ初期炉心を構成し、低出力試験及び出力上昇試験を実施し、昭和58年3月末に100MW出力100時間連続試験を終了した。

 今後は、MK-Ⅱ炉心の照射ベッド特性試験を実施し、昭和58年8月からMK-Ⅱ炉心としての定常運転に入る予定である。

 5. MK-Ⅱ炉心での照射計画

 当面の照射試験計画を図2に示す。

 MK-Ⅱ炉心での照射試験計画の中核をなすものは燃料ピン、燃料集合体及び燃料材料、構造材料の照射試験である。これらの照射試験は、燃料、材料を照射リグに装荷して行うこととなる。現在のところ燃料の照射に用いる照射リグとしては、燃料ピンの照射に用いられるA、B及び燃料集合体の照射に用いられるC型の特殊燃料集合体と計測線付集合体が計画されている。

 A型特殊燃料集合体は、集合体中央部の二重ラッパ管内の照射部において燃料ピンの照射を行うものである。B型特殊燃料集合体は、集合体内のカートリッジ部において燃料ピンの照射を行い、C型特殊燃料集合体は、集合体としての照射を行うものである。これら特殊燃料集合体の概念を図3に示す。これらの照射試験の条件には、「もんじゅ」の設計条件を反映させることとし、B型特殊燃料集合体では、燃料被覆管温度675℃、最大線出力約385W/cmで燃焼度約9万MWD/Jまで達成させると共に、C型では同じ条件のもとに燃焼度10万5千MWD/T、フルエンス約1.7×1023n/cm2を達成させる計画である。これらの成果は「もんじゅ」にとって大いに期待されるものである。

 計測線付集合体は、中性子検出器、FPガス圧力計、燃料中心温度測定器等の計測器を内蔵するもので、オンラインで燃料・材料の照射中の挙動を調べるためのものである。

 また、材料の照射試験については、被覆管等燃料材料の照射を燃料材料照射用反射体により、炉内構造物等に用いられる構造材料の照射を構造材料照射用反射体等により行う計画である。当面は、これらの照射試験の条件についても、「もんじゅ」の設計条件を反映したフルエンスが得られるよう照射試験を行う計画である。

図2 当面の照射試験計画

技術資料

図3 特殊燃料集合体

(1) 特殊燃料集合体A型

(2) 特殊燃料集合体B型

(3) 特殊燃料集合体C型

 また、MK-Ⅱ炉心燃料の照射後試験データ等を基にMK-Ⅱ炉心燃料自身の性能向上を図る試験及び実用段階でのFBR燃料製造コストの低減を図るための試験も計画されている。すなわち、性能向上については、燃焼度を増加させることによって燃料調達面での経済的メリットを図り、線出力等の熱的性能の向上によって設計裕度の切り下げを可能とするものである。コスト低減のための試験については、これまで精巧といえるまで求められていた製造及び検査の仕様を、量産体制に適合するように製造パラメータ等についての制限を緩和することがどの程度可能かということを意図したものである。このような試験を多数の「常陽」の炉心燃料を基礎として行うことによって「もんじゅ」及び将来の高速炉燃料に多大の貢献を果たすことも可能である。

 6. むすび

 以上、高速実験炉「常陽」の照射用炉心移行の目的、概要について概説を行ってきたが、本計画はこれまでほぼ当初計画通りに作業が進められてきているところであり、今後は本年8月からの本格運転による貴重な照射試験データの取得が順調になされることが待たれるものである。

 併せて、我が国において「常陽」は、原型炉「もんじゅ」の運転開始までの間、運転を行う唯一の高速炉であること、また、世界的にみて照射試験を行う高速炉が貴重な存在であることに鑑み、「常陽」の運転により得られる意義は大きいと言えよう。



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